IAIエレシリンダーを3ポジション(中間停止)で使う方法

 

ここでは 「IAIエレシリンダーを3ポジション(中間停止)で使う方法」についてのメモです。

 

エレシリンダーにおける3ポジション制御を実現するための、正しい機種選定ルールと必要なオプション仕様について解説し、最終的には発熱や摩耗といったトラブルを未然に防ぐための設計上の重要ポイントまで、順を追って紐解いていきます。

エレシリンダーで3点停止を実現する仕組み

専用機種は不要!「MFオプション」の選定と仕組み

「3ポジションで使いたいけれど、どの機種を買えばいいのか?」という問いに対する結論は非常にシンプルです。  3ポジション専用の特殊なアクチュエータ本体を購入する必要はありません。 カタログに掲載されている標準的なエレシリンダー(ECシリーズ)を選定し、型式の一部にオプション指定を行うだけで、ハードウェアはそのままで3ポジション機能を利用できるようになります。

 

現在の状況
2025年現在、販売されている現行モデル(EC-S7, EC-R7, EC-Gシリーズ等)は、すべて標準で3ポジション以上の制御に対応しているようで、「2ポジション専用」として販売されている特殊型番を除き、標準在庫品を購入すれば間違いなく3ポジション運用が可能とのこと。

 

メカ設計者が行うべき「型式指示」

機械設計の段階で最も重要なのは、購入する型式の末尾に「3ポジション切替仕様(オプション記号:MF)」を付加することです。

 

例えば、標準的なスライダタイプを選定する場合、型式は以下のようになります。

  • 標準(2点停止):EC-S7M-200-0-B-...
  • 3ポジション対応:EC-S7M-200-0-B-... -MF

 

この「-MF」を指示図面や手配リストに明記するだけで、メーカー出荷時にコントローラの内部設定が「3点位置決めモード」に書き換えられた状態で納品されます。  外形寸法や取り付け穴ピッチは標準品と全く同じであるため、専用の図面を起こす必要はありません。  ただし、ストローク選定においては、中間停止位置(C点)だけでなく、最大移動量となる前進端(B点)までをカバーするストロークを選ぶことを忘れないでください。

 

 

電気設計者が認識すべき「I/O割り当て」

一方、電気設計者への指示には注意が必要です。「ハードは同じ」ですが、制御信号(I/O)の役割がガラリと変わります。標準品は「前進/後退」の単純な信号ですが、MF仕様を選択すると、以下のように信号の意味が変更されます。

 

  • 標準:入力信号ONで前進、OFFで後退(または別信号で後退)
  • MF仕様:信号の組み合わせ(バイナリ的要素)で位置を指定
    • ST0 ON: 後退端へ
    • ST1 ON: 前進端へ
    • ST0 + ST1 同時ON: 中間点へ

このため、電気図面(回路図)を作成する際は、標準の配線図ではなく、必ず「MFオプション仕様」の配線図を参照するように指示を出す必要があります。

 

 

購入後の「後付け」は可能か?

実務でよくあるのが、「標準品を買ってしまったが、後から3ポジションにしたくなった」というケースです。  結論から言えば、エレシリンダーのハードウェア(モータ・制御基板)は共通であるため、設定変更により後から3ポジション化することは技術的に可能です。

 

具体的には、ティーチングボックス(TB-03)やPCソフトを使用して、内部パラメータNo.9「電磁弁方式選択」の設定を変更し、ポジションデータを登録することで動作します。  しかし、I/Oラベルの貼り替えや、パラメータ管理の繁雑さを避けるためにも、基本的には設計段階で「-MF」付きを選定することを強く推奨します。

 

 

 

バッテリーレスアブソリュートエンコーダ

エレシリンダー(ECシリーズ)が、単なるエアシリンダの電動版という枠を超えて、簡易的な多点位置決めデバイスとしてこれほどまでに普及した最大の要因は、バッテリーレスアブソリュートエンコーダの標準搭載にあります。  私がエアシリンダを用いていた頃は、中間停止用のバルブを組んでも、非常停止後の復帰時に「一度原点に戻さないと現在地がわからない」という問題に常に悩まされていました。

 

