工場電源の教科書|機械設計のための種類・電圧・海外規格解説

 

ここでは、工場(FA)設備で利用する モーターなど への 「工場からの供給電源」 についてのメモです。

 

私が機械設計者としてキャリアをスタートさせた頃、工場の電源仕様に関する知識が浅かったために、手痛い失敗を経験したことがあります。 特に記憶に残っているのは、動力源の選定で単相と三相の特性を十分に考慮せず、モーターの選定を誤った案件です。  検図で気づいたために助かりましたが電源の選定ミスは、単なる性能不足や故障に留まらず、プロジェクト全体の遅延やコスト増、さらには安全上の問題に直結しかねません。

 

この記事では、過去の私のような失敗や後悔を他の設計者の皆様が経験しないよう、体系的な知識を提供することを目的としています。

 

まず、工場で使われる電源の基本的な種類とそれぞれの特性を、高圧受電からDC24Vといった基礎から丁寧に解説します。次に、その知識を基に、モーターや制御盤といった機械カテゴリー別の最適な電源仕様の考え方を具体的に掘り下げていきます。

 

さらに、グローバル化が進む現代において避けては通れない、海外展開で必須となる主要国の電源規格についても詳しく触れます。そして最後に、安定稼働の鍵となる電源トラブルを防ぐための品質確保と保護設計まで、網羅的に学べる構成になっています。この記事を最後までお読みいただくことで、自信を持って工場の電源仕様に合わせた機械設計ができるようになるはずです。

基礎から理解する工場電源の全体像

高圧受電と低圧受電の違いとは

工場が電力会社から電気を受け取る方法には、大きく分けて「高圧受電」と「低圧受電」の2種類 があり、これは主に契約する電力の大きさによって決まります。 機械設計者がこの違いを理解しておくことは、設置先の電力環境を把握する上で役立ちます。

 

結論として、契約電力が50kW以上となる大規模な工場や施設では高圧受電が、50kW未満の比較的小規模な事業所では低圧受電が一般的です。

 

高圧受電の場合、6,600Vといった高い電圧の電気がそのまま施設に引き込まれ、敷地内に設置された「キュービクル」と呼ばれる自家用の変電設備で100Vや200Vといった使用可能な電圧に変換します。 キュービクルの設置には初期投資と定期的なメンテナンスが必要ですが、電力会社から購入する電気の単価が低圧に比べて安価に設定されているという大きなメリットがあります。

 

一方、低圧受電では、電柱に設置された電力会社所有の変圧器(トランス)によって変圧された電気が供給されます。 施設側に変電設備を持つ必要がないため導入は容易ですが、電力単価は高圧受電よりも割高になります。

項目 低圧受電 高圧受電
契約電力 50kW未満 50kW以上2,000kW未満
供給電圧 100V / 200V 6,600Vなど
変電設備 不要(電力会社が管理) 必要(需要家が設置・管理)
電力単価 比較的高い 比較的安い
主な用途 一般家庭、小規模店舗、町工場 中〜大規模工場、ビル、商業施設

機械設計の観点からは、高圧受電を行っている工場は電力管理体制が整っていることが多く、比較的安定した電力品質が期待できます。 逆に、低圧受電の環境では、周辺の電力使用状況によって電圧が変動する可能性も考慮し、より広い入力電圧範囲に対応できる電源ユニットを選定するなど、設計上の配慮が求められる場合があります。

 

 

動力源の基本となる三相電源

工場でモーターなどの大きな力を必要とする機械を動かす際には、「三相電源」が基本 となります。 これは家庭で一般的に使われる「単相電源」とは異なる特性を持っており、その違いを理解することが動力設計の第一歩です。

 

三相電源は、単相電源に比べて非常に効率よく大きな電力を送ることができるため、「動力」とも呼ばれています。 同じ電力を送る場合、単相よりも少ない電流で済むため、電線の電力損失を抑えられ、結果として電気料金の削減にもつながります。

