ここでは 「マンセル値の変換・調べ方・JIS規格との関係の基本」 についてメモしています。
設計をしていると「マンセル値の色指定があったけれど、どういう意味かわからない」「JIS規格とは違うのか、色の調べ方が知りたい」などの悩みが生まれます。 設計や製造、デザインの現場では、正確な色の伝達が求められ、 特に、マンセル値は色の基準として広く使われています が、その意味や実際の使い方、JIS規格との関連について、戸惑う方も少なくないと思います。
手元にある色見本や一覧を参考にしても、どう変換すれば良いのか、具体的な調べ方が分からなければ業務も進みません。 この記事では、業務でマンセル値を扱う方を対象に、色の指定で失敗をしないための基本を解説します。 機械設計において、マンセル値の指示は基本的にエンドユーザーからの指定となることがほとんどですが、この記事を読んで以下の点について理解を深めておくと良いと思います。
- マンセル値の基本的な意味と読み方
- 日塗工やJIS規格とマンセル値の関係性
- 安全色や識別色など実務で使う色の具体例
- 色指定や変換を行う際の注意点
マンセル値とJIS規格の基本的な関連性
早速ですが、色の基準となるマンセル値の基本から、日本の工業分野で広く使われる日塗工(日本塗料工業会)の色票との関係、そして両者の間で色を変換する方法についてメモをします。 まずは、色を客観的な指標で扱うための基礎知識を身につけましょう。
色の三属性で表すマンセル値とは
マンセル値とは、アメリカの美術教師であったアルバート・マンセルが考案した、色を客観的な数値で表現するための体系のこと です。 感覚に頼りがちな「色」という情報を、誰もが同じように認識できるよう作られており、世界中の工業製品やデザインの分野で利用されています。
この体系の根幹をなすのが 「色の三属性」と呼ばれる3つの要素 です。
色の三属性:色相・明度・彩度
- 色相 (Hue): 赤、黄、緑、青、紫といった「色合い」の違いを示します。アルファベット記号で表され、R(赤)、Y(黄)、G(緑)、B(青)、P(紫)とその中間色(YR、GYなど)で構成されます。
- 明度 (Value): 色の明るさの度合いを示します。最も明るい白を10、最も暗い黒を0として、数値が大きいほど明るい色になります。
- 彩度 (Chroma): 色の鮮やかさの度合いを示します。明度と同じ軸の中心にある無彩色(白・黒・灰色)を0とし、中心から離れるほど数値が大きくなり、色が鮮やかになります。
要するに、マンセル値はこれら3つの要素を組み合わせることで、特定の色を「H V/C」(色相 明度/彩度)という記号で正確に定義するシステム です。 これにより、「明るい赤」といった曖昧な表現ではなく、具体的な数値で色を伝えられます。
基本となるマンセル値の読み方
マンセル値は「H V/C」という形式で表記され、それぞれが色相(Hue)、明度(Value)、彩度(Chroma)を表しています。 この読み方を理解することが、マンセル値を取り扱う第一歩となります。
例えば、「5R 4/14」というマンセル値があったとします。これは以下のように読み解きます。
- 5R (色相): 最初の「5R」は 色相 を示します。 Rは赤(Red)を意味し、その前にある数字は色合いの段階を表します。 この場合、「純粋な赤」の色相であることを示しています。
- 4/ (明度): スラッシュの前の「4」は 明度 です。 0(黒)から10(白)までの尺度の中で「4」に位置する明るさであることを意味します。比較的暗めの色であることが分かります。
- /14 (彩度): スラッシュの後の「14」は 彩度 を示します。 数値が大きいほど鮮やかな色となり、この場合は彩度が「14」と非常に高い、鮮やかな色であることが理解できます。
このように、「5R 4/14」は「純粋な赤の色相で、やや暗く、非常に鮮やかな赤色」と具体的に読み取ることが可能となります。(私は読み解くのが得意ではありません笑) このルールさえ覚えておけば、どのようなマンセル値を見ても、それがどんな色なのかを大まかに想像できるようになります。
マンセル値の調べ方と色見本の活用法
マンセル値を調べるには、主に「色見本帳」を使用する方法が一般的 です。 これは、JIS(日本産業規格)や日塗工(日本塗料工業会)が発行しており、特定の色票番号に対応するマンセル値が記載されています。
