ここでは、設計・設置の際に悩む 「ライトカーテン」についてのメモです。
機械設計の現場において、自動機の安全対策は避けて通れない重要課題です。 特に、人体の侵入を検知して機械を停止させるライトカーテン(セーフティライトカーテン)の選定や配置は、生産性と安全性を両立させるための要となります。
しかし、多くのカタログやウェブサイトでは「製品のスペック」や「規格の条文」が羅列されているだけで、実際に設計者が図面を描く際に直面する「具体的な計算手順」や「現場での泥臭い設置ノウハウ」まで踏み込んで解説している情報は少ないのが現状ではないでしょうか。
この記事では、単なる規格の引用にとどまらず、実際の機械設計実務で培った経験に加え、日本国内の主要メーカーやJIS規格(日本産業規格)、さらにはANSI規格(米国規格)の考え方を勉強したので、それらを照らし合わせ、設計者が迷いやすいポイントを徹底的に深掘りしました。
これから安全設計に取り組む方が、自信を持ってライトカーテンを選定し、論理的な裏付けのある安全距離を確保できるようになることを目指します。
ライトカーテンの基礎知識と選定
ESPE(電気的検知保護設備)とType4・Type2
機械安全設計の第一歩は、対象となる機械のリスクレベルに適した保護装置を選ぶことから始まります。 ライトカーテンは専門用語でESPE(電気的検知保護設備)と呼ばれ、その安全性能に応じて「Type4」と「Type2」に分類されています。
この「タイプ」の選定は、設計者の好みや予算だけで決めてよいものではありません。 必ずリスクアセスメントを実施し、その機械に求められる「パフォーマンスレベル(PL)」や「安全度水準(SIL)」に基づいて決定する必要があります。
一般的に、日本の産業用ロボットやプレス機など、重大な怪我(指の切断や死亡事故など)につながる可能性がある設備では、最高ランクの安全性が求められるためType4が採用されます。 一方、Type2はリスクが比較的低い箇所や、仮に挟まれても軽傷で済むような限定的な用途に使用されます。
両者の決定的な違いは、「故障した時の振る舞い」と「安全機能の信頼性」にあります。以下の表に、設計選定に必要な比較情報を網羅しました。
| 比較項目 | Type 4(タイプ4) | Type 2(タイプ2) |
| 対応リスク (PL / SIL) | PL e / SIL 3
(死亡・重傷リスクに対応) |
PL c / SIL 1
(軽傷リスクに対応) |
| 冗長性と故障検出 | 二重化・常時自己診断
内部回路が完全に二重化されており、単一故障が発生しても安全機能を喪失しません。故障は即座に検知され停止します。 |
周期的なテスト
内部回路は必ずしも二重化されていません。故障検知は「起動時」や「定期的」なテストに依存するため、テスト間の故障リスクが残ります。 |
| 指向角(光の広がり) | 狭い(±2.5° 以内)
光が広がりにくいため、周辺壁面からの反射光による誤った入光(不感状態)が起きにくい特性があります。 |
広い(±5° 以内)
光が広がりやすいため、光軸合わせは容易ですが、壁や光沢面からの反射光を拾いやすく、設置環境に制約があります。 |
| 設置許容距離(壁から) | 短い距離で設置可
例:検出距離3m以内の場合、壁から130mm離せば設置可能です。 |
長い距離が必要
例:検出距離3m以内の場合、壁から260mm離す必要があります(反射リスクが高いため)。 |
| 主な用途 | プレス機、ロボットセル、切断機、自動組立ラインの主防護 | 小型包装機、AGVのバンパー、リスクの低い搬送ラインの補助検知 |
実際の製品イメージを持つために、各タイプを代表する主要メーカーのシリーズを確認することをお勧めします。
- Type 4 の代表例(汎用・堅牢)
- キーエンス:GL-Rシリーズ
- オムロン:F3SG-SRシリーズ
- Type 2 の代表例(小型・低コスト)
- パナソニック:SF2Cシリーズ
このように、Type4は非常に高い信頼性を持つ反面、コストがかかります。 しかし、コストダウンを優先してType2を選定した場合、万が一の事故発生時に「なぜType4にしなかったのか」という法的責任を問われるリスクがあります。 明確な根拠がない限りはType4を選定するのが、設計者としての安全策と言えます。
安全距離に直結する最小検出物体
