ベアリングを圧入するかの判断基準|事例と設計のポイント

 

ここでは 「ベアリングを圧入するかの判断基準|事例と設計のポイント」についてのメモをしています。

 

多くの機械設計者にとって、ベアリングの圧入に関する情報はカタログの公差表を追うだけの作業になりがちですが、本記事では単なる数値選びではなく、その背後にある工学的根拠と「なぜベアリングを圧入するのか」という理由を、私の実務経験と詳細な調査に基づき 「ベアリングを圧入すべき場面とそうでない場面の明確な基準」をより明確 にしています。

 

他の多くの情報源が一般的な推奨値を羅列するにとどまる中、ここでは振動や熱膨張といった「動的な環境」がはめあいに与える影響まで踏み込み、現場で即座に使える判断基準を網羅し、圧入治具を用いた施工方法や焼きばめの手順、将来のメンテナンス性までを含めた設計の全体像を解説します。

ベアリングの圧入判断とJISに基づく設計の基礎

しまりばめとすきまばめの基本的な使い分け

機械設計においてベアリングを組み込む際、軸やハウジング(穴)との結合状態、すなわち「はめあい」の選定は、機械の寿命と性能を決定づける最初の関門です。  はめあいは大きく分けて「しまりばめ」と「すきまばめ」の二つに分類され、それぞれの物理的特性と役割を明確に理解して使い分ける必要があります。

 

しまりばめとは、ベアリングの内径よりも軸径をわずかに大きく、あるいはハウジングの穴径よりもベアリング外径をわずかに大きく設定する設計手法です。  この状態では、組み立てる前は部品同士が幾何学的に干渉しており、強力な力を加えて「圧入」することで初めて組み合わさります。

 

圧入されたベアリングと軸は、弾性変形による復元力(面圧)によって強固に密着し、一体化します。  主に、回転トルクを伝達する必要がある駆動軸や、振動・衝撃が大きい箇所、あるいは高い位置決め精度や剛性が求められる重要保安箇所で採用されます。

 

一方、すきまばめとは、ベアリングと相手部材の間に意図的にわずかな「隙間(クリアランス)」を持たせる設計です。  この場合、ベアリングは手で抵抗なく軸に通したり、ハウジングに挿入したりすることができます。  主に、静止荷重を受ける側や、熱膨張によって軸が伸び縮みするのを吸収する必要がある「自由側軸受」、そして頻繁に分解や交換メンテナンスが行われる箇所に適用されます。

 

これらの中間に位置する「中間ばめ」もありますが、実務上は「動いてはいけない側をしまりばめで固定し、組立性を確保する側をすきまばめにする」というアプローチが基本 となります。  この基本的な使い分けを誤ると、運転中にベアリングが軸上で空転して軸を摩耗させたり、逆にきつすぎて組み立て時に部品を破損させたりする重大なトラブルにつながります。

 

 

回転区分で決める内輪と外輪の適切なはめあい

ベアリングの内輪と外輪、どちらを圧入(しまりばめ)にすべきかという判断は、経験則や勘ではなく、「回転区分」と呼ばれる論理的なルールに基づいて行われます。  このルールは、どの軌道輪が回転し、どちらの方向に荷重がかかっているかを分析することで導き出されます。

 

最も標準的なケースは「内輪回転・外輪静止」の状態です。  これはモーターの軸やファンの駆動軸など、産業機械の多くの部分で見られる構成です。  この場合、内輪は軸と共に回転し、荷重のかかる位置(作用点)が内輪の軌道面上を次々と移動していきます。  これを「回転荷重」と呼びます。  回転荷重を受ける内輪と軸の間に隙間があると、回転に伴って内輪が軸に対して円周方向にズレながら回る力が働きます。  これを防ぐために、内輪は必ず「しまりばめ」で軸に固定しなければなりません。  対して、静止している外輪には一定方向の荷重(静止荷重)がかかるため、ハウジングに対して「すきまばめ」を選択し、組立性を優先するのが一般的です。

 

