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着磁とは?着磁の原理と着磁方法、装置の選び方など

 

ここでは「着磁の原理と着磁方法、装置の選び方など」についてメモをしています。

 

モーターやセンサー、日用品に至るまで、私たちの身の回りにある多くの製品は磁石の力を利用しており、その性能を最大限に引き出すために着磁という工程は欠かせません。 しかし、その原理や具体的な方法については、あまり知られていないのが実情です。

 

この記事では、着磁の基本的な概念から、原理、そして目的に応じた様々な着磁の方法まで、専門的な内容を分かりやすくメモします。 この記事を読むことで、以下の点について理解が深まります。

  • 着磁の基本的な定義と、なぜそれが必要なのか
  • 磁力を生み出すパルス着磁法の具体的なしくみ
  • モーターなどに使われる多極着磁といった専門的な方法
  • 着磁装置の構成要素や安全な取り扱いに関する知識

磁石の性能を引き出す着磁の基本と仕組み

まず先に、着磁という技術の根幹をなす基本的な知識について解説します。

 

 

「着磁」とは何か

着磁とは、磁石の材料に対して外部から強い磁界を意図的に加え、磁力を持たせる加工技術のことです。  実は、工場で生産された直後の磁石や磁性体材料は、まだ磁石としての力を持っていません。

 

この時点では単なる「磁石になることができる材料」に過ぎないのですが、この材料に強力な磁界をかけることで、材料内部にある無数の小さな磁石(磁区)の向きがバラバラな状態から、一方向へきれいに整列します。この整列した状態が維持されることで、材料は初めて全体として一つの強力な磁石となり、N極とS極を持つようになります。

 

製品の組み立て工程や最終段階で着磁を行うことで、磁石の性能を最大限に引き出し、モーターやスピーカー、センサーといった部品が正しく機能するようになります。

 

 

着磁の原理とそのしくみをわかりやすく解説

着磁の最も一般的な方法として「パルス着磁法(瞬時着磁法)」が広く採用されています。 この方法は、ごく短い時間に非常に強い磁界を発生させることで、効率的に着磁を行うものです。

 

そのしくみは、以下のステップで成り立っています。

  1. 充電: まず、着磁電源装置の内部にある大容量のコンデンサに、高い電圧で電気エネルギーを蓄えます。これは、ダムに水を溜めるイメージに似ています。
  2. 放電: 次に、蓄えた電気エネルギーを、着磁コイル(着磁ヨークとも呼ばれます)へ一気に放出します。このとき、コイルには非常に大きな電流(パルス電流)が瞬間的に流れます。
  3. 磁界発生: コイルに大電流が流れると、その周囲に強力な磁界が発生します。この磁界の強さは、電流の大きさに比例します。
  4. 着磁: この強力な磁界の中に磁石の材料を置くことで、材料内部の磁区の向きが磁界の方向に沿って一斉に整列し、着磁が完了します。

この一連のプロセスは、カメラのフラッシュが瞬間的に光るのと同様、ごくわずかな時間で行われます。

 

パルス着磁法は、高い磁力が必要なネオジム磁石のような希土類磁石の着磁や、モーターのローターのように複雑な極数を持つ製品の着磁にも適しています。

 

 

永久磁石への着磁はどのように行われるか

永久磁石への着磁プロセスで最も大切なのは、その磁石が持つ能力を最大限に引き出す「飽和着磁」を達成すること です。 飽和着磁とは、磁石の材料がそれ以上磁化されないという限界点まで、完全に磁化させることを指します。

 

 

必要な磁界の強さ

磁石の材料には、それぞれ「保磁力」という固有の特性があります。 保磁力とは、一度磁化した磁気をどれだけ維持できるかを示す指標であり、この値が高いほど、より強い磁界をかけないと着磁できません。

 

例えば、強力な磁力を持つネオジム磁石は非常に高い保磁力を持つため、着磁にはフェライト磁石の数倍以上の強力な磁界が必要です。 着磁装置を選定する際は、着磁したい磁石の材質と保磁力に見合った、十分なパワーを持つものを選ぶことが鍵となります。不十分な磁界で着磁を行うと、磁石本来の性能を全く引き出せず、不良品の原因となってしまいます。

 

 

