ここでは 強度解析 を行う際に必要となる 「ヤング率」についてのメモをしています。
ヤング率の取得において、正確な数値選定に悩んだ経験はありませんでしょうか。 手元の資料やウェブサイトによって値が微妙に異なり、どの数値を信じれば良いのか迷うこともあるかと思います。
特に、金属から樹脂、さらにはセラミックスまで、扱う材料が多様化する現代の設計現場において、信頼できるヤング率の一覧は不可欠です。 誤った数値を用いれば、解析結果の信頼性が揺らぎ、思わぬ設計トラブルにつながりかねません。
この記事では、「ヤング率の一覧」を求める設計者の方々へ向けて、各種材料の具体的な数値を網羅的に集めました。 そして、単なる数値の羅列ではなく、なぜその値になるのか、設計上どのような注意が必要なのかという、一歩踏み込んだ情報をメモします。
ヤング率の物理的意味と基本原理
ヤング率とは何か?剛性を示す物性値
ヤング率とは、材料の「剛性」、つまり変形のしにくさを示す最も基本的な物性値の一つです 。 材料に引張や圧縮の力が加わった際に、どれだけ変形しにくいかを表す指標となります。ヤング率の値が大きいほど、その材料は硬く、変形しにくいことを意味します。 逆に、値が小さい材料は、しなやかで変形しやすい性質を持ちます 。
この性質は、材料を構成する原子同士の結合力の強さに由来しています 。 したがって、ヤング率は形状に依存しない、その材料固有の値です。
機械設計を行う上で基準となるのが鋼材のヤング率で、約205GPaです 。この数値を基準として、他の材料がどの程度変形しにくいかを相対的に把握することが、初期設計における材料選定の第一歩となります。
応力とひずみ、フックの法則との関係
ヤング率を理解するためには、「応力」と「ひずみ」という二つの概念が不可欠です。 材料に外力が加わると、その内部には力に対抗しようとする抵抗力が発生します。 この単位面積あたりの抵抗力が「応力(σ)」です。 そして、力が加わることで材料が変形した割合、つまり元の長さに対してどれだけ伸び縮みしたかを示すのが「ひずみ(ε)」です 。
材料が力を受けても元に戻る「弾性域」と呼ばれる範囲では、この応力とひずみの間に比例関係が成り立ちます。 これを「フックの法則」と呼びます 。ヤング率(E)は、この比例関係における比例定数であり、以下のシンプルな式で表されます。
σ = E × ε
これは、バネの伸びを表す法則(F = kx)と概念的に同じです 。 応力σが力Fに、ひずみεが伸びxに、そしてヤング率Eがバネ定数kに対応すると考えれば、ヤング率が材料固有の「硬さ」や「バネの強さ」を示す指標であることが直感的に理解できるでしょう。
単位と換算式(GPaとN/mm²)
ヤング率の単位は、応力と同じ圧力の単位であるパスカル(Pa)で表されます。 しかし、実際の工業材料のヤング率は非常に大きな値になるため、通常はギガパスカル(GPa)やメガパスカル(MPa)が用いられます。
特に、機械設計やCAE解析の実務では、力にニュートン(N)、長さにミリメートル(mm)を用いることが多く、その場合、応力やヤング率の単位はN/mm²となります。 このN/mm²は、MPaと全く同じ大きさです。単位の換算で間違いを起こさないよう、以下の関係式を正確に覚えておくことが大切です。
- 1 GPa = 1,000 MPa
- 1 MPa = 1 N/mm²
したがって、この二つの式から、GPaとN/mm²の関係は次のようになります。
- 1 GPa = 1,000 N/mm²
例えば、鋼材のヤング率である205 GPaは、205,000 N/mm²に相当します。 材料のデータシートがGPaで記載されていても、解析ソフトへの入力がN/mm²を要求する場合、この換算が必要不可欠です。
横弾性係数との違い
ヤング率は「縦弾性係数」とも呼ばれます 。 これは、材料を引っ張ったり圧縮したりする「縦」方向の力に対する変形しにくさを示すためです。