 

特に、産業用モーターの駆動において三相電源は圧倒的に有利です。  三相の電気をモーターに流すと、特別な仕掛けなしで滑らかな回転力(回転磁界)を生み出すことができます。これにより、モーターの構造をシンプルかつ高効率にすることが可能です。  これに対して単相でモーターを回すには、始動を助けるための補助的な回路が必要となり、その能力も3馬力(約2.2kW)程度が限界とされています。

 

工場内では、三相200Vは大型機械や業務用エアコン、コンベアなどの動力源として使用されます。  一方で、単相100V/200Vは、照明、制御機器用の電源、パソコンや計測器用のコンセントなど、比較的小さな電力で使用される機器に使い分けられています。したがって、設計する機械が大きなモーターを必要とする場合は、三相電源の採用が前提となります。

 

日本国内の主な低圧配電方式

日本国内の工場や事業所で一般的に利用される低圧の電源(配電方式)には、いくつかの種類があります。それぞれの特徴を一覧表にまとめます。

配電方式 供給される電圧 主な用途 特徴
単相2線式 100V 古い住宅、小規模な設備の照明・コンセント 2本の電線で供給される最もシンプルな方式。
単相3線式 100V と 200V 一般家庭、店舗、工場の照明・コンセント、小型エアコン 3本の電線を使用し、100Vと200Vの両方を取り出せる。
三相3線式 200V 工場のモーター(動力)、業務用エアコン、大型機器 3本の電線で供給され、大きな動力源として利用される。
(参考)三相4線式 240V と 415V 大規模な工場やビルなど 日本では一般的ではないが、より大きな電力を必要とする施設で採用されることがある。

 

 

スイッチング電源とリニア電源の比較

工場で受電した交流(AC)電源を、PLCやセンサーといった電子機器が使用する直流(DC)電源に変換するためには、電源装置が不可欠 です。 現在、その主流となっているのが「スイッチング電源」と、古くからある「リニア電源」の二つの方式です。

 

この二つは一長一短であり、機械の要求仕様に応じて適切に使い分けることが設計の鍵となります。  結論を言えば、効率と小型化を優先するならスイッチング電源、ノイズの少なさを最優先するならリニア電源が選択されます。

 

スイッチング電源は、内部のスイッチング素子を高速でON/OFFさせることで電力を変換します。  この方式の最大のメリットは、電力の変換効率が80~95%以上と非常に高く、発熱が少ないことです。また、発熱が少ないため冷却機構を小さくでき、トランスなどの部品も小型化できるため、電源装置全体を非常に小さく、軽く作ることができます。

 

ただし、高速なスイッチング動作に起因する電気的なノイズ(EMI)が発生しやすいというデメリットがあります。  このノイズが他の精密な機器に影響を与えないよう、ノイズフィルタの設置や適切なアース処理といった対策が不可欠です。

 

一方、リニア電源は、余分な電圧を熱として消費することで出力電圧を安定させるシンプルな方式です。スイッチング動作がないため、原理的にノイズの発生が極めて少なく、非常にクリーンで安定した出力を得られるのが最大の特長です。

 

しかし、余分な電力を熱として捨てるため、変換効率が30~60%程度と低く、発熱量が大きいという大きな欠点があります。このため、大型の放熱器(ヒートシンク)が必要となり、装置全体が大きく重くなります。

特性 スイッチング電源 リニア電源
電力変換効率 高い (80-95%+) 低い (30-60%)
サイズ・重量 小さく軽い 大きく重い
出力ノイズ 大きい 非常に小さい
発熱量 小さい 大きい
主な用途 PC、FA機器などほぼ全ての電子機器 計測機器、オーディオなどノイズに敏感な機器

現代の産業機械では、機械全体の主電源として高効率なスイッチング電源を使用し、特にノイズを嫌うセンサーなどの部分にだけ局所的にリニア電源や低ノイズの変換器を配置する、といったハイブリッドな設計が採用されることもあります。

