【網羅版】材料の比重一覧|機械設計の基礎知識

 

ここでは 機械構造に使われる材料 の「比重」をメモしています。

 

機械設計において、部品の重量やコストを正確に把握することは、製品の性能を決定づける上で極めて大切です。 その全ての計算の基礎となるのが、材料ごとの重さの指標である比重です。  しかし、多種多様な材料の中から、要求仕様に最適なものを瞬時に選び出すのは容易ではありません。

 

この記事では、 そもそも比重とは何かという基本的な定義 から、金属や樹脂といった材料別比重を網羅的に解説します。 さらに、単なる重さの比較にとどまらず、軽さと強さのバランスを示す比強度と比剛性といった、より実践的な応用視点まで踏み込み、メモにまとめたいと思います。

比重とは?設計の基本となる比重一覧の見方

機械設計の分野で材料を選定する際、その物理的特性を深く理解することが、製品の性能や信頼性を左右する鍵となります。 数ある特性の中でも、「比重」は設計の初期段階から最終評価に至るまで、極めて重要なパラメータとして機能します。

 

基本概念の定義:比重、密度、およびその相互関係

設計における正確な計算の基礎として、まず「比重」と「密度」の定義を明確に区別し、その関係性を理解することが重要 です。

 

密度は、物質固有の物理量であり、単位体積あたりの質量として定義 されます。 国際単位系(SI)ではキログラム毎立方メートル (kg/m³) が用いられますが、設計実務ではグラム毎立方センチメートル (g/cm³) が一般的に使用されます。

 

一方、比重は、ある物質の密度と、基準となる標準物質(通常は4℃の純水)の密度との比で表される無次元数 です。  水の密度はほぼ 1.0g/cm³であるため、ある物質の密度を g/cm³単位で表した数値と、その物質の比重の数値は実用上ほぼ同一と見なせます。 例えば、鉄の密度が約 7.87g/cm³であれば、その比重は約7.87となります。

 

この利便性から、現場では両者が同義的に扱われることも多いですが、厳密な定義の違いを認識しておくことは、精密な計算を行う上で不可欠です。

 

設計への直接的影響:質量計算

比重(または密度)が設計に与える最も直接的な影響は、部品や製品全体の質量を決定すること です。  部品の質量は、その体積と密度の積によって算出されます。

 

  • 質量(m)=体積(V)×密度(ρ)

 

例えば、一般構造用圧延鋼材SS400(密度 7.85g/cm³)で作られた 100mm、100mm、10mm のブロックの質量は、以下のように計算できます。

 

  • 体積(V)=10cm×10cm×1cm=100cm³
  • 質量(m)=100cm³×7.85g/cm³=785g

 

この質量計算は、製品全体の重量管理、慣性の制御、さらには材料コストや輸送コストの算出に至るまで、設計プロセスのあらゆる側面に影響を及ぼします。

 

 

【完全版】主要な材料別比重一覧

炭素鋼・構造用鋼の比重

炭素鋼や構造用鋼は、機械設計において最も広く使用される基本的な金属材料 です。 これらの材料の比重は約7.85g/cm³であり、多くの設計計算で基準値として用いられます。

 

代表的な材料として、一般構造用圧延鋼材のSS400や機械構造用炭素鋼のS45Cが挙げられます。 SS400は、強度とコストのバランスに優れ、溶接性も良好なため、機械のフレームや架台、建築構造材など、非常に幅広い用途で活躍します。 一方、S45CはSS400よりも炭素含有量が高く、焼入れ・焼戻しといった熱処理を施すことで、強度や硬度を大幅に向上させることが可能です。 このため、歯車や軸、ボルトといった、より高い強度が求められる機械部品に選定されます。

 

これらの鋼材を使用する際の注意点として、比重7.85はあくまで標準値であることが挙げられます。 実際には炭素含有量や含まれる微量な合金元素によって、±0.5%程度の変動が生じる可能性があります。 そのため、高速で回転する部品の慣性計算や、極めて精密な重量管理が求められる設計においては、材料メーカーが提供するミルシート(鋼材検査証明書)で正確な成分を確認し、実測値に基づいて計算することが望ましい です。

材料名 (JIS記号等) 比重 (g/cm³)
SS400 7.85
S45C 7.84 - 7.85

 

 

合金鋼の比重

合金鋼は、炭素鋼にクロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)といった特殊な元素を添加することで、強度、靭性、耐熱性、耐摩耗性などを向上させた高機能な鋼材 です。 これらの比重は、ベースとなる鉄とほぼ同じ約7.85g/cm³ですが、添加される元素の種類と量によってわずかに変動します。

