ここでは「モーター制御・インバータの仕組みと選び方」についてメモをしています。
モーターの回転速度を自由に、そして効率的に制御したいと考えた時に、その性能を最大限に引き出す鍵となるのが「インバータ」ですが、インバータとは何か、その役割や、なぜ必要なのかと問われると、具体的に説明するのは難しいかもしれません。
ここでは、特に機械設計に携わる方や、モーター制御の知識を深めたいと考えている方に向けて、インバータの基本をわかりやすく解説し、 仕組みから制御方式、選定時の注意点まで、基本をメモしていこうと思います。
この記事を読むことで、以下の点について理解が深まるかと思います。
- インバータの基本的な仕組みと役割
- インバータを使ったモーターの具体的な制御方法
- 汎用モーターやサーボとの性能・用途の違い
- 実務におけるインバータ選定の注意点
モーターインバータの基本を理解する
インバータとは何か
インバータとは、一言でいえば「電気の流れを自在に操る変換装置」のことです。具体的には、直流電力(DC)を交流電力(AC)に変換する役割を担います。
家庭や工場に供給される電気は、一般的に周波数(50Hzや60Hz)と電圧(100Vや200V)が一定の交流です。しかし、モーター、特に三相誘導モーターの回転速度は、この周波数にほぼ比例する性質を持っています。
つまり、モーターの回転速度を細かく調整するには、供給する電気の周波数を変える必要があるのです。
そこでインバータが活躍します。インバータ装置は、まずコンセントから供給される交流を、内部の「コンバータ回路」で一度直流に変換します。そして、その直流を元にして、今度は「インバータ回路」が目的の周波数と電圧を持つ交流を新たに作り出し、モーターへ供給します。
この一連の変換プロセスを通じて、インバータはモーターの回転速度を低速から高速まで、滑らかに、そして無段階に制御することを可能にします。 学術的には直流から交流への変換部分のみを「インバータ」と呼びますが、日本ではコンバータ回路も含めた装置全体を指して「インバータ」と呼ぶのが一般的です。
モーター制御におけるインバータの役割
インバータがモーター制御で果たす最も大きな役割は、「可変速運転の実現」です。インバータがない場合、モーターは電源を入れるとすぐに定格の最高速度で回転し始め、止めることしかできません。 これでは、用途が非常に限定されてしまいます。
しかし、インバータを用いることで、周波数を変化させてモーターの回転速度を自由にコントロールできるようになります。これにより、機械に急激な負荷をかけずにゆっくりと始動させたり、作業内容に合わせて最適な速度で運転したり、滑らかに停止させたりといった、きめ細やかな制御が実現します。
例えば、液体の量を調整するポンプであれば、インバータで回転速度を調整することで、バルブの開閉だけでは難しい精密な流量制御が可能です。また、コンベアの速度を製品に合わせて変えることで、生産効率の向上にも繋がります。
このように、インバータは単にモーターを動かすだけでなく、機械の動作に「緩急」をつけ、性能や品質、生産性を高めるための司令塔として、極めて重要な役割を担っています。
インバータの仕組みをわかりやすく解説
インバータがどのようにして任意の周波数と電圧の交流を作り出すのか、その仕組みは「PWM制御(パルス幅変調)」という技術が基本となります。 この仕組みは、ダムから水を流す様子に例えると理解しやすくなります。
まず、ダムに溜まった一定量の水(直流電力)を想像してください。このダムには出口が2つ(AとB)あり、それぞれの栓(スイッチング素子)を開閉することで水を流す(電流を流す)ことができます。
PWM制御では、この栓を非常に速いスピードでカチカチと開けたり閉めたりを繰り返します。栓が開いている時間の「幅(パルス幅)」を長くすればたくさんの水が流れ、短くすれば少ししか流れません。このパルス幅を周期的に変化させることで、流れる水の量を波のようにコントロールできます。これが、電圧の大きさを調整する仕組みです。
さらに、Aの栓から流すか、Bの栓から流すかを切り替えることで、水の流れる向き(電流の向き)を変えることができます。この切り替えの速さを調整することで、波の周期、つまり周波数をコントロールします。
インバータ内部の「IGBT」といったパワートランジスタが、この栓の役割を担うスイッチング素子です。コンピュータがこれらの素子を高速でON/OFF制御し、幅の異なるパルス波を巧みに合成することで、モーターを駆動するための滑らかな正弦波に近い交流電流を作り出しています。
なぜインバータは必要なのか
インバータが必要とされる理由は、主に「省エネルギー性能の向上」と「機械性能の高度化」の2点に集約されます。
省エネルギー性能の向上
ファンやポンプのような流体を扱う機械を例に考えてみると、インバータを使わずに風量や流量を調整する場合、モーターは常にフルパワーで回り続け、出口にあるダンパーやバルブを絞って量を制限する方法が一般的です。
これは、アクセルを踏み込んだままブレーキで速度を調整するようなもので、非常に多くのエネルギーが無駄になっていました。