 

 

制御回路の標準電圧DC24V

工場の自動化設備(FA)において、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)やセンサー、表示灯といった制御機器を動かすための電源電圧として、「DC24V」が事実上の世界標準 となっています。

 

DC24Vが広く採用されている理由は、その優れたバランスにあります。  まず、人体にとって感電の危険性が低い「安全特別低電圧(SELV)」の範囲内にあり、作業者の安全を確保しやすいことが挙げられます。それでいて、ある程度の距離を配線しても電圧降下の影響を受けにくく、電気的ノイズに対しても比較的強いという実用性を兼ね備えています。

 

工場では、壁のコンセントから得られるAC100VやAC200Vの交流電源を、制御盤内に設置したスイッチング電源によって安定したDC24Vの直流電源に変換し、各制御機器へ供給するのが一般的な構成です。

 

設計上の注意点として、ノイズ対策は非常に大切です。モーターなどを駆動する大電流が流れるAC動力線と、PLCやセンサーに接続される微弱なDC制御・信号線は、互いの電磁誘導によるノイズ干渉を防ぐため、物理的に離して別々の配線ダクトに収めるのが鉄則です。この基本的なルールを守ることが、機械全体の安定稼働につながります。

 

 

機械設計で考える工場電源の具体的仕様

機械の頭脳である制御盤の電源

制御盤は、産業機械の動作を司るPLCや各種コントローラーを収めた、まさに機械の頭脳と言える部分です。  その内部の電源システムは、機械全体の安定稼働を支える基盤であり、その設計は極めて重要となります。

 

制御盤の電源は、大きく二つの系統に分けて考えます。 一つはモーターやヒーターといった大きな力を生み出すための「主回路」、もう一つはPLCやセンサーなど電子機器を動かすための「制御回路」です。

 

主回路には、日本では三相AC200Vなどの高電力な交流電源が使われます。 一方、制御回路には、前述の通り、スイッチング電源でAC電源から変換されたDC24Vが標準的に用いられます。この二つの系統を明確に分離して設計することが、トラブルを防ぐ基本です。

 

制御盤の主要な電源関連部品

  • スイッチング電源:制御回路用のDC24Vを生成します。接続する全ての機器の消費電流を合計し、20~50%程度の余裕を持たせた容量の製品を選定します。
  • 配線用遮断器(ブレーカー):電源の入り口に設置し、過電流や短絡(ショート)が発生した際に回路を遮断して盤全体を保護します。
  • トランス(変圧器):主回路がAC400V系の場合にAC200Vへ降圧したり、盤内のメンテナンス用にPCを接続するためのAC100Vコンセント(サービスコンセント)を設けたりする際に使用します。
  • サーキットプロテクタ:DC24Vの回路をセンサー用、出力用など機能ごとに細かく分岐させ、それぞれを保護します。これにより、一つのセンサーの故障がシステム全体の停止につながるのを防ぎます。

これらの部品を適切に選定し、ノイズ対策を考慮したレイアウトで配置することが、信頼性の高い制御盤を作るための鍵となります。

 

 

インバータとサーボモーターの電源

インバータやサーボモーターは、機械に精密な動きや可変速動作をさせるために不可欠なコンポーネントです。 これらの性能を最大限に引き出すためには、電源の仕様を正しく理解し、適切な容量を選定することが求められます。

 

インバータは汎用モーターの回転速度を自由に変える装置、サーボモーターはさらに高精度な位置・速度・トルクの制御を行うモーターシステムです。 これらはどちらも、工場からの三相AC電源(日本では200V級、海外では400V級が主流)を入力とし、内部でモーター駆動に適した電力に変換して出力します。

 

