ここでは 「ゴムの硬さと目安」 についてのメモをしています。
ゴム部品の設計をしていると必ず「硬さ」選定で迷います。 私は過去、カタログに並ぶ『A70』や『A90』といった数値。適切な硬さの目安が掴めず、ただスペックシートを眺めて選定した結果、試作品で期待した性能が出ずに失敗と後悔をした経験があります。 多くのウェブサイトでは、硬さの目安やJIS規格について断片的に解説されていますが、それらの知識が実際の選定プロセスでどう結びつくのか、体系的に解説した情報は少ないのが現状です。
この記事では他のサイトではカバーしきれていない「なぜその硬さを選ぶのか」という設計思想に触れることを目標に、ゴム硬さの単位と測定原理の基礎を固め、最終的にはOリングや防振ゴムなど具体的な用途別の最適な硬さの目安まで解説していきます。
ゴム 硬さの基本と身近な目安
ゴムの硬さを正しく理解し、設計に活かすためには、まずその測定原理と指標、そして他の物理的特性との関係性を把握することが不可欠です。 このセクションでは、硬さの基本概念から、設計上考慮すべき重要なトレードオフについて解説します。
デュロメータで測る硬さの原理
ゴムの硬さを議論する上で基本となるのが「デュロメータ」という測定器です 。 これは、ばねの力を利用して規定された形状の針(押針)をゴムの表面に押し付け、その 「押し込みにくさ」を数値で表すもの です 。
デュロメータの測定原理は、押針を押し込むばねの力と、ゴムが元に戻ろうとする反発力が釣り合った時点での、押針の沈み込み深さに基づいています 。 この沈み込み深さを、0から100までの目盛りに変換して硬さとして表示します 。
ここで大切なのは、数値と沈み込み深さの関係です。 押針が全く沈まない、つまり非常に硬い状態を「100」と定義します 。 逆に、押針が規定の深さまで完全に沈み込んだ、液体のように柔らかい状態が「0」です 。 このように、デュロメータ硬さは、材料の押し込みにくさを相対的に示した指標であり、Pa(パスカル)のような物理的な単位は存在しません 。 そのため、硬さを表記する際は、後述する測定器のタイプを必ず明記する必要があります。
主なデュロメータメーカー
デュロメータは、多くの測定器メーカーから販売されています。代表的なメーカーには以下のような企業があります。
- 高分子計器株式会社 (ASKER): アスカー硬度計の名称で知られ、ゴム硬度計の分野で高いシェアを誇ります 。
- 新潟精機株式会社 (SK): 測定工具全般を扱うメーカーで、JISやISOに準拠したデュロメータも提供しています 。
- 株式会社東洋精機: ゴムやプラスチックの試験機を専門とし、デジタル式のデュロメータなどをラインナップしています 。
最も一般的なショアAスケールとは
設計図面や仕様書で最も目にする硬さの表記が「ショアA」です。 これは、デュロメータの中でも「タイプA」という種類の測定器で測った値であることを示しています 。
なぜ「ショア」という名称が使われるかというと、このデュロメータを最初に製造したのが米国のShore社だったため、その商品名が通称として定着したからです 。したがって、ゴムの文脈で「ショア硬さ」と言えば、それはデュロメータ硬さを指していると理解して問題ありません 。
デュロメータには、測定対象の硬さに応じていくつかの種類(スケール)があります。
スケール | 押針形状 | ばね荷重/接触力 | 主な用途 | 対象材料 |
タイプA | 先端が平坦な円錐台(35°) | 接触力: 約10 N | 中硬さのゴム・エラストマー | 一般ゴム、軟質プラスチック、タイヤ、シール材 |
タイプD | 先端が鋭利な円錐(30°) | 接触力: 約50 N | 硬質ゴム・プラスチック | 硬質ゴム、エポキシ、PVC、硬質プラスチック |
タイプE | 半球状 | タイプAと同等 | 低硬さのゴム・エラストマー | 軟質ゴム、スポンジ、低硬度エラストマー |
タイプC | タイプAより大きな加圧面と押針 | - | 中硬さのスポンジ・発泡体 | スポンジゴム、中硬質エラストマー |
タイプOO | 半球状(タイプEより鋭利) | タイプAより大幅に弱い | 極低硬度の材料 | 発泡ゴム、ゲル、人肌のような軟質材料 |