逆に、「外輪回転・内輪静止」のケースもあります。  コンベアのアイドラーローラーや自動車のホイールハブなどがこれに該当します。  この状況では、外輪が回転荷重を受けることになるため、外輪をハウジング(ローラーやハブ)に対して「しまりばめ」にする必要があります。  一方、軸は固定されており内輪は静止荷重を受けるため、内輪を「すきまばめ」に設定し、メンテナンス時に軸から容易に抜けるように設計します。

 

以下の表に、回転状態と荷重の性質に基づく基本的なはめあい選定基準をまとめます。

表1:回転区分とはめあい選定の基本マトリクス

機械の動作状態 荷重を受ける軌道輪の性質 推奨はめあい(内輪) 推奨はめあい(外輪) 主な適用事例
内輪回転 / 外輪静止 内輪:回転荷重

 

外輪:静止荷重

しまりばめ (圧入) すきまばめ モーター、ポンプ、減速機
外輪回転 / 内輪静止 内輪:静止荷重

 

外輪:回転荷重

すきまばめ しまりばめ (圧入) コンベアローラー、車輪
方向不定荷重 両輪とも回転荷重とみなす しまりばめ (圧入) しまりばめ (圧入) 鉄道車両車軸、破砕機

参考出典先:NTN 転がり軸受総合カタログ

参考出典先:JTEKT 軸受の選び方

 

このように、「回転荷重を受ける側のリングを圧入する」という原則 を理解していれば、複雑な設計条件下でも迷うことなく適切な判断を下すことができます。

 

 

JIS公差と推奨される締め代の選定手順

圧入が必要と判断した場合、次は具体的にどの程度の寸法公差(公差域クラス)を図面に指示するかを決定します。  これは日本産業規格(JIS B 0401)に基づき、荷重の大きさや衝撃の有無を考慮して選定します。

 

軸の公差域クラスについては、一般的な内輪回転の用途において、荷重レベルに応じて以下のように使い分けます。

 

軽荷重や高い回転精度が求められる精密機器では、「k5」や「js5」などが選ばれます。  これらは締め代が非常に小さく、あるいはゼロに近い微小なしまりばめとなり、ベアリング内輪へのストレスを最小限に抑えます。

 

一般的な産業機械で、普通の荷重がかかる場合は「m5」や「m6」が標準的です。 これらは確実な圧入状態を作り出し、長期的な運転でも緩みが生じにくい設定です。

 

さらに、重荷重や激しい衝撃荷重が加わる環境(建設機械や圧延機など)では、「n6」や「p6」といった強いしまりばめを選定します。 ただし、これらは常温での圧入が困難なため、焼きばめ等の熱膨張を利用した組み立てが必要となります。

 

ハウジングの公差域クラスについても同様に検討します。 外輪が静止している一般的なケースでは、「H7」が最も標準的です。  加工がしやすく、適切なすきまばめが得られます。  より隙間を確保したい場合や熱膨張を逃がしたい場合は「G7」などを選ぶこともあります。

 

一方、外輪が回転する場合や、薄肉ハウジングで剛性が低い場合は、外輪の空転を防ぐために「M7」や「N7」といったしまりばめ公差を選定し、ハウジング穴をベアリング外径より小さく仕上げます。

 

 

表2:ラジアル軸受(0級)に対する軸・ハウジング公差の選定目安

適用条件(軸) 軸径の目安 推奨軸公差 備考
軽荷重・高精度 ≤ 100mm js5, k5 精密工作機械など。分解しやすい。
普通荷重 ≤ 100mm m5, m6 一般的なモーター、ポンプ。要治具圧入。
重荷重・衝撃荷重 50mm < d n6, p6 建設機械、大型ファン。通常は焼きばめ。
適用条件(ハウジング) 荷重の性質 推奨穴公差 備考
外輪静止(標準) 静止荷重 H7 最も一般的。すきまばめ。
外輪静止(高温) 静止荷重 G7 熱膨張差の逃げが必要な場合。
外輪回転 回転荷重 M7, N7 コンベアプーリー等。しまりばめ。

参考出典先:日本精工(NSK) 転がり軸受の選定

 

設計においては、カタログの推奨値を基本としつつ、対象となる機械の「等価ラジアル荷重」を計算し、それが基本動定格荷重に対してどの程度の割合(軽荷重、普通荷重、重荷重)になるかを確認した上で、最適な公差クラスを決定するプロセスが重要です。

 

 