ライトカーテンを選定する際、カタログスペックの中で最も設計に影響を与えるのが「最小検出物体(Detection Capability)」のサイズです。 これは、そのライトカーテンが「どれくらいの太さの棒までなら見逃さずに検知できるか」を示しており、主に光軸のピッチ(間隔)によって決まります。
最小検出物体のサイズは、機械をコンパクトにできるかどうかに直結します。 前述の通り、後述する安全距離の計算において、検出物体が小さいほど「侵入距離(追加距離)」を短くできるからです。 指先が入った瞬間に止まる設計にするのか、腕が入ってから止まる設計にするのかで、機械のフェンスから危険源までの距離が数十センチ単位で変わってきます。
| 検出タイプ | 最小検出物体径 (d) | 特徴と設計への影響 | 推奨される使用箇所 |
| 指検出 (Finger) | φ9mm ~ φ14mm | 安全距離が最短になる。
光軸ピッチが細かく(10mm程度)、指先を検知できます。高価ですが、機械のすぐそばに設置可能です。 |
ワークを手でセットする開口部、小型ロボットセル |
| 手検出 (Hand) | φ20mm ~ φ30mm | バランスが良い標準タイプ。
光軸ピッチは20mm程度。指検出に比べて安全距離を100mm程度長く取る必要があります。 |
一般的な自動機の搬送口、メンテナンス扉の内側 |
| 腕/足検出 (Arm/Foot) | φ40mm 以上 | 安全距離が非常に長くなる。
指や手はすり抜けるため、体ごとの侵入検知用です。危険源から850mm以上離す必要があります。 |
装置外周の侵入検知、AGVの通路、大型設備のエリア防護 |
設計段階で「とにかく安いものを」と検出能力が低い(検出物体が大きい)モデルを選んでしまうと、計算上の安全距離が想定以上に長くなり、機械のフットプリント(設置面積)が肥大化してしまうことがあります。 逆に、スペースに余裕がない場合は、多少コストが上がっても指検出タイプを選ぶことで、安全距離を短縮し、省スペース化を実現できます。
指向角の特性と光軸調整の難易度
カタログの片隅に記載されがちな「指向角(Aperture Angle)」ですが、これは設置工事や立上げ時の工数に大きく関わる重要なパラメータです。 指向角とは、投光器から出る光がどの程度広がるか、また受光器がどの程度の角度からの光を受け入れるかを示す角度です。
Type4のライトカーテンは、指向角が「±2.5° 以内」と非常に狭く設計されています。 これは懐中電灯のスポットライトのように光が真っ直ぐ飛ぶイメージです。
- メリット: 横にあるステンレスの壁や設備のカバーに光が反射して、誤って受光器に届いてしまう「回り込み(反射)」のリスクを最小限に抑えられます。
- デメリット: 投光器と受光器が正対していないと光が届きません。数メートルの距離で数ミリずれただけで遮光状態になるため、取り付けブラケットの微調整や、架台の剛性確保(振動対策)がシビアになります。
一方、Type2は「±5° 以内」と広めに設計されています。
- メリット: 多少向きがずれていても光が届くため、光軸調整が容易です。
- デメリット: 光が広がる分、周囲の物体に反射しやすくなります。鏡面状の壁や他のセンサからの干渉を受けやすいため、周囲にスペースが必要です。
現場経験が豊富な設計者は、Type4を採用する場合、調整機構付きのブラケットを手配したり、レーザーポインター等の調整治具が使えるモデルを選定したりして、現場での調整時間を短縮する工夫を凝らしています。 特に長距離(5m以上)で使用する場合は、建屋の振動や温度変化による筐体の歪みだけで光軸がずれることがあるため、堅牢な取り付け支柱の設計が不可欠です。
ライトカーテンの安全距離計算
JIS B 9715に基づく計算式の理解
安全距離(Safety Distance)とは、作業者がライトカーテンの光軸を遮ってから、機械が完全に停止するまでの間に、身体の一部が危険源(回転部やプレス部など)に到達できないようにするための「物理的な距離」のことです。 この距離を適切に確保することは、機械設計者の最も重要な責務の一つです。
日本国内においては、JIS B 9715(機械類の安全性-人体の部位の接近速度に基づく保護設備の配置) および国際規格 ISO 13855 に基づいて計算を行います。直感や「だいたいこれくらい」という感覚で決めることは許されません。
基本となる計算式は以下の通りです。
S = (K × T) + C
- S: 安全距離(mm)
- K: 人体の接近速度(mm/s)
- T: 全システムの停止時間(s)