一方、インバータ制御では、必要な風量や流量に合わせてモーター自体の回転速度を落とします。モーターの消費電力は回転速度の3乗に比例して減少すると言われており、回転速度を少し下げるだけで、消費電力を大幅に削減できます。この結果、運用コストの削減と環境負荷の低減に大きく貢献します。
機械性能の高度化
前述の通り、インバータは機械の始動・停止を滑らかにし、衝撃を和らげる「ソフトスタート」「ソフトストップ」を可能にします。これにより、機械的なストレスが軽減され、装置の長寿命化が期待できます。
また、内蔵されたプログラム機能を活用することで、時間経過や外部からの信号に応じて運転パターンを自動で変更する「多段階速度運転」や、センサーからの情報をもとに最適な状態を維持する「PID制御」なども実現可能です。これにより、人の手を介さずに、より複雑で高精度な自動運転システムをシンプルに構築できるため、生産性の向上に繋がります。
インバータで動かせるモーターの種類
インバータで制御の対象となるのは、原則として「三相誘導モーター(三相かご形誘導電動機)」です。 このタイプのモーターは、構造がシンプルで堅牢、かつ安価であるため、産業用途で最も広く使用されています。
インバータは、この三相誘導モーターに供給する電力の周波数と電圧を制御することで、その回転速度を自在に操ります。
一方で、家庭用の扇風機や換気扇などでよく使われる「単相誘導モーター」は、基本的にインバータでの駆動はできません。 単相モーターは、始動方法が三相モーターと根本的に異なり、インバータで周波数を変えても正常に回転しない、あるいは破損する可能性があるためです。
ただし、電源が単相100Vや単相200Vしかない場所でも三相モーターを使いたい、というニーズに応える製品もあります。
それが「単相入力・三相出力」タイプのインバータです。 このインバータは、単相の電源から入力を受け、内部で三相の交流に変換して出力することで、三相モーターの可変速運転を可能にします。ただし、駆動できるモーターの容量には制限があるため、選定には注意が必要です。
実践で役立つモーターインバータの知識
インバータと汎用モーターの違い
インバータと汎用モーターは、それぞれ異なる目的で設計されていますが、組み合わせて使用されることが多いため、その違いを理解しておくことが大切です。
汎用モーターは、インバータを使わず、商用電源(50Hz/60Hzの一定周波数)に直接接続して、一定の速度で運転することを前提に設計されています。 構造がシンプルでコストも安く、幅広い用途で利用されます。
一方、インバータは、前述の通りモーターの速度を可変させるための制御装置です。 このインバータと組み合わせて使用することを前提に設計されたモーターが「インバータ専用モーター」です。
インバータ専用モーターは、特に低速域での冷却能力を高めるための強制冷却ファンを備えていたり、インバータ駆動時に発生する特有の電圧(サージ電圧)に耐えられるよう、コイルの絶縁性能が強化されていたりします。
もちろん、汎用モーターをインバータで駆動することも可能です。 しかし、特に低速で連続運転する場合、モーター自身の冷却ファン(モーター軸と一体)の回転も遅くなるため、冷却能力が低下し、モーターが過熱する恐れがあります。そのため、負荷を低減する(定格トルクよりも低いトルクで運転する)などの配慮が必要になります。
広い速度範囲で安定したトルクが求められる用途では、インバータ専用モーターの選定が推奨 されます。
高精度制御なら?インバータとサーボの違い
モーターの速度や位置を制御する技術として、インバータと共によく名前が挙がるのが「サーボモーター」です。
両者は似ているようで、その得意分野と用途は明確に異なります。
インバータが主に「速度制御」を目的としているのに対し、サーボモーターは「位置決め制御」を最も得意とします。 サーボモーターには、モーターの回転位置や速度を検出するためのセンサー(エンコーダ)が常に付属しており、コントローラーからの指令値と、センサーからの現在値を比較しながら、その差がゼロになるように瞬時に補正をかけ続けます。
このフィードバック制御により、サーボモーターは極めて高い精度と速い応答性で、指定された位置にピタリと止めたり、複数のモーターの動きを正確に同期させたりすることができます。
以下の表に、両者の主な違いをまとめます。
項目 | インバータ(+三相モーター) | サーボモーター |
---|---|---|
主な用途 | 速度制御(ファン、ポンプ、コンベア) | 位置決め、同期制御(工作機械、ロボット) |
制御精度 | 中〜高 | 非常に高い |
応答速度 | 中程度 | 非常に速い |
位置決め | 不得意(一部可能な機種あり) | 得意 |
コスト | 比較的安価 | 高価 |
どちらか一方が優れているというわけではなく、用途に応じて使い分けることが肝心です。
コンベアの速度を変えるような用途であればインバータで十分ですが、ロボットアームのようにミリ単位での正確な位置決めが求められる場面では、サーボモーターが不可欠 となります。
インバータの最低周波数とトルクの関係