圧入後の内部隙間減少と選定時の注意点

ベアリングを圧入ではめあう際、設計者が最も注意しなければならない物理現象の一つが「内部隙間の減少」です。  圧入によって生じる面圧は、軌道輪を弾性変形させます。

 

具体的には、内輪を軸に圧入(しまりばめ)すると、内輪は内側から押し広げられて外径方向に膨張します。  これにより、ボールやローラーが転がる軌道溝の直径が大きくなります。  逆に、外輪をハウジングに圧入すると、外輪は外側から締め付けられて内径方向に収縮します。  この内輪の膨張と外輪の収縮の合計分だけ、ベアリングが元々持っていた「ラジアル内部隙間」が減少することになります。

 

もし、標準的な隙間(CN隙間)を持つベアリングに対して、m6やn6といったきつい公差を設定してしまうと、組み立て後の残留隙間がゼロ以下(負の隙間)になってしまう可能性があります。  負の隙間状態で運転すると、転動体が常に強く挟み込まれた状態となり、回転トルクの増大、異常発熱、そして早期の焼き付き破損を引き起こします。

 

この問題を回避するため、しまりばめを採用する場合、特に締め代が大きい設計においては、あらかじめ内部隙間が標準より大きく設定されている「C3隙間」や「C4隙間」のベアリングを選定することが定石です。  設計時には、以下の要素を考慮して最終的な有効隙間を確認します。

 

  1. はめあいによる隙間減少量(内輪膨張+外輪収縮)
  2. 内外輪の温度差による隙間減少量(運転中は内輪の方が高温になりやすいため膨張する)

これらを差し引いても、運転時にわずかにプラスの隙間(あるいは目的に応じた適正な予圧)が残るように、初期隙間を選定することがプロの設計手法です。 (ベアリング選定は突き詰めると難しいのです)

 

 

フープ応力による内輪割れのリスク管理

圧入設計において見落とされがちなもう一つのリスクが、「フープ応力(円周方向引張応力)」による内輪の割れです。  ベアリングに使用される軸受鋼は、非常に硬く耐摩耗性に優れていますが、その反面、靭性(粘り強さ)はそれほど高くなく、引張力に対しては脆いという性質を持っています。

 

強いしまりばめで内輪を軸に圧入すると、内輪には円周方向に引き伸ばされる力が常に作用し続けます。  この引張応力(フープ応力)が材料の許容限界を超えると、運転中の衝撃や熱応力が加わった瞬間に、内輪が軸方向へ一直線に割れてしまうことがあります。  特に、中空軸に圧入する場合や、寒冷地など低温環境下で使用される場合は、材料が脆くなりやすいためリスクが高まります。

 

このリスクを回避するために、設計者は最大締め代における発生応力を計算で確認する必要があります。  一般的に、軸受鋼における安全な許容応力の目安は120MPa(メガパスカル)以下 とされています。

 

もし計算結果がこの値を超える場合は、より緩い公差クラスに変更するか、ベアリングのサイズを大きくして内輪の肉厚を確保する、あるいは圧入ではなく接着剤併用による固定を検討するなど、設計変更を行う必要があります。  安全率は機械の重要度に応じて十分に確保することが大切です。

 

 

事例から学ぶベアリングの圧入が必要な物理現象

圧入不足によるクリープ発生のメカニズム

ベアリング はめあい選定において、最も恐れられている不具合現象の一つが「クリープ」です。  クリープとは、はめあいに隙間がある状態で回転荷重を受けた際、ベアリングの軌道輪が軸やハウジングに対して徐々にズレて回転(周方向移動)してしまう現象 を指します。

 

これは単に摩擦が足りなくて滑っているだけの現象ではありません。  内輪と軸の間に隙間があると、ラジアル荷重を受けた接点において内輪がわずかに弾性変形してたわみます。  このたわみにより、接触している軸と内輪の間に周長差(移動距離の差)が生じます。   軸が回転すると、このわずかな差の分だけ内輪が進んでしまい、あたかも遊星歯車のように強力な駆動力で回転しようとします。  この力は非常に強大であり、止めねじや一般的な摩擦力だけで止めることは困難 です。

 

