ここでは クリーンルーム内などでの 静電気対策 で自動機に組み込まれることがある「イオナイザ」の基礎知識についてのメモです。
イオナイザを調べだすと、無数の種類や専門用語が並んでおり、「一体どれを選べば正解なのか」「実際にどう設計に組み込めばトラブルが起きないのか」と頭を抱えてしまいます。 この記事では、一般的なメーカーサイトにあるような製品の特長紹介だけでは読み取れない、設計者が現場で直面する課題に基づいた「エンジニアリング視点」での 実践的な押さえておくべき知識 をまとめています。
静電気が発生する物理的なメカニズムを理解することで、イオナイザの選定から配置までの設計フローを迷わずに決定できるようになり、さらに長期間の安定稼働を実現するためのメンテナンス設計までを網羅的に解説します。 この記事を読むことで、断片的だった知識が体系的に整理され、自信を持って最適なイオナイザを選定し、トラブルのない自動機を設計できるようになる(はず)です。
イオナイザの使い方の基本と原理
帯電メカニズムと静電破壊(ESD)
自動機を設計する際、まず理解しなければならないのは「なぜその工程で静電気が発生するのか」という物理的な背景です。 製造現場における帯電現象は、主に物質同士が接触・分離する際に電荷が移動する「剥離帯電」、物体同士が擦れ合う「摩擦帯電」、そして帯電した物体が近づくことで導体に電荷が生じる「誘導帯電」の3つに分類されます。
例えば、リールから部品テープを引き出す工程では強力な剥離帯電が発生し、振動ボウル内を移動するワークは激しい摩擦帯電に晒されます。 これらの現象により、ワーク表面には静電気が蓄積されます。 この電圧が蓄積された状態で、接地された金属ノズルやICチップなどの電子部品に触れると、瞬時に電流が流れる静電破壊(ESD)が引き起こされます。
近年、電子デバイスは微細化が進み、数十ボルト程度の低電位でも絶縁破壊に至るケースが増えています。 機械設計者は、単にイオナイザを設置するスペースを空けるだけでなく、各工程のリスクレベル(静電破壊を防ぎたいのか、異物付着を防ぎたいのか)を明確にし、それに応じたスペックを選定する必要があります。 また、静電気はクーロン力によって空気中の微粒子を引き寄せるため、クリーン環境での異物混入(コンタミネーション)の主因となることも理解しておくことが大切です。
表1:静電気による主な障害と設計時の着眼点
| リスク分類 | 具体的な現象例 | 発生しやすい工程 | 設計時に考慮すべきイオナイザの要件 |
| 静電破壊 (ESD) | ICの絶縁破壊、パターンの溶断、データの誤書き込み | 実装工程(ピック&プレース)、基板検査、フィルム剥離 | イオンバランス重視。
残留電位を±10V以下などに抑える精密除電が必要。センサーフィードバック機能の搭載を推奨。 |
| 静電引力 (ESA) | フィルムの貼り付き、微小部品の持ち帰り、異物・ホコリの付着 | フィルム搬送、塗装・印刷前工程、クリーンルーム内搬送 | 除電速度重視。
強力な風でイオンを叩きつけ、瞬時に高電圧を除去する能力が必要。除塵用のエアブロー機能も有効。 |
| 電磁波障害 (EMI) | 放電ノイズによるPLCやセンサーの誤動作、通信エラー | 自動機全般(特に高速動作時)、エンコーダ配線周辺 | 設置位置とアース設計。
放電時のノイズが制御線に乗らないよう、高圧ケーブルと信号線を分離し、確実なFG接続を行う。 |
参考出典先:キーエンス 静電気対策の教科書(https://www.keyence.co.jp/ss/products/static/static-electricity/step/ionizer.jsp)
参考出典先:SMC イオナイザ機器選定ガイド(https://www.smcworld.com/catalog/New-products/mpv/s100-97-izs40/data/s100-97-izs40.pdf)
コロナ放電によるイオン生成