これらのスケールは、押針の形状や、押し付けるばねの強さが異なります 。 例えば、タイプDはタイプAよりも鋭い押針と強力なばねを持っており、硬い材料にもしっかりと食い込むことができます 。
JIS規格では、測定値の信頼性を確保するため、タイプAで測定した値が90を超える場合はタイプDを、タイプDで測定した値が20未満の場合はタイプAを使用するように定められています 。
身近なものの硬さをショアAで表すと、以下のようになります。この目安を覚えておくと、設計の初期段階で硬さのイメージを掴むのに役立ちます。
硬さ(ショアA) | 具体例 |
A 10~20 | 人肌、こんにゃく |
A 20~40 | 自転車のタイヤチューブ、ゴム手袋 |
A 40~60 | プラスチック消しゴム、軟質ゴムシート |
A 60~80 | 自動車のタイヤ、野球の軟式ボール |
A 80~95 | 野球の硬式ボール、ゴルフボール、ショッピングカートのキャスター |
引張強さと耐摩耗性のトレードオフ
ゴムの硬さは単独の特性ではなく、他の多くの機械的性質と密接に関連しています。 設計において硬さを選定する際には、これらの相関関係、すなわち「トレードオフ」を理解することが極めて大切です。
特性 | 硬さ上昇に伴う傾向 | 設計上の注意点(トレードオフ) |
引張強さ | 向上 | 強度は増しますが、柔軟性が失われます |
伸び | 低下 | 大きな変形が必要な用途では不向きです |
耐摩耗性 | 向上 | 摺動部品では有利ですが、脆化に注意が必要です |
反発弾性 | 低下傾向 | 衝撃吸収には不向きと考えられます |
圧縮永久ひずみ | 悪化傾向(※) | シール性にはA70近辺がバランス良いとされます |
シール性 | 向上(高圧時) | 低圧時のなじみ性や摺動抵抗は悪化します |
※圧縮永久ひずみは配合技術への依存度が非常に高く、一概に硬度との相関を論じるのは難しいですが、一般的な傾向として記載。 |
硬さと引張強さ・伸びの関係
一般的に、ゴムの硬度を上げると、材料が破断するまでに耐えられる最大の力である「引張強さ」は向上する傾向があります 。 これは、硬さを増すために加えられる補強材などが、ゴムの分子間の結合を強めるためです。
しかし、その一方で、破断するまでにどれだけ伸びることができるかを示す「伸び」は低下します 。 つまり、ゴムは硬くなるほど強くはなりますが、同時にもろくなり、柔軟性が失われるということです 。 大きな変形が必要な部品や、組み付け時に引き伸ばされるような部品に硬すぎるゴムを使用すると、破損のリスクが高まります。
硬さと耐摩耗性の関係
耐摩耗性も、多くの場合、硬度を上げることで向上します 。 硬い材料は、摩擦による表面の削れに対して抵抗力が強くなるためです。 このため、摺動部や搬送ローラーなど、摩耗が問題となる箇所では、比較的高硬度のゴムが選ばれることがあります。
ただし、ここでもトレードオフが存在します。 前述の通り、硬度を上げすぎると材料はもろくなり、衝撃によって欠けやすくなる可能性があります。 また、相手材を攻撃し、摩耗させてしまうリスクも考慮しなければなりません。 硬さの選定は、単一の性能を追求するのではなく、使用される環境や条件全体を考慮し、最適なバランスを見つける作業であると言えます。
圧縮永久ひずみとシール性能
シール部品のように、長期間にわたって圧縮された状態で使用されるゴム部品にとって、「圧縮永久ひずみ」は性能を左右する非常に重要な特性 です。
圧縮永久ひずみとは、ゴムを一定時間圧縮した後に力を取り除いたとき、元の厚さに戻らず、変形(へたり)が永久に残ってしまう度合いを示す指標です 。 この値が小さいほど、ゴムは弾性回復力に優れ、へたりにくい材料であると言えます。
この特性は、シール性能に直接影響します。 圧縮永久ひずみが大きいゴムは、長期間の使用でへたってしまい、必要な反発力を維持できなくなります。 その結果、シール面との間に隙間が生じ、流体の漏れを引き起こす原因となります。
硬さと圧縮永久ひずみの関係は一概には言えませんが、一般的にシール用途で広く使われるOリングなどでは、ショアAで70程度の硬さが、機械的強度やシール性、そして圧縮永久ひずみ特性のバランスが最も良いとされています 。 硬すぎても柔らかすぎても、長期的なシール性能を損なう可能性があるため、標準的な硬さであるA70が多くの場面で第一候補となるのです。
JIS規格から学ぶゴム 硬さの選定