クリープが発生すると、接触面が削れて摩耗粉が発生し、それがベアリング内部に侵入して転動面を傷つけます。  さらに進行すると、摩擦熱によって局所的に高温となり、軸と内輪が溶着する「焼き付き」やかじりを引き起こし、最悪の場合はシャフトが痩せて細くなり、機械がガタガタになって停止する重大事故につながります。

 

前述の通り、回転荷重がかかる軌道輪に対しては、圧入(しまりばめ)によって物理的な隙間を完全に排除し、弾性変形による反発力で強力に一体化させることが、クリープを防止する最も確実で工学的に正しい対策 となります。

 

 

フレッチング摩耗を防ぐための確実な固定

圧入が不十分な場合や、微妙な隙間がある状態で振動荷重を受けると発生するのが「フレッチング(微動摩耗)」です。  これは、肉眼では止まっているように見える部品同士が、ミクロなレベルで微小な往復滑りを繰り返すことで生じる摩耗現象です。

 

すきまばめで取り付けられたベアリングに振動や変動荷重がかかると、接触面では極めて小さな範囲で金属表面が擦れ合います。  これにより、表面の酸化被膜が破壊されては再生するというプロセスが繰り返され、結果として「フレッチングコロージョン」と呼ばれる赤茶色の細かい摩耗粉(酸化鉄)が大量に発生します。  見た目が錆に似ているため腐食と間違われやすいですが、本質は摩耗です。

 

フレッチングが進行すると、はめあい面の隙間が拡大してガタが大きくなり、振動がさらに激しくなる悪循環に陥ります。  また、発生した硬い摩耗粉が研磨剤のように作用し、軸やハウジングを急速に摩耗させます。

 

これを防ぐためには、適切な締め代を与えて圧入し、接触面での微小な相対運動を物理的に封じ込めることが最も効果的です。  また、どうしても圧入ができない箇所では、高粘度のペースト状潤滑剤を塗布するか、嫌気性接着剤を併用して微小隙間を完全に埋めることで、フレッチングのリスクを低減させる手法 がとられます。

 

 

不釣り合い荷重環境下での特殊な選定基準

振動モーター、振動ふるい機、あるいは重心が偏った回転体を扱う機械では、「不釣り合い荷重」という特殊な荷重条件が発生します。  この環境下では、通常のはめあい選定ルール(内輪回転なら内輪圧入)が逆転する場合があるため、設計者は特に注意が必要です。

 

不釣り合い荷重とは、偏心した重り(ウェイト)の回転によって発生する遠心力のことです。この遠心力の方向は、軸の回転と同期して常に外側を向きます。

 

これをベアリングの視点で解析すると、以下のようになります。

  • 内輪(軸と共に回転): 偏心ウェイトも軸と一緒に回っています。 つまり、内輪から見れば、遠心力は常に同じ一点(ウェイトのある方向)にかかり続けます。 これは相対的に「静止荷重」の状態となります。
  • 外輪(ハウジングに固定): 荷重の方向(遠心力)は、軸の回転に合わせてグルグルと回ってきます。つまり、外輪の軌道面全周が順次荷重を受けることになり、これは「回転荷重」の状態となります。

 

この理屈に基づくと、振動機械においては、回転している内輪を「すきまばめ」にし、静止している外輪を「しまりばめ(圧入)」にするという、通常のモーターとは逆の選定が必要になるケースがあります。 これを誤って外輪をすきまばめにしてしまうと、ハウジングとの間で激しいクリープやフレッチングが発生し、ハウジング穴が楕円に摩耗してしまいます。

 

表3:不釣り合い荷重環境におけるはめあい選定のパラドックス

荷重の種類 内輪の荷重状態 外輪の荷重状態 推奨はめあい(内輪) 推奨はめあい(外輪)
通常荷重(自重・張力) 回転荷重 静止荷重 しまりばめ すきまばめ
不釣り合い荷重(遠心力) 静止荷重 回転荷重 すきまばめ しまりばめ

参考出典先:NTN 転がり軸受総合カタログ

 

このように、単に「回っているかどうか」だけでなく、「荷重のベクトルがリングに対して移動しているか」を見極めることが、トラブルを防ぐ高度な設計視点 です。

 

 