色見本帳の種類
- JIS標準色票: JISで定められた色を網羅した色見本帳です。 正確なマンセル値が記載されており、厳密な色指定が必要な場合に参照されます。光沢版やマット版などがあり、用途に応じて使い分けます。
- 日塗工 塗料用標準色: 塗料業界で広く使われる標準色をまとめたものです。数年ごとに改訂され、建築や設備、機械など幅広い分野で利用されています。色票番号とともに、参考値としてマンセル値が併記されているのが特徴です。
これらの色見本帳を使う際の注意点として、観察する環境が挙げられます。 自然光に近い標準の光源の下で見比べないと、色の見え方が変わってしまい、正確な判断が難しくなります。 また、近年ではスマートフォンのカメラで色を測定し、近似のマンセル値を表示するアプリも登場していますが、あくまで参考程度と考えるのが良い でしょう。
業務で 正確性が求められる場合は、必ず物理的な色見本帳で最終確認を行うことが大切です。
日本塗料工業会(日塗工)とマンセル値
日本塗料工業会、通称「日塗工(にっとこう)」は、日本の塗料製造業者が加盟する団体です。 この日塗工が発行する 「塗料用標準色」の色見本帳 は、建築、構造物、設備機器、景観色彩など、塗料が使われるさまざまな分野で、色の指定や確認のための標準として広く活用されています。
日塗工の色見本帳には、独自の色票番号(例:「FN-95」や「E25-70B」など)が付けられていますが、それぞれの色票には参考値としてマンセル値が併記されています。 これにより、日塗工の色票番号で指定された色が、マンセル値ではどのような位置づけの色なのかを把握することが可能です。
ただし、注意すべき点があって、 日塗工の色見本帳は定期的に改訂 され、収録される色も変わることがあります。 このため、古い版の色見本帳を使い続けると、現在の標準色と認識がずれてしまう可能性があります。
色の指定を行う際は、どの年度版の色見本帳に基づいた色なのかを明確に伝達することが、認識の齟齬を防ぐ上で不可欠です。
日塗工の近似値へのマンセル値変換
マンセル値で指定された色を、日塗工の色見本帳から探す、あるいはその逆の作業は実務で頻繁に発生します。多くの場合、日塗工の色票にはマンセル値が併記されているため、比較的容易に参照できます。
しかし、指定されたマンセル値と完全に一致する色が、日塗工の色見本帳に収録されているとは限りません。 このような場合、最も近い色、つまり「近似値」を探す作業が必要になります。
この変換作業にはいくつかの注意点があります。 第一に、マンセル値は理想的な色の体系であるのに対し、日塗工の色は実際に塗料で再現可能な色の範囲から選ばれているため、そもそも色域に違いがあることを理解しておく必要があります。特に、彩度の高い鮮やかな色などは、塗料での再現が難しく、対応する色が見つからないことがあります。
第二に、「最も近い色」の判断は、色差(ΔE)という数値的な基準で評価されるべきですが、目視で判断することも少なくありません。その際は、光源の条件を整え、複数の担当者で確認するなど、判断の客観性を高める工夫が求められます。これらのことから、変換はあくまで「近似値」を探す作業であり、 完全な一致を保証するものではないと認識しておくことが、後々のトラブルを避ける鍵となります。
基本的に 機械設計ではクライアント(エンドユーザー)から渡される仕様書(仕様書では独自の色コードで読んでいる場合もある)の記載内容で設計を進めるのが通常ですが、 切削部への着色や部分的な安全部位や危険部位での色違いなど、疑問に感じる場所があれば事前にすり合わせておくことが望ましいと思います。
実務で活用するマンセル値とJIS指定色
ここからは、より実務的な側面に焦点を当て、JIS(日本産業規格)で定められた様々な色の規定とマンセル値の関わりを解説します。 安全を守るための色や、製品の種類を識別するための色 などを見ていきます。
JIS色見本で確認できるマンセル値
JIS(日本産業規格)では、色の客観的な表示方法としてマンセル表色系が採用されています。 具体的には「JIS Z 8721(色の表示方法-三属性による表示)」 において、マンセル値が色の表示の基本として規定されており、これにより国内の工業製品の色は共通の尺度で管理されている のです。