 

例えば、クロムモリブデン鋼のSCM435は、高い強度と靭性を両立させており、自動車のクランクシャフトや高強度ボルトなど、過酷な条件下で使用される重要部品に採用されます。 また、合金工具鋼のSKD11は、高い硬度と耐摩耗性を持ち、プレス加工用の金型などに用いられる代表的な材料です。

 

合金鋼を選定する上でのメリットは、熱処理との組み合わせによって、要求される性能をピンポイントで引き出せる点にあります。 しかし、炭素鋼に比べて材料コストが高くなる傾向があるため、オーバースペックにならないよう、必要な性能を慎重に見極めることが大切です。 比重の観点では、炭素鋼からの置き換えであれば重量に大きな変化はありませんが、設計の最終段階での精密な質量計算では、やはり正確なデータシートを参照することが推奨されます。

材料名 (JIS記号等) 比重 (g/cm³)
SCM435 ~7.85
SKD11 ~7.8

 

 

ステンレス鋼の比重

ステンレス鋼は、鉄を主成分としながらクロムを10.5%以上含有させることで、表面に不動態皮膜を形成し、優れた耐食性(錆びにくさ)を実現した合金 です。この特性から、水や薬品に触れる環境、あるいは衛生性が求められる 食品・医療分野でステンレス鋼は広く利用 されています。

 

ステンレス鋼の比重は、添加される合金元素の影響で、一般的な炭素鋼(約7.85g/cm³)よりも大きくなる傾向があります。 代表的なオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304(18Cr-8Ni)の比重は約7.93g/cm³です。これは、鉄(7.87g/cm³)よりも比重の大きいニッケル(8.9g/cm³)が含まれているためです。 さらに、SUS304にモリブデンを添加して耐食性を高めたSUS316の比重は、約7.98g/cm³とさらに大きくなります。

 

一方で、ニッケルを含まないフェライト系のSUS430の比重は約7.70g/cm³となり、炭素鋼よりもわずかに軽くなります。 このように、ステンレス鋼と一括りにせず、鋼種によって比重が異なることを理解しておく必要があります。設計においては、耐食性という大きなメリットが得られる反面、炭素鋼からの置き換えでは若干の重量増となる可能性を考慮に入れることが肝心です。

材料名 (JIS記号等) 比重 (g/cm³)
SUS303 7.93
SUS304 7.93
SUS316 7.98
SUS410 7.75
SUS420 7.74
SUS430 7.70
SUS440 7.74

 

 

鋳鉄の比重

鋳鉄は、炭素含有量が2.1%を超える鉄-炭素合金で、鋼に比べて融点が低く、複雑な形状の製品を鋳造によって製造するのに適しています。 鋳鉄の最大の特徴は、鋼よりも比重が小さい点にあります。これは、材料内部に鉄よりも軽い黒鉛(グラファイト)が含まれているためです。

 

代表的なねずみ鋳鉄であるFC200の比重は7.2〜7.3g/cm³程度で、鋼材(7.85g/cm³)と比較して約8%軽量です。 この材料は、内部の片状黒鉛が振動を吸収する効果(振動減衰性)に優れているため、工作機械のベッドやエンジンブロックなど、高い寸法精度や静粛性が求められる部品に多用されます。 ただし、黒鉛が切り欠きのように作用するため、引張強度には劣り、脆いというデメリットも持ち合わせています。

 

一方、黒鉛の形状を球状に制御することで強度と靭性を大幅に改善したダクタイル鋳鉄(FCD500など)も存在します。 こちらの比重は約7.1g/cm³とさらに軽くなります。鋼に匹敵する機械的性質を持つことから、自動車の足回り部品や水道管など、高い信頼性が要求される用途に利用が拡大しています。鋳鉄は、コストを抑えつつ、適度な軽量化と優れた機能性(振動減衰性など)を両立できる、魅力的な選択肢と言えるでしょう。

材料名 (JIS記号等) 比重 (g/cm³)
FC200 (ねずみ鋳鉄) 7.2 - 7.3
FCD500 (ダクタイル鋳鉄) 7.1
銑鉄 7.0

 

 

軽金属の比重

軽金属は、その名の通り比重が小さい金属材料の総称であり、製品の軽量化が最重要課題となる航空宇宙分野や自動車産業、携帯電子機器などで主役となる材料です。代表的なものにアルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金があります。

 

