エアシリンダで同期する2軸の機構設計|実践ガイド

 

ここでは FA自動機設計では基本的にやってはいけない「エアシリンダで同期する2軸の機構設計」 についてメモしています。

 

自動機の設計実務において、ワークを水平に昇降させたり、大型のプレートを並列に搬送したりする際、2本のエアシリンダで同期を取りたくなる場面が多々あります。

 

しかし、安易にエアシリンダを採用した結果、片方の動きが遅れて機械がこじれたり、ワークが傾いて落下したりといったトラブルに悩まされる設計者も少なくありません。  多くの技術解説サイトではスピードコントローラの調整方法などが語られていますが、それだけで解決しないのが空気圧システムの難しいところ です。

 

本記事では、私がこれまでの設計経験で培ったノウハウに加え、国内主要メーカーの技術知見やJIS B 8370といった公的規格の内容を深く掘り下げて解説します。 エアシリンダが構造的に同期不向きとされる物理的な理由を明確にし、最終的にはストローク公差が終端位置に及ぼす物理的影響といった細部までを網羅的に理解できる構成になっています。

エアシリンダで同期が困難な物理的要因

空気の圧縮性が動作のバラつきを生む仕組み

エアシリンダを2本並行に動かそうとする際、最大の障壁となるのが空気の圧縮性という性質です。 空気は圧力 P や温度 T、体積 V の変化に応じて容易にその形状を変える弾性体のような振る舞いをします。  このため、電磁弁を開いてエアを送り込んでも、シリンダ内部の圧力が負荷に打ち勝つレベルに達するまでには必ずタイムラグが発生します。

 

例えば、配管の引き回しが左右で数センチ異なるだけで、到達するエアの圧力上昇スピードに差が生じてしまいます。  片方のシリンダが動き出した瞬間、もう一方はまだ「エアを溜めている状態」にあるといった時間差が生まれるのはこのためです。  空気という縮む媒体を使っている以上、電気信号のように瞬時に2軸を同期させることは物理的に不可能であると理解しておかなければなりません。

 

スティックスリップ現象による起動時のズレ

起動時の挙動を不安定にするもう一つの大きな要因は、パッキンの摩擦によって引き起こされるスティックスリップ現象です。  ピストンを密閉しているゴムパッキンは、静止している状態から動き出す際に非常に大きな抵抗を示します。  この抵抗に打ち勝つためにエアが溜まり、圧力が臨界点を超えた瞬間にピストンが急激に飛び出す挙動を見せます。

 

ただ、この摩擦特性はシリンダごとに微妙な個体差があるのが実情です。  グリースの馴染み具合や設置環境の温度によっても左右されるため、2本のシリンダが全く同じタイミングで「飛び出し」を開始することは稀だと言えます。  このように、摩擦という不確定要素が介在するエアシリンダは、同期運転において常に微細なズレを内包しているのです。

 

安定動作の鍵となる負荷率の適切な設定

同期の精度を少しでも高めるためには、シリンダの負荷率を通常よりも厳密に管理する設計が求められます。  負荷率とは、シリンダが出力できる理論推力に対して、実際に動かすワークの重さや抵抗がどれだけの割合を占めるかを示す数値です。  この数値に余裕がないと、わずかな負荷変動がダイレクトに速度低下へと繋がり、2軸のズレを致命的なレベルまで拡大させます。

 

一般的な単軸動作では負荷率 0.7 程度での選定も許容されますが、同期運転の場合は 0.3 から 0.5 程度に抑えるのが設計の定石です。  推力に十分な余力を持たせることで、空気のバネ特性による速度変動の影響を最小限に留めることが可能になります。

シリンダの動作条件 推奨負荷率(η) 設計上の目安
一般的な水平・垂直動作 0.7 以下 標準的な選定基準
動作速度 500mm/s 以下 0.3 ~ 0.5 安定した速度制御を優先
動作速度 500mm/s 以上 0.2 ~ 0.3 衝撃と慣性力を考慮
2軸同期運転(推奨) 0.3 ~ 0.5 荷重の偏りに対する安全率

参考出典先:SMC株式会社(https://www.smcworld.com/catalog/BEST-technical-data/pdf/AirCylinder-Select-Tech.pdf

 

ストローク公差が終端位置に及ぼす物理的影響

2軸が完璧に連動して動いたとしても、最後に停止する位置でズレが生じるリスクがあります。  これは、製品ごとに設定されているストローク公差が原因です。  JIS規格や国内メーカーの基準では、シリンダの製造過程で生じる数ミリ程度の公差が認められており、これがそのまま2軸の到達距離の差となって現れます。