この規格に準拠して作成されたものが「JIS標準色票」です。 これは、JISで定められた色を物理的な色票として再現したもので、極めて正確なマンセル値が記載されています。
設計者や品質管理担当者が色の基準として用いる、信頼性の高いツール と位置づけられています。
日塗工の色見本帳に記載されているマンセル値が「参考値」であるのに対し、JIS標準色票のマンセル値は「規定値」としての性格を持ちます。 したがって、契約や仕様書でJIS準拠の色が求められる場合は、JIS標準色票を用いて色の確認を行わなければなりません。 この色票を用いることで、発注者と受注者の間で色の認識にずれが生じることを防ぎ、製品の品質を保証することにつながります。
JIS安全色の一覧と規定について
工場や工事現場、公共の施設などでは、危険な場所や安全な状態を人々に瞬時に伝えるため、「安全色」が用いられます。 これらの色はJIS Z 9101(安全色及び安全標識)によって、その用途とマンセル値が厳密に定められています。
色の意味を誰もが誤解なく理解できるように標準化されているため、これらの色を勝手に変更することはできません。 以下に、代表的な安全色とその意味、マンセル値を示します。
色の名称 | マンセル値 | 意味・用途例 |
赤 | 7.5R 4/14 | 防火、禁止、停止、危険(例:消火器、非常停止ボタン) |
黄赤 | 2.5YR 6/14 | 危険、警告(例:ガードレール、安全標識の地色) |
黄 | 5Y 8/12 | 警告(例:注意を促す表示、床の境界線) |
緑 | 2.5G 6/10 | 安全、衛生、進行(例:安全旗、救護所、非常口) |
青 | 2.5PB 4/10 | 指示、誘導(例:「〜せよ」という指示表示) |
赤紫 | 10P 4/10 | 放射能(例:放射性物質のある区域の表示) |
これらの色は、ただ目立つだけでなく、光の当たりにくい場所や、様々な人の色覚特性を考慮しても、誤認されにくいように選定されています。安全に関わる色の指定を行う際は、必ずこのJIS規格を参照することが不可欠です。
配管等のJIS識別色の一覧
大規模な工場やプラントでは、数多くの配管が複雑に行き交っています。どの配管に何が流れているかを誤認すると、重大な事故につながる恐れがあります。これを防ぐため、配管内の物質の種類を色で識別する「識別色」がJISで定められていました。
この規定は 以前「JIS Z 9102」で定められていましたが、この規格は廃止され、現在は「JIS Z 9104(配管系および貯蔵タンクの安全表示システム)」に内容が引き継がれています。ただし、現場では慣例として旧JIS Z 9102の色指定が今でも広く使われることがあります。以下に、旧規定で定められていた主要な識別色を示します。
流体の種類 | 色の名称 | マンセル値 |
水 | 青 | 2.5PB 4/10 |
蒸気 | 暗い赤 | 7.5R 3/6 |
空気 | N9.5 | |
ガス | うすい黄 | 2.5Y 8/4 |
酸またはアルカリ | 紫 | 7.5P 4/8 |
可燃性液体(油など) | 黄赤 | 10YR 6.5/10 |
これらの色は、流体の危険性や性質に応じて定められています。配管の塗装やメンテナンスを行う際には、最新のJIS規格を確認するとともに、現場の慣例や規則を遵守することが安全管理の基本となります。
工作機械色で見るマンセル値の例
工作機械の色についても、かつてはJISで推奨色が定められていました。 これは、作業者の目の疲労を軽減し、加工物や危険箇所を認識しやすくすることで、作業効率と安全性を向上させることを目的 としていました。
代表的な規格として「JIS B 6013」があり、ここでは機械本体の色として「7.5BG 4/2」(うすい青緑)などが推奨されていました。 この色は、金属の光沢や油の反射を和らげ、長時間作業しても目が疲れにくいという理由で選ばれたもの です。
しかし、このJIS B 6013は1986年に廃止されています。現在では、特定のJIS規格で工作機械の色が強制されているわけではありません。 現在多くのメーカーは、視認性やデザイン性、自社のブランドイメージなどを考慮して、独自の色を採用しています。
とは言え、長年の慣例から、今でもこの「7.5BG 4/2」に近い色が多くの機械で採用されています。 もし古い機械の補修塗装などで色を合わせる必要がある場合は、このマンセル値が参考になる場合があります。
