ここでは、最近流行り始めている キーエンスさんの「ライン型シリンダセンサ」 についてのメモです。
設備立ち上げ時の煩雑なセンサ位置調整や、運用中のパッキン劣化に伴う速度変化に起因する予期せぬチョコ停など、空気圧制御には実務上の潜在的な課題が山積しています。 そんな悩みを解決できる(できそうな)キーエンスさんのライン型シリンダセンサ について要点をまとめています。
自動機を設計する中で、サイクルタイムの短縮と終端での突き当て衝撃の緩和という相反する課題や、私自身の現場での機械設計経験を基盤とし、足りない部分はメーカーの公式技術情報やJIS規格などの信頼できる一次情報を調査して補完しています。 参考になれば幸いです。
キーエンスのシリンダセンサの基礎と使い方
動作原理であるライン検出の基礎知識
キーエンスのCS-Lシリーズは、空気圧シリンダのピストン位置を把握するための全く新しいアプローチを採用しています。 従来のセンサがピストン内部のマグネットが特定の点を通過したか否かを検知するのに対し、この製品は直線上に高密度に並べられた多数の検出素子群を用いて磁界の変化を広範囲に捉えるライン検出方式を採用しています。 この仕組みにより、ピストンの現在位置を常に連続的な線として可視化することが可能になります。
内部のプロセッサは読み取った磁界情報を高速で処理し、0.1 mmという極めて高い分解能でピストンの絶対位置を判別します。 さらに、この連続的な位置データをもとに、シリンダが動作を開始してから終端に到達するまでのストローク時間をミリ秒単位で計測したり、独自のアルゴリズムによって突き当て時の衝撃レベルを定量的な数値として算出したりする高度な機能を有しています。 これまでの単純な接点出力デバイスから、シリンダの動的な状態を監視できるデバイスへと進化していることが理解できます。
点で見る従来比較での圧倒的な違い
自動機設計の現場で広く採用されているSMC社のM9Bなどに代表される従来型のオートスイッチは、設定された特定の磁束密度を閾値としてオンとオフを切り替える接点式の検出方式です。 これらは非常に高い信頼性を持ちますが、設備立ち上げ時の位置調整において、作業者がシリンダを手動で動かしながらセンサ本体をスライドさせ、LEDが点灯する境界を探り当ててから極小の止めねじで固定するというアナログで属人的な作業が不可欠でした。
これに対してキーエンスのセンサは、ピストンを出力したい任意の位置に移動させた後、センサ本体に備わっているセットボタンを一度押すだけでティーチングが完了します。 また、従来方式でシリンダの前進端と後退端の2箇所を検出する場合、2つのセンサを設置し、それぞれからプログラマブルロジックコントローラの入力ユニットまで個別に配線を引き回す必要がありました。 新しい方式では、1台のデバイスから通信ケーブル1本を経由して、複数箇所の制御出力や詳細な状態データを一括して伝送できるため、物理的な配線量が劇的に減少するという明確な違いがあります。
| 比較項目 | キーエンス CS-Lシリーズ | 従来型接点スイッチの参考事例 |
| 検出方式 | 直線配列素子による連続ライン検出 | 磁気抵抗素子等による単一点検出 |
| 位置分解能 | 0.1 mm | 該当なし |
| 繰り返し精度 | ±0.5 mm | センサ固有のヒステリシスに依存 |
| 最大対応速度 | 3 m/s | 内部スイッチの応答速度による制限 |
| 位置調整方法 | 任意位置でのボタン押しによるワンタッチ設定 | 手動スライドと極小止めねじによる物理調整 |
| 取得可能な出力情報 | 位置、ストローク時間、衝撃レベル、ズレ量 | ピストン到達の有無を示す接点出力のみ |
| 通信および配線方式 | IO-LinkまたはCS-Linkを用いた1本での通信 | 前進端と後退端それぞれに独立した2本の配線 |
参考出典先:キーエンス公式カタログ
設計者が知るべきメリットの全容
機械設計の観点から見た最大の利点は、装置のタクトタイム短縮と、稼働後のダウンタイムを極限まで削減できる点にあります。 前述の通り、ストローク時間や衝撃レベルを常時監視できるため、これらの数値が事前に設定した閾値を超過した際に警告を出す仕組みを容易に構築できます。 これにより、パッキンの摩耗やメカニカルな引っ掛かりといった設備の異常を、実際にチョコ停や部品破損が発生する前に検知する予兆保全のシステムが実現します。
