リニアシャフトの選定と設計完全ガイド|材質・熱処理・表面処理など

 

ここでは ガイド機構に利用される 「リニアシャフト」 についての実務ノウハウメモです。

 

「リニアシャフトを使ってガイド機構を作りたいが、どの材質を選べば良いのか確信が持てない」「カタログの計算式は知っているが、実務で考慮すべき安全率や寿命の目安が曖昧だ」「過去にシャフトが偏摩耗してしまった経験があり、同じ失敗をしたくない」などの悩みや不安を抱えているのではないでしょうか。

 

機械設計の現場では、カタログスペックだけでは見えてこない「構造の仕様」や「熱処理の深さ」、あるいは「現場での組み付けノウハウ(グリスアップなど)」が設備の品質を決定づけます。

 

この記事では、単なるメーカーカタログの抜粋ではなく、実際の設計実務において直面するトラブル事例や、教科書には載っていない「長寿命化のための運用テクニック」まで踏み込んで解説します。

 

他のサイトでは断片的にしか語られないJIS規格に基づいた材料選定の根拠や、50km定格と100km定格の換算ロジック、そしてミガキ材を使用してはいけない工学的理由などを体系的にまとめました。  この記事を読むことで、自信を持ってリニアシャフトを選定し、トラブルを未然に防ぐ設計ができるようになることを目指します。

リニアシャフトの材質と精度特性

ミガキ材とセンターレスの決定差

機械設計の経験が浅い段階で犯しやすい最大の誤りの一つ が、見た目が似ているという理由だけで、安価な「ミガキ材(冷間引抜鋼)」をリニアシャフトとして流用してしまうことです。  しかし、これら二つは製造プロセスそのものが異なり、ガイド部品としての機能には埋めがたい性能差が存在します。

 

一般的に ミガキ材 は、ダイスと呼ばれる穴に材料を通し、常温で引き抜くことで成形されます。  この製法では、寸法公差はh9級からh11級程度にとどまり、真円度(まん丸であること)や円筒度(真っ直ぐであること)は保証されないケースが大半です。

 

一方、リニアシャフトとして流通している製品は、 センターレス研削 という精密加工が施されています。  これは、ワークをセンタ穴で固定せず、調整砥石と支持刃(ブレード)で支えながら研磨する方法であり、これにより直径公差をg6やすきまばめ用のh5といった、ミガキ材の数倍から数十倍の精度で仕上げることが可能になります。

 

もし、ボールブッシュの相手軸としてミガキ材を使用した場合、公差のバラつきにより予圧が不均一となり、特定箇所で「ガタ」が発生したり、逆に「きつすぎて動かない」といった致命的な不具合を招きます。  また、引抜き材特有の微細な表面のうねりが、ボールやシールを早期に摩耗させる原因ともなります。  したがって、自動機の摺動案内には、必ずセンターレス研削仕上げされた専用シャフトを選定することが、設計者としての責務と言えます。

 

以下の表に、一般的なミガキ材とリニアシャフト(センターレス研削材)の特性比較をまとめました。

特性項目 ミガキ材(冷間引抜鋼) リニアシャフト(センターレス研削材)
主な製造法 ダイスによる冷間引抜き 砥石による精密研削(センターレス)
直径公差 h9 ~ h11 (例:φ20で0~-0.052) g6, h5 (例:φ20で-0.007~-0.020)
真円度・円筒度 規定なし(なりゆき) 数μmレベルで厳密に管理
表面粗さ 比較的粗い(引抜き肌) 極めて滑らか(Ra0.4以下)
ボールブッシュ適性 不適(ガタ、早期摩耗の原因) 最適(スムーズな摺動と高剛性)

 

 

SUJ2と高周波焼入れの必要性

リニアシャフトの材質として、日本国内で最も標準的に採用されているのが「高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)」です。  これは、その名の通りベアリング(軸受)を作るために開発された鋼材であり、耐摩耗性と機械的強度のバランスが極めて優れています。

 

