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タイミングベルトの種類と選び方【設計者向け完全ガイド】

 

ここでは 「タイミングベルトの種類と選び方」 についてメモしています。

 

タイミングベルトの選定は、機械設計における重要なプロセスの一つです。 しかし、多岐にわたる歯形や材質の中から、自身の設計要件に最適なタイミングベルトの種類を選ぶ作業は、多くの機械設計者が頭を悩ませる課題だと思います。

 

この記事では、「タイミングベルトの種類」というキーワードで情報を探している機械設計者や、これから学ぼうとする一般の読者に向けて、タイミングベルトの選定で失敗や後悔をしないための基礎知識から、具体的な選定方法、各形状のメリット・デメリット、そして利用上の注意点までをメモします。

タイミングベルトの種類の基本知識

基本の歯形の種類

タイミングベルトの性能を決定づける最も重要な要素は、歯の形状、すなわち「歯形」です。 この歯形は、技術の進化とともに発展してきており、大きく分けると「台形歯形」「円弧歯形」、そして円弧歯形をさらに進化させた「改良型円弧歯形」の3つのカテゴリーに分類できます。

 

台形歯形は、その名の通り歯の断面が台形をしており、最も古くから利用されている基本的な形状です。 一方、円弧歯形は、より大きな力を滑らかに伝える目的で開発された、歯が丸みを帯びた形状をしています。 そして、改良型円弧歯形は、円弧歯形の長所をさらに伸ばし、より高い精度と性能を両立させるために生み出された、最先端の歯形と言えるでしょう。

 

このように、それぞれの歯形には開発された背景と目的があり、得意とする性能が異なります。 したがって、タイミングベルトを選定する第一歩は、これらの基本的な歯形の種類と、その大まかな特性を把握することから始まります。

 

 

規格で定められた歯形について

設計の現場では、異なるメーカーの部品を組み合わせて使用する場面も少なくありません。 このような場合に部品の互換性を担保するため、タイミングベルトの歯形の一部は、JIS(日本産業規格)やISO(国際標準化機構)によって標準化されています。

 

なぜ歯形の種類は多いのか?

これほど多くの歯形が存在する理由は、タイミングベルトが使われる機械や装置の要求性能が、時代とともにより高度で多様なものへと進化してきたから です。

 

初期のタイミングベルトは、単に「滑りなく動力を伝える」ことが主目的であり、そのために台形歯形が生まれました。 しかし、産業機械がよりパワフルになるにつれて「もっと大きな力を伝えたい」という要求が高まります。 この要求に応えるため、台形歯形の応力集中問題を解決する「円弧歯形」が開発されました。

 

さらに、FA(ファクトリーオートメーション)やロボット技術が発展すると、「より速く、より正確に位置決めをしたい」という、高トルクと高精度を両立させる要求が出てきます。 この課題を解決するために、歯車理論なども取り入れた「改良型円弧歯形」が登場しました。

 

このように、ベルトの歴史は「高トルク化」「高精度化」「高速化」「低騒音化」といった、常に新しい技術的課題を乗り越えるための挑戦の歴史です。 加えて、各ベルトメーカーが他社との差別化を図るために、独自の高性能な歯形を開発してきたことも、種類の多様化につながっています。

 

 

主なJIS/ISO規格歯形一覧

公的規格で定められている歯形は、主に広く普及している基本的な形状です。 これにより、異なるメーカー間でもある程度の互換性が保たれ、設計の自由度が高まります。

規格分類 代表的な歯形 主な規格番号 特徴
インチ系台形歯形 MXL, XL, L, H, XH, XXH JIS K6372 / ISO 5296 古典的な歯形で、軽負荷から中負荷の位置決めや搬送に広く使用されている。
メートル系台形歯形 T5, T10, T20 (JIS/ISOに準拠) 欧州で広く普及したメートルピッチの台形歯形。コンパクトな設計が可能。
円弧歯形 S歯形, H歯形, P歯形 JIS B1857 / ISO 13050 高トルク伝達を目的として開発された丸歯形。S歯形は特に普及している。

ただし、注意点として、これらの規格がカバーしているのは、あくまで基本的な寸法や形状です。 後述する各メーカー独自の高性能歯形などは、必ずしもこれらの公的規格には準拠していません。

 

そのため、汎用的な設計には規格品を、最高の性能が求められる場面ではメーカー独自の製品シリーズを検討するという使い分けが考えられます。

 

 

位置決め精度に優れる台形歯形

台形歯形は、タイミングベルトの中で最も古典的な形状であり、その最大の特長は「バックラッシが小さいこと」にあります。 バックラッシとは、ベルトとプーリの歯がかみ合った際の「遊び」や「隙間」のことで、これが小さいほど、より正確な位置決めが可能になります。