産業用イオナイザの多くは、空気分子を電気的に分解してイオンを作り出す「コロナ放電」という現象を利用しています。 この仕組みを理解することは、適切な設置環境を整える上で非常に有益です。 イオナイザの放電針(エミッタ)には、数千ボルトの高電圧が印加されます。 針の先端は非常に鋭利な形状をしており、ここに電界が集中することで局所的な絶縁破壊が起き、周囲の空気がプラスイオンとマイナスイオンに電離されます。
生成されたイオンは、クーロン力によって帯電したワークへと引き寄せられます。 ワークがプラスに帯電していればマイナスイオンが、マイナスに帯電していればプラスイオンが選択的に結合し、電気的に中性な状態へと戻ります。 これを「中和」と呼びます。
ここで注意すべき点は、プラスイオンとマイナスイオンでは物理的な性質が異なるということです。 一般的にマイナスイオンの方が質量が小さく移動しやすいため、同じ条件で放電させるとマイナスイオン過多になりやすい傾向があります。 また、コロナ放電に伴い微量のオゾンが発生するため、ゴム部品(Oリングなど)の劣化を早める可能性があります。 設計者は、イオナイザ周辺の材質選定において、オゾン耐性のあるフッ素ゴムやシリコーンゴムを採用するといった配慮 も求められます。
イオンバランスと除電速度
イオナイザの性能表を見ると必ず記載されているのが「イオンバランス(オフセット電圧)」と「除電速度(減衰時間)」です。 これらはしばしばトレードオフの関係になるため、自動機の仕様に合わせて優先順位を決める必要があります。
除電速度は、帯電電位(例:1000V)を特定のレベル(例:100V)まで下げるのに要する時間を指します。 タクトタイムの短い高速搬送ラインでは、ワークがイオナイザの前を一瞬で通り過ぎるため、極めて速い除電速度が求められます。 一方、イオンバランスは、供給されるプラスとマイナスのイオン量の均衡状態を示します。 この値が0Vに近いほど理想的ですが、バランスが崩れていると、除電後のワークに電圧が残ったり、逆に帯電させてしまったりします。
ESDに敏感なデバイスを扱う工程では、除電速度よりもイオンバランスの安定性が最優先されます。 逆に、樹脂成形品の搬送などで異物付着を防ぎたい場合は、多少のバランス崩れよりも、短時間で強力に静電気を消し去る除電速度が重要視されます。 設計者は、対象ワークの「静電耐圧」と「許容タクトタイム」を天秤にかけ、最適なモデルを選定しなければなりません。
最適なイオナイザーの使い方の設計
高周波AC方式の特性
精密な電子部品の実装機や、スペースの限られたハンドリング装置内でよく選定されるのが「高周波AC方式」です。 この方式は、一般的に68kHz(キロヘルツ)前後の高い周波数で、一本の放電針にプラスとマイナスの高電圧を交互に印加します。 電圧の極性が高速で切り替わるため、放出されるイオンはプラスとマイナスが均一に混ざり合った「イオンの雲」のような状態になります。
高周波AC方式の最大のメリットは、イオンバランスが極めて良好であることです。 イオンの極性が目まぐるしく入れ替わるため、ワーク表面の電位変動(電位振幅)を最小限に抑えることができ、ESD(静電破壊)に弱い極小デバイスの除電に適しています。 また、トランスに圧電セラミック素子を用いることで本体を小型・軽量化しやすく、ロボットアームの先端に取り付けても可搬重量への影響を最小限に抑えられます。
一方で、デメリットとして「イオンの到達距離が短い」という特性があります。 プラスとマイナスのイオンが密接して放出されるため、互いに引き合って再結合しやすく、放出口から離れるとすぐにイオン濃度が低下してしまいます。このため、高周波AC方式を採用する場合は、ワークから50mm〜300mm程度の近距離に設置するか、あるいはエアブローの風に乗せてイオンを運ぶような機構設計が不可欠です。
パルスDC方式の選定
クリーンルームの天井からエリア全体を除電したり、大型のガラス基板やフィルムを離れた位置から除電したりする場合には、「パルスDC方式」が適しています。 この方式は、プラス用とマイナス用の別々の電極(または切り替え回路)を持ち、数ヘルツから数十ヘルツという低い周波数で交互にイオンを放出します。