赤や白など代表的なマンセル値一覧
これまでにJISの安全色や識別色を見てきましたが、それ以外にも、私たちの身の回りには基準となる様々な色が存在します。ここでは、一般的に参照されることの多い赤と白の代表的なマンセル値を紹介します。
赤のマンセル値
「赤」と一口に言っても、朱色に近い赤から、深みのある赤まで様々です。JIS規格で「赤」として最も基準となるのは、安全色の赤である「7.5R 4/14」です。これは非常に彩度が高い、鮮やかな赤を示します。郵便ポストの色なども、このマンセル値を参考に作られていると言われています。
白のマンセル値
「白」は無彩色であり、彩度がないためマンセル値は「N」で表されます。Nの後ろの数字は明度を示し、N10が理想的な白ですが、物理的に再現は困難です。一般的に「白」として使われるのは以下の2つです。
- N9.5: 現在のJISで標準とされる白です。純白に近く、非常に明るい白です。
- N9: かつて標準とされていた白で、N9.5に比べるとわずかに灰色がかっています。しかし、一般的な感覚では十分に「白」と認識される色であり、今でも広く使われています。
例えば、建材や家電製品などで「ホワイト」と表記されている製品でも、実際にはN9.5やN9、あるいはそれ以外のオフホワイトが使われていることがあります。正確な色味を確認したい場合は、やはり色見本帳で確認することが大切です。
総括:実務で重要なマンセル値とJIS
では、今回の内容で特に重要なポイントをまとめます。
- マンセル値は色を「色相・明度・彩度」の三属性で数値化した世界共通の体系
- 表記は「H V/C」(色相 明度/彩度)で表される
- 読み方を理解すれば色の特徴を具体的に把握できる
- マンセル値の調査には JIS標準色票 や 日塗工色見本帳 が使われる
- 正確な色判断には標準光源下での観察が不可欠
- 日塗工は塗料業界の標準色でマンセル値が参考併記されている
- マンセル値から日塗工への変換は近似値を探す作業となる
- JISではマンセル表色系を色の表示方法として採用している
- JIS安全色は危険や安全を瞬時に伝えるため厳密に規定されている
- 消火器の赤や非常口の緑などがJIS安全色の代表例
- 配管識別色はJISで規定され事故防止を目的とする
- 配管識別の旧JIS Z 9102は廃止されJIS Z 9104に引き継がれている
- 工作機械の色はかつてJISで推奨されていたが現在は廃止されている
- 色の指定は、規格名や色見本帳の年度版を明確に伝達することが重要
- 最終的には現物や色見本での目視確認がトラブルを避ける鍵となる
最後に
最後に、この記事で不足がありましたら、より深く、正確な情報を得るためにお勧めできるウェブサイトを貼っておきます。
1. JIS(日本産業規格)について調べる
JIS規格の原文や最新情報を確認したい場合に最適な公式サイトです。
- サイト名: 日本産業標準調査会 (JISC)
- URL: https://www.jisc.go.jp/
- 概要: 日本の産業標準化全般を担う経済産業省の審議会です。このサイトでは、JIS規格を番号やキーワードで検索し、規格の概要や制定・改正・廃止の情報を無料で確認できます。記事中で触れた「JIS Z 9101」などの規格も検索可能 です。
2. 日塗工(日本塗料工業会)の色見本や塗料について調べる
塗料の色や日塗工の色見本帳に関する公式情報を知りたい場合に役立ちます。
- サイト名: 一般社団法人 日本塗料工業会 (JPMA)
- URL: https://www.toryo.or.jp/
- 概要: 記事で紹介した「 塗料用標準色 」を発行している団体です。サイト内では、色見本帳の最新情報や、塗料に関する統計、技術情報などを得ることができます。
3. マンセル表色系や色彩の専門知識を深める
色の表示方法や色彩学について、より専門的に学びたい場合に適しています。
- サイト名: 公益財団法人 日本色彩研究所 (JCRI)
- URL: https://www.jcri.jp/
- 概要: 色彩に関する研究や標準化を行っている専門機関です。マンセル表色系を含む色彩の基礎知識や、JISで定められている「標準色票」に関する情報などを提供しています。
以上です。