熱膨張するハウジングへの対策と計算

近年、機械の軽量化のためにアルミニウムや樹脂などの軽合金をハウジングに使用するケースが増えていますが、ここで大きな落とし穴となるのが「熱膨張係数の差」です。  鉄(軸受鋼)の線膨張係数が約12.5 × 10^-6 /Kであるのに対し、アルミニウムは約23 × 10^-6 /Kと、2倍近く熱で伸びやすい性質を持っています。

 

例えば、常温(20℃)で適切なしまりばめ公差を設定して外輪をアルミハウジングに圧入したとします。  しかし、機械が運転して温度が60℃~80℃に上昇すると、アルミ製のハウジングは鉄製のベアリング外輪よりも大きく膨張し、穴径が広がってしまいます。  その結果、高温運転時においてのみ締め代が消失し、意図せず「すきまばめ」の状態に変化してしまうことがあります。

 

この「締め代抜け」が発生すると、運転中だけ外輪がクリープを起こし、アルミハウジングを摩耗させてボアを拡大させるという厄介なトラブルにつながります。

 

この現象を目にする現場の保全さんは多いはずです。

 

この対策として、アルミハウジングを使用する場合は、最高使用温度における熱膨張分を計算で見込み、常温ではかなりきつい公差(P7, R7など)を設定しておく必要があります。  あるいは、アルミハウジングの軸受嵌合部に鉄製のスリーブ(インサートリング)を鋳込んだり圧入したりして、ベアリングとの接触面を「鉄対鉄」にする構造を採用することも有効です。  難しいですが、設計者は使用環境温度を正確に見積もり、熱による寸法変化をシミュレーションした上で公差を決定する慎重さが求められる場合もあります。

 

 

ベアリングの圧入方法とメンテナンスの実践技術

圧入治具を用いたベアリングの正しい挿入法

設計図面上でどれほど完璧な公差を選定しても、製造現場での組み立て方法が不適切であれば、ベアリングはその性能を発揮する前に致命的なダメージを受けてしまいます。  圧入作業において絶対に守らなければならない鉄則は、「圧入される側の軌道輪を直接押す」ということです。

 

具体例を挙げると、内輪を軸に圧入する場合、力を加えるべき対象は必ず「内輪」でなければなりません。  もし誤って外輪を押して力を加えてしまうと、その圧入力はボールやローラー(転動体)を介して内輪に伝わることになります。  この時、転動体が軌道面に強く押し付けられ、微小な圧痕(ブリネル圧痕)や傷がつきます。  これが原因で、新品の状態から回転不良や異音が発生することになります。

 

正しい施工を行うためには、専用の「圧入治具(当て金)」を使用します。  これは内輪の端面全体に均等に力がかかるように精密に加工されたパイプ状の工具です。  ハンマーでベアリングを直接叩くことは厳禁です。  ハンドプレスや油圧プレスを使用し、治具を介してゆっくりと一定の速度で、軸に対して真っ直ぐに押し込むのが理想的です。

 

設計者は、この治具が内輪端面に確実に当たるだけのスペース(軸の肩の高さや逃げ)をあらかじめ確保しておく形状設計を行う必要があります。 量産の場合は、 適切な面粗さや取り付け部の幾何公差 及び 圧入力の管理 などで締め代の管理を行う方法も取られます。

 

 

焼きばめによる加熱挿入の温度管理と手順

大型の産業用ベアリングや、重荷重用で締め代が大きい「n6」「p6」のような公差の場合、常温での圧入は物理的に困難であり、無理に行えば接触面がかじり(金属同士の凝着)を起こして損傷します。  そこで一般的に用いられるのが「焼きばめ」という手法です。

 

焼きばめは、ベアリング全体を加熱して熱膨張させ、内径を一時的に広げてから軸に挿入する方法です。  冷却すれば元の寸法に戻り、強固なしまりばめが得られます。  この工程で最も重要な管理項目は「加熱温度」です。

 

一般的な軸受鋼の組織が変化せず、硬度を維持できる上限温度は120℃とされています。  これを超えて加熱すると、鋼の焼き戻し が進んで軟化し、ベアリングの定格寿命が劇的に短縮されてしまいます。  実務的には、安全マージンを見て100℃以下での作業が推奨されます。

 