パルスDC方式の特徴は、プラスイオンとマイナスイオンをそれぞれ「塊(パルス)」として放出する点にあります。 イオン同士の距離が保たれるため再結合が起きにくく、風のない状態(無風)や微風でも、1メートル以上の遠距離までイオンを到達させることができます。 これにより、気流を嫌う工程や、機構上の制約でイオナイザを近づけられない場所での除電が可能になります。
ただし、周波数を低く設定しすぎると、対象物の電位がプラスとマイナスに大きく振れる「スイング現象」が発生するリスクがあります。 ESD感度の高いデバイスに対して極端に低い周波数で使用すると、除電しているつもりが逆に瞬間的な電圧ストレスを与えてしまう可能性があります。 最近の機種では、センサーで帯電量を監視しながらパルス幅を自動調整する機能を持つものもあり、これらを活用することで安全性と除電性能を両立できます。
表2:主な電圧印加方式の比較と選定基準
| 方式 | 動作周波数 | 除電速度 | イオンバランス | 有効距離 | 最適な用途・特徴 |
| DC方式 | 直流(一定) | 非常に速い | △ (崩れやすい) | 長距離 | 高速走行するフィルムやシートの除電。
高速除電が可能だが、針が汚れやすくメンテナンス頻度が高い。 |
| パルスDC方式 | 低周波
(Hzオーダー) |
普通 | ◯ | 長距離 | クリーンルームの空間除電、大型ワーク。
遠くまで届くが、ワーク表面での電位スイングに注意が必要。 |
| 高周波AC方式 | 高周波
(kHzオーダー) |
普通 | ◎ (非常に良い) | 短距離 | 電子部品の実装、局所除電。
イオンバランスに優れるが、エア搬送併用が基本。 |
| パルスAC方式 | 低~中周波 | 速い | ◯ | 中~長距離 | 近距離から遠距離まで汎用的に使用可能。
DCの到達力とACのバランスの良さを併せ持つハイブリッド型。 |
参考出典先:キーエンス 除電器の方式による性能(https://www.keyence.co.jp/ss/products/static/static-electricity/ionizer/method.jsp)
参考出典先:SMC イオナイザ選定ガイド(https://www.smcworld.com/catalog/New-products/pdf/s100-97b-izs40.pdf)
バータイプの設置場所
コンベア上を流れるトレーや、ロール状のフィルムなど、幅のあるワークに対して面で除電バリアを張りたい場合は、バータイプのイオナイザが第一選択となります。 選定の基本は、ワークの全幅よりも長いサイズ(左右に50mm〜100mm程度の余裕を持たせる)を選ぶことです。 長さが足りないと、ワークの端部で除電不足が発生し、そこから放電や貼り付きが起こる可能性があります。
設置場所に関しては、「帯電が発生した直後」かつ「問題が起きる直前」が鉄則です。 例えば、フィルムの巻き出し工程であれば、ロールから剥離した瞬間に最も強く帯電するため、その剥離点に向けられる位置にバーを設置します。 コンベア搬送であれば、次工程へ移載される手前や、作業者が触れるエリアの入り口に配置します。
ここで盲点となりやすいのが、周囲の金属フレームとの関係です。 バータイプの電極から放出されたイオンは、ワークだけでなく近くの接地された金属体(グラウンド)にも引き寄せられます。 もしバーのすぐ近くに金属のカバーやフレームがあると、イオンがそちらに吸収されてしまい、肝心のワークに届かないという事態が発生します。 設計時には、メーカーが推奨する絶縁距離を周囲に確保するか、あるいは金属の影響を受けにくい仕様のモデルを選定する配慮が求められます。
バータイプの選定において、参考となる代表的な製品シリーズを以下に紹介します。
- キーエンス SJ-Hシリーズ
- 超高速除電と省メンテナンス性を両立したモデルです。「Supersonic構造」により針先への汚れ付着を抑えている点が特徴で、メンテナンス工数を減らしたい場合に適しています。
- SMC IZS40/41/42シリーズ
- SMC独自の「デュアルAC方式」を採用しており、ワークへの電位振幅を低減できるため、電子デバイスへの影響を最小限に抑えたい場合に有効です。コントローラー分離型などバリエーションも豊富です。