ただ、材質がSUJ2であれば良いというわけではありません。  リニアシャフトとして機能させるためには、「高周波焼入れ」という熱処理が必須条件となります。  この処理は、コイルを用いてシャフトの表面のみを急速加熱し、直後に急冷することで、表面硬度をHRC58~64(ビッカース硬さでHV700以上)という非常に硬い状態にする技術です。

 

なぜ、全体を硬くする「ズブ焼入れ」ではなく高周波焼入れを用いるのでしょうか。  その理由は、シャフトが「ガイド」であると同時に、荷重を支える「梁(はり)」でもあるからです。  全体を芯まで硬くしてしまうと、衝撃荷重や曲げモーメントが加わった際に、ガラスのように脆く折損するリスクが高まります。  表面は硬くしてボールとの接触応力に耐え、内部(芯部)は元の組織のまま靭性(粘り強さ)を残すことで、折れにくく減りにくい理想的なシャフトが完成します。

 

また、設計図面においては「有効硬化層深さ」も意識する必要があります。  これは表面から硬度が維持されている深さのことで、通常は1mm~2mm程度確保されます。  もしこの層が薄すぎると、高荷重を受けた際に表面が卵の殻のように割れる「エッグシェル現象」を引き起こし、早期剥離の原因となります。

 

 

表面粗さとガイド性能の関係

リニアシャフトの 表面粗さ は、摺動抵抗の大きさやシールの寿命、さらには動作音に直結する重要なパラメータです。  表面粗さは、加工面に存在する微細な凹凸の大きさを示し、通常は算術平均粗さ(Ra)で管理されます。

 

ボールブッシュを使用する場合、シャフト表面の推奨粗さはRa0.2μmから0.4μm以下とされています。  表面がこれより粗いと、ボールが転がる際の抵抗が増大し、ゴロゴロという異音が発生するだけでなく、ボール自体や樹脂製の保持器、ゴムシールをヤスリのように削ってしまいます。  一方で、鏡面のように粗さが限りなくゼロに近い状態が良いかというと、必ずしもそうではありません。  適度な微細な凹凸は「オイルポケット」として機能し、潤滑油を保持する役割を果たす からです。

 

センターレス研削に加え、仕上げにバフ研磨などを行うことで、条痕(研削目)を整え、長手方向への摺動性を高めた製品も存在します。  設計者は、特に自社でシャフトを加工する場合や、海外製の安価なシャフトを使用する場合、この表面粗さが適切に管理されているかを確認することが大切です。

 

 

硬質クロムめっきと耐環境性

SUJ2などの軸受鋼は、非常に優れた機械的性質を持つ反面、クロム含有量がステンレス鋼ほど多くないため、防錆管理を怠ると容易に錆びてしまうという弱点 があります。  日本の高温多湿な夏場や、結露しやすい環境、あるいは水溶性クーラントが飛散する工作機械内部などでは、表面処理のないシャフトは数日で赤錆が発生することもあります。

 

こうした腐食トラブルを防ぐために最も一般的に用いられるのが「工業用硬質クロムめっき(フラッシュめっき)」です。  通常、5μmから20μm程度の膜厚で施工され、HV750以上の表面硬度と優れた耐食性を提供します。  さらに高度な防錆や、光学機器などで光の反射を嫌う場合には、「低温黒色クロムめっき(レイデント処理など)」が選定されます。  これは1μm~2μmという極薄の皮膜でありながら強力な防錆力を持ち、膜厚による公差への影響を最小限に抑えられるメリットがあります。

 

また、食品機械や洗浄が必要なラインでは、母材そのものをステンレス鋼(SUS440C相当)にする選択肢もあります。  SUS440Cは焼入れによりHRC56程度まで硬化可能ですが、SUJ2に比べると定格荷重が低下する傾向にあります。使用環境の厳しさと、求められる負荷能力のバランスを見極め、適切な表面処理や材質を選定しましょう。

 