ゴムの硬さの値は、誰がどこで測っても同じ結果が得られなければ、工業製品の指標として意味を成しません。 そのため、測定方法にはJIS(日本産業規格)によって厳密なルールが定められています。 設計者は、この規格を理解することで、サプライヤーとの間で正確な意思疎通が可能になり、品質の安定した部品を調達することができます。
JIS K 6253に準拠した測定
日本において、ゴムの硬さ測定の基準となるのが「JIS K 6253」という規格です 。この規格は、信頼性の高い測定値を得るための試験片の準備や環境条件について、詳細な規定を設けています。
試験片の準備
正確な測定は、適切な試験片から始まります。
- 厚さ: 測定値が下敷きなどの影響を受けないよう、十分な厚さが求められます。タイプAおよびタイプDのデュロメータで測定する場合、試験片の厚さは6.0mm以上と規定されています 。
- 重ね測定: 製品の形状などから規定の厚さを確保できない場合に限り、試験片を重ねて測定することが許可されていますが、その枚数は3枚以内と定められています 。
- 平滑性: 測定面は、デュロメータの底面(加圧面)が完全に密着できるよう、平らで滑らかでなければなりません。
測定環境
ゴムの物理的特性は温度に大きく依存するため、測定環境も標準化されており、JIS規格では、温度23±2℃、相対湿度50±5%が標準の試験環境として規定されています 。
例えば、寒い冬の工場で測定した値と、空調の効いた夏の検査室で測定した値とでは、同じ製品でも数ポイントの差が生じることがあります。 このため、厳密な品質管理が求められる場面では、測定前に試験片を標準環境下で一定時間保管し、温度をなじませることが大切です。
正しい硬さの測定方法と手順
JIS K 6253では、測定者による誤差を最小限に抑えるため、具体的な操作手順についても細かく定められています。
測定の基本操作
- 垂直な押し当て:デュロメータは、試験片の表面に対して常に垂直に押し当てる必要があります 。斜めに当ててしまうと、押針が正しく沈み込まず、不正確な値を示す原因となります。
- 測定位置:試験片の端は変形しやすいため、測定点として適していません。測定は、試験片の端から12.0mm以上内側の位置で行う必要があります 。また、一度測定した箇所は変形が残っている可能性があるため、複数の点を測定する場合は、各測定点の間を6.0mm以上あけるように規定されています 。
- 読み取り時間:ゴムは力を加え続けると時間と共ゆっくり変形する「クリープ」という現象を起こします。このため、デュロメータを押し当ててからどのタイミングで値を読み取るかが重要になります。JIS K 6253では、加硫ゴムの場合は3秒後、熱可塑性ゴムの場合は15秒後の値を読み取ることが標準とされています 。
測定精度の向上
手で押し当てる方法は手軽ですが、どうしても押し当てる力や速度に個人差が生じがちです。 より高い再現性と客観性が求められる品質保証の現場などでは、「デュロメータ用スタンド」の使用が推奨されます 。 スタンドは、デュロメータを垂直に保持し、一定の重さのおもりによって常に同じ力で降下させる機構を備えています。これにより、人的な要因を排除し、極めて信頼性の高い測定が可能となります。
低温脆化を招くガラス転移点
ゴム部品を設計する際には、その部品が使用される環境、特に温度変化を考慮することが不可欠です。 ゴムの硬さは温度によって大きく変動し、特に低温環境では注意が必要 です。
一般的に、ゴムは温度が低下するにつれて硬くなり、弾力性を失っていきます 。 そして、さらに温度を下げていくと、ある温度を境にして、ゴムはしなやかな状態から硬くてもろい「ガラス状態」へと急激に変化します。 この境界となる温度を「ガラス転移点(Tg)」と呼びます 。
ガラス転移点を下回ったゴムは、弾性を完全に失い、わずかな衝撃で文字通りガラスのように砕け散ってしまうことがあります 。 これを「低温脆化」と呼びます。
したがって、機械設計においては、部品がさらされる可能性のある最低使用温度が、使用するゴム材料のガラス転移点よりも十分に高いことを必ず確認しなければなりません。 例えば、寒冷地で使用される自動車部品には、ガラス転移点が-80℃前後と非常に低い特殊なゴム材料が使われることがあります 。 材料を選定する際には、カタログに記載されている使用温度範囲だけでなく、このガラス転移点の値にも注目することが、低温環境下でのトラブルを防ぐ鍵となります。