しかし、このエンコーダ技術により、電源が遮断されてもスライダやロッドの絶対位置が保持されます。  3ポジション運用の要である「中間点」で装置が緊急停止した場合でも、再起動後に原点復帰動作を行う必要がなく、その場から即座に次工程へ移行できます。  これは、段取り替え時間の短縮や、復帰動作中の干渉事故リスクをゼロにできるという意味で、設計者にとって極めて大きな安心材料と言えます。

 

 

AVD制御

3ポジション動作、すなわち「始点→中間点→終点」という一連の動きにおいて、エアシリンダではどうしても実現できなかったのが、区間ごとのきめ細やかな挙動制御です。  エレシリンダーの核となるAVD制御(Acceleration:加速度、Velocity:速度、Deceleration:減速度)は、この課題を鮮やかに解決します。

 

例えば、始点から中間点まではサイクルタイムを稼ぐために最大加速度で移動し、中間点から終点まではワークの荷崩れを防ぐために低速かつ緩やかな減速度でアプローチするといった設定が可能です。  前述の通り、エアシリンダのスピコン調整では速度と推力が連動してしまうため、こうした独立した制御は不可能でした。  AVD制御を駆使することで、「速いけれど優しい」という理想的な搬送プロファイルを構築できます。

 

 

コストパフォーマンス

私たち設計者が仕様検討時に最も頭を悩ませるのがコストの問題です。  通常、3点以上の精確な位置決めを行うには、高機能な「ロボシリンダ(RCPシリーズなど)」と、それに対応する別置きコントローラを選定するのが定石でした。しかし、これでは制御盤のスペースもコストも嵩んでしまいます。

 

エレシリンダーはコントローラを本体に内蔵しており、3ポジション機能を利用する場合でも、基本的なハードウェア構成は変わりません。  前述の「MFオプション」を選択するだけで、ロボシリンダシステムと比較して圧倒的に低い初期導入コストで多点停止を実現できます。  予算が限られた案件において、エアシリンダ以上ロボシリンダ未満の「ちょうど良い機能」を低価格で提供してくれる点は、非常に高く評価できます。

 

表1:アクチュエータ種類による機能とコストの比較

比較項目 エアシリンダ (3点停止) エレシリンダー (EC) ロボシリンダ (RCP6等)
位置決め点数 2点 (中間は専用バルブ要) 2点 (標準) / 3点 (MF) 最大512点
速度制御 不安定 (スピコン依存) AVD制御 (個別設定) 高機能 (波形制御可)
停止精度 ±0.5mm程度 ±0.05mm ±0.02mm
コントローラ 不要 (電磁弁が必要) 内蔵 (省スペース) 別置き (盤内設置要)
導入コスト 中 (コスパ良)
3点停止適性 △ (調整が極めて困難) ◎ (設定のみで可能) 〇 (オーバースペック気味)

参考出典先:IAI エレシリンダー製品情報

 

 

エレシリンダーの中間停止設定と制御

ポジション指定モード

エレシリンダーを3ポジションで動作させる際、最も重要なのが「制御モード」の理解です。  カタログやWebサイトでは「簡単設定」が強調されていますが、標準出荷状態(ダブルソレノイドモード)のままでは2点間移動しかできません。  3点目を利用するためには、前述の通り「MF(3ポジション切替仕様)」として運用する必要があります。

 

このモードでは、動作が従来のエアシリンダ的なON/OFF制御から、数値で定義された座標へ移動する方式に切り替わります。  具体的には、ポジションNo.0(後退端)、No.1(前進端)に加え、No.2(中間点)の座標値をコントローラ内部に登録します。  これにより、外部信号の組み合わせだけで、任意の位置へ高精度に停止させることが可能になります。  メカ的なストッパ調整が不要になるため、設計段階での位置決め設計が非常に楽になります。

 

 

TB-03

これらの中間位置座標やAVD値を設定するために欠かせないツールが、タッチパネルティーチングボックス 「TB-03」 です。  本体の簡易パネルでも最低限の操作は可能ですが、3ポジションの運用では「中間点が実際にどの位置にあるべきか」を実機で確認しながら微調整する作業が頻発します。

 

TB-03を用いれば、手元でアクチュエータをJOG動作させ、ワークが所定の位置に来た瞬間にその座標を取り込む「ダイレクトティーチング」が可能です。  机上の計算値だけでなく、現物合わせでの調整がスムーズに行えるため、立上げ工数を大幅に削減できます。  また、設定データのバックアップ機能も備えているため、メンテナンス時の安心感も違います。

 

 