材質・表面処理 硬度 (HRC) 耐食性 特徴・注意点
SUJ2 (標準) 58 ~ 64 低 (錆びやすい) 最も一般的。高荷重に耐えるが防錆油必須。
SUJ2 + 硬質クロムめっき 表面HV750↑ 耐摩耗性と耐食性を両立。膜厚分の寸法変化に注意。
SUJ2 + 低温黒色クロムめっき 母材依存 非常に高い 膜厚が薄く公差への影響小。黒色で反射防止効果あり。
SUS440C (ステンレス) 56程度 水環境向き。SUJ2より定格荷重が下がる場合がある。

 

 

リニアシャフトの固定方法と設計

リニアシャフトの固定方法

リニアシャフトを装置フレームに固定する方式は、構造力学的な視点から「両端支持(フローティング)」と「連続支持(レールサポート)」の二つに大別されます。  どちらを採用するかは、搬送距離(ストローク)と剛性の要求レベルによって決定されます。

 

両端支持は、シャフトの両端のみをシャフトホルダやサポートブロックで固定し、中間部分を空中に浮かせる方式です。  この構造の最大の利点は、円筒状の「クローズドタイプ」のボールブッシュを使用できることです。  これにより、シャフト全周から均等に荷重を受けることができ、コストも安く抑えられます。  しかし、シャフト自体が梁(はり)として振る舞うため、長尺になると自重やワーク重量で中央部がたわみやすくなり、振動の原因となる欠点があります。

 

一方、連続支持は、シャフトの全長を下から支えるアルミや鋼鉄製のサポートレールを使用する方式です。  シャフトがレールに完全に固定されるため、たわみの懸念がほぼ解消され、数メートルに及ぶ長い搬送ラインでも高い剛性を維持できます。  ただし、ブッシュは下部が切り欠かれた「オープンタイプ」を使用しなければならず、特定の方向(開口部方向)への荷重能力が低下する点や、取り付け面の平面度出しに手間がかかる点に留意する必要があります。

 

また、2本のシャフトを平行に設置する場合の固定テクニックとして、「とも締め」が有効です。  これは、基準となる片側の軸を完全に固定した後、もう片方の軸(またはブッシュブロック)のボルトを仮締め状態にし、キャリッジを数回往復させて自然な位置に馴染ませてから本締めする方法です。  これにより、施工誤差による「こじれ」を防ぎ、スムーズな動きを実現できます。

 

 

荷重によるたわみの計算手法

両端支持構造を採用する際、設計者が最も注意を払うべきは「たわみ量」の計算です。  強度的には折れる心配がなくても、たわみが大きすぎるとボールブッシュがシャフトに対して斜めに当たる「片当たり」が発生し、異常摩耗や動作不良を引き起こします。

 

シャフトを「単純支持はり」と仮定し、その中央に集中荷重 P (N) が作用した場合の最大たわみ δ (mm) は、以下の材料力学の公式で求められます。

δ = (P × L^3) / (48 × E × I)

ここで各変数は以下の通りです。

  • L: 支点間の距離 (mm)
  • E: ヤング率(縦弾性係数)。鋼材の場合は約 2.06 × 10^5 (N/mm²)
  • I: 断面二次モーメント (mm⁴)。中実の円形断面であれば I = (π × d^4) / 64 (dは軸径)

 

この式で特に注目すべきは、たわみ δ が スパン L の3乗に比例 し、軸径 d の4乗に反比例 するという点です。  つまり、スパンが2倍になればたわみは8倍に増えますが、逆に軸径を少し太くするだけで剛性は飛躍的に向上します。

 

一般的な搬送装置において、許容されるたわみ量は「スパン1mあたり0.5mm以下」、位置決め精度が求められる用途では「0.1mm以下」を目安に設計します。  もし計算結果がこの許容値を超える場合は、軸径を1ランク上げるか、あるいは連続支持方式への変更を検討する必要があります。

 

 

軸と穴のはめあい公差選定

リニアシャフトと、それを保持するハウジングやブッシュとの「はめあい」は、装置の精度と組立性を左右する重要な要素です。  適切な公差を選定しないと、ガタが発生して位置決め精度が出なかったり、逆にきつすぎて挿入時に部品を破損させたりするトラブルが発生します。