- パナソニック ER-Xシリーズ
- 無風(エアレス)での除電に対応しているほか、耐熱・耐寒仕様のヘッドもラインナップされており、成形機周辺など過酷な温度環境での使用に適しています。
スポットノズルの活用法
局所的な除電と同時に、付着したホコリや異物を吹き飛ばす除塵を行いたい場合には、スポットノズルタイプが最適です。 圧縮エアの力を利用して高濃度のイオンをピンポイントで照射できるため、窪みのあるワークや、複雑な形状をした成形品の内側など、通常のバータイプではイオンが届きにくい箇所へのアプローチが可能になります。
自動機設計における具体的な活用法として、ピック&プレースを行うロボットハンドや吸着ノズルの近傍への設置が挙げられます。 ワークを吸着する直前や離した瞬間にスポット的に除電エアを吹き付けることで、吸着ミスや持ち帰り(離脱不良)を防ぐことができます。 また、パーツフィーダーのボウル内で部品が詰まりやすい箇所に狙いを定めて設置することで、摩擦帯電によるブリッジ現象を解消する使い方も効果的です。
注意点として、常時エアを流し続けるとランニングコスト(電気代)が嵩むことが挙げられます。光電センサー等でワークの通過を検知し、必要なタイミングだけエアを噴射する間欠制御(パルスブロー)を組み合わせることで、エア消費量を抑えつつ、パルス状の衝撃波による高い除塵効果を得る設計が推奨されます。
スポットノズルタイプの選定において、参考となる代表的な製品シリーズを以下に紹介します。
- キーエンス SJ-Mシリーズ
- 超小型のマイクロ除電器です。ヘッド部分が非常に小さく、耐熱仕様もあるため、装置内部の狭い隙間や高温環境下への組み込みに最適です。
- SMC IZN10Eシリーズ
- ノズル形状のバリエーションが豊富で、省エネノズルや大流量ノズルなど用途に合わせて選択できます。メンテナンス時期を知らせる機能も搭載されています。
- パナソニック ER-VSシリーズ
- 高周波AC方式を採用した超小型イオナイザーです。イオンバランスに優れており、微細部品の除電に適しています。
設置距離と効果の関係
イオナイザの除電能力は、設置距離によって劇的に変化します。 物理的な法則として、電界の強さは距離の二乗に反比例して低下する性質があり、イオンの到達効率も距離とともに急激に減少します。 つまり、距離が離れれば離れるほど、除電にかかる時間が大幅に延びてしまうということです。
設計の初期段階ではスペースに余裕がなく、イオナイザをワークから遠ざけて配置しがちですが、これでは十分な効果が得られないことが多々あります。 基本的には、ワークとイオナイザの距離は可能な限り近づける(通常は300mm以内、可能なら100mm前後)のが理想です。
しかし、近づけすぎることによる弊害もあります。 高電圧による誘導ノイズが近接センサーに影響を与えたり、イオンバランスの不均一な領域(縞模様)がワークにかかったりするリスクです。距離を離さざるを得ない場合は、必ず「風(エアパージ)」を併用してイオンを強制的に搬送するか、遠距離除電に特化したパルスDC方式を選定するといった対策を組み合わせる必要があります。 距離と方式のミスマッチは、最も多い設計ミスのひとつですので注意が必要です。
導電性チューブの配管
スポットノズルタイプを使用する際、ノズル本体を設置できない狭い場所へはチューブを使ってイオン化されたエアを導くことができます。 この時、配管に使用するチューブの材質選定が極めて重要になります。 一般的なポリウレタンやナイロンのチューブは絶縁体であるため、チューブの内壁自体が帯電しやすく、通過するイオンを吸着・消費してしまいます。 その結果、ノズルの先端からはほとんどイオンが出てこないという失敗例が後を絶ちません。
このような事態を防ぐために、イオン搬送用には必ずメーカー指定の「導電性チューブ」またはテフロンなどの帯電しにくい材質のチューブを使用します。 それでもチューブが長くなればなるほど、内壁への衝突によるイオンの減衰は避けられません。設計上のルールとして、チューブの長さは可能な限り短く(一般的には500mm〜1000mm以内を目安に)抑え、曲げ半径も大きく取るようなルート設計を心がける必要があります。