PIOパターン

電気設計において最も注意が必要なのが、PLCとのインターフェースとなる「PIO(Parallel I/O)パターン」の確認です。  3ポジション仕様(MF)では、入力信号の割り当てが標準仕様とは異なります。  配線図を作成する際は、必ずこの特殊パターンを参照しなければなりません。

 

具体的には、3つの位置を指定するために、2本の入力信号線(ST0, ST1)の組み合わせを使用します。

 

表2:3ポジション仕様 (MF) における入力信号ロジック

移動目標位置 入力信号 ST0 (後退指令) 入力信号 ST1 (前進指令) 動作概要
後退端 (Home) ON OFF 原点側へ移動
前進端 (End) OFF ON 反モータ側へ移動
中間点 (Middle) ON ON 設定された中間座標へ移動
停止/減速 OFF OFF 移動中にOFFになると減速停止

参考出典先:ELECYLINDER_3POSITION (ME3837-1B).pdf

この表のように、「両方の信号を同時に入れる」という操作が中間点への指令となります。  これを理解していないと、「中間点に行かせたいのに、なぜか後退してしまう」といったトラブルに見舞われることになります。

 

 

PLCラダー

前述の通り、中間点への移動には「ST0とST1の同時ON」が必要ですが、ここでPLCプログラム特有の課題が発生します。  PLCの出力ユニットやスキャンタイムの微妙なずれ(スキュー)により、プログラム上で同時にONしたつもりでも、エレシリンダー側には一瞬だけ「ST0のみON」の状態が伝わってしまうことがあります。

 

これを防ぐためには、PLCラダー側で意図的にタイミングを同期させる工夫が必要です。  例えば、中間点移動の指令フラグが立ったら、内部リレーを介してST0とST1をセットし、確実に両方のビットが立っていることを確認してから出力更新を行う、あるいはエレシリンダー側のパラメータ「入力フィルタ定数」を数ミリ秒から十数ミリ秒程度に延ばし、微細な時間差を無視させるといった対策が有効です。  安定稼働のためには、こうしたソフト面でのケアが不可欠です。

 

 

中間停止

実際に装置を動かし始めると、「中間停止完了」の信号をどう扱うかがタクトタイムに直結します。  エレシリンダーは、目標位置に近づくと「インポジション(位置決め完了)」信号を出力します。  この信号が出るタイミングは、パラメータで設定された「位置決め幅」に依存します。

 

この幅を広く取りすぎると、まだ動いている最中に次工程のシリンダが動き出し、干渉する恐れがあります。  逆に狭すぎると、なかなか完了信号が出ず、サイクルタイムが延びてしまいます。  中間停止位置で検査カメラによる撮像などを行う場合は、完全に停止している必要があるため、インポジション幅を狭く設定するか、完了信号検知後にタイマーで数十ミリ秒待機させてから撮像トリガを引くといった調整を、実機挙動を見ながら詰めていくことが大切です。

 

 

押し付け動作の基礎と「中間点ではできない」理由

3ポジション運用の検討中、設計初心者の方がよく躓くのが「押し付け動作(Push-motion)」の取扱いです。  エアシリンダから置き換える際、「中間位置でワークをクランプ(把持)したい」という要望が出ることがありますが、結論から申し上げますと、エレシリンダーの3ポジションモードでは中間点での押し付け動作はできません。   ここでは、そもそも押し付け動作とは何か、そしてなぜ中間点では不可能なのかを解説します。

 

 

エレシリンダーにおける「押し付け動作」とは

エアシリンダは空圧で常に押し付ける力が働きますが、エレシリンダーのような電動アクチュエータは通常、目標座標へ到達しようと制御されます。  これに対し「押し付け動作」とは、「目標位置へ到達する手前から、速度を落としつつ、設定したトルク(電流値)を上限として押し続けるモード」のことを指します。

 

ワークに当たると、モータは停止しますが、エラーにはならず「押し付け完了(PE)」信号を出力して、その力で保持し続けます。  これにより、圧入やクランプといった工程が可能になります。

 

 

なぜ中間点では「押し付け」ができないのか

IAIの公式マニュアル 「ELECYLINDER_3POSITION (MJ3837-1D)」には、「5. 中間点は “押付け動作” を設定することはできません。」と明記されています。  この理由は、制御ロジックの構造にあります。

 