 

台形歯形のメリット

台形歯形は、歯とプーリの溝が直線的にかみ合うため、この隙間を非常に小さく設計できます 。 この特性から、精密な位置決めが要求される軽負荷の搬送装置や、OA機器の駆動部など、精度を重視するアプリケーションにおいて長年にわたり採用されてきました。 比較的低コストで入手性が良いことも、大きなメリットの一つ です。

 

台形歯形のデメリット

一方で、台形歯形には弱点も存在します。 それは、高負荷や高速運転に弱いという点です。 直線的な歯の形状ゆえに、大きな力がかかると歯の根元の鋭角な部分に応力が集中しやすくなります 。 この応力集中が、ベルトの摩耗を早めたり、最悪の場合には歯がせん断破壊(歯欠け)を起こしたりする原因となります。 したがって、大きなトルクを必要とする用途や、高速で運転する装置には不向きな場合があります。

 

 

高負荷伝動が得意な円弧歯形

円弧歯形は、台形歯形が抱える応力集中の問題を解決し、より大きな力を効率的に伝えるために開発された歯形です。 その名の通り、歯の断面が滑らかな円弧で構成されているのが特徴です。

 

円弧歯形のメリット

この丸みを帯びた形状により、プーリとかみ合う際の力が歯の広い範囲に分散されます 。 応力集中が緩和されるため、台形歯形に比べて格段に高いトルクを伝達することが可能 です。 また、歯の深さがより深くなっているため、高負荷時に歯がプーリの溝を乗り越えてしまう「歯飛び」という現象も起こりにくくなっています。 かみ合いがスムーズであることから、台形歯形に比べて運転音が静かであることも利点として挙げられます 。

 

円弧歯形のデメリット

しかし、この高性能化にはトレードオフも存在します。 丸い歯が丸い溝にスムーズに出入りするためには、台形歯形よりも構造的に大きな隙間(クリアランス)が必要となります。 この隙間が、そのままバックラッシの増大につながるため、標準的な円弧歯形は、台形歯形ほどの精密な位置決め精度は期待できない場合があります 。 この課題を解決するため、後述する「高性能円弧歯形」が開発されました。

 

 

主要メーカーとその呼称を解説

タイミングベルトは、JISなどの規格品だけでなく、主要なベルトメーカーが独自の技術で開発した高性能な製品シリーズを数多く市場に投入しています。 これらの製品は、特定の商標名で呼ばれており、設計者がカタログや技術資料を読む上で、どの呼称がどの歯形に相当するのかを理解しておくことは非常に重要です。

 

ここでは、代表的なメーカーとその製品呼称をまとめます。

メーカー名 主な製品呼称(商標名)と製品ページ 歯形カテゴリー 特徴
ゲイツ・ユニッタ・アジア パワーグリップGT
(ポリチェーンGTカーボンベルト)
高性能円弧歯形
特殊高強度歯形
インボリュート歯形を採用し、極めて低いバックラッシと高精度伝達を実現。
本体にウレタン、心線にカーボンを使用し、チェーン代替も可能な超高トルク伝達を実現。
三ツ星ベルト スーパートルクG
メガトルクG
標準円弧歯形
高性能円弧歯形
S歯形に準拠した汎用性の高い円弧歯形シリーズ。入手性に優れる。
スーパートルクをさらに高性能化し、より高いトルク伝達を可能にしたシリーズ。
バンドー化学 STSベルト
HP-STSベルト
標準円弧歯形
高性能円弧歯形
三ツ星ベルトのスーパートルクと同様、S歯形に準拠した円弧歯形シリーズ。
STSの性能を向上させた高トルク仕様のベルト。コンパクトな設計が可能。

これらの高性能シリーズは、標準的な歯形に比べて価格は高くなる傾向にありますが、より厳しい設計要件(高トルク、高精度、コンパクト化など)に応えるための強力な選択肢 となります。

 

 

用途で選ぶタイミングベルトの種類

高トルク用のベルト選定ポイント

設計において、大きな力を確実に伝える能力、すなわち「高トルク伝達能力」が最優先される場合、選ぶべきタイミングベルトの種類は自ずと絞られてきます。 この場合の選定の鍵は、円弧歯形の中から最適なものを選ぶこと です。

 

まず、基本的な選択肢となるのが、三ツ星ベルトの「スーパートルク」やバンドー化学の「STS」といった標準的な円弧歯形ベルトです。 これらは台形歯形に比べて格段に高いトルクを伝達でき、幅広い産業機械で採用実績があるため、コストと性能のバランスに優れた選択 と言えます。