また、継手(フィッティング)部分で急激な流路断面積の変化や段差があると、そこで乱流が発生しイオンの再結合が促進されてしまいます。 可能な限りストレートな配管経路を確保し、イオンを「生きたまま」ワークまで届けるための流体設計意識を持つことが大切です。
対向設置の有効性
液晶ガラス基板やプラスチックフィルムなど、絶縁性の高いシート状ワークを搬送する場合、片面からの除電だけでは不十分なケースが多々あります。 シートが搬送ローラーと接触・剥離する際、表面と裏面の両方でそれぞれ帯電が発生します。 さらに厄介なことに、表と裏で異なる極性に帯電していることも珍しくありません。 この状態で片面からのみイオンを当てると、見かけ上の電位は下がっても、裏面の電荷が解消されずに残り、次工程で剥がれた瞬間に再び強い電位となって現れることがあります。
こうした課題に対する有効な設計手法が「対向設置」です。 ワークを挟み込むように、表側と裏側の同じ位置にイオナイザ(主にバータイプ)を配置し、両面から同時にイオンを照射します。これにより、内部に潜んだ静電気の影響まで効果的に排除できます。
対向設置の具体的な導入事例として、以下のメーカー情報が参考になります。
- シシド静電気:搬送中の除電事例
- 搬送中のフィルムやガラス基板に対して、表裏両面からイオナイザを対向設置することで、帯電ムラを防ぎ異物付着を抑制するソリューションが紹介されています。
ただし、対向設置を行う際は、向かい合うイオナイザ同士の干渉に注意が必要です。 互いのイオンがワークを通り越して相手側の電極に影響を与えたり、イオンバランス制御を乱したりする可能性があります。 これを防ぐために、あえて位置を搬送方向に数センチずらして配置する(オフセット配置)、あるいは対向設置に対応した同期機能を持つモデルを選定するといった工夫を取り入れることで、より確実な除電が可能になります。
イオナイザの使い方の盲点と保守
逆帯電のリスク回避
良かれと思って設置したイオナイザが、逆に静電気トラブルの原因になってしまう現象が「逆帯電」です。 これは、イオナイザから放出されるプラスイオンとマイナスイオンのバランスが崩れ、どちらか一方の極性が過剰に供給され続けることで発生します。 元々帯電していない(0Vの)ワークに対して、バランスの悪いイオンを浴びせ続けると、ワークはその過剰な極性の電位(例えばマイナス200Vなど)に帯電してしまいます。
特に注意が必要なのは、静電容量の小さい電子部品や、絶縁されたフローティング状態の導体です。 これらはわずかな電荷の不均衡でも大きな電圧変化として現れやすく、気づかないうちにESD破壊を引き起こす原因となります。 逆帯電を防ぐためには、定期的にイオンバランスを測定することが基本ですが、設計段階での対策としては「フィードバックセンサー付き」のイオナイザを選定することが有効です。
この機能を持つイオナイザは、外部または内蔵のセンサーで常に対象物の電位を監視し、その電位を打ち消すようにプラスとマイナスの出力比率を自動で調整します。 経年変化や周囲環境の変化でバランスが崩れそうになっても、自動的に補正がかかるため、長期にわたって安全な除電状態を維持することができます。 信頼性が求められる工程では、こうした高機能モデルの採用を強く推奨します。
電極針摩耗とシースエア技術
イオナイザは「設置したら終わり」のメンテナンスフリーな機器ではありません。 心臓部である放電針(電極針)は、高電圧によるコロナ放電のエネルギーを受け続けるため、時間の経過とともに物理的に摩耗し、先端が丸くなっていきます。 針先が丸くなると放電効率が落ち、イオン生成量が減少するだけでなく、プラスとマイナスの摩耗スピードの違いからイオンバランスも崩れていきます。
さらに問題となるのが、空気中の微粒子やシリコンガスなどが針先に集まり、二酸化ケイ素(SiO2)などの絶縁物として堆積する汚れです。 これが付着すると放電が阻害され、除電能力は著しく低下します。 設計者は、これらの劣化を見越して、メンテナンスがしやすい場所にイオナイザを配置する(アクセス性を確保する)必要があります。 装置の奥深くに埋め込んでしまうと、清掃や針交換ができず、いずれ機能不全に陥ります。