電源容量の選定は、単にモーターの出力(kW)だけで決めることはできません。 モーターを動かすためには、定格運転時だけでなく、特に動き始めの加速時に大きなトルク(力)が必要となり、瞬間的に定格の数倍の電流が流れます。  このピーク電流を供給できるだけの余裕を持った電源容量を確保 しなければ、モーターは本来の性能を発揮できず、最悪の場合はエラーで停止してしまいます。

 

電源設備容量を計算する際は、モーターの出力に加えて、モーターと駆動装置(インバータやサーボドライブ)それぞれの効率、そして力率を考慮する必要があります。簡易的な計算式は以下のようになります。

 

電源設備容量 [kVA] = モーター出力 ÷ (モーター効率 × インバータ効率 × 力率)

 

また、モーターが減速する際には発電機として働き、電力を電源側に戻す「回生」という現象が起こります。このエネルギーを処理するために、別途「制動抵抗器」という部品が必要になる場合があることも覚えておくべきです。

 

 

産業用ロボットと駆動機器の電源仕様

現代の工場では、従来のモーターだけでなく、多種多様な駆動機器が活躍しており、その代表格が産業用ロボットです。 これらの機器はそれぞれ異なる電源仕様を要求するため、設計者はその特性を理解しておく必要があります。

 

産業用ロボットの電源

ロボットの電源仕様は、その種類と規模によって大きく異なります。

  • 協働ロボット:人と同じ空間で作業することを目的に設計された協働ロボットは、導入のしやすさが重視されます。そのため、多くは特別な動力工事を必要としない単相AC100Vから240Vの電源で動作します 。消費電力も数百ワット程度と、一般的な家電製品と変わらないレベルのものが多く、既存のコンセントから手軽に電源を確保できる点が大きな特長です。
  • 大型産業用ロボット:自動車の組み立てラインなどで見られる、高速・高負荷な作業をこなす大型の垂直多関節ロボットなどは、そのパワーを支えるために三相AC200V(日本では)の動力電源が必須です 。消費電力も数kVA以上に達し、専用の電源系統と強固な設備基盤が求められます。
  • 自律走行搬送ロボット(AMR/AGV):工場内を自律的に移動して部品などを搬送するAMRやAGVは、ケーブルからの給電ができないため、オンボードのバッテリーを動力源とします。一般的にはDC24VやDC48Vのリチウムイオン電池システムが搭載されており、バッテリー残量が少なくなると自動で充電ステーションに戻り、非接触または接触式で充電を行う仕組みになっています 。

 

日本の電源と駆動機器の対応一覧

日本の工場で利用可能な電源の種類と、それに対応する主な駆動機器の関係を以下の表にまとめます。  設計する機械の要求性能と設置環境に合わせて、最適な組み合わせを選定する際の参考にしてください。

電源の種類 主な駆動機器 補足・特徴
単相 AC100V / 200V ・小型インダクションモーター
・小型ACサーボモーター
・ステッピングモーター(AC入力ドライバ)
・協働ロボット
比較的低出力の機器や、設置の容易さが求められる場合に使用。インダクションモーターは始動用にコンデンサが必要。
三相 AC200V ・標準インダクションモーター
・産業用ACサーボモーター
・大型産業用ロボット
・インバータ駆動機器全般
工場の「動力」として最も標準的な電源。高出力、高効率な駆動が可能で、ほとんどの産業用駆動機器がこの電源を基本とする。
直流 DC24V / 48V ・DCモーター(ブラシ付/ブラシレス)
・ステッピングモーター(DC入力ドライバ)
・自律走行搬送ロボット(AMR/AGV)
制御盤内のスイッチング電源から供給されるか、バッテリーを電源とする。精密な制御や、移動体を駆動する場合に用いられる。

 

 