 

もし、装置のさらなる小型化や、より一層のパワーが求められる場合には、各メーカーが展開する高性能円弧歯形シリーズが有力な候補となります。 例えば、バンドー化学の「HP-STS」や、ゲイツ・ユニッタ・アジアの「パワーグリップGT」などがこれにあたります。 これらは、歯の形状や構成材料を最適化することで、標準の円弧歯形を上回る伝達能力を発揮します。

 

さらに、従来は金属チェーンでしか対応できなかったような、極めて大きなトルクを扱う低速高負荷の領域では、特殊なベルトを検討する必要があります。ゲイツ・ユニッタ・アジアの「ポリチェーンGT」は、本体に高強度なポリウレタン、心線に伸びの少ないカーボンを採用することで、金属チェーンに匹敵する伝達能力を、給油不要かつ低騒音で実現するソリューションです。

 

 

バックラッシを抑えたい場合の選び方

機械設計において、正確な位置決め精度が求められる場合、ベルトとプーリのかみ合いにおける「バックラッシ(遊び)」をいかに小さくするかが極めて大切になります。 バックラッシを抑えたい場合のベルト選びは、主に2つの方向性が考えられます。

 

一つ目の選択肢は、古典的ですが確実な「台形歯形」です。 前述の通り、台形歯形は構造的に歯とプーリの溝の隙間を小さくできるため、本質的にバックラッシが小さいという特長を持っています。したがって、伝達するトルクがそれほど大きくなく、コストを抑えつつ高い位置決め精度を確保したい場合には、依然として非常に有効な選択肢となります。

 

二つ目の選択肢は、より近代的な「高性能円弧歯形」です。  標準的な円弧歯形はバックラッシが大きいという弱点がありましたが、ゲイツ・ユニッタ・アジアの「パワーグリップGT」シリーズに代表される最新の歯形は、インボリュート曲線というかみ合い理論を応用しています。 これにより、滑らかなかみ合いを維持しながらも、バックラッシを台形歯形に匹敵する、あるいはそれ以上に小さくすることに成功しました。  高トルク伝達と高精度を両立させたい、という厳しい要求がある場合には、この高性能円弧歯形が最適な答えとなるでしょう。

 

 

メーカー間の互換性はあるのか

設計者にとって、部品の互換性はコストや納期に直結する重要な関心事です。 では、タイミングベルトにおいて、異なるメーカー間の製品に互換性はあるのでしょうか。

 

この問いに対する答えは、「基本的な互換性はあるが、完全な性能は保証されない」となります。

 

例えば、三ツ星ベルトの「S8M」とバンドー化学の「S8M」は、どちらもJIS規格に準拠したピッチ8mmの円弧歯形(S歯形)です。 そのため、三ツ星製のS8Mプーリにバンドー製のS8Mベルトを取り付けることは物理的に可能です。 しかし、これを「完全に互換性がある」と考えるのは早計です。 なぜなら、たとえピッチと基本的な歯形が同じでも、メーカーごとに歯の深さ、歯布の材質や表面処理、心線の種類や張り強さといった細部の仕様が微妙に異なる場合があるからです。

 

これらのわずかな違いが、異なるメーカーのベルトとプーリを組み合わせた際に、騒音の増大、異常な摩耗、そして期待された伝達能力や位置決め精度が発揮されないといった問題を引き起こす可能性があります。 

 

以上のことから、システムの性能を100%引き出し、長期的な信頼性を確保するためには、特に高負荷・高精度が求められる重要な装置においては、ベルトとプーリを同一メーカーの製品で統一することが強く推奨されます。

 

 

設計要件に合わせた選定方法とは

最適なタイミングベルトを選定するためには、自身の設計において何を最も優先するのか、その優先順位を明確にすることが不可欠です。 各歯形にはそれぞれ長所と短所があり、すべての要件を最高レベルで満たす万能なベルトは存在しないからです。

 

ここでは、設計の優先項目に基づいた選定の考え方を整理します。

優先する設計要件 推奨される歯形 選定の理由
高トルク伝達 ①高性能円弧歯形
②標準円弧歯形
応力分散に優れた歯形形状と、高強度な心線材料が採用されているため。
位置決め精度(低バックラッシ) ①高性能円弧歯形
②台形歯形
インボリュートかみ合い等で隙間を最小化しているか、構造的に隙間が小さいため。
高速運転 ①高性能円弧歯形
②標準円弧歯形
滑らかなかみ合いが振動や応力集中を抑え、高速回転に適しているため。
静粛性(低騒音) ①高性能円弧歯形
②標準円弧歯形
ベルトとプーリのかみ合いがスムーズで、衝撃音が少ないため。
コスト・入手性 ①標準的な台形歯形
②標準的な円弧歯形
広く普及しており、多くのメーカーが製造・在庫しているため、安価で入手しやすい。