アルミニウム合金の比重は約2.7g/cm³で、鉄の約1/3という軽さが最大の特徴です。  A5052のような汎用合金は加工性や耐食性に優れ、A7075(超々ジュラルミン)のような高強度合金は航空機の構造部材に用いられます。

 

マグネシウム合金は、実用金属の中で最も軽い約1.8g/cm³という比重を誇ります。 ノートパソコンの筐体やカメラのボディなど、徹底的な軽量化が求められる製品に採用されますが、加工の難しさや腐食しやすい点には注意が必要です。

 

チタン合金の比重は約4.5g/cm³で、鉄とアルミニウムの中間に位置します。  鉄の約60%の重量で同等以上の強度(高い比強度)を持つこと、そして非常に優れた耐食性を持つことから、航空機のエンジン部品や医療用インプラントなど、高い信頼性が要求される特殊な環境で活躍します。 ただし、材料コストが非常に高く、加工も困難であるため、採用は限定的です。

材料名 (元素記号等) 比重 (g/cm³)
アルミニウム (Al) 2.70 - 2.71
アルミニウム合金 (A2017) 2.79 - 2.85
アルミニウム合金 (A5052) 2.68
アルミニウム合金 (A7075) 2.80 - 2.81
マグネシウム (Mg) 1.74
マグネシウム合金 (AZ91D) 1.81 - 1.82
チタン (Ti) 4.51
チタン合金 (Ti-6Al-4V) 4.4
ベリリウム (Be) 1.85

 

 

銅・銅合金の比重

銅および銅合金は、優れた導電性、熱伝導性、加工性、そして耐食性を特徴とする非鉄金属です。 しかし、比重の観点からは、鉄よりも重い材料であることを認識しておく必要があります。

 

純銅の比重は約8.96g/cm³であり、鉄(7.87g/cm³)と比較して約14%重くなります。 この高い導電性と熱伝導性を活かして、電線や電子部品の導体、熱交換器のフィンなどに不可欠な材料となっています。

 

銅に亜鉛を添加した合金である黄銅(真鍮)は、被削性が非常に優れていることで知られます。 代表的な快削黄銅C3604の比重は約8.5g/cm³で、純銅よりは少し軽くなりますが、依然として鉄より重い材料です。その加工のしやすさから、ボルトやナット、精密機械部品などに多用されます。

 

また、銅にすず等を添加した青銅は、耐摩耗性や耐圧性に優れる特徴を持ちます。 代表的なCAC406(砲金)の比重は8.7〜8.95g/cm³程度です。 この特性から、歯車や軸受、バルブといった摺動部品や高圧がかかる部品に適しています。 このように、銅合金は電気的・熱的特性や機械的特性が求められる場面で活躍しますが、軽量化を目的とする設計には不向きな材料と言えます。

材料名 (元素記号等) 比重 (g/cm³)
銅 (Cu) 8.93 - 8.96
黄銅 (C3604) 8.50 - 8.53
青銅 (CAC406) 8.7 - 8.95
ベリリウム銅 8.36 - 8.83
りん青銅 8.9

 

 

高密度・貴金属・その他金属の比重

機械設計では軽量化が注目されがちですが、特定の目的のためには、あえて比重の大きい「重い」材料が求められることがあります。 これらの高密度金属は、限られたスペースで大きな質量を確保したい場合に活躍します。

 

代表的な高密度金属としてタングステン(W)と鉛(Pb)が挙げられます。 タングステンの比重は約19.3g/cm³で、金とほぼ同じという極めて高い値を示します。 この重さを活かして、クランクシャフトのバランスウェイトや、放射線を遮蔽するための部材として利用されます。 鉛の比重は約11.4g/cm³で、タングステンほどではありませんが高い密度を持ち、同様に放射線遮蔽材や釣りのオモリ、バッテリーの電極などに用いられます。

 

その他、機械設計で重要な役割を果たす金属として、ニッケル(Ni)や亜鉛(Zn)があります。 ニッケルの比重は約8.9g/cm³で、耐食性や耐熱性を向上させるための合金元素としてステンレス鋼などに添加されます。 亜鉛の比重は約7.1g/cm³で、鉄の防食を目的とした亜鉛めっき(溶融亜鉛めっきなど)に最も多く使用されるほか、ダイカスト用の合金としても重要です。これらの金属は、主役となることは少ないですが、製品の耐久性や機能を支える上で欠かせない存在です。