油や薬品による膨潤と硬さ変化
ゴム部品が油や特定の化学薬品に接触する環境で使用される場合、材料の選定を誤ると「膨潤」という現象を引き起こし、重大な不具合につながる ことがあります。
膨潤とは、ゴムの分子構造のすき間に油や溶剤の分子が入り込み、ゴムが体積的に膨らんでしまう現象です 。 膨潤したゴムは、硬さが著しく低下してふやけた状態になり、本来の機械的強度や弾力性を失ってしまいます 。
このため、耐油性や耐薬品性が求められる用途では、まず使用する流体に対して耐性のあるゴムの種類(ポリマー)を選定することが最優先課題となります。 例えば、一般的な鉱物油環境ではニトリルゴム(NBR)、高温のエンジンオイル環境ではフッ素ゴム(FKM)などが選ばれます。
設計のアプローチとしては、まず使用環境に適したゴム材料の種類を決め、その上で、求められる機械的特性に応じて最適な硬さを調整していく、という順番が正解 です。 硬さの数値だけを先に決めても、耐性のない材料を選んでしまっては、部品はすぐに機能しなくなってしまいます。
用途別のゴム 硬さと設計上の注意点
これまでの知識を基に、実際の設計現場でどのように硬さを選定していくべきか、具体的な用途を例に挙げて解説します。また、図面への表記方法や、ゴム製品特有の品質管理についても触れていきます。
Oリングと防振ゴムの硬さ選定
Oリングの硬さ選定
Oリングは、シール部品として最も広く使用されており、その硬さ選定は使用条件によって明確に分かれます。
- 標準硬度(A70):ほとんどの固定用途や一般的な運動用途では、ショアA70が標準として採用されています 。 これは、シールに必要な柔軟性、組み付けに耐える機械的強度、そして長期的なシール性能に関わる圧縮永久ひずみ特性など、複数の要求性能のバランスが最も優れているためです 。
- 高硬度(A90):高圧の流体をシールする場合、Oリングが溝のすき間にはみ出して破損する現象が問題となります。 これを防ぐため、より硬く変形しにくいショアA90のOリングが使用されます 。ただし、硬い分、組み付けが難しくなったり、摺動抵抗が増加したりするデメリットも考慮する必要があります 。
- 低硬度(A50~60):相手部品がプラスチックで強い力で締め付けられない場合や、真空シールのようにわずかな力でなじませたい場合に選択されます 。
防振ゴムの硬さ選定
防振ゴムの役割は、振動を吸収・絶縁することです。 この性能は、ゴムの「ばね定数」と密接に関係しており、硬さはばね定数を決定する重要な要素です。
一般的に、ゴムは柔らかいほどばね定数が小さくなります 。 ばね定数が小さいほど、防振したい機器と振動源との間で共振が起こりにくくなり、高い防振効果が得られます 。 そのため、防振ゴムにはショアA30~A60程度の比較的柔らかいゴムが選定されるのが一般的です。 設計の際には、支持する機器の重量と、目標とする防振性能から、最適なばね定数を持つ防振ゴム(すなわち、最適な硬さのゴム)を選定するプロセスが取られます。
ローラーの用途と硬さの関係
ローラーは、摩擦力を利用して物を搬送したり、圧力をかけたり、インキを転写したりと、多岐にわたる用途で使われます。その役割に応じて、求められる硬さも大きく異なります。
用途 | 一般的な硬さ範囲 (デュロメータA) | 選定の主要因 | 備考(トレードオフ) |
Oリング(固定・低圧) | A 70 | バランス(シール性、強度、コスト) | 業界標準で最も汎用的です |
Oリング(固定・高圧) | A 90 | 耐はみ出し性(耐圧性) | 高圧による隙間へのはみ出しを防止します |
Oリング(運動用) | A 70 - A 80 | 低摺動抵抗、耐摩耗性 | 硬すぎると摺動抵抗が増大します |
防振ゴム | A 30 - A 60 | ばね定数(固有振動数の調整) | 柔らかいほど防振効果が高まります |
衝撃吸収パッド | A 20 - A 60 (またはAsker C/F) | 減衰性(エネルギー吸収能力) | 低反発性の材料が有利です |
給紙ローラー | A 20 - A 45 | グリップ力(摩擦係数) | 紙の表面になじみ、高い摩擦力を得ます |