瞬停からシステムを守るUPSの役割

工場では、落雷や電力系統の事故などが原因で、ごくわずかな時間だけ電圧が低下したり、電気が止まったりする「瞬時電圧低下(瞬低)」や「瞬時停電(瞬停)」が発生することがあります。  たとえ0.1秒にも満たない一瞬の出来事であっても、PLCや産業用PCはリセットやシャットダウンを起こし、生産ラインの停止や製品不良といった大きな損害につながりかねません。

 

このような電源トラブルから重要な制御システムを守るための装置が、UPS(Uninterruptible Power Supply:無停電電源装置)です。UPSは内部にバッテリーを搭載しており、停電を検知すると瞬時にバッテリーからの給電に切り替え、接続された機器を停止させることなく動かし続けます。

 

FA(ファクトリーオートメーション)の現場でUPSを導入する主な目的は、単に稼働を継続させることだけではありません。  万が一の停電時に、PLCやPCが正常なシャットダウン処理を完了させ、重要なデータやプログラムを保護し、機械を安全な状態に退避させるための時間を確保することにあります。

 

 

FA用UPS選定のポイント

  • 給電方式: 常に安定した電力を供給できる「常時インバータ給電方式(オンライン方式)」が、最も信頼性が高く推奨されます。
  • 容量: UPSに接続する全ての機器の合計消費電力(W)を上回る容量を選びます。特にモーターやトランスなど、起動時に大きな電流を必要とする機器を接続する場合は、十分な余裕が必要です。
  • バックアップ時間: 停電時に必要な時間を確保できるモデルを選びます。バッテリーは経年劣化するため、必要な時間の2倍程度のバックアップ時間を持つモデルを選定することが推奨されます。

UPSは、予期せぬ電源トラブルに対する保険であり、生産の安定性を高めるための重要な投資と考えることができます。

 

 

ノイズ・サージ・高調波への対策

信頼性の高い機械を設計するためには、供給される電源の「質」にも目を向ける必要があります。 工場という環境は、様々な電気的擾乱(じょうらん)に満ちており、これらが機械の誤動作や故障の原因となることがあるからです。ここでは代表的な3つの問題と対策について解説します。

 

ノイズ対策

インバータやリレーの動作によって発生する高周波の電気的ノイズは、PLCやセンサーの信号に干渉し、誤動作を引き起こします。  対策の基本は、「発生源で抑える」「伝搬経路で遮断する」「受け手側を強くする」の三原則です。 具体的には、電源ラインに「EMIフィルタ(ノイズフィルタ)」を挿入する、アース(接地)を確実に行う、動力線と信号線を物理的に離して配線する、といった方法を組み合わせることが有効です。

 

サージ対策

雷や大型モーターのON/OFFなどによって、瞬間的に発生する異常な高電圧を「サージ」と呼びます。  サージは電子部品を一瞬で破壊するほどのエネルギーを持っており、半導体で構成される精密機器にとっては致命的です。 このサージから機器を保護するのが「SPD(サージ防護デバイス)」です。SPDは、異常な電圧を検知すると瞬時にそのエネルギーをアースに逃がし、後段の機器を守る働きをします。制御盤の電源入力部など、外部からのサージが侵入しやすい箇所に設置するのが効果的です。

 

高調波対策

インバータやスイッチング電源は、商用電源から電流を取り込む際に、波形を歪ませてしまいます。 この歪んだ波形に含まれる、本来の周波数(50/60Hz)の整数倍の周波数成分を「高調波」と呼びます。  高調波電流が電力系統に多く流出すると、他の設備に悪影響を及ぼすため、日本では「高調波抑制対策ガイドライン」によって一定の規制が設けられています。  大容量のインバータなどを搭載した機械を設計する際には、このガイドラインへの対応が必要になる場合があることを認識しておく必要があります。

 

 

海外展開で必須の工場電源知識

マルチボルテージ対応の重要性

設計した機械を海外へ輸出する場合、最も基本的ながら重要な課題となるのが、各国の電源事情への対応です。  国や地域によって、電圧、周波数、コンセントの形状は大きく異なり、これを無視しては機械を動かすことすらできません。