さらに見逃せない利点が、 専用のスマートクッションバルブであるSP-Cシリーズ と連動させた際の圧倒的なパフォーマンス向上です。 センサが取得したピストンのリアルタイム位置情報をもとに、バルブ内部の高速流路と減速流路を自動で切り替える機能を持っています。 これにより、シリンダの移動速度を限界まで上げつつ、突き当たる直前でのみ適切な減速を行って衝撃を吸収することが可能になります。 空気圧の変動や経年劣化に合わせてクッション開始タイミングを自動補正するオートストロークコントロール機能も備わっており、安全率を過剰に見込んだ遅いシリンダ速度を設定する必要がなくなります。 したがって、理論限界に近いサイクルタイムで装置を稼働させることが可能になると考えられます。
導入前に把握すべきデメリットとは
多機能で高性能なデバイスである反面、いくつかの懸念事項も存在します。 最も考慮すべき点は、システム全体としての初期導入コストの上昇です。 単純な接点スイッチと比較してセンサ単体の価格が高いことに加え、その真価を発揮するためにはIO-Linkマスタや専用の高機能アンプ、あるいはスマートバルブといった周辺通信機器のインフラを同時に整える必要があります。 単なる位置確認だけが目的の単純な機構においては、オーバースペックとなり投資対効果が見合わないリスクがあります。
また、電気設計やソフトウェア設計の担当者とこれまで以上に綿密な連携が求められます。 単なる入出力の割り付けだけでなく、各種パラメータを受信および処理するプログラムの作成工数が発生します。 物理的な制約としては、後述する不感領域の存在により、ストロークに対してセンサ本体がオーバーハングする可能性があるため、極端に狭小なスペースへの設置には不向きなケースがあります。 これらの要素を踏まえ、プロジェクトが求める要求仕様とコストのバランスを冷静に評価することが大切です。
キーエンスのシリンダセンサの設計上の違い
適合するシリンダ形状とスロット規格
実際の機械設計において、用途や推力に合わせて様々なメーカーの空気圧シリンダを選定しますが、本デバイスを適用するためには、シリンダ本体に設けられているセンサ取り付け溝の形状との適合性を事前に確認しなければなりません。 キーエンスのCS-Lシリーズは、世界のファクトリーオートメーション市場で主流となっている2種類のスロット規格に標準対応しています。
| スロット規格 | スロット溝幅の目安 | 代表的な適合シリンダメーカーおよびシリーズ | 適合するセンサの型式と対応方法 |
| Cスロット | 3.6 mm から 5.1 mm | SMC社製 CDQ2シリーズ、MGPシリーズなど | CS-LC系をそのまま直接はめ込み固定 |
| Tスロット | 6.5 mm から 8.0 mm | Festo社製 DSBCシリーズ、DGSLシリーズなど | CS-LT系をそのまま直接はめ込み固定 |
| 丸形シリンダ | ボア径 6 mm から 63 mm | 各社標準的な丸形プロファイルのシリンダ全般 | Tスロット用センサと専用バンド式ブラケットを使用 |
| 特殊Tスロット | 該当なし | CKD社製の一部シリンダ | Cスロット用センサと専用変換ブラケットを使用 |
| タイロッド | 該当なし | 各社タイロッドシリンダ全般 | メーカー純正ブラケットに適合するセンサを選定 |
参考出典先:キーエンス公式カタログ
スロット幅が約3.6ミリから5.1ミリのCスロットと、約6.5ミリから8.0ミリのTスロットに対応する製品がそれぞれラインナップされています。 これら標準的なスロットを持たないシリンダに対しても、専用の変換ブラケットを用いることで対応の幅を広げています。 例えば、丸形シリンダには外周に巻き付けるバンド式のブラケットを、特殊なTスロットを持つCKD社製シリンダには専用の変換ブラケットを介してCスロット用センサを取り付けることが可能です。 タイロッドシリンダの場合は、各シリンダメーカーが提供するタイロッド用のスイッチブラケットを用意し、そのスロット形状に適合するセンサを選定するという手順を踏みます。
上からの直接取り付けがもたらす利点