インバータを使ってモーターの回転速度を下げていく際、特に注意したいのが「低周波数域でのトルク低下」です。モーターが物を動かす力(トルク)は、電圧と周波数の比(V/f)が一定に保たれることで、安定して発生します。
しかし、周波数が極端に低くなる領域(一般的に6Hz以下)では、モーターのコイルが持つ抵抗などの影響が相対的に大きくなり、単純に周波数に合わせて電圧を下げただけでは十分なトルクが得られなくなってしまいます。 特に、起動時に大きな力が必要な機械では、モーターが回り出せない、あるいはすぐに停止してしまうといった問題が発生しかねません。
この問題を解決するために、ほとんどのインバータには「トルクブースト(トルク補償)」機能が搭載されています。これは、低周波数域において、自動または手動で電圧を通常より少し高く出力し、トルクの低下分を補う機能です。
このトルクブーストの設定を適切に行うことで、低速時でも安定した始動トルクを確保できます。ただし、電圧を上げすぎるとモーターに過剰な電流が流れて発熱の原因となるため、対象となる機械の負荷特性に合わせて、慎重に調整することが求められます。最低周波数をどこまで設定できるかは、このトルク特性と、前述したモーターの冷却能力が鍵となります。
インバータが具体的に利用される場所
インバータは、その優れた速度制御能力と省エネ性能から、私たちの生活の身近な場所から大規模な産業設備まで、非常に幅広い分野で活躍しています。
家庭や商業施設での利用例
最も代表的なのが「エアコン」です。室温に応じてコンプレッサーの回転数を細かく制御することで、快適な温度を保ちながら、消費電力を抑えています。このほか、冷蔵庫のコンプレッサー、洗濯機のドラム回転制御、商業施設の空調用ファンや給排水ポンプなどにも利用されています。
産業分野での利用例
工場では、インバータは生産ラインの心臓部とも言える存在です。
- コンベア: 製品の種類や生産量に応じて搬送速度を調整します。
- ファン・ブロワ: 集塵機や乾燥炉の風量を最適化します。
- ポンプ: 液体や薬品の供給量を精密に制御します。
- クレーン: 荷物の昇降や横行を滑らかに行い、荷揺れを防ぎます。
- 押出成形機: 樹脂などを押し出すスクリューの回転数を制御し、製品の品質を安定させます。
これらの例のように、インバータは単に速度を変えるだけでなく、製品品質の安定化、設備の長寿命化、そして生産現場全体の効率化に貢献しています。
インバータを使う本当の理由とメリット
インバータを導入する理由は、単に「モーターの速度を変えたい」という直接的な目的だけではありません。 その背景には、コスト削減、品質向上、そして作業環境の改善といった、経営や設計における複合的なメリットが存在 します。
運用コストの削減
最大のメリットは、やはり圧倒的な省エネルギー効果です。前述の通り、ファンやポンプなどでは消費電力を劇的に削減でき、電気料金の削減に直結します。 また、モーターを滑らかに始動させることで、突入電流(始動時に流れる大きな電流)を抑制できるため、電源設備の容量を小さく設計できる可能性があり、設備全体の初期投資を抑える効果も期待できます。
生産性と品質の向上
機械の能力を最大限に引き出せることも大きな利点です。 作業内容に合わせて速度を最適化することで、タクトタイム(製品1つあたりの生産時間)の短縮や、加工精度の向上が見込めます。 例えば、材料の硬さに応じて工作機械の回転数を変えることで、工具の摩耗を抑えつつ、きれいな仕上がりを実現できます。
機械と作業者への配慮
ソフトスタート機能は、機械的な衝撃を緩和し、ベルトやギア、軸受けといった部品の摩耗や破損を防ぎ、メンテナンスコストの低減と設備の長寿命化に繋がります。また、モーターの回転数を抑えることで、騒音や振動も低減されるため、作業環境の改善にも貢献します。これらの点は、持続可能な生産体制を構築する上で見逃せないメリットと言えるでしょう。
設計者が知るべきモーターインバータの要点
この記事を通じて解説してきたモーターインバータに関する重要なポイントを、設計者の視点から箇条書きでまとめます。 これらの要点を押さえることで、より効果的で信頼性の高い機械設計が可能になると思います。
- インバータは直流を交流に変換し周波数と電圧を制御する装置
- モーターの回転速度を滑らかに無段階で可変できるのが最大の特長
- 省エネルギー性能が高く運用コスト削減に大きく貢献する
- 基本制御にはV/f制御と高精度なベクトル制御がある
- 制御対象は原則として三相誘導モーター
- 単相モーターの駆動は基本的に不可
- 汎用モーターを駆動する際は低速域での過熱に注意
- 広い速度範囲で定トルクが必要な場合はインバータ専用モーターを選定
- 高精度な位置決め用途ではサーボモーターとの使い分けが重要
- 低速域でのトルク低下はトルクブースト機能で補う
- 基底周波数(通常60Hz)を超えるとモーターのトルクは低下する
- 高調波やノイズが発生するため周辺機器への影響を考慮する
- 電源とモーター間の配線は推奨される長さを守る
- 設置や配線は専門知識を持つ技術者が行うことが原則
- 機械の性能と効率を最大限に引き出すための重要な要素である
以上です。