 

例えば、日本の工業用三相電源は200Vが標準ですが、北米では480V、欧州の多くの国では400Vが一般的です。周波数も、日本は東日本が50Hz、西日本が60Hzと分かれていますが、北米は60Hz、欧州やアジアの多くの国は50Hzが主流です。

地域/国 周波数 (Hz) 一般的な工業用三相電圧 (V)
日本 50 / 60 200
アメリカ 60 208, 230, 480
中国 50 380
ドイツ 50 400
イギリス 50 400

このような多様な電源仕様に一台の機械で対応するため、「マルチボルテージ」という考え方が大切になります。具体的な対応方法としては、主に二つのアプローチがあります。

 

一つは、制御盤の入力側に現地の電圧を機械が使える電圧(例えばAC200V)に変換するための「トランス(変圧器)」を設置する方法です。この方法なら、トランス以降の内部の部品はすべて単一の仕様で標準化できます。

 

もう一つは、インバータやスイッチング電源といった主要な部品を、AC200Vから480Vといった広範な入力電圧にそのまま対応できる「ワイドレンジ入力」仕様の製品で統一する方法です。こちらはトランスが不要になるため、制御盤の小型化やコストダウンにつながります。どちらの方法が最適かは、機械の構成やコストを総合的に判断して決定します。

 

 

モーターの周波数(50Hz/60Hz)対応と性能変化

源周波数の違いは、特に誘導モーターの性能に直接的な影響を及ぼすため、設計者はその特性を深く理解しておく必要があります。

 

まず、「モーターは50Hzと60Hz、どちらでも使えるか?」という疑問ですが、これはモーターの仕様によります。「50Hz/60Hz共用」と明記されているモーターであれば、どちらの地域でも使用可能です。  しかし、「50Hz専用」や「60Hz専用」と指定されているモーターを、異なる周波数の地域で使用すると、性能が変化するだけでなく、過熱による故障や、最悪の場合は火災につながる危険性があるため、絶対に行ってはいけません 。 必ずモーターの銘板(ネームプレート)や仕様書で対応周波数を確認することが大切 です。

次に、「周波数の違いでモーターの性能に違いが生じるか?」という点ですが、これは明確に「はい」と答えられます。 モーターの回転速度は電源周波数にほぼ比例するため、性能は大きく変化します 。

 

  • 回転速度: 60Hz地域では50Hz地域に比べて、モーターの回転速度が約20%速くなります(60Hz ÷ 50Hz = 1.2倍)。
  • トルク(回転力): 一般的に、回転速度が上がるとトルクは低下する傾向にあります。したがって、60Hzでは50Hzに比べてトルクが小さくなります 。
  • 電流値: 60Hzではトルクが小さくなるため、同じ仕事量をこなす場合、電流値は50Hzよりも小さくなる傾向があります 。

 

この性能変化は、ポンプやファンといった機器では流量や風量が大きく変わることを意味し、機械全体の性能を左右します。

 

ただし、インバータを使用してモーターを駆動する場合は、この問題を解決できます。インバータは入力電源の周波数(50Hzまたは60Hz)に関わらず、出力する周波数を自由に制御できるため、どちらの地域でもモーターを同じ回転速度で運転させることが可能です 。 これにより、機械の性能を世界中で標準化することができます。

 

 

北米市場で必須のUL規格とは

機械をアメリカやカナダといった北米市場へ輸出する際に、避けて通れないのがUL規格への対応です。UL規格とは、アメリカの第三者安全科学機関であるUL Solutionsが策定する製品安全規格のことを指します。

 

法律で取得が義務付けられているわけではありませんが、多くの州法や地域の条例で要求されたり、顧客との取引条件になったりするため、事実上の必須認証となっています。UL認証を取得していない製品は、市場での信頼を得ることが難しく、販売が困難になる場合があります。