加熱方法としては、専用の「電磁誘導加熱装置(インダクションヒーター)」を使用するのがベストです。  この装置は、ベアリングを均一かつ迅速に加熱でき、温度制御も正確で、作業後の消磁も自動で行ってくれます。ガスバーナーによる直火加熱は、温度ムラが激しく局所的な過熱のリスクが高いため、絶対に行ってはいけません。

 

また、焼きばめ直後は、冷却に伴ってベアリングが軸方向にも収縮しようとします。このため、挿入後は完全に冷えるまでシャフトナット等で軸方向に圧力をかけ続け、軸の肩と内輪の間に隙間ができないように密着させる処置(増し締め)が不可欠です。

 

 

将来のメンテナンスを考慮した設計の工夫

圧入されたベアリングは極めて強固に固定されているため、機械の寿命や定期点検で交換が必要になった際、その取り外し作業は困難を極めます。  もし設計段階でメンテナンス性を考慮していなければ、現場の作業者はベアリングを外す手段がなく、バーナーで焼き切ったり、軸ごと破壊したりすることになりかねません。

 

熟練した設計者は、組み立てだけでなく「分解」のことも考えて図面を描きます。  具体的な工夫として、以下のような設計が挙げられます。

 

  1. プーラー用切り欠きの設置: 軸の肩部(ベアリングが突き当たる部分)に、引き抜き工具(プーラー)の爪を引っ掛けるための溝や切り欠きを設けておきます。  これにより、内輪を確実に掴んで引き抜くことができます。
  2. ジャッキボルト穴の配置: ハウジングにベアリング外輪を圧入する場合、ハウジングの底や裏側に貫通したネジ穴(サービスホール)を設けておきます。  分解時はここにボルトをねじ込むことで、ベアリング外輪を裏側から均等に押し出すことが可能になります。
  3. 油圧外し用の油溝: 超大型の軸受では、軸心に油圧ポンプ接続用の穴と油溝を加工し、高圧油をはめあい面に送り込んで膨張させながら抜く「油圧抜き」ができるように設計することもあります。

「どうやって入れるか」だけでなく、「どうやって外すか」まで想像力を巡らせて形状を決定することが、現場から信頼される設計者の条件と言えるでしょう。

 

 

まとめ:ベアリングの圧入を理解し最適設計へ

ベアリングの圧入に関する設計は、機械の性能と信頼性を根底から支える重要なエンジニアリングです。本記事で解説した主要なポイントを以下にまとめます。

 

  • しまりばめ(圧入)は、回転荷重によるクリープ発生を物理的に阻止する唯一の確実な手段である
  • すきまばめは、組立・分解の容易性や、熱膨張による軸の逃げが必要な自由側に適用する
  • はめあい選定の基本原則は「回転荷重を受ける側の軌道輪を圧入する」ことである
  • 一般的な内輪回転・外輪静止の場合、内輪を「しまりばめ」、外輪を「すきまばめ」にする
  • 外輪回転(コンベア等)の場合、外輪を「しまりばめ」にする必要がある
  • 不釣り合い荷重(振動機)では、荷重ベクトルが回転するため、通常とは逆に外輪を圧入するケースがある
  • JIS公差(k5, m5, n6等)は、荷重の大きさや衝撃の有無に応じて適切にランクを選定する
  • 圧入を行うとベアリングの内部隙間が減少するため、必要に応じてC3やC4隙間を選定して補正する
  • 過度な締め代はフープ応力による内輪割れのリスクがあるため、許容応力の確認が必要である
  • アルミハウジングは熱膨張で隙間が広がるため、温度変化を見込んだ公差設定やインサート対策を行う
  • 圧入作業時は、必ず圧入する側のリングを治具で押し、転動体に衝撃荷重を伝えない
  • 焼きばめを行う際は、加熱温度が120℃を超えないように厳密に管理する
  • メンテナンス時の交換作業を容易にするため、プーラー用の切り欠きやジャッキ穴を設計に盛り込む
  • フレッチング摩耗は微小な隙間から発生するため、確実な固定または接着剤の併用が有効である
  • 迷った際は、各ベアリングメーカーのカタログ推奨値を基準にしつつ、独自の環境要因を加味して決定する

 

以上です。