- C: 侵入距離(mm)
この式は非常にシンプルに見えますが、各変数の数値を決定するプロセスには多くの検証が必要です。 それぞれの変数が持つ意味と、設計実務における決定方法を詳しく見ていきましょう。
K値(人体接近速度)の採用基準
K値は、人間がどのくらいの速さで危険源に近づくかを表すパラメータです。 JIS規格では、基本的に2000mm/s(高速接近)と1600mm/s(歩行接近)の2つの値が定義されていますが、どちらを使えばよいか迷う設計者も多いでしょう。
選定の明確なルールは以下の通りです。
- 初期計算は必ず K = 2000 で行う
まず、K = 2000 mm/s を計算式に代入して安全距離 S を算出します。 - 条件付きで K = 1600 を採用する
初期計算の結果、算出された安全距離 S が 500 mm を超えた場合に限り、K = 1600 mm/s を使用して再計算することが認められています。 - 再計算時の注意点
K = 1600 を使って再計算した結果、もし安全距離 S が 500 mm 未満になってしまった場合は、計算結果をそのまま使うことはできません。 この場合は、最低距離として S = 500 mm を採用します。
【結論】
ライトカーテンを機械から500mm以内の近い位置に設置したい場合は、例外なく K = 2000 を使用して計算しなければなりません。 ワークのセット作業などで作業者が頻繁に手を出し入れする開口部では、2000mm/sを採用するのが安全設計の鉄則です。
システム応答時間と機械停止時間
計算式の中で最も実測値に依存し、かつ変動しやすいのが T(全システムの停止時間)です。 これは単一の機器の時間ではなく、信号が伝達されて機械が物理的に静止するまでの「遅れの総和」です。
T = t1 + t2 + t3
この内訳を正確に把握し、積算することが重要です。
| 変数 | 内容 | 取得元・測定方法 | 目安値(参考) |
| t1 | ライトカーテンの応答時間
遮光されてからOSSD出力がOFFになるまでの時間。 |
メーカーカタログの仕様欄。
※光軸数や直列連結数、設定モードによって変動するため注意。 |
0.005s ~ 0.020s |
| t2 | 制御回路の応答時間
リレーやPLCが信号を受け取り、コンタクタへの出力をOFFにするまでの時間。 |
セーフティリレーユニットや安全PLCの仕様書。
※通信遅延時間も含める。 |
0.010s ~ 0.050s |
| t3 | 機械の停止時間
コンタクタが切れ、ブレーキが作動し、慣性で動いている機械が完全に止まるまでの時間。 |
実機での測定が必須。
ストップウォッチ測定機器や専用の停止時間測定器を使用。 |
機械による
(0.1s ~ 数秒) |
特に注意すべきは t3 です。 カタログには載っていない数値であり、負荷の重さ、動作速度、摩擦条件によって大きく変わります。 設計段階では、類似の機械のデータを使用するか、最悪のケースを想定して十分な余裕を持った数値を仮定しておく必要があります。
経年劣化とブレーキ性能の考慮
設計時に計算した安全距離が、機械の寿命が尽きるまで常に安全である保証はありません。 機械的なブレーキや油圧システムは、使用するにつれて摩耗やオイルの劣化が進み、停止性能が徐々に落ちていく(停止距離が伸びる)からです。
JIS規格自体には「経年劣化のための具体的なマージン値」までは明記されていませんが、米国の安全規格 ANSI B11.19 では、ブレーキモニター(停止時間監視装置)の設定時間 Tbm を安全距離計算に加算することが定義されているようで、ブレーキモニターがない場合でも、実測停止時間の 20% 程度をマージンとして加算することが推奨されています。
T = t1 + t2 + (t3 × 1.2)
あくまで参考値ですが、日本の実務設計においても、この考え方を取り入れ、実測値の1.2倍や、ブレーキの応答遅れとして固定値(例:0.05秒)を加算して設計することが、「プロの設計手法」として広く行われています。
また、取扱説明書やメンテナンスマニュアルには、「定期点検時に停止時間を再測定し、設計時の許容範囲を超えていないか確認すること」を明記すべきです。
侵入距離(Cの値)を算出する
C(侵入距離)は、ライトカーテンが物体を検知してからシステムが反応するまでのごくわずかな時間の間に、指や手が光軸の間をすり抜けたり、光軸を越えて危険源側へ突き出されたりする距離を考慮したものです。 この値は、ライトカーテンの「最小検出物体直径 (d)」によって数学的に決定されます。