エレシリンダーの3ポジションモード(MF仕様)における「中間点への移動(ST0+ST1入力)」は、内部的に「純粋な位置決め移動(Positioning)」としてプログラムされています。   コントローラの仕様上、始点と終点(前進端・後退端)に対しては「位置決め」か「押し付け」かを選択できるパラメータが存在しますが、中間点に対してはその選択肢が用意されていません。

 

中間点はあくまで「通過点」や「仮停止点」としての利用が想定されており、トルク制御へ切り替える複雑な処理がこのモードではサポートされていないのです。

 

 

設計上の注意点と代替案

もし、設計中の機械で「中間位置でのクランプや圧入」が必須機能であるならば、以下のいずれかの対策をとる必要があります。

 

  1. ロボシリンダ(RCPシリーズ)への変更ロボシリンダであれば、ポジションデータを自由に作成でき、どの位置でも「押し付け動作」を設定可能です。
  2. メカ設計の変更:クランプ位置をアクチュエータの「前進端」になるようにメカストロークを調整する、あるいはエレシリンダーは搬送のみを行い、クランプは別途ハンドやエアシリンダで行う構成にする。

「3ポジションできるから何でもできる」と思い込まず、この制約を理解した上で選定を行うことが、手戻りのない設計への第一歩 です。

 

 

エレシリンダーのポジション指定モード活用と注意点

ロボシリンダとの使い分け

3ポジションが可能とはいえ、エレシリンダーが万能というわけではありません。  ロボシリンダ(RCP/RCSシリーズ)との境界線を見極めることが設計者の腕の見せ所です。  もし、あなたの設計する装置が「多品種少量生産」に対応する必要があり、段取り替えのたびに停止位置をタッチパネルから数値入力で変更したい場合、エレシリンダーは不向きです。  エレシリンダーの位置変更にはTB-03等のツール接続が必要だからです。

 

また、フィールドバス(CC-LinkやEtherNet/IPなど)を通じて、リアルタイムに現在位置をPLCに取り込んだり、トルク値を監視したりする高度なIoT機能が求められる場合も、ロボシリンダを選定すべきです。  エレシリンダーはあくまで「調整が簡単な、固定点への移動デバイス」と割り切り、複雑な通信やデータ管理が不要な箇所に適用するのが、コスト対効果を最大化する秘訣です。

 

 

タクトタイム

3ポジション運用は、単純往復に比べて加減速の回数が増えるため、タクトタイム計算 には注意が必要です。  特に中間点での停止時間が短い場合、モータは「加速→減速→停止→加速→減速」という激しい動作を強いられます。

 

タクトタイムを短縮するための鍵は、AVD設定の最適化にあります。  中間点までの移動距離が短いショートストローク動作では、最高速度(V)に達する前に減速が始まってしまうことが多々あります。  このような場合、最高速度の設定を上げるよりも、加速度(A)と減速度(D)の設定値を上げる方が時間短縮に効果的です。  ただし、加減速を上げると振動や衝撃が増えるため、ワークの把持力などとのバランスを見ながら、TB-03で限界値を探る作業が必要になります。

 

 

デューティー比

頻繁な加減速を繰り返す3ポジション制御において、最も警戒すべきリスクの一つが 「デューティー比(カタログのP32)」 のオーバーです。  エレシリンダーに搭載されているステッピングモータや一部のサーボモータは、停止中も位置保持のために電流を消費し続けます。また、加減速時には大きなエネルギーを使います。

 

3点間を休みなく高速で往復させると、この制限(推奨されるデューティ比率)を超えてしまうことがあります。  その結果、モータやドライバが過熱し、過負荷アラームで装置が停止してしまいます。  設計段階でサイクル線図を引き、停止時間(冷却時間)が十分に確保できているかを確認してください。  もし余裕がない場合は、ワンサイズ大きな機種を選定するか、強制空冷などの対策を検討する必要があります。

 

 

発熱

デューティー比と密接に関係しますが、エレシリンダー本体の発熱には物理的な配慮も必要です。  特に、安全カバーで密閉された空間や、他の熱源の近くに設置する場合、放熱が妨げられて温度が上昇しやすくなります。

 

3ポジション制御は2点移動よりも制御電流の変動が激しく、想定以上の熱を持つことがあります。  私が担当した案件でも、夏場に筐体内部温度が上がり、アラーム頻発に至ったケースがありました。  設置スペースには余裕を持たせ、空気の流れを確保すること、また熱に弱いセンサ類をモータ部に密着させないといった配置上の工夫が、安定稼働を支えます。