一方で、材料の弾性を示す値には「横弾性係数(G)」というものも存在します。 これは、せん断弾性係数や剛性率とも呼ばれ、材料をねじったり、ずらしたりするような「せん断力」に対する変形しにくさを示します 。
ヤング率が部材の「曲げ」や「伸縮」の計算で中心的な役割を果たすのに対し、横弾性係数は「ねじり」の計算で用いられます。 このように、二つは異なる種類の変形に対する抵抗を示す、全く別の物性値 です。
ただし、鋼材やアルミのような等方性材料(どの方向にも同じ性質を持つ材料)では、ヤング率(E)、横弾性係数(G)、そして材料を引っ張った際に横方向にどれだけ縮むかを示す 「ポアソン比(ν)」 の間に以下の関係式が成り立ちます 。
G = E / 2(1 + ν)
この式から分かるように、三つのうち二つの値が分かれば、残りの一つを計算で求めることが可能です。 しかし、あくまで別の物理量であるため、CAE解析などで入力値を間違えないよう注意が必要です。
強度や硬度との決定的な違い
設計現場では、「剛性」「強度」「硬度」という言葉が頻繁に使われますが、これらの意味を混同することは設計上の誤りにつながるため、厳密に区別する必要があります。
- 剛性(Stiffness):「荷重に対してどれだけ変形しにくいか」という指標で、ヤング率によって決まります 。 設計課題が「たわみを抑えること」であれば、剛性が重要です。
- 強度(Strength):「どれだけの力に破壊せず耐えられるか」という指標です 。 降伏点や引張強さで評価され、設計課題が「壊れないこと」であれば、強度が重要になります。
- 硬度(Hardness):材料の「表面の傷つきにくさ」を示す指標です 。耐摩耗性が求められる摺動部品などで重視されます。
最も重要な点は、これらの特性に直接的な相関関係はないということです 。 例えば、ガラスは非常に高い剛性を持ちますが、衝撃に対して脆く強度は高くありません。 逆に、高張力鋼は一般的な鋼材より強度は高いですが、ヤング率はほぼ同じであるため、たわみやすさは変わりません。 設計課題が剛性不足なのか強度不足なのかを正しく見極めることが、適切な材料選定の鍵となります。
金属材料のヤング率一覧と特性比較
基準となる鉄のヤング率
機械設計において、鉄(鋼材)のヤング率は全ての材料の基準となる数値です。 一般構造用圧延鋼材(SS400)や機械構造用炭素鋼(S45Cなど)を含め、ほとんどの鉄鋼材料のヤング率は、約205GPa(ギガパスカル)という値を示します 。 この数値は、設計者が必ず覚えておくべき基本的な物性値です。
鉄鋼材料の大きな特徴は、焼入れや焼戻しといった熱処理によって引張強さや硬度は大きく変化するものの、ヤング率はほとんど変わらない点にあります。 これは、ヤング率が原子間の結合力という材料の根源的な性質に支配されており、金属組織の変化の影響を受けにくいためです 。 この安定性により、多くのCAE解析において、鋼材のヤング率は信頼性の高い定数として扱うことができます。
ただし、注意点として、鋳鉄の場合は組織が異なるため、ヤング率は100~180GPaと鋼材に比べて低い値を示し、ばらつきも大きくなります 。 設計対象が鋳物である場合は、鋼材と同じ感覚で数値を入力しないよう留意する必要があります。
よく使うステンレスのヤング率
ステンレス鋼(SUS)は、耐食性に優れるため様々な製品に利用されますが、そのヤング率は鉄とほぼ同等です。 代表的なオーステナイト系のSUS304の場合、ヤング率は約193~200GPaの範囲にあります 。 また、モリブデンを添加し耐食性を高めたSUS316Lも約193GPa 、安価なフェライト系のSUS430は約200GPa と、種類が異なっても大きな差はありません。
したがって、構造部材の材質を炭素鋼からステンレス鋼に変更する場合、耐食性や強度は向上しますが、「たわみにくさ」の指標である剛性はほとんど変化しない、と考えることができます。 もし、たわみ量の低減が設計課題であるならば、ステンレス鋼への材料変更だけでは解決が難しいでしょう。