 

通常、市販されている焼入れリニアシャフトの外径公差は g6 または h5 で製作されています。  g6はマイナス公差(例:φ20で-0.007~-0.020mm)であり、h5はゼロ基準のマイナス公差(例:φ20で0~-0.009mm)です。

 

これに対し、シャフトを固定するホルダやブロックの穴径公差は、一般的に H7 を選定します。  g6軸とH7穴の組み合わせは 「すきまばめ(精転合)」 となり、手でスムーズに挿入できる程度の隙間が確保されます。  固定時には、スリットが入ったホルダをボルトで締め付けることで隙間をなくし、強固に把持する構造が一般的です。

 

ボールブッシュとの関係においては、用途に応じたクリアランス管理が求められます。  一般的な搬送用途では標準のすきまばめで問題ありませんが、振動や衝撃が予想される場合や、高い案内精度が必要な場合は、ブッシュの外筒にスリットが入った「すきま調整型」を使用し、ハウジング側で締め付け具合を調整して予圧(マイナスのすきま)を与えることで、ガタをゼロにする設計手法 がとられます。

 

 

ボールブッシュとオイレスブッシュ

リニアシャフトのガイド役として選定される軸受には、大きく分けて「ボールブッシュ(転がり軸受)」と「オイレスブッシュ(すべり軸受)」の2種類があります。  これらは摩擦のメカニズムが全く異なるため、使用環境や負荷条件に応じて正しく使い分ける必要があります。

 

ボールブッシュは、内部の鋼球が転がり運動をすることで、 摩擦係数が0.002~0.005 と極めて低く、スティックスリップ(動き出しの引っ掛かり)がほとんどないのが特徴です。  そのため、高速搬送や精密な位置決め、低推力での駆動に適しています。  しかし、ボールとシャフトが「点接触」で荷重を支えるため、一点にかかる面圧が高く、シャフトには高い硬度(HRC58以上)が必須 となります。

 

対して、オイレスブッシュは、油を含浸させた金属や樹脂、固体潤滑剤を埋め込んだ合金などが用いられ、シャフトと「面接触」で摺動します。  摩擦係数は 0.1~0.2 程度 とボールブッシュより高いものの、接触面積が広いため許容荷重(特に静定格荷重)が非常に大きく、衝撃や振動を減衰させる効果があります。  また、異物(粉塵など)が入り込んでもボールのように噛み込んでロックすることが少ないため、溶接ラインや鋳造現場などの悪環境下での使用に適しています。

 

以下の表に、両者の特性比較を詳細にまとめました。

比較項目 ボールブッシュ(転がり) オイレスブッシュ(すべり)
接触形態 点接触 面接触
摩擦係数 極小 (0.002 ~ 0.005) 中 (0.1 ~ 0.2)
許容荷重 小(衝撃に弱い) 大(衝撃・振動に強い)
耐熱性 通常80℃以下(シール・樹脂保持器による) 高温対応品なら数百度も可
異物への強さ 弱(噛み込みによるロックのリスク) 強(埋没効果などでロックしにくい)
シャフト硬度 必須(HRC58以上) 推奨(必須ではないが硬い方が長持ち)
主な用途 精密搬送、高速駆動、XYテーブル 重量物昇降、低速高荷重、粉塵環境

参考出典先:オイレス工業(https://www.oiles.co.jp/products/bearing/design-support/design_selection/

参考出典先:THK製品情報(https://www.thk.com/jp/ja/products/other_linear_motion_guides/linear_bushing/

 

 

リニアシャフトの寿命と保守管理

定格荷重を用いた寿命計算

設計したガイド機構が、実際にどのくらいの期間、あるいは距離までトラブルなく稼働できるかを予測するためには、寿命計算が欠かせません。  この計算の基礎となるのが「基本動定格荷重(C)」です。  これは、同一直径の一群のリニアブッシュを同じ条件で作動させた際、その90%が剥離(フレーキング)を起こさずに到達できる基準走行距離における荷重のことを指します。