組み立て作業やメンテナンス性を大きく向上させる設計上の工夫として、スロットに対して上方から垂直にはめ込むことができるクイックアクセス機構が挙げられます。 従来型のオートスイッチの中には、シリンダの端面からスロットの溝に沿って横方向にスライドさせて挿入しなければならない構造のものが多く存在します。 そのような構造の場合、シリンダの前後を強固なブラケットで挟み込んだり、周囲をカバーで覆ったりする高密度な装置レイアウトを行うと、センサが故障した際にシリンダ自体を装置から完全に取り外さなければ交換作業ができないという大きな問題がありました。
直接取り付けが可能な構造であれば、周囲の構造物と干渉することなく、上方からのアクセスのみでセンサの着脱が完結します。 さらに、交換時の位置ズレを防ぐための小さなメモリブロックという部品が付属しています。これをあらかじめスロット内に固定しておくことで、万が一センサ本体が破損しても、新しいセンサをメモリブロックに突き当てて設置するだけで全く同じ物理的基準位置への復旧が可能となり、再調整の手間を省くことができます。
情報連携に必須となるPNP配線の要件
日本の自動化業界では長年にわたりマイナスコモンであるNPN出力が広く使われてきましたが、グローバル化の波に伴い欧州基準のプラスコモンであるPNP出力への移行が進んでいます。 キーエンスのシリンダセンサにおいて、この出力形式の選択は単なる電気配線の違いにとどまらず、装置の機能そのものを左右する極めて大きな決定事項となります。
本製品の最大の強みであるストローク時間の監視や衝撃レベルの算出、スマートバルブマニホールド等との専用通信やIO-Link通信を利用するためには、必ずPNP仕様のM8コネクタタイプのモデルを選定しなければなりません。 NPNのバラ線タイプのモデルもラインナップされていますが、これらは接点としての出力は可能であるものの、高度なマルチ情報のシリアル通信機能には対応していません。 部品表を作成する初期段階で電気回路設計者と仕様をすり合わせ、ネットワーク連携を見据えた正しい配線要件を確定させておくことがプロジェクトを円滑に進めるための鍵となります。
JIS規格に基づくデジタル記録の重要性
日本国内で稼働する各種生産設備の品質と安全性を担保する基準として、日本工業規格の順守が強く求められるケースがあります。 空気圧システムに関するJIS B 8377-1においては、スイッチ付きシリンダを出荷あるいは引き渡す際、品質保証の観点からスイッチの動作や磁力を最終組立の段階で確認し、その記録を残すのがよいと明記されています。
キーエンスのセンサをコントロールパネル等と連携させたシステムでは、ティーチングした出力位置の設定値や、計測されたストローク時間、衝撃レベルなどの動作データをCSV形式などでUSBメモリや上位ネットワークへ直接エクスポートすることが可能です。 以上の点を踏まえると、JIS規格が推奨する動作記録を人為的なミスのない確実なデジタルデータとして顧客に提出できることは、設備全体の信頼性と付加価値を飛躍的に高める強力な裏付けになると言えます。
キーエンスのシリンダセンサの注意点と結論
磁気干渉や不感領域の設計上の対策
実際に図面を引き、部品を配置していく工程において、物理的な制約を見落としてはなりません。 まず考慮すべきは不感領域の存在です。 ライン検出方式の特性上、センサ本体の両端には磁界を正確に読み取ることができない領域が存在します。 そのため、シリンダの実際のストローク長に対してプラス5ミリ以上の余裕を持った寸法のセンサを選定する必要があります。 例えば、ストローク長が30ミリのシリンダであっても、センサ本体の全長は約53.5ミリとなるため、短ストロークのシリンダに適用する場合はセンサがシリンダ後端から大きくはみ出し、周囲の機構部品と干渉しないよう入念なクリアランス設計が求められます。
逆に長ストロークのシリンダにはシリンダセンサを2個使うなどの方法が可能です。
また、一般的な磁気式センサを用いた空気圧回路設計における普遍的な物理現象として、磁気干渉への対策が必要です。 公式なマニュアル内に極端な禁止事項として特筆されてはいませんが、複数のエアシリンダを極端に密集させて平行配置した場合、隣接するシリンダのピストンマグネットから漏れ出る磁束が互いの高感度な検出素子に影響を与え、誤動作や分解能の低下を引き起こすリスクが考えられます。 機構的に許される限りアクチュエータ間のピッチを十分に確保する、あるいは強磁界を発生させる大容量サーボモータの動力線の直近への配置を避けるといった、ノイズ対策の基本に忠実なセーフティ設計を心がけることが大切かもしれません。