このように、ヤング率は強度や耐食性とは独立した物性値であることを理解しておくことが、適切な材料選定の鍵となります。
軽量なアルミのヤング率
アルミニウム合金のヤング率は約70GPaであり、鉄鋼材料の約3分の1です 。 この数値の低さが、アルミが「柔らかい」と感じられる一つの要因になっています。 同じ形状の部品を鉄からアルミに置き換えると、単純計算でたわみ量は約3倍になってしまいます。
一方で、アルミの大きなメリットは軽量である点です。密度も鉄の約3分の1(約2.7 g/cm³)であるため、ヤング率を密度で割った「比剛性」という指標で比較すると、鉄とほぼ同等のレベルになります。 これは、同じ質量の材料で部品を設計する場合、断面積を大きく取るなど形状を工夫することで、鉄と同等以上の剛性を達成できることを意味します。この特性こそが、航空機や自動車部品など、軽量化が至上命題となる分野でアルミが多用される理由です。
また、高強度なジュラルミン(A2017, A2024)や超々ジュラルミン(A7075)であっても、ヤング率は約72GPa前後と、汎用的なアルミ合金(A5052, A6061など)と大差ありません 。 強度が高いからといって剛性も高いわけではない、という典型的な例と言えます。
高強度なチタンのヤング率
チタン合金は、鉄とアルミニウムの中間に位置する約110GPa前後のヤング率を持ちます 。 密度が鉄の約60%と軽量でありながら、高い強度を持つため、比強度・比剛性ともに優れており、航空宇宙分野や高性能なスポーツ用品などで活用されています。
チタン合金を扱う上で設計者が注意すべき点は、合金の種類や熱処理条件によってヤング率が80~120GPaの範囲で大きく変動する可能性があることです 。 これは、チタンが温度によって結晶構造が変化しやすく、その相の比率を熱処理で制御することで、意図的に物性を変えられるためです。
したがって、高性能なチタン合金を用いるCAE解析では、材料メーカーが提供するカタログの代表値を用いるだけでなく、使用する材料の熱処理条件を正確に把握し、それに合致したヤング率の値を入力しなければ、解析結果の信頼性が損なわれる可能性があります。
銅・真鍮・マグネシウムのヤング率
ここでは、その他の主要な金属材料のヤング率を紹介します。
銅・銅合金
導電性や熱伝導性に優れる純銅(C1020, C1100)のヤング率は、約110~130GPaです 。 銅と亜鉛の合金である真鍮(C3604など)は、約97~115GPaの範囲にあり、銅やチタンに近い値を示します 。
マグネシウム合金
実用金属の中で最も軽量なマグネシウム合金(AZ31Bなど)のヤング率は約45GPaと、アルミニウムよりもさらに低い値です 。 しかし、その軽さから比剛性は非常に高く、ノートパソコンの筐体や自動車部品など、極限の軽量化が求められる場面で採用されています。 ただし、剛性が低いため、リブを設けるなどの形状的な工夫が不可欠です。
大分類 | 中分類 | 材料名/記号 | ヤング率 (GPa) | 特徴 |
鉄鋼材料 | 機械構造用炭素鋼 | S10C, S25C, S45C | 205 | 最も一般的。熱処理で強度が変化するがヤング率はほぼ一定。 |
機械構造用合金鋼 | SCM435, SCM440, SNCM439 | 205 | 炭素鋼に合金元素を添加し、焼入性や靭性を向上させた鋼材。 | |
ステンレス鋼 | SUS304 | 193 - 200 | 代表的なオーステナイト系。耐食性に優れる。 | |
SUS316L | 193 | SUS304にMoを添加し耐食性を向上させた低炭素鋼。 | ||
SUS430 | 200 | 代表的なフェライト系。安価で磁性を持つ。 | ||
工具鋼 | SK85, SK95, SK105 | 208 | 焼入れにより高硬度が得られる高炭素鋼。刃物や工具に使用。 | |