温度の影響

着磁を行う際の温度管理も、品質を左右する要素です。 一般的に、磁石材料は温度が高くなると保磁力が低下する性質があります。 この性質を利用して、少し加熱した状態で着磁を行うことで、より低い磁界でも飽和着磁させやすくなる場合があります。

 

しかし、逆に温度を上げすぎると磁石の特性が劣化してしまうため、材料ごとに最適な温度管理が求められます。

 

永久磁石への着磁は、単に磁界をかければ良いというものではなく、材料の特性を深く理解し、それに合わせた条件設定を精密に行う、科学的なアプローチが必要な工程となります。

 

 

代表的な着磁の方法について

着磁は、単にN極とS極を作るだけではありません。 製品の用途や設計に応じて、磁極の数や配置を精密にコントロールする必要があり、そのために様々な着磁方法が開発されています。

 

ここでは、代表的な着磁の方法をいくつか紹介します。

着磁方法 概要と特徴 主な用途
2極着磁 磁石の一方の端面をN極、もう一方をS極にする最も基本的な方法です。厚み方向や径方向など、着磁する方向も指定されます。 センサー、吸着用のマグネット、教育用磁石など
片面多極着磁 磁石の片方の平らな面に、N極とS極を交互に複数配置する方法です。磁極間のピッチが細かいほど、表面での吸着力が強くなります。 ラバーマグネット(初心者マークなど)、小型モーター、磁気エンコーダー
両面多極着磁 磁石の表と裏の両面に、それぞれ対応するようにN極とS極を配置する、より高度な方法です。磁束を効率的に利用できます。 高性能モーター、発電機
内外径着磁 リング形状の磁石の内周面と外周面を、それぞれN極とS極に着磁する方法です。 スピーカー、モーターのローター
ラジアル着磁 リング形状の磁石の外周に向かって、放射状にN極とS極を配置する方法です。非常に特殊な着磁ヨークが必要となります。 高性能サーボモーター、センサー

これらの着磁パターンは、後述する「着磁ヨーク」の形状を工夫することで実現されます。

 

製品に求められる性能を最大限に発揮させるためには、その設計に最も適した着磁方法を選択することが不可欠です。

 

 

知っておきたい着磁と脱磁の関係性

着磁が磁力を持たせるプロセスであるのに対し、その正反対のプロセスが「脱磁」です。 脱磁とは、意図的に磁力を取り除く、あるいは限りなくゼロに近づける処理のことを指します。

 

一見すると不要に思えるかもしれませんが、脱磁は様々な場面で重要な役割を果たします。 少し脱磁にも触れます。

 

 

脱磁が必要となるケース

  • 製品検査: 磁気センサーなどを組み立てる前に、部品が意図せず磁化(帯磁)していないか確認し、帯磁している場合は脱磁して測定誤差を防ぎます。
  • 再利用・廃棄: 磁力を帯びたままの製品や工具は、他の機器に影響を与えたり、鉄粉などを吸着してしまったりするため、保管や廃棄の前に脱磁することがあります。
  • 製造工程: 加工時の摩擦や、磁力を使った検査(磁粉探傷試験)の後など、製造工程の中で不要な磁力が付いてしまった場合、それを取り除く必要があります。

 

 

脱磁の原理

脱磁にはいくつかの方法がありますが、一般的には「交流減衰磁界法」が用いられます。これは、脱磁したい物体をコイルの中に入れ、N極とS極が高速で入れ替わる交流の磁界をかけながら、その強さを徐々に弱めていく方法です。

 

この処理により、材料内部で一方向に整列していた磁区が再びバラバラの方向を向き、全体としての磁力が打ち消されます。 着磁と脱磁は表裏一体の関係にあり、どちらも磁石や磁性体を扱う上で欠かせない基盤技術と言えます。

 

 

 

実践的な着磁装置とメーカーの選び方

ここでは、実際に着磁を行うための装置や部品、そしてそれらを提供するメーカーについてメモします。

 

 

着磁に不可欠な着磁機とは

一般的に「着磁機」という言葉は、着磁を行うための一連のシステム全体を指す場合が多いです。 このシステムは、主に二つの主要なコンポーネントから構成されています。

 