材料名 (元素記号等) 比重 (g/cm³)
白金 (Pt) 21.45
金 (Au) 19.3 - 19.32
タングステン (W) 19.25 - 19.3
タンタル (Ta) 16.65
水銀 (Hg) 13.55
鉛 (Pb) 11.34 - 11.4
銀 (Ag) 10.49
モリブデン (Mo) 10.2 - 10.28
ニッケル (Ni) 8.89 - 8.9
コバルト (Co) 8.85
マンガン (Mn) 7.43
すず (Sn) 7.30 - 7.34
亜鉛 (Zn) 7.13 - 7.14
クロム (Cr) 7.19

 

 

プラスチック(エンプラ・スーパーエンプラ)の比重

プラスチック(樹脂)は、金属材料と比較して圧倒的に比重が小さいことが最大の特徴 です。 その多くは比重1.0〜1.5程度の範囲にあり、中には水に浮くほど軽いもの(比重1.0未満)も存在します。この軽さに加え、成形自由度の高さ、耐薬品性、電気絶縁性といった利点から、自動車部品や家電製品、医療機器などあらゆる分野で金属の代替材料として利用が拡大しています。

 

中でも、機械的強度や耐熱性を向上させたエンジニアリングプラスチック(エンプラ)は、構造部品として重要です。 例えば、ポリアセタール(POM)の比重は約1.41g/cm³で、自己潤滑性に優れ、歯車や摺動部品に用いられます。  また、ポリカーボネート(PC)の比重は約1.20g/cm³で、極めて高い耐衝撃性を持ち、ヘルメットや機械の保護カバーなどに最適です。

 

さらに高い性能を持つスーパーエンジニアリングプラスチックとして、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)があります。  比重は約1.32g/cm³で、高温環境下でも優れた機械的特性を維持するため、航空宇宙分野の先端部品などに使用されます。

 

ただし、プラスチックの比重を考える上で、ガラス繊維(GF)などの充填材(フィラー)の影響を無視できません。強度や剛性を高めるためにフィラーを添加すると、ベース樹脂よりも重いフィラーの分だけ、材料全体の比重は増加します。 例えば、PCの比重は1.20ですが、ガラス繊維を40%充填したグレードでは1.52にまで増加します。 性能向上と軽量化はトレードオフの関係にあるため、要求仕様に応じて適切なグレードを選定することが鍵となります。

材料名 (略称) 比重 (g/cm³)
ポリプロピレン (PP) 0.90 - 0.96
ポリエチレン (PE) 0.91 - 0.97
ポリスチレン (PS) 1.03 - 1.06
ABS樹脂 (ABS) 1.01 - 1.21
ポリ塩化ビニル (PVC) 1.16 - 1.58
アクリル (PMMA) 1.17 - 1.20
ポリアミド (PA, ナイロン) 1.01 - 1.16
ポリアセタール (POM) 1.41 - 1.43
ポリカーボネート (PC) 1.20 - 1.40
ポリエチレンテレフタレート (PET) 1.27 - 1.40
ポリブチレンテレフタレート (PBT) 1.30 - 1.38
変性ポリフェニレンエーテル (m-PPE) 1.04 - 1.09
ポリエーテルエーテルケトン (PEEK) 1.30 - 1.52
ポリフェニレンサルファイド (PPS) 1.60
ポリサルホン (PSU) 1.24 - 1.25

 

 

フッ素樹脂の比重

ッ素樹脂は、プラスチックの中でも特異な性質を持つ材料群です。 その代表格であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、通称テフロンは、他の多くのプラスチックが比重1.0〜1.5の範囲にあるのに対し、約2.1〜2.2という例外的に大きな比重を持ちます。 これは、フッ素原子が他の原子に比べて重いことに起因します。

 

この材料の最大のメリットは、極めて優れた耐薬品性と非粘着性、そして非常に低い摩擦係数にあります。 ほとんどの酸やアルカリに侵されず、また物質が付着しにくいため、化学プラントのパッキンやシール材、半導体製造装置の部品などに広く利用されています。 また、摩擦係数が極めて低い「滑りやすさ」を活かして、機械の摺動部品のコーティングや、摩擦を低減したい箇所のシート材としても活躍します。

 

一方で、フッ素樹脂は機械的強度が低く、柔らかいというデメリット も持ち合わせています。 そのため、高い荷重がかかる構造部品として単体で使用されることは稀 です。また、プラスチックとしては高価な材料に分類されます。設計においては、フッ素樹脂の「重さ」と「柔らかさ」を理解した上で、そのユニークな表面特性や耐薬品性が必要とされる箇所に限定して採用するのが賢明な使い方と言えるでしょう。