鋳鉄 | FC250 (ねずみ鋳鉄) | 100 | 振動減衰能に優れるが脆い。工作機械ベッドなどに使用。 | |
FCD450 (球状黒鉛鋳鉄) | 176 | 鋼に匹敵する強度と延性を持つ。自動車部品などに使用。 | ||
非鉄金属 | アルミニウム合金 | A1100 (純アルミ系) | 69 | 加工性、耐食性に優れるが強度は低い。 |
A5052 (Al-Mg系) | 70 | 中程度の強度で耐食性、溶接性が良い。 | ||
A6061 (Al-Mg-Si系) | 69 | 耐食性が良く、T6処理で高強度が得られる。構造材に多用。 | ||
A2017 (ジュラルミン) | 72.6 | 高強度だが耐食性に劣る。航空機部品などに使用。 | ||
A7075 (超々ジュラルミン) | 72 | アルミ合金で最高の強度を持つ。航空機構造材などに使用。 | ||
チタン・チタン合金 | TB340H (純チタン2種) | 106 | 耐食性に極めて優れる。化学プラントなどに使用。 | |
TAB6400H (Ti-6Al-4V) | 110 - 111 | 最も一般的なチタン合金。軽量・高強度。航空宇宙部品に使用。 | ||
銅・銅合金 | C1020, C1100 (純銅) | 110 - 130 | 優れた電気・熱伝導性を持つ。 | |
C3604 (快削黄銅) | 97 - 115 | 被削性に優れる。ボルト、ナットなどに使用。 | ||
C6161 (アルミニウム青銅) | 110 - 120 | 強度が高く、耐摩耗性、耐食性に優れる。 | ||
マグネシウム合金 | AZ31B, AZ61A | 45 | 実用金属で最軽量。剛性は低いが比剛性は高い。 |
樹脂(プラスチック)のヤング率一覧
POMとナイロンのヤング率
エンジニアリングプラスチック(エンプラ)は、金属の代替材料として機械部品に広く利用されています。その中でも代表的なPOM(ポリアセタール)とナイロン(ポリアミド)は、自己潤滑性や耐摩耗性に優れる材料です。
これらのエンプラのヤング率は、POMが約2.7~3.2GPa、ナイロンが約2.5~3.5GPaの範囲にあります 。 この数値は、鉄鋼材料の約205GPaと比較すると2桁近く低く、アルミニウムの約70GPaと比べても大幅に低いことが分かります。 このヤング率の低さが、樹脂部品が金属部品に比べて「たわみやすい」ことの直接的な原因です。
設計上の注意点として、樹脂材料のヤング率は温度依存性が非常に大きい ことが挙げられます。 物性表に記載されている値は常温(23℃)での測定値であり、高温環境下ではヤング率が著しく低下します 。 そのため、高温で使用される樹脂部品の強度解析では、必ず使用温度におけるヤング率のデータを用いる必要があります。
ABSとポリカーボネートのヤング率
ABS樹脂とポリカーボネート(PC)も、機械部品や筐体で頻繁に使用される樹脂材料です。
ABS樹脂は、汎用プラスチックとエンプラの中間的な性能を持ち、加工性と強度のバランスに優れています。そのヤング率は約2.1~2.3GPaです 。 一方、ポリカーボネートは、透明性と非常に高い耐衝撃性を特徴とするエンプラです。ヤング率は約2.0~2.4GPaと、ABS樹脂に近い値を示します 。
これらの樹脂も、POMやナイロンと同様に金属と比較すると剛性は大幅に低くなります。 そのため、樹脂で筐体などを設計する際には、たわみを抑制するためにリブを効果的に配置したり、ガラス繊維などを充填してヤング率そのものを向上させた強化グレードの材料を選定したりといった工夫が求められます。
分類 | 材料名/記号 | ヤング率 (GPa) | 特徴 |
汎用エンプラ | POM(ポリアセタール) | 2.7 - 3.2 | 自己潤滑性、耐摩耗性に優れる。 |
ナイロン(PA) | 2.5 - 3.5 | POMに近い特性だが吸湿性がある。 | |
ポリカーボネート(PC) | 2.0 - 2.4 | 透明性と極めて高い耐衝撃性が特徴。 | |