 

たとえ同じ型番であっても、一方はストローク端に到達しているのに、もう一方はまだ 1 手前にいるという状況が起こり得ます。  このわずかな差が、ワークを支持する治具やプレートに無理なひねり(モーメント)を発生させ、機械を損傷させる原因となります。  したがって、停止位置の精度が重要となる設計では、シリンダ内部のストッパに頼らず、外部に共通のメカストッパを設ける等の対策を講じることが不可欠です。

ストローク範囲 許容差 備考
250 以下 +1.0 / 0 小型・中型シリンダ
251 ~ 1000 +1.4 / 0 大型シリンダ
1001 ~ 1500 +1.8 / 0 超大型シリンダ

参考出典先:株式会社TAIYO(https://www.taiyo-ltd.co.jp/products/pneumatic/docs/Catalog_7A2.pdf

 

 

エアシリンダで同期を実現する具体的な手法

メーターアウト制御と等長配管による応答改善

エア回路の工夫によって同期精度を向上させる第一歩は、メーターアウト制御の採用と等長配管の徹底です。 メーターアウト制御とは、シリンダからの排気エアを絞ることで背圧をかける手法を指します。  これにより、ピストンが空気のクッションに挟まれた状態で動くことになり、空気の圧縮性による急な飛び出しや速度変動を抑えることが可能です。

 

一方で、電磁弁から各シリンダまでのチューブの長さを完全に一致させる等長配管も欠かせません。  配管が長い方のシリンダは、内部容積が大きいために圧力が立ち上がる時間が遅れます。  配置の関係で一方が短く済む場合でも、あえて長い方に合わせてチューブを巻いて長さを揃えるといった処置を行うことで、2軸の応答タイミングを極限まで近づけることができます。

 

ラック&ピニオンで2軸を機械的に直結する

制御的なアプローチに限界を感じる場合は、機械的な要素で2軸を強制的に拘束する設計が最も確実です。  代表的なのが、2本のシリンダロッドにそれぞれラックを取り付け、それらを共通のピニオンシャフトで連結する方法です。  この構造にすれば、一方のシリンダが先行しようとしても、ピニオンを介してもう一方が引きずられるため、物理的に位置が一致し続けます。

 

この方法の利点は、エアの調整に頼ることなく長期にわたって安定した同期を維持できる点にあります。  ただ、シャフトのねじれやラックのバックラッシが精度に影響するため、十分な剛性を持った機械要素を選定することが求められます。  また、2軸間にわずかな推力差がある場合、その力が全てピニオンシャフトに加わるため、強度計算を丁寧に行う必要があるでしょう。

 

リンク機構による単一駆動源からの同期分岐

2軸の同期問題に対する最も賢明な回答の一つは、駆動源を1本に集約し、リンク機構で力を分岐させることです。  1本のシリンダからトグルリンクやパラレルリンクを介して2箇所を動かせば、同期がズレるという概念そのものが消失します。  これは日本の自動機設計で古くから用いられてきた信頼性の高い手法です。

 

一つの駆動源からメカ的に動力を分けることは、部品点数の削減やコストダウンにも寄与します。  また、メンテナンス時の調整箇所が減るため、現場での運用性も飛躍的に向上します。  複数のシリンダを使うことに固執せず、まずはリンク機構で実現できないかという視点を持つことが、プロの設計者としての品位を高めることになります。

 

エアシリンダで同期させる設計の注意点と代替案

荷重バランスの最適化と剛性ガイドによる対策

エアシリンダによる同期を成功させるには、ワークの重心位置をシリンダ配置の中心に持ってくる荷重バランスの最適化が前提となります。  重心がどちらかに偏っていると、そちら側のシリンダにかかる負荷が増大し、空気の圧縮性によって動きが著しく遅れてしまいます。  設計段階でワークの3次元重心を算出し、各軸に加わる荷重を均等化することが最優先事項です。

 

さらに、同期が崩れた際に発生するワークの傾きを物理的に抑え込むため、強力な剛性ガイドの併用が欠かせません。  リニアガイドなどの案内装置を採用し、シリンダの推力差によって生じるひねりモーメントをガイド側で完全に受け止めるように設計します。  これにより、シリンダに無理な負担をかけることなく、安定した昇降や水平移動を維持することが可能になります。

 