 

特に、産業機械の制御盤を設計・製作する際には、「UL508A」という規格への準拠が求められます。この規格に適合するためには、以下のような多くの要求事項を満たさなければなりません。

  • 部品の選定: ブレーカーや電源、リレーなど、盤内で使用する主要な電気部品は、UL認証を取得した製品(ULリスティング品またはULレコグナイズド品)を使用する必要があります。
  • 配線規定: 電線の太さや色、絶縁の種類、部品同士の空間距離など、配線に関する詳細なルールを遵守しなければなりません。
  • 短絡電流定格(SCCR): 制御盤全体がどれだけの短絡電流に耐えられるかを示すSCCR値を計算し、盤に表示することが義務付けられています。

また、カナダにはCSA規格という独自の安全規格がありますが、ULとCSAは相互認証協定を結んでいるため、「c-ULマーク」を取得すれば、カナダ国内でもCSA認証品と同等に扱われます。これにより、一つの認証プロセスで両国への対応が可能になります。

 

 

欧州向けのCEマーキング対応

欧州連合(EU)加盟国をはじめとする欧州経済領域(EEA)内で製品を販売・流通させるためには、「CEマーキング」の表示が法的に義務付けられています。

 

CEマーキングは、その製品が適用される全てのEU指令の安全要求事項を満たしていることを、製造者自身が宣言するためのマークです。  これは第三者機関による認証ではなく、あくまで「自己宣言」が基本となりますが、その宣言の根拠となる技術文書を作成し、保管する義務があります。

 

産業機械の場合、主に関連する指令として以下の3つが挙げられます。

  • 機械指令: ガードや安全制御システムなど、機械そのものの構造的な安全性を要求します。
  • 低電圧指令: AC50V~1000V、DC75V~1500Vの範囲で動作する電気機器について、感電や火災などの電気的な危険からの保護を求めます。
  • EMC指令: 機器が周囲に許容レベルを超える電磁ノイズを放出しないこと(エミッション)、そして周囲からの電磁ノイズを受けても誤動作しないこと(イミュニティ)の両方を要求します。

これらの指令が要求する具体的な技術仕様は、「整合規格(EN規格)」として定められています。設計者はこの整合規格に沿って製品を設計・試験することで、各指令への適合を証明しやすくなります。UL規格が部品レベルの安全性を重視するのに対し、CEマーキングは機械全体の総合的な安全性を問うという違いがあります。

 

 

最適な工場電源選定のポイント

これまで解説してきた内容を踏まえ、機械設計者が最適な工場電源を選定するための重要なポイントを以下にまとめます。この記事が、あなたの設計業務の一助となれば幸いです。

 

  • 工場の受電方式には高圧と低圧があり契約電力50kWが境目
  • 高圧受電はキュービクルが必要だが電力単価は安い
  • 低圧受電は設備不要だが電力単価は割高
  • 大きな動力には効率の良い三相電源が必須
  • 照明やコンセントには単相電源が使われる
  • 電源装置には高効率で小型なスイッチング電源が主流
  • 精密機器など低ノイズが求められる箇所にはリニア電源が有効
  • 制御回路の電圧は安全で実用的なDC24Vが世界標準
  • 制御盤の電源は動力用の主回路と制御用の制御回路を分離して設計
  • モーターの電源容量はピーク時の電流を考慮して余裕をもって選定
  • 瞬停対策にはUPSを導入し制御システムとデータを保護
  • ノイズ・サージ・高調波から機械を守る多層的な保護設計が不可欠
  • 海外展開では各国の電圧と周波数への対応が求められる
  • 北米向けにはUL規格、欧州向けにはCEマーキングへの適合が必要
  • 最適な工場電源の理解は機械の性能と信頼性を左右する

 

以上です。

 

まとめ記事
複数のモーターが並んでいる様子
モーター選定と種類の完全ガイド【機械設計者向け】

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