導入コストがトレードオフとなる要素
設計要件を満たす上で、常に議論の的となるのが予算と性能の天秤です。 最先端のセンシング技術と通信インフラを備えたキーエンスのソリューションは、従来のオートスイッチ単体と比較して、システムを構築するための初期導入費用が必然的に高くなります。 単発の簡易的な治具や、サイクルタイムに十分な余裕がありコストダウンが至上命題となっているローエンドな設備に対してフルスペックで導入することは、過剰品質とみなされる可能性があります。
一方で、半導体製造装置や車載部品の高速組み立てラインなど、タクトタイムの0.1秒の短縮が莫大な生涯利益をもたらす設備や、24時間無人稼働を前提とし、パッキンの経年劣化による突発的な停止ダウンタイムが深刻な損失を招くクリティカルな環境においては評価が逆転します。 ストロークコントロールによる生産効率の最大化と予兆保全によるメンテナンスフリー化がもたらすランニングコストの削減効果は、初期投資の差額を極めて短期間で回収するポテンシャルを持っています。 要するに、設備がエンドユーザーにもたらす長期的な価値を正確に試算し、コスト増を正当化できる箇所を見極めることが設計者の腕の見せ所となります。
従来型との使い分けとハイブリッド構成
すべての空気圧シリンダを闇雲に最新のライン型センサに置き換えることは、予算的にも設置スペース的にも現実的な最適解とは言えません。 多種多様なアクチュエータが混在する自動機においては、従来から親しまれているSMC社の無接点スイッチのようなシンプルで安価な点検出センサとの適材適所な使い分けを行うことが実務上のベストプラクティスとなります。
| 適用する機構と用途 | 制御に求められる主要な要求事項 | 推奨するセンサの構成 | 推奨理由と得られる効果 |
| 装置全体のタクトを握る主軸機構 | 極限のサイクルタイム短縮と強い衝撃の確実な緩和 | ライン型センサとスマートクッションバルブの連携 | ストローク時間の自動補正により限界速度での連続稼働が可能 |
| 多品種混流のワーク押し当て機構 | ワークサイズ変更に伴う停止位置の頻繁な切り替え | ライン型センサによる複数点出力や範囲設定の活用 | 段取り替え時のセンサ位置の物理的な再調整作業を完全に排除 |
| 単純なワーククランプや位置決めピン | 動作の有無のみの確認と導入コストの徹底的な抑制 | 従来型の安価な無接点オートスイッチなどの点検出センサ | 厳密な速度監視が不要な箇所におけるオーバースペックの回避 |
参考出典先:キーエンス公式カタログ
サイクルタイムの制約が厳しく速度と衝撃緩和の両立が必要な主軸機構や、多品種混流ラインでワークサイズに合わせて停止位置が頻繁に変動する箇所には、キーエンスのCS-Lシリーズを適用してフルスペックの制御を行います。 対して、単にワークを横から押さえつけるだけのクランプ機構や、位置決めピンの抜き差しを行うだけの補助シリンダなど、厳密なストローク監視が不要な箇所には従来型の接点スイッチを配置します。
キーエンスのシリンダセンサで最適な設計を
- 点ではなく線で位置を連続的に把握するライン検出方式を採用している
- 0.1ミリの分解能でピストンの絶対位置をミクロン単位で判別する
- ボタンを1回押すだけで出力位置のティーチングが完了し調整工数を削減する
- シリンダのストローク時間や突き当て時の衝撃レベルを定量的に可視化できる
- 設定値を超過した際に警告を出すことで設備の予兆保全に直接的に貢献する
- 1本のケーブルで複数点の出力や各種データ通信が可能になり配線を省力化できる
- 世界標準であるCスロットおよびTスロットの双方にそのまま適合する
- 丸形やタイロッドなど特殊形状のシリンダにも専用ブラケットで柔軟に対応できる
- 上からの直接取り付け機構により装置を分解せずにセンサの着脱が可能である
- 付属のメモリブロックを活用することで交換時の位置再現性を極めて高く保てる
- 高度なシリアル通信機能を利用するためにはPNP仕様の配線選択が必須条件となる
- JIS規格で推奨されるスイッチ動作の記録をデジタルデータとして容易に保存できる
- センサ両端に存在する不感領域を考慮して余裕を持った寸法のサイズ選定を行う
- クリティカルな主軸機構にはライン型を採用し補助機構には従来型を配置する
- すべての入出力情報を専用のユニットで一元管理するハイブリッド設計を構築する
以上です。