汎用プラスチック | ABS樹脂 | 2.1 - 2.3 | 加工性と強度のバランスが良い。 |
ポリ塩化ビニル (PVC) | 0.025 - 3.0 | 硬質(U-PVC)と軟質で大きく異なる。 | |
スーパーエンプラ | PPS (ガラス40%強化) | 14.7 - 19.6 | 高耐熱性、耐薬品性に優れる。 |
PEEK | 3.6 - 4.1 | 最高レベルの耐熱・耐薬品・機械強度を持つ。 |
セラミックス・ガラスのヤング率一覧
高剛性なアルミナのヤング率
ファインセラミックスは、金属をはるかに凌駕する極めて高い剛性を持つ材料群です。 その代表格であるアルミナ(Al₂O₃)は、純度によって物性が変わりますが、ヤング率は約360~390GPaに達します 。 これは、鋼の2倍近い数値であり、極めて変形しにくい材料であることを示しています。
この非常に高い剛性は、セラミックスが強いイオン結合や共有結合で構成されていることに起因します。 原子が非常に強く束縛されているため、変形させるのに大きな力が必要となるのです。
この特性を活かし、アルミナは半導体製造装置の精密ステージやアーム、精密工作機械の部品など、マイクロメートル単位での寸法安定性が絶対的に要求される用途で不可欠な材料となっています。
靭性の高いジルコニアのヤング率
ジルコニア(ZrO₂)は、セラミックスの中でも特異な性質を持つ材料です。 ヤング率は約200GPaと、鋼とほぼ同等の値を示します 。アルミナや炭化ケイ素に比べると剛性は低いですが、セラミックスとしては非常に高い破壊靭性(粘り強さ)を持つという大きな特徴があります。
この「割れにくい」性質から、ジルコニアはハサミやカッターの刃、あるいは高い強度が求められる構造部品などに利用されます。 CAE解析でジルコニアを扱う際は、ヤング率が鋼に近いため、同じ荷重でもたわみ量は同程度と予測されますが、許容応力や破壊のメカニズムは全く異なるため、材料モデルの選定には注意が必要です。
硬質な炭化ケイ素のヤング率
炭化ケイ素(SiC)は、工業的に利用されるセラミックスの中でもトップクラスの剛性と硬度を誇る材料です。 そのヤング率は約430~440GPaにも達し、アルミナをさらに上回ります 。
この極めて高い剛性に加え、軽量(密度が鉄の半分以下)で耐熱性にも優れるため、半導体製造装置の部品や、高速で回転する機械の摺動部品など、過酷な環境下で高い寸法安定性が求められる用途で採用されています。 ただし、非常に硬くてもろいため、設計においては応力集中を避けるための形状的な配慮が不可欠となります。
透明なガラスのヤング率
一般的に使用されるソーダライムガラスのヤング率は、約72GPaです 。 この数値は、アルミニウム合金とほぼ同じです。 つまり、同じ形状の板であれば、ガラスとアルミは同程度の力で同じくらいたわむ、ということになります。
しかし、両者の決定的な違いは破壊に至る挙動です。アルミニウムが大きな変形を経て破壊するのに対し、ガラスはほとんど変形せずに突然破壊する「脆性破壊」を起こします。
強度解析においてガラスを扱う場合、ヤング率の数値だけを見てアルミと同じように考えてはいけません。破壊力学に基づいた応力拡大係数などを評価し、微小な傷から亀裂が進展するリスクを考慮した設計が求められます。
材料名/記号 | ヤング率 (GPa) | 特徴 |
アルミナ (Al₂O₃) | 360 - 390 | 非常に高剛性。精密機器部品に使用される。 |
ジルコニア (ZrO₂) | 200 | 鋼と同等の剛性。セラミックス中で高い靭性を持つ。 |
炭化ケイ素 (SiC) | 430 - 440 | 極めて高い剛性と硬度。耐熱性にも優れる。 |
窒化けい素 (Si₃N₄) | 280 - 300 | 高温強度、耐熱衝撃性に優れる。 |
ガラス (ソーダライム) | 72 | アルミと同等の剛性だが、脆性破壊するため注意が必要。 |
ヤング率一覧を正しく解析に使う
