縦型攪拌機や立軸ポンプなどの設計において、頭を悩ませがちなのが「シャフトや翼の自重による常時アキシアル荷重」と「回転時のラジアル荷重」の同時支持です。
コストダウンや省スペース化を狙って汎用的な深溝玉軸受を選定しようとしたものの、計算寿命を算出してみると目標時間(例えば20,000〜40,000時間)に届かないという壁に直面するケースは珍しくありません。
結論から言えば、この課題を解決する最も合理的で高剛性な構成は、「上部(入力側)に背面組合せ(DB)のアンギュラ玉軸受」を配置し、「下部に深溝玉軸受」を配置する組み合わせです。別個にスラストベアリングを追加する必要はありません。
本記事では、この軸受構成が導かれる計算の論理と、現場で必ず防がなければならない致命的なトラブル回避策について解説します。
深溝玉軸受では寿命が不足する力学的理由
なぜ深溝玉軸受だけでは、縦型シャフトの自重支持に耐えられないのでしょうか。その理由はアキシアル荷重の許容能力と動等価荷重の計算特性にあります。
深溝玉軸受の許容アキシアル荷重の限界
深溝玉軸受は主にラジアル荷重を受ける設計となっており、アキシアル荷重も負荷できますが、その許容限界は基本動定格荷重(Cr)の約10〜20%程度にとどまります。縦型シャフトでは、停止中・運転中を問わずシャフト本体と攪拌翼の自重(Fa_dead)が常時作用し、さらに攪拌流によるスラスト推力(Fa_thrust)が同方向に重畳します。これによってアキシアル荷重Faのベース値が底上げされ、許容値を容易にオーバーしてしまいます。
動等価荷重(P)の比較
軸受の計算寿命は動等価荷重 P = X * Fr + Y * Fa によって決まります。
- Fr:ラジアル荷重
- Fa:アキシアル荷重
- X:ラジアル係数
- Y:アキシアル係数
深溝玉軸受はアキシアル荷重を受けると接触角が弾性的に生じますが、アキシアル係数Yが比較的大きく算出されるため、Faの増大に伴って動等価荷重Pが急増し、寿命式(L10 = (C/P)^3 * 10^6)において寿命が劇的に縮小します。
一方、接触角30°や40°をもつアンギュラ玉軸受は、もともとアキシアル荷重を受ける専用の軌道面設計となっており、Y係数が深溝玉軸受より格段に小さく設定されています。そのため、大きな自重スラスト荷重が加わっても等価荷重Pの増加が緩やかで、目標とする計算寿命をクリアできます。
スラスト軸受の単独追加が推奨されない理由
「深溝玉軸受でラジアルを受け、スラスト玉軸受を1個足して自重を受ければよいのではないか」と考える方もいます。しかし、スラスト軸受を追加すると以下のデメリットが発生します。
- 軸受段数が増え、ハウジングおよび軸長が長大化してコストアップ・重量増になる
- スラスト玉軸受は高速回転時に遠心力による滑り摩擦が発生しやすく、最小アキシアル荷重の管理がシビアになる
アンギュラ玉軸受の組合せであれば、ラジアル荷重とアキシアル荷重を一組で一括支持できるため、最も省スペースで高い信頼性を獲得できます。
現場の最悪シナリオ:見落としがちな転倒モーメントと熱膨張
選定計算上はクリアしていても、縦型シャフトの実機トラブルで特に多発するのが「転倒モーメントによる軸振れ」と「熱膨張による軸受の突っ張り(焼き付き)」です。
1. 液面揺動による転倒モーメントへの耐力
縦型攪拌機は片持ち梁の構造になります。槽内の液面揺動や高粘度液の巻き込みムラが生じると、インペラ先端には不均一な流体力(偏心ラジアル荷重)が加わり、支持部に強烈な曲げモーメント(転倒モーメント)が発生します。
このモーメントを受けるために、上部アンギュラ玉軸受は「背面組合せ(DB)」で組み付ける必要があります。
- 正面組合せ(DF):作用線が内側に向くため、作用点間距離が狭くなり、モーメント剛性が低い。
- 背面組合せ(DB):作用線が外側に向かって広がるため、物理的なベアリング幅以上に作用点間距離を広く確保でき、軸の倒れ剛性を最大化できる。
DB組合せを採用することで、片持ち長が長いシャフトでも先端の振れを極小に抑え、メカニカルシールの破損や槽壁への接触事故を未然に防止します。
2. 熱膨張による突っ張り焼き付きの罠
もう一つの重大なトラブルが、温度変化に伴うシャフトの熱伸びです。直結モータの発熱やプロセスの液温上昇によってシャフトが軸方向に伸びた際、上下両方の軸受でアキシアル拘束を行っていると、軸の行き場が失われて軸受内部に極めて過大なスラスト荷重が発生します。これにより、運転開始からわずか数時間で異常発熱・かじり・焼き付きを起こして設備停止に追い込まれます。
この破壊的トラブルを防ぐため、「固定側」と「自由側」の役割分離を徹底してください。
- 上部(固定側):背面組合せアンギュラ玉軸受の内輪・外輪をともにハウジングおよび軸段差で挟み込み、アキシアル荷重を全量受けてシャフトの上下位置を一元決めする。
- 下部(自由側):深溝玉軸受を配置し、外輪とハウジングの間を「すきまばめ」にしておく。これにより、シャフトが熱膨張しても外輪がハウジング内をスライドして軸方向に逃げ、突っ張りを完全に逃がす。
まとめと設計チェックリスト
自重とラジアル荷重が同時に加わる縦型シャフトの軸受選定では、以下の構成を標準設計として採用してください。
- 軸受構成:上部=アンギュラ玉軸受の背面組合せ(DB)、下部=深溝玉軸受。
- 役割分担:上部を固定側として自重とスラスト力をすべて受け持ち、下部は自由側としてラジアル荷重のみを支持し熱伸びを逃がす。
- モーメント対策:背面組合せにより作用点間距離を稼ぎ、流体外乱による軸の傾きを防ぐ。
理論計算上の寿命が成立していても、偏荷重の動的挙動や熱膨張の影響をCAD図面上だけで完全に予測し切ることは困難です。図面確定後は必ず試作機(プロトタイプ)を製作し、想定外の振動や軸受温度上昇がないか実機検証を行ってから量産・本番運用へ移行してください。