このように、まず「トルク」「精度」「速度」「コスト」といった項目の中で、絶対に譲れない条件は何かを決定します。 例えば、精度が最優先であれば候補は高性能円弧歯形か台形歯形に絞られ、そこからトルクやコストの条件を加えて最終的な一つを選び出す、というアプローチが有効です。 このプロセスを経ることで、数ある選択肢の中から、自身の設計に最も合致したタイミングベルトを見つけ出すことができると思います。

 

 

失敗しないための選定注意点

タイミングベルトの歯形と基本的な性能を理解した上で、実際の設計で失敗を避けるためには、カタログのスペック表に現れにくい、いくつかの実用的な注意点にも目を向ける必要があります。これらの点を見落とすと、思わぬトラブルの原因となることがあります。

 

使用環境の確認

まず、ベルトが使用される環境を詳細に確認することが大切です。 例えば、使用温度範囲は重要な要素です。 標準的なゴム製ベルトの使用温度は-30℃から80℃程度が一般的ですが、これを超える高温環境では専用の耐熱仕様ベルトを選定しなければなりません。 また、切削油などがかかる環境では耐油性に優れたポリウレタン製のベルトが適している場合がありますし、水がかかる環境ではベルトだけでなくプーリの防錆対策も必要になります。

 

プーリ径と張力管理

次に、機械的な制約条件の確認です。 装置をコンパクトに設計したい場合、つい小さなプーリを使いたくなりますが、各ベルトには推奨される最小プーリ径(または最小歯数)が定められています。

 

これを下回る小さなプーリを使用すると、ベルトの屈曲疲労が激しくなり、寿命を著しく縮める原因となります。また、ベルトの張力管理も寿命を左右する重要なファクターです。 ベルトの張りが強すぎると軸や軸受に過大な負荷がかかり、逆に弱すぎると歯飛びやスリップの原因となります。 メーカーが推奨する適切な初期張力を設定し、定期的に確認することが、安定した性能を維持する上で欠かせません。 

 

 

参考:主要ベルト種類と最小許容プーリ歯数

以下に、代表的なベルト種類ごとの最小許容歯数と、その際の参考プーリ径を示します。

ベルト種類 ピッチ (mm) 最小許容歯数 参考プーリ径 (mm)
L 9.525 14 42.45
H 12.7 14 56.60
S5M 5 14 22.28
S8M 8 24 61.12
T5 5 12 19.10
T10 10 14 44.56
AT5 5 20 31.83
AT10 10 14 44.56

出典: ミスミ技術情報

 

上記の数値は一例です。 実際の設計にあたっては、必ず使用するベルトのメーカーが提供する最新のカタログや技術資料で、推奨される最小プーリ径(または歯数)を確認してください。

 

 

最適なタイミングベルトの種類の選び方

この記事では、タイミングベルトの選定に必要な知識を多角的に解説してきました。 最後に、最適なタイミングベルトの種類を選ぶための要点を、箇条書きでまとめます。

 

  • タイミングベルトの歯形は大きく台形と円弧の2系統に分類される
  • 台形歯形はバックラッシが小さく高精度な位置決めに優れる
  • 円弧歯形は応力分散効果により高トルクの伝達が得意
  • 高性能円弧歯形は高トルクと高精度という相反する要求を両立する
  • JISやISOといった公的規格はメーカー間の基本的な互換性を保証する
  • ただしメーカーが異なると細部仕様が違い完全な性能は出ない可能性がある
  • 最高の性能と信頼性を求めるならベルトとプーリは同一メーカーで統一する
  • 高トルク伝達が最優先なら円弧歯形、特に高性能タイプが第一候補
  • 精密な位置決めが最優先なら台形歯形か高性能円弧歯形を選ぶ
  • コストや入手性を重視する場合は標準的な台形歯形や円弧歯形が有利
  • ゲイツ・ユニッタ・アジア、三ツ星ベルト、バンドー化学が主要なメーカー
  • 各メーカーは独自の高性能シリーズを商標名で展開している
  • 温度、油、水などの使用環境に適した材質を選定することが大切
  • プーリ径はベルトが推奨する最小許容値を下回らないように設計する
  • 適切な張力管理がベルトの寿命と性能を最大限に引き出す鍵となる

 

以上です。