この記事を通じて、主要な工業材料のヤング率について解説してきました。 強度解析の精度を高め、より良い製品設計を実現するために、ここで得た知識を正しく活用することが大切です。最後に、ヤング率一覧を扱う上での重要なポイントとヤング率の情報を得るために有益なサイトをまとめます。
- ヤング率は材料の「剛性(変形しにくさ)」を示す物性値である
- 強度(破壊しにくさ)や硬度(表面の傷つきにくさ)とは異なる指標
- 機械設計では鉄鋼材料の約205GPaが全ての基準となる
- 鉄鋼は熱処理で強度が変わってもヤング率はほぼ一定
- ステンレス鋼のヤング率は鉄とほぼ同等
- アルミニウム合金のヤング率は鉄の約3分の1と低い
- アルミは軽量なため比剛性(E/ρ)は鉄と同レベル
- チタン合金は鉄とアルミの中間のヤング率を持つ
- チタンは熱処理によってヤング率が大きく変動するため注意が必要
- 樹脂(プラスチック)のヤング率は金属に比べて2桁近く低い
- 樹脂のヤング率は温度依存性が非常に大きいため使用温度での値を確認する
- セラミックスは金属を大幅に上回る高いヤング率を持つ
- アルミナや炭化ケイ素は極めて高い剛性を示す
- ジルコニアは鋼と同等のヤング率と高い靭性を併せ持つ
- ガラスのヤング率はアルミと同等だが脆性破壊に注意する
- JIS Z 2280(日本産業規格)
- URL: https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JIS+Z+2280%3A1993
- 説明: 日本産業規格(JIS)が定める、金属材料のヤング率試験方法に関する公式文書です。静的・動的ヤング率の測定方法や試験片の規定など、信頼性の高いデータを取得するための基準が詳細に定められており、最も権威ある情報源の一つです 。
- 株式会社サイバネットシステム(ANSYSラーニングルーム)
- URL: https://www.cybernet.co.jp/ansys/learning/glossary/youngritsu/
- 説明: 大手のCAE(コンピュータ支援エンジニアリング)ソフトウェアベンダーであるサイバネット社が運営する技術解説ページです。強度解析の実務に直結する観点から、ヤング率の定義や応力-ひずみ曲線における意味、関連する物性値(ポアソン比、せん断弾性係数など)との関係性が簡潔かつ的確に解説されています 。
- 京セラ株式会社(ファインセラミックスサイト)
- URL: https://www.kyocera.co.jp/prdct/fc/material-property/property/stiffness/index.html
- 説明: 大手セラミックスメーカーである京セラが、自社製品の特性として剛性(ヤング率)を解説しているページです。アルミナや炭化ケイ素など、金属をはるかに上回る高剛性材料の具体的なヤング率の数値を、メーカーの視点から確認することができます
- 日本機械学会(JSME)
- URL: https://www.jsme.or.jp/
- 説明: 日本の機械工学分野における最も権威ある学術団体です。同学会が発行する論文誌や便覧は、ヤング率を含む材料力学の定義や研究の基準となります。最新の研究動向やより専門的な知見を得るための出発点となるサイトです 。
- 株式会社ユポ・コーポレーション(技術コラム)
- URL: https://service.yupo.com/release/column/young-modulus/
- 説明: 合成紙メーカーであるユポ・コーポレーションが、材料の物性としてヤング率を非常に分かりやすく解説しているページです。応力やひずみとの関係、フックの法則、ポアソン比との違いなど、基本的な概念を学ぶのに最適で、各種材料の数値も比較されています
以上です。
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