  1. 着磁電源(着磁器): 前述の通り、コンデンサを内蔵し、電気エネルギーを蓄えてコイルに供給する役割を担う、システムの心臓部です。着磁に必要なエネルギー量(ジュール)や充電電圧(V)、コンデンサ容量(μF)などが、この電源装置の性能を決定します。
  2. 着磁ヨーク(着磁コイル): 着磁電源から送られてきた大電流を流し、実際に強力な磁界を発生させる部分です。着磁したい磁石の形状や、どのような磁極パターン(2極、多極など)にするかに合わせて、専用の形状で設計・製作されます。

 

着磁機とは、多くの場合「着磁電源」と「着磁ヨーク」を組み合わせたものを指します。 これら二つが揃って初めて、目的の着磁を行うことが可能になります。

 

両者は個別に選定することも、システムとして一括で導入することもありますが、最適な着磁を行うためには、着磁したい対象物に合わせて両者の性能をうまく組み合わせることが大切です。

 

 

用途に合わせた着磁装置の選定

ここで言う「着磁装置」は、システムの電源部分である「着磁電源」を指します。 この着磁電源を正しく選定することは、安定した品質の製品を生産する上で極めて重要です。 選定を誤ると、着磁が不十分で磁石の性能を全く引き出せなかったり、逆に過剰なエネルギーで装置の寿命を縮めたりする可能性があります。

 

選定の際に考慮すべき主なポイントは以下の通りです。

 

 

着磁エネルギー

最も基本的な選定基準は、着磁に必要なエネルギーです。 これは、着磁したい磁石の材質(保磁力)、サイズ、そして体積によって決まります。例えば、保磁力が高いネオジム磁石や、サイズの大きい磁石を着磁するためには、より多くのエネルギーを蓄えられる、コンデンサ容量の大きい着磁電源が必要になります。

 

 

充電時間と生産タクト

工場の生産ラインに組み込む場合は、1回の着磁を終えてから次の充電が完了するまでの時間も重要な要素です。生産タクト(1つの製品を生産するのにかかる時間)が短い場合は、高速で充電できる性能を持つ着磁電源が求められます。

 

 

安全性と付加機能

着磁電源は高電圧を扱うため、安全機能は必須です。異常な温度上昇を検知する機能や、過電圧・過電流を防止する回路などが備わっているかを確認する必要があります。また、着磁時の電流値を測定・監視して、着磁が正常に行われたかを判定する機能を備えたモデルもあり、品質管理の向上に貢献します。

 

 

これらの要素を総合的に検討し、着磁対象と生産条件に最適な仕様の着磁電源を選ぶことが、効率的で高品質なモノづくりへの第一歩となります。

 

 

着磁ヨークが果たす重要な役割

着磁ヨークは、着磁電源から供給された強力な電流を使って、実際に磁界を発生させる、着磁プロセスの実行役です。このヨークの設計こそが、着磁の品質とパターンを決定づける最も重要な要素と言っても過言ではありません。

 

 

磁界の形状を決定する

着磁ヨークの役割は、単に磁界を発生させるだけでなく、「どこに」「どのような向きで」「どれくらいの強さの」磁界を作るかを精密にコントロールすることにあります。 ヨークの鉄心(コア)の形状やコイルの巻き方を工夫することで、前述したような2極着磁や多極着磁、ラジアル着磁といった、様々な磁極パターンを生み出すことが可能です。

 

 

代表的な着磁ヨークの種類

  • ソレノイドコイル: 単純な筒状のコイルで、内部に均一な磁界を発生させます。棒状の磁石などを長手方向に着磁する際に用いられます。
  • Iコア型ヨーク: I字型の鉄心にコイルを巻いたもので、鉄心の端面に磁界を集中させます。平面的な着磁に適しています。
  • 多極着磁ヨーク: 一つの平面上にN極とS極のパターンを彫り込み、そこにコイルを埋め込んだ複雑な構造のヨークです。モーターのローターなど、精密な多極着磁を実現します。

 

着磁ヨークは、いわば磁石を形作るための「金型」のような存在です。そのため、多くの場合、着磁したい製品の形状や求められる磁気特性に合わせて、一品一様のカスタムメイドで設計・製造されます。

 

 

