スプリングリターン式緊急遮断弁設計の勘所

2018年1月11日




今日は「スプリングリターン式緊急遮断弁設計の勘所」についてのメモです。

 

スプリングリターン式緊急遮断弁

緊急遮断弁とは

停電時や災害時に配管流路を遮断(または開放)する弁(以下バルブという)を総称して緊急遮断弁と言います。特にスプリングリターン式は、電源喪失の緊急時には駆動部に内蔵されたバネの力によって強制的にバルブを遮断(または開放)するため、非常に信頼性が高く住宅や病院または食品・医療等の幅広い用途で使用されています。

スプリングリターン式緊急遮断弁の構造及び動作説明

歯車減速機の途中にバネを内蔵し、モータで駆動する構造となっています。モータが駆動すると、バネを巻き上げながらバルブを開いていきます。バルブが全開状態になるとモータに内蔵された電磁ブレーキまたは摩擦ブレーキ等が作動し、巻き上げたバネが戻されないように保持します。平常はこの状態を保持し続けていますが、電源の遮断によりブレーキが開放されバネの力によりバルブが閉じられます。

スプリングリターン式緊急遮断弁に適したバネについて

バネは力が作用する方向で2つに分類されます。
一つ目は軸方向に作用する、圧縮バネや引張りバネがあります。
二つ目は回転方向に作用する、ねじりコイルバネやゼンマイばねがあります。
緊急遮断弁は回転運動をする軸にバネを装着するので、回転方向に作用するバネが用いられます。

バルブ口径が比較的小さい(口径25A以下)の緊急遮断弁は駆動トルクも小さいので、製作が容易なねじりコイルバネを採用する場合が多いです。しかし、バルブ口径が大きくなるにつれてバルブを動作させるトルクも大きくるため、ねじりコイルばねでは線径が太くなり回転角が小さく扱いにくくなるため、それらを改善できるゼンマイばねが採用されることがあります。
ゼンマイばねは、蓄積できるトルクが大きい割には省スペースで取付けができ、回転角が大きく取れるのが特徴です。しかし、大型のゼンマイばねは製作が非常に難しく、技術書籍や設計資料が非常に少ないため、試作を数回繰り返してデータ取りをし最適化な条件を導き出すという手法を取ることがあります。

緊急遮断弁に適した歯車減速機の設計

歯車減速機は何組かの平歯車を組み合わせで構成された、至ってシンプルな減速機です。
歯車の材質には快削黄銅や機械構造用炭素鋼・クロムモリブデン鋼等を使用します。減速比によってはピニオンギヤ(互いにかみ合う一対の歯車のうち、歯数の少ないほうの歯車)の安全率が低くなる場合があり、わずかな強度改善であればピニオンギヤを※正転位し、相手歯車を※負転位して強度改善をします。大幅な強度改善は材質をクロムモリブデン鋼に変更したり、または機械構造用炭素鋼に高周波焼入れや窒化処理をすることで強度改善を図ります。

歯車をスムーズに動作させるためには、意図的に設けた隙間「バックラッシュ」が必要となりますが、緊急遮断弁の場合はバックラッシュは精度等級 新JIS 8級相当(旧JIS 4級)とします。

減速機構はバネが内蔵されているため、バネを巻き上げていくと軸の捩れが発生します。そのため場合によっては、バックラッシュを少し多めに取ることがあります。
バックラッシュはマタギ歯厚に公差を入れて管理しますが、特殊な方法として、歯車を※転位してバックラッシュを管理する方法もあります。

 

転位歯車について

転位歯車とは、歯切りのときに歯切りカッターを標準の位置ではなく、適当量半径方向に近づけたり遠ざけたりして歯切りした歯車を転位歯車といいます。半径方向に遠ざける場合を正転位といい、近づける場合を負転位といいます。

工具をずらす量を転位量といい、この転位量をモジュール(モジュールとは、歯車の歯の大きさを決める値であり、単位はミリメートルである)で割った値を転位係数といいます。
歯車を転位する目的としては、下記の3点があります。

  1. 歯元の切り下げ(アンダーカット)防止
  2. 中心距離の調整
  3. 歯の強度改善

電動機の選定

緊急遮断弁を動作させるモーターの選定を行います。下記の条件をクリアすることが必要となります。

  1. バネを巻き上げながら、バルブも駆動させる。
  2. モータの回転方向は一方向回転である。
  3. バルブを全開状態(バネを巻き上げた状態)で保持する。
  4. 電源が遮断されたら、バネの力でスムーズに回転する。

上記4つの項目をクリアできるモーターを選定します。
現在メーカーから販売されているスプリングリターン式緊急遮断弁に使用されているモーターには、インダクションモーター、隈取モーター、シンクロナスモーター等があります。
スプリングリターン緊急遮断弁メーカー各社は、市販モーターをそのまま使用するのではなく、独自のノウハウで工夫を凝らし使用しています。

 

以上です。

 

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