 

注意が必要なのは、この基準距離の定義が規格によって異なる点です。国際規格である ISO 14728-1 では基準距離を 100km と定めていますが、日本の一部メーカーや古いカタログデータでは 50km を基準としている場合があります。

 

さらに実務では、振動や衝撃、温度などの環境要因を考慮した「荷重係数 (fw)」や、シャフト硬度が低い場合の「硬さ係数 (fH)」などを考慮し、実効荷重を補正して計算します。これにより、カタログ上の理論値だけでなく、現場の過酷さを反映した現実的な寿命予測が可能となります。  参考出典先:日本ベアリング 技術情報(https://www.nipponbearing.com/technology/life.html

 

 

フレッティング損傷と対策

リニアシャフトを運用していると、ボールが走行するラインに沿って、赤茶色や黒っぽい筋状の傷や摩耗痕が発生することがあります。これは単なる摩耗ではなく、「フレッティング(微動摩耗)」と呼ばれる特有の損傷である可能性が高いです。

 

フレッティングは、微小な往復運動(ショートストローク)や、装置停止中の微振動が繰り返されることで発生します。  動きが小さすぎると、転動体と軌道面の間に新しい潤滑膜が形成されず、油膜切れの状態になります。  この状態で金属同士が直接接触して微小な摩耗粉が発生し、それが酸化して研磨剤のような働きをすることで、急速に摩耗が進行するのです。

 

この問題に対する有効な現場テクニックとして、「シャフトの位相変え(ローテーション)」があります。  ボールブッシュの構造上、ボールが接触する条列(ライン)は決まっています。  つまり、シャフト全周のうち、実際に摩耗しているのは数本の線の上だけです。  定期メンテナンス時にシャフトの固定ボルトを緩め、シャフトを回転方向に45度ほど回して再固定することで、ボールの走行軌道を新品の面(未使用の面)に変更できます。 但し、これは現場での対応を前提としているので設計上リニアシャフトを抜き差ししやすい(交換しやすい)構造にしておく必要があります。

 

これにより、部品交換コストをかけずに、実質的な寿命を延ばすことが可能です。  また、フレッティングに強い耐摩耗グリスを選定することも効果的な対策となります。

 

 

適切なグリスアップの手順

「新品のリニアシャフトとブッシュを買ったから、そのまま組めば良い」と考えていませんか? これは初心者が陥りやすい罠です。 多くの場合、出荷時に塗布されている油は「防錆油」であり、摺動のための「潤滑油(グリス)」としての性能は不十分です。

 

正しい手順は、まずウエスなどで防錆油をきれいに拭き取り、その上で適切なグリスを封入することです。  一般産業機械では「リチウム系石けん基グリース(例:昭和シェル アルバニアグリースS2など)」が標準的に推奨されます。  塗布の際は、シャフトの表面に塗るだけでなく、ブッシュの内側にあるボール列(保持器の隙間)に直接グリスを塗り込み、ボール全体に行き渡らせるのが理想的です。

 

メンテナンスの頻度については、使用環境や稼働率に依存しますが、一つの目安として「走行距離1000kmごと」あるいは「3ヶ月から6ヶ月ごと」の給脂が推奨されます。  ただし、垂直軸で使用する場合や、粉塵・水滴がかかる環境ではグリスの劣化や流出が早まるため、点検サイクルを短く設定する必要があります。  グリスアップは摩耗を防ぐだけでなく、異物の侵入を防ぐシール効果や、錆を防ぐ効果も兼ねているため、設備の安定稼働において最もコスト対効果の高い保全活動と言えます。  外部ブログですが、機械組立の部屋さんが グリス給油の方法 について記事を書いてくれています。

 

 

ミスミなど国内メーカーの特徴

日本国内には、世界に誇るリニアシャフトおよび直動部品メーカーが多数存在します。  それぞれの企業が得意とする領域やサービスの特徴を理解し、設計の目的(コスト優先か、性能優先か)に合わせて使い分けることが、賢い設計者の条件です。