 

 

ブレーキ仕様

エレシリンダーを垂直方向(Z軸)に使用し、中間位置で停止させる場合は、必ず「ブレーキ付き」仕様を選定してください。  これは絶対のルールです。  電源OFF時や非常停止時にブレーキがないと、ワークの重みでロッドが落下し、製品破損や怪我につながります。

 

また、水平使用であっても油断はできません。  中間停止中にバネの反発力や外部からの押圧力がかかる用途では、通電していても保持力(ホールディングトルク)だけでは耐え切れず、位置ズレや過負荷エラーを起こすことがあります。  カタログ記載の「静的許容モーメント」や「保持力」を確認し、もし外力に負ける可能性があるなら、ブレーキ付きを選ぶか、外部にメカニカルなロック機構を設ける設計変更が必要です。

 

 

ガイド剛性

ロッドタイプのエレシリンダーで中間停止を行い、そこで圧入や横方向への力がかかる作業を行う場合、ロッドの「ガタ」や「たわみ」が問題になることがあります。  ロッドを伸ばした中間位置は、構造的にモーメント荷重に対して最も弱くなるポイントです。

 

エアシリンダよりも剛性は高いものの、リニアガイドほどの強度は期待できません。  もし中間位置で横荷重がかかるなら、ガイドを内蔵した「スライダタイプ」や「ラジアルシリンダ」を選定するか、ロッドの先端に外部ガイドを併設して荷重を受ける構造にしてください。  ここを妥協すると、ロッドの曲がりや軸受の早期破損を招く原因となります。

 

 

フレッティング摩耗

最後に、プロの設計者として忘れてはならないのが「フレッティング摩耗」への対策です。  3ポジション運用で、毎日何千回も全く同じ「中間座標」で停止と発進を繰り返すと、ボールねじやガイドの特定のボール接触点だけが極端に摩耗し、油膜切れを起こして寿命を縮めてしまいます。

 

これを防ぐための有効な手段は、定期的に停止位置を散らすことですが、実際は難しいと思うのでメンテナンス時に重点的にグリスアップを行うといった運用ルールを定めることで、機械寿命を大幅に延ばすことができますし、そうなった場合のメンテナンススペースも、長期的な視点での提案ができるかどうかが、設計者の質を分けます。

 

 

まとめ

この記事では、IAIエレシリンダーを3ポジションで活用するための技術的要件と運用ノウハウについて解説しました。要点を以下にまとめます。

 

  • エレシリンダーは標準で2点移動だが、「MFオプション」等により3点位置決めが可能になる
  • バッテリーレスアブソリュートエンコーダにより、電源遮断後も中間位置から即復帰できる
  • AVD制御(加速度・速度・減速度)を個別設定することで、エアシリンダにはない滑らかな搬送が実現する
  • コントローラ内蔵による省スペース化と低コスト化が、ロボシリンダに対する最大の優位点である
  • 3ポジション制御には「3点位置決め(ポジション指定)モード」への設定変更や仕様選定が必要となる
  • 設定や調整には、タッチパネルティーチングボックス(TB-03)やPCソフトが必須ツールである
  • 制御入力は、一般的に「ST0(後退)とST1(前進)の同時ON」で中間点を指令するロジックである
  • PLCラダー作成時は、信号の同時入力タイミング(スキュー)対策としてタイマーやフィルタを実装する
  • 中間停止の完了信号(インポジション)の幅設定は、タクトタイムと停止精度のバランスを見て調整する
  • 「押し付け動作」は始点と終点でのみ可能であり、中間点では設定できない
  • 中間点でのクランプ等が必要な場合は、エレシリンダーではなくロボシリンダを選定する
  • 3点間の頻繁な加減速はモータ発熱を招くため、デューティー比(稼働率)の計算と管理が重要である
  • 垂直使用や外力がかかる中間停止には、安全のため必ずブレーキ付き仕様を選定する
  • 中間位置での横荷重に対しては、ガイド剛性の高い機種を選ぶか、外部ガイドを併用して負荷を逃がす
  • 特定位置での繰り返し停止によるフレッティング摩耗を防ぐため、定期的な位置分散や給油メンテナンスを行う

 

以上です。