JIS B 9715 における垂直設置時の計算式は以下の通りです。
C = 8 × (d - 14)
ただし、C < 0 となる場合は C = 0 とします。
この式から導き出される代表的な数値を表にまとめました。
| 検出タイプ | 最小検出物体径 (d) | 計算式 8×(d−14) | 採用すべき侵入距離 C | 備考 |
| 指検出 | 14 mm | 8 × (14 - 14) = 0 | 0 mm | 追加距離不要。最も近づけることができます。 |
| 手検出 | 20 mm | 8 × (20 - 14) = 48 | 48 mm | - |
| 手検出 | 25 mm | 8 × (25 - 14) = 88 | 88 mm | 一般的な汎用モデルの値。 |
| 手検出 | 30 mm | 8 × (30 - 14) = 128 | 128 mm | - |
| 腕/体検出 | 40 mm < d ≤ 70 mm | 適用外 | 850 mm | 腕の長さ(標準値)として固定値850mmを使用します。 |
この表から分かるように、指検出タイプ(d=14)を選べば C=0 となり、安全距離を最短にできます。 一方で、手検出タイプ(d=25)を選ぶと、計算結果に必ず 88 mm をプラスしなければなりません。 もし d=40 を超えるタイプを使ってしまうと、どんなにブレーキ性能が良くても 850 mm 以上の距離が必要となり、小型の機械では設置が不可能になるケースが出てきます。
ライトカーテンの設置基準と対策
垂直設置における配置の鉄則
計算で安全距離を算出できたら、次はそれを物理的にどう配置するかという問題に移ります。 垂直設置とは、ライトカーテンを床面に対して垂直に立て、水平方向からの侵入を検知する最も一般的な方法です。
配置の鉄則は以下の通りです。
- 光軸面が危険源への唯一の侵入経路であること
ライトカーテンを通らずに危険源に触れられるルートがあってはなりません。 - 剛性の高い固定
作業者がぶつかったり、設備の振動が伝わったりしても光軸がずれないよう、十分な強度を持つブラケットや支柱で固定します。簡易的なアルミフレームのみでの固定は、振動による誤動作の元となるため、補強が必要です。 - 透明体の干渉回避
アクリル板やガラスが光軸の近く(平行)にあると、光が表面反射して受光器に届いてしまう可能性があります。光軸周辺には十分な空間(クリアランス)を確保します。
3方向からの迂回を確実に防ぐ
ライトカーテン自体は「見えない壁」を作りますが、その壁の「横」「上」「下」はがら空きです。 設計者は、この3方向からの迂回を物理的に塞ぐ義務があります。
- 横からの回り込み
ライトカーテンと機械のフレーム(または安全柵)の間に隙間があると、そこから身体をすり抜けて侵入できてしまいます。一般的に 150mm を超える隙間があると全身が通過可能とみなされますが、腕が入る隙間も危険です。板金カバーや補助フェンスを取り付けて、隙間を完全に埋める設計が必要です。 - 背後からの侵入
もし機械の背面や側面が開いているなら、そこにもフェンスやドアスイッチ付きの扉を設置し、全周をガードする必要があります。
「どこからどうアプローチしても、必ずライトカーテンの光軸を切らなければ危険源に触れない」状態を作り出すことが、設置設計のゴールです。
潜り込み対策と乗り越え対策
ISO 13855 / JIS B 9715 では、ライトカーテンの下をくぐる「潜り込み(Crawl Under)」と、上から手を伸ばす「乗り越え(Reach Over)」について厳しい基準を設けています。
潜り込み対策
床面(または作業者が立つ基準面)からライトカーテンの最下端の光軸までの高さは、300mm 以下 でなければなりません。 これ以上開いていると、人が這って侵入できるとみなされます。ブラケットの調整代などで高くなりがちですが、もし300mmを超える場合は、鉄板などで物理的に塞ぐ必要があります。
乗り越え対策
危険源の高さ (a) が低い場合、ライトカーテンの高さ (b) が低いと、上から身を乗り出して危険源に手が届いてしまいます。 これを防ぐためには、危険源までの距離をさらに長くするか、ライトカーテン(または補助ガード)を高くする必要があります。
以下の表は、危険源の高さと必要となる防護高さ・距離の関係(概念的な例)を示しています。