材料名 (略称) 比重 (g/cm³)
ポリテトラフルオロエチレン (PTFE) 1.70 - 2.20
ポリフッ化ビニリデン (PVDF) 1.75 - 1.78
PFA 2.12 - 2.17
FEP 2.15 - 2.17

 

 

エラストマー(ゴム)の比重

エラストマー、一般にゴムとして知られる材料は、大きな弾性を持ち、変形させた後に元の形状に戻る能力を特徴 とします。 機械設計においては、パッキンやOリングといったシール材、振動を吸収する防振材、ベルトやローラーなど、その弾性を活かした用途で広く使用されます。

 

エラストマーの比重は種類によって様々ですが、多くは1.0前後の値を示します。 例えば、汎用性の高いニトリルゴム(NBR)の比重は約1.02、シリコーンゴムは約0.98で水に浮きます。 一方で、耐熱性や耐薬品性に優れるフッ素ゴム(FKM)の比重は約1.8と、エラストマーの中では比較的重い部類に入ります。

 

エラストマーを選定する際に最も重視されるのは、比重よりも硬度(デュロメータ硬さ)、使用温度範囲、耐油性や耐薬品性といった化学的性質です。 しかし、比重も無関係ではありません。

 

例えば、非常に多くのシール部品を使用する装置では、部品一つひとつの重量は小さくても、総重量では無視できない差になることがあります。 また、材料を容積ではなく重量で購入する場合、比重はコストに直接影響します。 設計者は、要求される弾性や耐環境性を満たすことを第一としながらも、比重のデータも材料選定の判断材料の一つとして把握しておくことが望ましいです。

材料名 (略称) 比重 (g/cm³)
ウレタンゴム (U) 1.20
ニトリルゴム (NBR) 1.02
ふっ素ゴム (FKM) 1.80
シリコーンゴム (Q) 0.98
天然ゴム (NR) 0.93

 

 

セラミックス・複合材料・その他の比重

これまでの金属や樹脂とは異なる特性を持つ、セラミックスや複合材料も機械設計において重要な選択肢です。 これらの材料は、特に軽量化と高機能化を両立させたい場合にその真価を発揮 します。

 

セラミックス

エンジニアリングセラミックスは、高い硬度、耐摩耗性、耐熱性を特徴とします。 その比重はアルミニウムと鉄の中間に位置するものが多く、例えばアルミナの比重は3.9g/cm³、ジルコニアは6.0g/cm³です。 金属に比べて軽量でありながら、ヤング率が非常に高いため、「軽くてたわみにくい」性質、すなわち高い比剛性を示します。 この特性を活かし、精密測定機器の部品や半導体製造装置の部材に利用されます。ただし、脆くて衝撃に弱いという欠点があるため、使い方には注意が必要 です。

 

複合材料

複合材料、特に繊維強化プラスチック(FRP)は、軽量化の最前線に立つ材料です。ガラス繊維で強化したGFRPの比重は約1.8〜1.9g/cm³で、鉄の約1/4という軽さを実現します。一方、炭素繊維で強化したCFRPの比重はさらに軽い1.5〜1.8g/cm³です。

 

これらの材料の真価は、単に軽いことではなく、圧倒的な比強度(単位重量あたりの強度)と比剛性にあります。CFRPの比強度は鉄の約10倍にも達し、航空機の主翼やレーシングカーのボディなど、究極の性能が求められる分野で不可欠な存在となっています。複合材料の比重は、内部に欠陥(ボイド)がないかを確認する品質管理の指標としても利用されます。

材料名 比重 (g/cm³)
アルミナ (Al_2O_3) 3.9
ジルコニア (ZrO_2) 6.0
窒化ケイ素 (Si_3N_4) 3.2
炭化ケイ素 (SiC) 3.1
炭素繊維強化プラスチック (CFRP) 1.5 - 1.8
ガラス繊維強化プラスチック (GFRP) 1.75 - 1.95
コンクリート 2.1 - 2.4
木材 (ひのき) 0.41
木材 (すぎ) 0.38
1.0

 

 

主要性能指標としての比強度と比剛性

先進的な材料選定においては、単に比重が小さい材料を選ぶだけでは不十分です。 特に、軽量でありながら高い性能が要求される分野では、「比強度」と「比剛性」という指標が極めて重要になります。 これらの指標は、材料の機械的特性を密度で正規化することにより、単位質量あたりの性能を評価することを可能にします。

 

比強度 (Specific Strength)