主要な着磁装置メーカーを紹介

日本国内には、着磁装置や関連機器を開発・製造する専門メーカーが数多く存在します。それぞれが独自の技術や強みを持っており、用途や目的に応じて最適なパートナーを選ぶことが大切です。ここでは、業界で広く知られる代表的なメーカーをいくつか紹介します。

 

  • 日本電磁測器株式会社: 磁気計測器のパイオニアとして長い歴史を持つ企業です。着磁装置から、着磁後の磁気を測定するガウスメーターやフラックスメーターまで、磁気に関するトータルソリューションを提供しています。特に、精密な測定技術に定評があります。

 

  • 電子磁気工業株式会社: 着磁・脱磁装置の専門メーカーとして、幅広い製品ラインナップを誇ります。研究開発用の小型機から、工場の自動生産ラインに組み込む大型システムまで、多様なニーズに対応できる技術力と実績が強みです。

 

  • 東英工業株式会社(現・東栄電機株式会社): 着磁装置だけでなく、モーターの巻線機など、モーター製造に関連する様々な装置を手がけています。モーター製造の工程全体を理解した上での、最適な着磁システムの提案が期待できます。

 

  • カネテック株式会社: マグネットチャックなどの磁気応用製品で高いシェアを持つメーカーですが、着磁・脱磁装置も提供しています。長年の磁気応用技術のノウハウを活かした、信頼性の高い製品が特徴です。

 

ここに挙げたのは一部の例であり、他にも多くの優れたメーカーが存在します。 メーカーを選定する際には、製品の仕様だけでなく、導入実績や技術サポート体制、カスタム対応の可否などを総合的に比較検討することが推奨されます。

 

 

着磁機を自作することの可否

着磁機の原理は比較的単純なため、「自作できないか」と考える方もいるかもしれません。 インターネット上には、自作を試みた個人の記録なども見受けられます。

しかし、結論から言えば、専門的な知識と経験を持たない個人が着磁機を自作することは、極めて危険であり、絶対に推奨できません。

 

 

自作に伴う深刻なリスク

  • 感電の危険: 着磁機は、コンデンサに数百から数千ボルトという非常に高い電圧を充電します。これは、家庭用コンセントの電圧とは比較にならない危険なレベルです。配線や絶縁の処理を誤れば、致命的な感電事故につながる恐れが十分にあります。

 

  • 火災・破裂の危険: コンデンサに蓄えられた巨大なエネルギーが、万が一ショート(短絡)した場合、爆発的な電流が流れて配線が発火したり、コンデンサ自体が破裂したりする危険性があります。

 

  • 性能不足: 安全に動作するものが作れたとしても、市販の装置のような十分な着磁性能を得ることは困難です。着磁が不完全であれば、磁石は本来の性能を発揮できません。

 

 

安全性の優先

市販の着磁装置は、これらの危険性を排除するために、専門家によって設計された安全回路や堅牢な筐体、適切な絶縁処理などが何重にも施されています。 趣味や学習の目的であっても、高電圧・大電流を扱う装置の自作は、そのリスクがメリットをはるかに上回ります。安全を最優先し、必ず信頼できるメーカーが製造した正規の製品を使用してください。

 

 

まとめ:目的に合った正しい着磁の知識一覧

最後に、着磁に関する基礎知識を箇条書きします。

 

  • 着磁とは磁石材料に磁力を持たせる加工技術
  • 工場出荷時の磁石材料はまだ磁力を持っていない
  • 着磁により材料内部の磁区が一方向に整列する
  • パルス着磁法が最も一般的な着磁の原理
  • コンデンサに蓄えた電気をコイルに放出して磁界を発生させる
  • 飽和着磁とは磁石の能力を限界まで引き出すこと
  • 磁石の保磁力が高いほど強い着磁磁界が必要
  • 製品の用途に応じて2極や多極など様々な着磁方法がある
  • 脱磁とは着磁の反対で意図的に磁力を取り除く処理
  • 着磁機は主に着磁電源と着磁ヨークで構成される
  • 着磁電源は着磁対象の材質やサイズに合わせて選ぶ
  • 着磁ヨークの形状が着磁パターンを決定する
  • 着磁装置のメーカーは国内に多数存在する
  • 高電圧を扱うため着磁機の自作は極めて危険
  • 安全を最優先し必ず正規のメーカー品を使用する

 

以上です。