| 危険源の高さ (a) [mm] | 防護柵/LCの高さ (b) [mm] | 乗り越えに必要な水平距離 (Cro) [mm] |
| 2500 | - | 0 (高すぎて届かないため不要) |
| 1400 | 1200 | 1100 以上の距離が必要 |
| 1400 | 1400 | 800 以上の距離が必要 |
| 1400 | 1600 | 500 以上の距離が必要 |
| 1000 (低い危険源) | 1000 (低い柵) | 1400 以上の距離が必要 |
| 1000 (低い危険源) | 1200 | 1200 以上の距離が必要 |
表から分かるように、危険源が低い位置にある場合、低いライトカーテンでは1メートル以上の距離を離さないと「上から届いてしまう」と判定されます。 設計時は、安全距離計算式 S = (K × T) + C の値と、この乗り越え距離 Cro を比較し、より大きい方の値 を最終的な設置距離として採用しなければなりません。
コーナーミラー使用時の注意点
コスト削減や設置スペースの都合上、1対のライトカーテンと「コーナーミラー」を使用して、光を90度ずつ曲げて「コ」の字型や「ロ」の字型にエリアを囲う手法があります。 しかし、これには2つの大きなデメリットがあり、安易な採用は推奨されません。
- 光量の減衰
鏡で反射させるたびに、光のエネルギーは 10% ~ 15% 程度失われます。ミラーを2枚(3面防護)、3枚(4面防護)と増やすと、到達可能距離が大幅に短くなります。仕様書上の最大距離だけで判断せず、減衰率を考慮した有効距離を確認する必要があります。 - 調整難易度の増大
ミラーが増えるほど、光軸合わせの難易度は指数関数的に上がります。投光器からの光を1枚目の鏡の中央に当て、反射光を2枚目の中央に当て、さらに受光器へ…という調整は、熟練者でも時間を要します。また、稼働後にフォークリフトの振動などでわずかでも鏡がずれれば即停止につながるため、非常に強固な支柱が必要です。
実務的には、ミラーの使用は最大でも2枚(3面防護)までとし、4面全てを囲う場合はライトカーテンを2セット使用するか、機械的なフェンスと組み合わせるのが、長期的な安定稼働の観点から望ましいです。
ライトカーテンの配線と制御
OSSD(安全出力)とPNP・NPN出力
ライトカーテンの出力信号は、一般的なセンサのON/OFF接点ではありません。OSSD(Output Signal Switching Device) と呼ばれる、自己診断機能を持った半導体出力が採用されています。
OSSDは、出力がON(安全)の状態であっても、マイクロ秒単位のごく短いOFFパルスを定期的に発生させています。 これにより、「出力回路が電源とショートして、常にONになったまま故障していないか」や「配線が断線していないか」を自ら監視しています。このパルス信号は非常に高速なため、通常の汎用リレーやPLCの入力カードに直接接続すると、パルスを「信号が切れた」と誤検知してしまったり、逆にパルスがあるためにリレーがチャタリングを起こしたりする原因になります。
また、出力極性には以下の2種類があり、接続機器との整合性が必須です。
| 出力形式 | 特徴 | 主な使用地域・機器 |
| PNP出力 (ソース) | ON時に +24V を出力します。地絡(0Vへの接触)時にOFFになるため、安全性が高くグローバル標準となっています。 | 欧州製機器、最新の国内安全機器 |
| NPN出力 (シンク) | ON時に 0V に接続します。地絡時にON(安全)と誤認するリスクがあるため、配線保護に特別な注意が必要です。 | 日本国内の旧来の設備、一部のアジア向け機器 |
最近のライトカーテンは、配線の結線を変えるだけでPNP/NPNを切り替えられるモデルが主流ですが、設計図面ではどちらを使用するかを明確に指定し、後段の安全機器と極性を合わせる必要があります。 新規設計であれば、安全性の観点からPNP出力の採用を強く推奨されます。
セーフティリレーユニットとの接続
OSSD出力を正しく受け取り、動力(モータやヒーターなど)を安全に遮断するためには、セーフティリレーユニット または セーフティコントローラ(安全PLC) が不可欠です。
接続においては、必ず「2系統(デュアルチャンネル)」で配線を行います。 ライトカーテンからは「OSSD1」「OSSD2」という2本の信号線が出ています。 これらをセーフティリレーユニットの「S1」「S2」といった2つの入力端子にそれぞれ接続します。
- なぜ2本なのか?