 

ミスミ (MISUMI) は、FA(ファクトリーオートメーション)業界における「標準化の王者」です。  Webカタログ上で1mm単位での長さ指定や、ねじ加工、キー溝、フラット加工などの追加工を瞬時に指定でき、型番と価格、納期が即座に確定します。在庫品であれば翌日出荷が可能という圧倒的なスピード感は、試作機や急な設計変更、特注治具の設計において絶大な強みを発揮します。

 

THK は、直動案内(LMガイド)を世界で初めて製品化したパイオニアであり、その技術力と信頼性は業界トップクラスです。  リニアブッシュにおいても豊富なラインナップを持ち、特に技術資料の充実度は群を抜いています。  高荷重がかかる量産機や、絶対に故障が許されない重要設備の設計においては、THK製品を選定することで高い信頼性を担保できます。

 

日本ベアリング (NB) は、「スライドブッシュ」のブランドで知られる丸軸ガイドのスペシャリストです。  独自の「TOPBALL」シリーズは、ボールとの接触構造を工夫することで、従来品に比べて定格荷重を大幅に向上させています。  また、インチサイズや特殊環境対応品も豊富で、ニッチな要望にも応えてくれるメーカーです。

 

以下の表に、主要メーカーの特徴をまとめました。

メーカー名 主な特徴・強み 推奨される設計シーン
ミスミ (MISUMI) 圧倒的な短納期、Webでの追加工指定、標準化 試作機、設計工数削減、短納期対応、少量多品種
THK 高い技術力と信頼性、豊富な技術資料、世界シェア 量産機、高耐久・高精度が求められる重要箇所
日本ベアリング (NB) 丸軸ガイドに特化、高荷重対応品(TOPBALL)あり 特殊環境、既存設備の置き換え、高性能な丸軸ガイド
IKO (日本トムソン) ニードルベアリング技術、小型・省スペース製品 精密機器、医療機器、スペース制約のある設計

 

 

リニアシャフト設計の総括

ここまで解説してきた通り、リニアシャフトを用いたガイド機構の設計は、単純な棒と軸受の組み合わせに見えて奥が深いです。  最後に、本記事で解説した重要ポイントをまとめます。  これらをチェックリストとして活用し、確実な設計を行ってください。

 

  • コストダウン目的で安易にミガキ材を使わず、必ず焼入れ・研削されたリニアシャフトを選定する
  • 材質は標準のSUJ2を基本とし、水気のある環境では硬質クロムめっきやSUS440Cを検討する
  • シャフトの表面硬化層(高周波焼入れ)の重要性を理解し、後加工時は焼きなまし等を考慮する
  • 両端支持設計では「強度」よりも「たわみ」が支配的になるため、たわみ計算を必ず行う
  • たわみが許容値(例:0.5mm/m)を超える長ストロークでは、連続支持(レールサポート)を採用する
  • はめあい公差は、シャフトg6とハウジングH7を基本とし、適切なクリアランスを確保する
  • 高速・精密ならボールブッシュ、高荷重・悪環境ならオイレスブッシュと使い分ける
  • 寿命計算では、メーカーごとの定格荷重基準(50km vs 100km)の違いに注意し、換算して比較する
  • 微動摩耗(フレッティング)対策として、定期的なシャフトの位相回転(ローテーション)を行う
  • 初期の防錆油除去と適切なグリスアップ(リチウム系推奨)を徹底し、油膜切れを防ぐ
  • 2軸使用時は、片側基準・片側仮締めの「とも締め」を行い、スムーズな動きを確保する
  • 垂直軸で使用する場合は、落下防止のためのブレーキ機構やクランプを必ず設ける
  • シャフト表面粗さはRa0.4以下を維持し、シールやボールへの攻撃性を低減する
  • ミスミの短納期やTHKの高信頼性など、メーカーの強みを理解して調達戦略を立てる
  • これら全ての要素をバランスよく検討し、過剰品質にならず、かつ必要な信頼性を満たす設計。を目指す

 

以上です。