ここでは 機械設計で聞くことのある「シュラウド」について工業的な観点からメモ をしています。
工業的なシュラウド
シュラウドの意味
工業分野における「シュラウド(shroud)」とは、特定の機器や部品、または 作業空間を「覆う」「囲う」「保護する」ための構造物や部材 を指します。
語源である英語の "shroud" が「覆い隠す布」や「保護カバー」といった意味を持つように、 その本質は対象物を外部環境から隔離したり、逆に内部のものを外部に漏らさないようにしたりすること にあります。
材質や形状は用途によって様々で、金属、プラスチック、布、複合材などが用いられ、単純なカバー形状から複雑な構造を持つものまで多岐にわたります。
シュラウドの役目と必要とされる場所
シュラウドは、その「覆う」「囲う」という機能によって、様々な役目を果たします。 主な役目と、それが求められる代表的な場所は以下の通りです。
保護・安全確保
役目:回転機械の可動部や高温部、高電圧部などを覆い、作業者の接触による危険を防止 する。また、機械内部の破損時に飛散物から作業者や周辺機器を保護する。
場所:工場の生産ラインのロボットアームやモーター、発電所のタービン、エンジンルーム内の各種部品など。
流体制御・整流
役目:空気やガス、液体などの 流体の流れを特定の方向に導いたり、整えたりする ことで、機器の効率を向上させる。また、乱流を防ぎ、騒音を低減する効果もある。
場所:冷却ファン、ポンプ、換気装置のダクト、航空機のエンジンナセル、ガスタービンの燃焼器周りなど。
断熱・保温・保冷
役目:高温または低温の機器や配管を覆うことで、熱の放散や侵入を防ぎ、エネルギー効率を高める。 また、結露を防止する目的でも使用される。
場所:ボイラー、配管、冷凍機、炉、エンジンの排気系など。
遮音・防音
役目:騒音を発生する機器を囲い、音の外部への漏洩を低減 し、作業環境や周辺環境を改善する。
場所:発電機、コンプレッサー、破砕機、工場の機械設備など。
汚染防止・清浄度維持
役目:特定の空間を外部の塵埃や汚染物質から隔離 し、清浄な環境を維持する。逆に、内部で発生する粉塵や有害物質が外部に漏れ出すのを防ぐ。
場所:クリーンルームの装置、塗装ブース、粉体処理装置、医療機器など。
電磁シールド
役目:電子機器を電磁波から保護したり、機器が発生する電磁波が他の機器に影響を与えるのを防いだりする。
場所:精密測定器、通信機器、医療用電子機器など。
具体的なシュラウド方法
具体的なシュラウド方法は、その目的、対象物の形状やサイズ、設置環境、コストなどに応じて多岐にわたります。以下に代表的な例を挙げます。
金属製カバー・ケーシング
方法:鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム合金板などをプレス加工、板金加工、溶接などにより箱型や筒型などに成形し、対象物を覆います。ボルトやリベットで固定されることが多いです。
例:モーターカバー、ポンプケーシング、エンジンカバー、配電盤の筐体。
樹脂製カバー・ハウジング
方法:プラスチック材料を射出成形や真空成形、ブロー成形などで成形し、対象物を覆います。軽量で複雑な形状も作りやすく、大量生産にも向いています。
例:家電製品の外装、自動車のエンジンルーム内パーツ、OA機器のカバー。
断熱材・保温材による被覆
方法:グラスウール、ロックウール、セラミックファイバー、発泡樹脂などの断熱材・保温材で配管やタンク、炉などを覆い、その上から金属板や保護シートでさらに覆うこともあります。
例:配管のラギング、ボイラーの断熱、冷凍設備の保冷。
防音エンクロージャー・防音壁
方法:遮音性能の高い材料(厚手の鋼板、コンクリート、複合パネルなど)と吸音性能の高い材料(グラスウール、ウレタンフォームなど)を組み合わせて、騒音源を密閉または部分的に囲います。点検用の扉や換気口が設けられることもあります。
例:発電機用防音ボックス、コンプレッサー用防音カバー、工場内の騒音対策用間仕切り。
フレキシブルなシュラウド(ジャバラ、シート、カーテンなど)
方法:耐熱性や耐薬品性のある布、ゴムシート、フッ素樹脂フィルム、金属箔などを利用し、可動部や複雑な形状の部分を覆います。ジャバラ状にすることで伸縮性を持たせることもあります。
例:ロボットアームのケーブル保護、工作機械の摺動面カバー、クリーンブースのカーテン。
エアカーテン・ウォーターカーテン
方法:高速の空気流や水流の膜を作り出すことで、物理的な壁の代わりに空間を仕切り、熱や粉塵、臭気などの移動を遮断します。
例:店舗の出入り口、塗装ブース、トンネルの排煙設備。
溶接時のガスシールド
方法:溶接時に、溶融金属が空気中の酸素や窒素と反応して酸化したり窒化したりするのを防ぐために、不活性ガス(アルゴン、ヘリウムなど)や炭酸ガスで溶接部周辺を覆います。これは「シールドガス」と呼ばれ、広義のシュラウドの一形態と捉えられます。
これらの方法は単独で用いられることもあれば、複数の方法を組み合わせてより高度なシュラウド機能を実現することもあります。
以上です。