もし1本のケーブルがネズミにかじられて断線したり、内部回路が故障してONのまま固着したりしても、もう片方の回路が生きていれば確実に停止信号を送れるからです(冗長化)。 - 汎用リレーで代用してはいけないのか?
汎用リレーは接点が溶着(くっついて離れなくなる故障)する可能性があります。 セーフティリレーは強制ガイド式接点を持っており、溶着が発生してもそれを検知できる構造になっています。 コストダウンのために汎用リレーや汎用PLCを使うことは、安全規格(ISO 13849-1など)に適合しないため、絶対に行ってはいけません。
EDM(外部デバイス監視)の活用
より高い安全性を確保するために利用されるのが EDM(External Device Monitoring:外部デバイス監視) 機能です。 これは、ライトカーテンが「自分より下流にある機器(マグネットコンタクタやリレー)」が正常に動いているかを監視する仕組みです。
具体的には、モータを動かすマグネットコンタクタの「b接点(NC接点:通常時は閉じていて、動作すると開く接点)」に信号線を通し、それをライトカーテンのEDM入力端子に戻します。
- 正常時の動作:ライトカーテンがOFF(停止指令)になると、コンタクタもOFFになり、b接点が閉じます。 ライトカーテンは「EDM入力がONになった(戻ってきた)」ことを確認し、コンタクタが正常に遮断されたと判断します。
- 異常時の動作(溶着): もしコンタクタの接点が溶着して動かなくなると、ライトカーテンがOFFになってもコンタクタはONのままで、b接点は開いたままです。 ライトカーテンは「停止指令を出したのにEDM信号が戻ってこない」ことを検知し、エラー状態でロックします(再起動防止)。
これにより、センサだけでなく、動力を切るスイッチの故障まで含めたシステム全体の安全性が担保されます。
マニュアルリセットとインターロック
ライトカーテンが遮光された後、光が戻った(人がいなくなった)時に、機械をどう再起動させるかには2つのモードがあります。
- オートリセット(自動復帰)
遮光がなくなると、即座にON信号を出力します。- 使用条件: ライトカーテンを通過して、機械の内側に人が入り込めるスペースが 全くない 場合に限られます。 少しでも全身が入るスペースがある場合、使用してはいけません。
- マニュアルリセット(手動復帰)
遮光がなくなってもOFFを維持し、別の場所にある「リセットボタン」を押して初めてONになります(インターロック機能)。- 使用条件: ライトカーテンを通過して機械内部に入れる(全身が入る)場合、必須 です。
【設計の落とし穴】
「ライトカーテンの光が通っている=人がいない」とは限りません。 人がエリアの中に入り込んでしまえば、ライトカーテン自体は遮光されていない状態になります。 この状態で機械が勝手に動き出すと、中にいる人は逃げ場がありません。
そのため、人が入れる構造の機械では、必ずマニュアルリセットを採用し、リセットボタンは「危険エリア全体が見渡せ、かつ危険エリアの外からしか操作できない位置」に設置する必要があります。
ライトカーテンの応用と検証
ミューティング機能の適用条件
生産ラインの自動化において、「荷物(ワーク)は通したいが、人は通したくない」という要求は頻繁に発生します。 これを実現するのが ミューティング(Muting) 機能です。 これは、特定の条件下において一時的にライトカーテンの安全機能を無効化(Mute)し、ワークを通過させる機能です。
ミューティング機能は必要ですか?(キーエンスより引用)
ミューティング機能は安全機能を⾃動的、かつ⼀時的に無効化する機能です。通常ミューティングはライトカーテンの全光軸を無効化しますが、
GL-Rはより安全性を高めるために無効化する光軸を設定ソフトで設定(ミューティングバンク機能)することが可能です。
この機能を使用するためには、厳格なハードウェア構成と表示義務を満たす必要があります。 特に「ミューティングランプ(表示灯)」の設置と、その監視機能については、JIS規格および日本の現場ルールにおいて重要な意味を持ちます。