フローティングジョイントで横荷重を逃がす

2軸同期機構において、シリンダロッドを直接ワークに固定するのは避けるべきです。  なぜなら、左右の動きがわずかにズレただけで、ロッドに対して垂直方向の「横荷重」が加わり、パッキンの損傷やロッドの折損を招くからです。  これを回避するために、シリンダ先端には必ずフローティングジョイントを装着してください。

 

フローティングジョイントは、取付位置の微細なズレや動作中の傾きをフレキシブルに吸収し、シリンダには純粋な押し引きの力(軸方向荷重)のみを伝える役割を果たします。  ワークのガイドはリニアガイド等の案内装置に任せ、シリンダはあくまで動力を伝える役割に徹させるという「役割分担」を明確にすることが、長寿命な装置を作るコツです。

 

 

JIS B 8370に基づく安全回路と外部ストッパ

空気圧システムの安全性を担保するJIS B 8370では、予見可能な危険に対する設計上の配慮を求めています。  2軸同期では、一方のシリンダが故障して停止した際に、もう一方がそのまま動き続けることで装置を破壊するリスクがあります。  これに対する安全対策として、両軸のストロークエンド到達時間を監視し、一定時間以上の差が出た場合に即座にエアを遮断する回路の構築が推奨されます。 こういった場所でもキーエンスさんの ライン型シリンダセンサ が有効になってくるかもしれません。

 

また、前述のストローク公差の問題を解決し、JIS規格が求める「確かな作動」を実現するために、外部ストッパによる物理的な位置規制も効果的 です。  シリンダの内部クッションだけに頼らず、強固な外部ストッパで最終的な停止位置を合わせることで、精度と安全性の両立を図ることができます。  さらに、起動時の急な動きを防ぐソフトスタート弁の導入も、同期不全によるトラブル防止には非常に有効です。

 

 

電動シリンダによる高精度な2軸同期の検討

もし、ミクロン単位の停止精度や、プログラムによる柔軟な同期制御が必要な場合は、エアシリンダから電動シリンダへの切り替えを検討してください。  電動シリンダはサーボモータ(パルスモータ)によって制御されているため、コントローラ上で複数の軸を完全にリンクさせ、位置・速度・加速度をリアルタイムで同期させることが可能です。

 

初期コストは高くなりますが、エア漏れによるエネルギー損失がなく、何より調整に費やす多大な時間を削減できる点は大きなメリットです。  エアシリンダは防爆環境や単純な往復動作には適していますが、高度な同期が求められる精密機械の分野では、電動化が標準的な選択肢となりつつあります。  要求スペックとトータルコストを天秤にかけ、最適なアクチュエータを選定することが重要です。

評価項目 エアシリンダ ハイドロエアシリンダ 電動シリンダ
同期精度 ± 2.0mm 程度(不安定) ± 0.5mm ~ 1.0mm ± 0.01mm 以下
推力剛性 低い(空気のバネ性あり) 中程度 高い(メカ的な保持力)
環境耐性 熱や水、防爆に強い 油漏れに注意 電子部品の保護が必要
調整難易度 高い(現物合わせが主) 中程度 低い(数値入力で完了)

参考出典先:株式会社アイエイアイ(https://www.iai-robot.co.jp/download/catalog/pdf/RC-SOUGOU/CJ0159-4A-1/RC_2010-10_SHIRYOU(CJ0159-4A-1).pdf

 

 

まとめ:最適な方法でエアシリンダで同期を行う

  • 空気は圧縮性を持つ弾性体であるため完全に同時な起動は困難です
  • パッキンの摩擦特性の差がスティックスリップと起動ズレを招きます
  • 同期運転の負荷率は推力の余裕を見て 0.3 から 0.5 に設定します
  • シリンダ個別のストローク公差が数ミリ単位の停止位置差を生みます
  • メーターアウト制御による排気絞りで空気のバネ性を抑え込みます
  • 等長配管を徹底して電磁弁からの圧力伝達タイムラグを均一にします
  • ラック&ピニオンによる機械的拘束が最も確実な位置同期手段です
  • 理想的な設計は駆動源を1本にしてリンク機構で動力を分岐することです
  • ワーク重心を算出し2軸への荷重配分を可能な限り等しく調整します
  • 高剛性な案内装置でシリンダの推力差によるこじれを物理的に防ぎます
  • フローティングジョイントでロッドへの有害な横荷重を確実に遮断します
  • JIS B 8370に基づき異常な動作を検知して停止させる回路を組みます
  • ミリ単位以下の精度を求める場合はサーボ制御の電動シリンダを選びます
  • 初期コストだけでなく長期的な調整工数を含めたトータルコストを評価します

 

以上です。