比強度は、材料の強度(通常は引張強さ)をその密度で割った値 です。

  • 比強度=引張強さ/密度

この値が大きいほど、材料は「軽くて強い」ことを意味 します。例えば、炭素繊維強化プラスチック (CFRP) は、絶対的な強度もさることながら、その極めて低い比重により、鉄の約10倍という非常に高い比強度を示します。航空機やレーシングカーのように、少しでも重量を削ることが性能に直結する分野では、この比強度が材料選定の決定的な要因となります。

 

比剛性 (Specific Stiffness)

比剛性は、材料のヤング率(縦弾性係数)をその密度で割った値 です。

  • 比剛性=ヤング率/密度

この値が大きいほど、材料は「軽くてたわみにくい」ことを意味 します。  構造物の剛性が重要視され、かつ軽量化が求められる航空機の主翼や高剛性フレームなどの設計において、比剛性は材料選定の重要な指標です。 例えば、アルミニウム合金は鉄に比べて軽量ですが、ヤング率も約1/3と低いため、比剛性の値は鉄と大きくは変わりません。 この事実は、単に軽い材料に置き換えるだけでは剛性が不足する可能性を示唆 しており、形状の工夫(リブの追加や断面の拡大など)が必要になることを教えてくれます。

 

これらの「比」の概念を導入することにより、設計者は材料の真の効率性を評価し、単なる物性値の比較にとどまらない、より高度で最適な材料選定を実現できるのです。

 

 

まとめ:最適な選択肢が見つかる比重一覧

この記事では、機械設計に不可欠な材料の比重について、網羅的に解説してきました。最後に、最適な材料選選定を行うための重要なポイントをまとめます。

 

  • 比重は材料の重さを示す指標で、設計の基本となる
  • 炭素鋼の比重は約7.85で、多くの設計の基準となる
  • ステンレス鋼はCrやNiを含むため炭素鋼より重い傾向がある
  • 鋳鉄は黒鉛を含むため鋼より比重が小さい
  • アルミニウム合金は鉄の約1/3の軽さで軽量化の代表格
  • マグネシウム合金は実用金属で最軽量だが加工に注意が必要
  • チタン合金は鉄とアルミの中間の重さで比強度が高い
  • 銅合金は導電性に優れるが鉄より重い
  • タングステンや鉛は重さを活かす用途で使われる
  • プラスチックは金属より圧倒的に軽く、比重は1.0〜1.5が多い
  • エンプラは強度と軽さを両立した機械部品に適している
  • ガラス繊維などのフィラーを添加するとプラスチックの比重は増す
  • フッ素樹脂はプラスチックでは例外的に比重が大きい
  • セラミックスは金属より軽いが剛性が非常に高い
  • CFRPは圧倒的な比強度と比剛性を持ち、究極の軽量化材料である

 

 

比重に関する情報サイト(抜粋)

この記事で解説している「比重 一覧」について、より専門的の高い情報を提供している企業や団体のウェブサイトを4つご紹介しておきます。

 

  1. ミスミ (MISUMI) 技術情報
    • URL: https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/howto/48626/
    • 説明: 機械部品の総合メーカーであるミスミが運営する技術情報サイトです。 設計者向けに、各種金属材料の比重一覧や、比重が設計に与える影響について実践的な観点から詳しく解説しています。
  2. トップ精工株式会社
    • URL: https://www.top-seiko.co.jp/guide/characteristic/
    • 説明: ファインセラミックスや高融点金属の精密加工を手掛ける専門メーカーのサイトです。 セラミックスや金属の特性を比較したグラフや表が豊富で、比重を含む物理的特性を視覚的に理解するのに役立ちます。
  3. 三菱ケミカル株式会社
    • URL: https://www.m-chemical.co.jp/carbon-fiber/about/performance/
    • 説明: 大手化学メーカーである三菱ケミカルの公式サイトです。 特に炭素繊維(CFRP)に関して、比重の軽さや比強度・比剛性といった性能の高さを、鉄と比較しながら分かりやすく解説しており、複合材料の理解を深める上で非常に権威性が高い情報源です。
  4. 株式会社プラスチック
    • URL: http://www.plastic.co.jp/knowhow/density.html
    • 説明: プラスチック材料の専門商社が提供する技術情報ページです。 汎用プラスチックからエンジニアリングプラスチック、フッ素樹脂まで、幅広い樹脂の比重を一覧表で詳細にまとめており、樹脂材料選定の際に信頼できる情報を提供しています。

以上です。