ミューティングランプの「設置義務」と「球切れ監視」
JIS B 9704-1 (IEC 61496-1) は、ミューティング機能が有効になっている間、「その状態を表示すること」を要求しています。つまり、ミューティングランプの設置は義務であり、音だけで知らせることや、何も表示しないことは規格違反となります。
さらに設計者が悩むポイントとして、「ランプが球切れした場合に機械を止めるべきか(断線監視の義務)」という問題があります。
- 規格上の解釈(JIS B 9704-1:2015)
かつての規格では、安全性の高いType 4においては「ランプの球切れを検知して停止させる機能」が必須でした。 しかし、2015年の改正により、リスクアセスメントによって安全が担保できると判断された場合に限り、この監視機能を省略することが技術的には可能となりました。 - 日本国内の現場実態と推奨
規格上は緩和されましたが、日本の製造現場、特にプレス機械や自動車産業においては、「ランプが消えている=通常運転(安全機能有効)」という認識が深く定着しています。 もし球切れ監視のないシステムでランプが壊れた場合、オペレーターは「今はミューティング中ではない(安全機能が効いている)」と誤認してエリアに侵入し、実はミューティング中で機械が止まらず事故に遭う、というシナリオが想定されます。 このため、日本の労働安全衛生に基づく指導や、企業ごとの安全基準では、依然として「球切れ監視を行うこと」または「球切れしないLED表示灯を使用すること」が強く推奨、あるいは事実上の義務として扱われています。
したがって、設計における最適解は、以下のいずれかを選択することです。
- ライトカーテン本体に内蔵された、断線監視機能付きのミューティングランプを使用する。
- 外付けランプを使用する場合、白熱電球ではなく信頼性の高いLED積層灯を選定し、可能な限りライトカーテンの監視機能を有効にする。
| 機能比較 | ミューティング (Muting) | ブランキング (Blanking) |
| 動作原理 | 専用センサが「ワークだ」と判断した時だけ、一時的に全光軸または一部を無効化します。 | 常に(または変動的に)特定の光軸を恒久的に無効化します。 |
| 使用目的 | パレットやワークを搬入出する際の通過許可。 | コンベアのフレームや固定治具など、動かない障害物を無視する。 |
| 必要な機器 | ライトカーテン + ミューティングセンサ(2台or4台) + ミューティングランプ(必須) | ライトカーテン単体(設定で対応) |
| 安全距離への影響 | 基本的に変わりません。 | 大きくなる可能性が高い(最小検出物体が大きくなるため)。 |
ブランキング機能と安全距離
ブランキング(Blanking) は、検知エリア内に構造上どうしても除去できない障害物(コンベアの一部や治具など)が入ってしまう場合に使用します。
- フィックスブランキング(固定): 特定の光軸(例:下から3本目~5本目)を常に無効化します。 そこに障害物が常にあることが条件です。
- フローティングブランキング(浮動): 障害物が上下に動く場合や、ワークの位置が一定しない場合に、「どの場所でもいいので合計2光軸までなら遮光されても無視する」といった設定を行います。
【重大な注意点】
フローティングブランキングを使用すると、実質的な「最小検出物体 (d)」が大きくなります。 例えば、本来 φ14mm (指検出)の製品でも、2光軸分のフローティングを入れると、指1本分が見えなくなるため、実質的な検出能力は φ34mm 程度(手検出レベル以下)に低下します。
これにより、安全距離計算式 C = 8 × (d - 14) の d が大きくなるため、必要な安全距離 S が大幅に伸びます。 これを見落として設置位置を変えずにブランキングを設定すると、指が危険源に届いてしまう危険な機械になってしまいます。
相互干渉による誤動作を防ぐ
複数の装置が並ぶラインでは、隣の装置のライトカーテン(投光器)から出た赤外線が、自分の装置の受光器に届いてしまう「相互干渉」のリスクがあります。