こうしたメンテナンスの手間を減らすための技術として注目されているのが「シースエア」です。 これは、放電針の周囲から清浄なエアを層流として噴き出し、針先を包み込むようにガードする構造のことです。 シースエアがエアカーテンの役割を果たし、周囲の汚れた空気が針先に触れるのを物理的に防ぐため、汚れの付着を劇的に低減できます。これにより、従来の数倍から十倍以上の期間、メンテナンスなしで性能を維持できるケースもあります。 メンテナンス頻度を下げたい自動機においては、シースエア構造を持つ機種の選定が非常に有効な解決策となります。
表3:電極針の材質と特性比較
| 材質 | 推定寿命 | 特徴 | 主な用途・推奨環境 |
| タングステン | 約2年 | 硬度が高く摩耗に強い。最も標準的な材質でコストパフォーマンスが良い。 | 一般的な組立工程、搬送ライン、梱包工程。 |
| シリコン (Si) | 約2年 | 摩耗しても金属粉が出ない(非金属)。半導体グレードの清浄度が保てる。 | 半導体ウェハ製造、液晶パネル製造など、金属汚染(メタルコンタミ)を嫌う環境。 |
| ステンレス (SUS) | 約1年 | 安価だが摩耗が早い。頻繁な交換が必要になる場合がある。 | コスト重視の汎用工程。メンテナンス頻度が許容される場合。 |
参考出典先:キーエンス 除電器のメンテナンス(https://www.keyence.co.jp/ss/products/static/static-electricity/ionizer/maintenance.jsp)
参考出典先:NCC イオナイザーを知る(https://ncc-nice.com/ncc-clean/trivia/gomi-ibututaisaku/ioniser-3/)
正しいイオナイザーの使い方まとめ
最後に、イオナイザを利用した自動機を正しく設計するための重要ポイントをまとめます。これらをチェックリストとして活用し、設計の質を高めてください。
- 静電気発生の主原因(剥離・摩擦・誘導)を特定し、発生直後のポイントに対策を行う
- 静電破壊(ESD)対策ならイオンバランス、異物対策(ESA)なら除電速度を最優先に選定する
- 近距離・精密除電には高周波AC方式、遠距離・空間除電にはパルスDC方式を選定する
- バータイプはワーク全幅より長いサイズを選び、周囲の金属フレームから絶縁距離を確保する
- スポットノズルは間欠制御(パルスブロー)と併用することで、除塵効果向上と省エネを両立させる
- イオン濃度は距離の二乗に反比例して減衰するため、可能な限りワークに近い位置(300mm以内)に設置する
- イオン搬送用チューブには必ず導電性またはフッ素樹脂製を選び、配管長は1000mm以下にする
- 絶縁性の高いシート材は、対向設置により表裏両面の電荷を同時に中和する設計を行う
- 対向設置時は、イオナイザ同士の干渉を防ぐため、オフセット配置または同期機能付きモデルを使用する
- 逆帯電によるトラブルを防ぐため、イオンバランスの自動補正機能やセンサーフィードバックを活用する
- 放電針は消耗品であることを前提とし、清掃や交換が容易な配置(スライド機構や扉)を設計に盛り込む
- メンテナンス工数を削減したい場合は、針の汚れを防ぐシースエア技術を採用したモデルを選定する
- オゾン発生によるゴム部品の劣化を考慮し、周辺機器には耐オゾン性のある材質(フッ素、シリコーン等)を使用する
- イオナイザの電源入れ忘れを防ぐため、設備のインターロック回路と連動させる電気設計を行う
- 定期的な効果測定(帯電測定)を運用フローに組み込み、性能低下を数値で管理できるようにする
以上です。
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クリーンルーム静電気対策の完全ガイド【機械設計者向け】
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