高温環境下で使用される搬送ローラーの回転軸設計において、「軸と内輪の締まりばめ」および「運転時の摩擦熱による内外輪温度差」を考慮した際、ベアリングの内部すきまを普通すきま(CN)にすべきか、C3すきまに広げるべきか迷うケースは少なくありません。
結論から申し上げますと、このような運転条件では「C3すきま」を採用するのが設計の鉄則です。運転中にすきまが消失して負のすきま(過大予圧)となり早期焼き付きを引き起こすリスクは致命的であり、一般的な搬送用途であればC3すきまによる初期の微小なガタつきや振動は実用上十分に許容されるためです。
本記事では、代表的な呼び番号「6205」を例に取り、締まりばめと温度差によるすきま減少量の具体的な計算プロセスと、現場で若手設計者が見落としがちな重大トラブルの回避策を詳しく解説します。
内部すきまの基礎知識:普通すきま(CN)とC3すきまの違い
ベアリングの内部すきま(ラジアル内部すきま)とは、ベアリングの内輪または外輪のいずれかを固定し、他方をラジアル方向に移動させたときの移動量を指します。
- 普通すきま(CN):一般的な機械構造、常温環境、通常のはめあいで使用される標準的なすきま範囲。
- C3すきま:普通すきまよりも一段階広いすきま等級。高温環境、高速回転、強い締まりばめを適用する場合に用いられる。
軸受が静止している初期状態のすきま(初期すきま Δ0)は、機械に組み込まれ、運転される過程で「軸・ハウジングとのはめあい」および「運転中の内外輪の温度差」によって減少します。最終的に運転状態で残る「有効すきま(Δeff)」が適切(わずかに正のすきま)になるように初期すきまを選定しなければなりません。
運転時の有効すきま計算プロセス(呼び番号6205の検証)
運転時の有効すきま Δeff は、以下の基本計算式で評価します。
Δeff = Δ0 - Δ1 - Δ2
- Δ0:初期内部すきま
- Δ1:締まりばめによるすきま減少量
- Δ2:内外輪温度差によるすきま減少量
ここでは、外径φ52、内径φ25、幅15mmの深溝玉軸受「6205」をモデルとして具体的な数値を算出します。(※数値は理論上の目安であり、実際の値は部品形状や剛性に影響されます)
1. 締まりばめによるすきま減少量(Δ1)
内輪クリープ防止のため、回転軸に対して軸公差「m5」による締まりばめを適用した場合、内輪が径方向に押し広げられます。内輪の膨張に伴うすきま減少量(Δ1)は、一般におよそ 4〜8μm 程度となります。
2. 内外輪温度差によるすきま減少量(Δ2)
運転時、回転側の内輪は摩擦熱や軸からの伝熱によって外輪よりも高温になります。内輪が外輪より20℃高温(ΔT = 20℃)になると仮定した場合のすきま減少量を計算します。
- 軸受鋼の線膨張係数 α = 12 * 10^-6 [1/℃]
- 内外輪温度差 ΔT = 20 [℃]
- 内輪軌道径 Dm ≒ 34 [mm]
内外輪の膨張差による減少量(Δ2)の計算式:
Δ2 = α * ΔT * Dm = 12 * 10^-6 * 20 * 34 ≒ 8.2μm
3. 合計減少量とすきま等級の比較検証
上記より、運転中に生じる内部すきまの合計減少量(Δ1 + Δ2)は、およそ 12〜16.2μm に達します。各すきま等級の初期すきま範囲(6205の場合)と比較してみましょう。
- 普通すきま(CN):5〜20μm
合計減少量が12〜16μmに達すると、下限付近の個体では有効すきまがマイナス(負のすきま)になります。負のすきま状態では転動体(玉)に過大な内部予圧が常時かかり、転がり抵抗の急増、発熱の加速、油膜切れを招き、極めて短時間で焼き付き破損に至ります。 - C3すきま:11〜25μm
初期すきまに余裕があるため、12〜16μmの減少が生じても、運転中に確実に「正の微小すきま(0〜数μm以上)」を確保できます。搬送ローラーとしての円滑な回転を長期的に維持することが可能です。
現場の最悪シナリオ:軸方向熱膨張による「突っ張り破壊」とプロの回避策
ラジアル方向の内部すきま計算だけで選定を終えてしまうと、実機試運転時に致命的なトラブルを引き起こす危険があります。それが、軸長手方向(アキシアル方向)の熱膨張に起因する破壊です。
若手が見落としがちな最悪のシナリオ
搬送ローラーの運転時、軸自体の温度も上昇し長手方向に熱伸びを起こします。もし両端のベアリング外輪をそれぞれハウジング段差やサークリップで強固に拘束(両側固定支持)していた場合、伸びた軸が両側の軸受を外側に向けて強力に押し広げようとします。
このとき、深溝玉軸受に許容限界をはるかに超える強烈なアキシアル荷重が作用し、玉と軌道面の側壁が押し潰され、回転不能・軌道面剥離・異音・破断といった致命的な損傷(突っ張り破壊)が瞬時に発生します。
プロの回避策:固定側・自由側の明確な分離構造
このトラブルを防ぐためには、必ず一方の軸受を「固定側」、もう一方を「自由側(フロート軸受)」とする構造設計を徹底しなければなりません。
- 固定側軸受:内輪・外輪ともに軸方向移動を拘束し、ローラー全体のアキシアル位置を決める。基準面は固定側軸受の内輪突き当て段差面とする。
- 自由側軸受:内輪は軸に締まりばめで固定するが、外輪とハウジングのはめあいは「すきまばめ(H7公差など)」とし、外輪がハウジング内を軸方向にスライドできるように逃げを設ける。
- 耐熱潤滑剤の選定:熱源を考慮し、基油の熱劣化や蒸発を防ぐ耐熱グリース(フッ素系グリース等)を併用する。
設計パラメータと軸受支持構造の構成例
以下に、片側を適切に逃がすための構造仕様と実寸構成イメージを示します。
- 基準面:固定側軸受の内輪突き当て段差面
- 位置決めと拘束:固定側でアキシアル拘束、自由側は外輪すきまばめで長手方向熱膨張を解放
- 締結公差:軸は締まりばめ(m5)、ハウジングはすきまばめ(H7)
- 主要寸法:軸径φ25、ベアリング外径φ52、幅15mm
- 採用部品例:深溝玉軸受 6205ZZ C3(両シールド形、C3すきま)
【正面図】軸受支持部構成イメージ(1:1 実寸構成、単位: mm)
まとめ
高温環境下で使用する搬送ローラー軸受の選定では、運転時の熱膨張および締まりばめによるすきま変化を正確に捉えることが不可欠です。
- 軸公差(m5等)による内輪膨張と、内外輪温度差(20℃差等)による膨張差を合算すると、内部すきまは10μm以上容易に減少する。
- 普通すきま(CN)では運転時に「負のすきま」となり焼き付く危険性が高いため、安全率を考慮して「C3すきま」を選定する。
- ラジアル隙間だけでなく、軸の伸びを逃がすために自由側軸受ハウジングのはめあい(H7等)による長手方向解放構造を必ず設ける。
実際の機械設計では、設置環境の放熱条件や実測温度分布によって内外輪の温度差がさらに拡大するケースもあります。机上計算で安全代を確認した上で、プロトタイプ実機による熱電対計測・回転試験を必ず実施してください。