これが起きると、作業者が自分の装置のライトカーテンを遮っている(本来止まるべき)にもかかわらず、隣からの強い光を受光器が拾ってしまい、「光が来ている=安全だ」と誤認して機械が止まらないという、極めて危険な故障モード(危険側の故障)に陥ります。
対策として以下の手法を組み合わせます。
- 配置の工夫:隣り合うセットは、投光器と受光器の向きを逆にする(背中合わせにする)。
- 周波数設定:多くのType4製品には「スキャンコード A/B」のような切り替え機能があります。 隣接するセットで異なるコードを設定することで、他者の光をノイズとして無視できます。
- 遮蔽板:間に不透明な板を立てて物理的に光を遮ります。
バリデーション(妥当性確認)の実施
設計・設置・配線・設定の全てが完了したら、最後に必ず バリデーション(Validation:妥当性確認) を実施し、記録を残さなければなりません。 これは「計算通り、設計通りに本当に安全が確保されているか」を実機で証明するプロセスです。
主な検証項目は以下の通りです。
- 検出能力の確認:
製品に付属している「テストロッド(検出能力と同じ太さの棒)」を使用し、検出エリアの上から下まで、どの位置に棒を入れても確実に赤ランプ(遮光)になることを確認します。一瞬でも緑(入光)になる場所があれば、それは「不感帯(死角)」であり、修正が必要です。 - 停止時間の実測:
専用の停止時間測定器を使用し、実際にライトカーテンを遮光してから機械が停止するまでの時間を計測します。 この実測値を用いて再度安全距離計算を行い、現在の設置距離が計算上の必要距離を上回っていることを確認します。 - インターロック等の機能確認:
手動リセットが機能するか、EDMによる溶着検知が働くか(擬似的にコンタクタを押してテストする等)を確認します。
これらの結果を「バリデーションレポート」として文書化し、保管することで、初めて機械設計者の責任を果たしたと言えます。
安全なライトカーテン設計のまとめ
この記事で解説した、ライトカーテンを用いた安全設計の重要ポイントをまとめました。
- ライトカーテンはJIS規格やリスクレベル(Type4/Type2)に基づいて選定する
- 最小検出物体が小さい(指検出)ほど安全距離を短くできるため、省スペース設計には有利である
- 安全距離は必ず S = (K × T) + C の計算式を用いて算出し、感覚で決めてはならない
- K値はまず2000mm/sで計算し、結果が500mmを超える場合のみ1600mm/sを採用できる(ただし最低距離は500mm)
- 機械停止時間 T には、実測値に加えて経年劣化分のマージン(ANSI推奨値や1.2倍など)を加算する
- 侵入距離 C は指検出なら0mmだが、手検出なら88mm以上の追加距離が必要になる
- 垂直設置時は、床から300mm以下の高さに設置して潜り込みを防ぎ、隙間は150mm以下にして全身侵入を防ぐ
- 危険源が低い位置にある場合は、乗り越え対策としてライトカーテンを高くするか、さらに距離を離す必要がある
- コーナーミラーは光量が減衰し調整が難しくなるため、使用枚数は最小限(1~2枚)に留める
- 出力配線はPNP出力を推奨し、必ずセーフティリレーユニット等の安全機器に2系統で接続する
- 人が内部に入れる構造の場合は、必ずマニュアルリセットとインターロック機能を採用する
- EDM機能を活用して、コンタクタの溶着故障まで含めたシステム監視を行う
- ミューティング使用時はランプ設置が必須であり、日本の現場では球切れ監視機能の有効化が強く推奨される
- ブランキング機能を使用すると最小検出物体が大きくなり、安全距離が伸びることに注意する
- 隣接する装置間では、投受光器の配置逆転や周波数変更を行い、相互干渉による危険な誤動作を防ぐ
- 最終的にテストロッドによる検出確認と停止時間測定を行い、バリデーション記録を保管する
以上です。
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