圧着・搬送ローラー | A 80 - A 95 | 耐摩耗性、耐荷重性 | 高い面圧に耐える耐久性の高い硬質材が使われます |
- グリップ力重視のローラー:プリンターの給紙ローラーのように、紙などの対象物を確実に掴んで送ることが目的の場合、高い摩擦係数が求められます。この場合、対象物の表面にしっかりとなじむことができる、ショアA20~A45程度の非常に柔らかいゴムが選ばれます 。
- 耐摩耗性・耐荷重性重視のローラー:製鉄所の搬送ラインや、強い力でフィルムを圧着するローラーなど、高い面圧がかかり、長寿命が求められる過酷な環境では、耐摩耗性が最優先されます。このような用途では、変形が少なく耐久性に優れた、ショアA80~A95といった硬質のゴムやウレタンゴムが使用されます 。
- 印刷用ローラー:印刷機のローラーは特に繊細な硬さ管理が求められます。インキを均一に転写するため、インキの種類や印刷方式に応じて、A25~A45程度の範囲で複数の異なる硬さのローラーを使い分けるという、高度な設計が行われます 。
このように、ローラーの硬さ選定は、グリップ力と耐摩耗性という、しばしば相反する要求のバランスを、使用目的に応じて最適化する作業 であると言えます。
設計で許容すべき硬さの公差
機械設計者は、ゴム製品の硬さが、金属部品の寸法のように厳密な公差で管理できるものではない、という事実を理解しておく必要があります。 ゴムは、原材料の配合や加硫(熱と圧力を加えて弾性を与える工程)の条件によって、仕上がりの硬さにどうしてもばらつきが生じます 。
このため、ゴムの硬さには、業界の慣例として一般的に±5ポイントの公差が適用されます 。 つまり、図面に「A70」と指示した場合、納入される製品の硬さがA65からA75の範囲にあれば、それは合格品と見なされるということです。
この事実は、設計を行う上で非常に重要です。 設計者は、この±5の硬さのばらつきがあっても、部品や装置全体が要求される機能を問題なく果たせるように設計しなければなりません。
例えば、「A70±2」のような厳しい公差を要求することは、製造コストを著しく増大させるか、最悪の場合は製造不能という事態を招きかねません。 もし、どうしても狭い硬さ範囲が必要な特殊なアプリケーションであれば、設計の初期段階で材料メーカーと緊密に連携し、その実現可能性を十分に協議することが不可欠です。
経年劣化と最適なゴム 硬さの管理
ゴム部品は、熱、酸素、紫外線などの影響を受け、時間と共に劣化していきます。 この劣化の多くは、ゴムの分子構造が変化し、物理的な特性が変わる形で現れます。
特に一般的な劣化の症状として、ゴムが硬くなる「硬化」が挙げられます 。 弾力性を失い、もろくなったゴムは、シール性能の低下や亀裂の発生といった不具合の直接的な原因となります。
この性質を利用して、稼働中のゴム部品の硬さを定期的に測定することは、その劣化度合いを把握するための有効な手段 となり得ます。 新品時の硬さデータと比較し、硬さの増加がある一定の基準値を超えた時点で部品を交換する、といった予防保全の指標として活用できます。 これにより、予期せぬ故障を防ぎ、機械の信頼性を高めることが可能になります。硬さの管理は、適切な部品を選定するだけでなく、その性能を長期にわたって維持するためにも大切な考え方です。
最適なゴム 硬さを選ぶためのポイント
- ゴム硬さの指標は押込み硬さであるデュロメータ硬さが一般的
- 最も汎用的なスケールはショアA(タイプAデュロメータ)
- 硬さの数値は0から100で、数値が大きいほど硬いことを示す
- 硬さの測定方法はJIS K 6253で厳密に規定されている
- 測定には規定の厚さ(タイプAでは6.0mm以上)の試験片が必要
- 硬さは温度に大きく依存し、低温では硬く、高温では軟らかくなる
- ガラス転移点を下回るとゴムは弾性を失いもろくなる(低温脆化)
- 硬さを上げると引張強さや耐摩耗性は向上する傾向がある
- 硬さを上げると伸び(柔軟性)は低下し、もろくなる
- シール用途では機械的特性のバランスが良いA70が標準
- 高圧環境でのシールには耐はみ出し性に優れるA90が適する
- 防振用途ではばね定数を下げるため低硬度のゴムが有利
- ゴム製品の硬さには一般的に±5ポイントの製造公差がある
- 設計者は硬さのばらつきを許容するロバストな設計を心がける
- 硬さの経時変化を測定することで、部品の劣化診断が可能
以上です。