嵌合公差(かんごうこうさ)とは?
嵌合公差とは、機械部品同士を組み合わせる際(穴と軸など)に設定する寸法公差およびその組み合わせによる「はまりあいの関係」を規定する公差のことです。英語では「Fit Tolerance」や単に「Fit」と表現されます。
機械を構成する部品を意図した機能通りに動作させるには、スムーズに回転・摺動させる「すきま」が必要な場合もあれば、完全に固定してガタつきをなくす「締めしろ」が必要な場合もあります。嵌合公差はこれらを標準化し、互換性を保ちながら確実な組み立てを実現するために不可欠な設計要素です。
嵌合の3つの基本分類
嵌合は、穴と軸の寸法差(すきま・しまり)によって大きく3種類に分類されます。
1. すきまばめ(Clearance Fit)
常に穴の寸法が軸の寸法よりも大きく、組み立てた際に必ず「すきま」ができる嵌合です。回転軸受やスライドガイドなど、部品同士を相対的に動かす必要がある箇所に適用されます。
2. 中間ばめ(Transition Fit)
穴と軸の仕上がり公差によって、「すきま」になる場合も「しまり」になる場合もある嵌合です。位置決めピンやキー結合など、過度な圧入力をかけずに高い位置決め精度が要求される箇所に用いられます。
3. しまりばめ(Interference Fit)
常に軸の寸法が穴の寸法よりも大きく、組み立て時に必ず軸が穴に食い込む(締めしろが生じる)嵌合です。圧入、焼きばめ、冷やしばめなどの方法で組み立て、キーやボルトを用いずにトルク伝達や完全固定を行う箇所に採用されます。
穴基準と軸基準の考え方
JIS(日本産業規格)およびISO規格では、基準となる側を定めて公差を設定します。
- 穴基準嵌合(穴基準公差方式): 穴の基準寸法を基準公差域クラス「H」(最小許容寸法が基準寸法と一致)とし、軸の公差域クラス(小文字のa〜z)を変えることで嵌合状態を調整する方式。実務ではドリルやリーマなど工具サイズが決まっている穴側を固定する方が加工コストを抑えられるため、一般的に多用されます。
- 軸基準嵌合(軸基準公差方式): 軸の基準寸法を基準公差域クラス「h」(最大許容寸法が基準寸法と一致)とし、穴の公差域クラス(大文字のA〜Z)を変える方式。磨き棒鋼や市販のピン・シャフトなど、既成品の軸材をそのまま無加工で使用する場合に選択されます。
記号の読み方(例:H7/g6)
図面では、大文字が「穴」、小文字が「軸」を表します。数字は公差等級(IT公差等級)を示し、数字が小さいほど高精度(公差幅が狭い)です。
- H7: 穴の公差域クラスH、公差等級7級(標準的なリーマ仕上げ程度)
- g6: 軸の公差域クラスg、公差等級6級(精密研削仕上げ程度)
- H7/g6: 常用される「すきまばめ」の代表例。高精度な摺動・回転案内面などに使われます。
- H7/p6: 常用される「しまりばめ」の代表例。分解を前提としない軽圧入固定などに使われます。
機械設計実務における選定と運用の注意点
1. 幾何公差・表面粗さとの連動
いくら嵌合公差を厳しく(例:H6/h5など)設定しても、真円度や円筒度、同軸度などの幾何公差が粗いと、局部的な片当たりが生じて動作不良や圧入不能の原因になります。また、表面粗さが粗い場合、しまりばめ圧入時に山がつぶれて実質的な締めしろが低下(保持力不足)することがあるため、公差等級に応じた適切な表面粗さ(Ra)の指定が必須です。
2. 温度変化による影響
異種金属同士の嵌合(例:アルミハウジングに鋼製ベアリングを嵌合)では、線膨張係数の違いにより常温時と稼働時で嵌合状態が激変します。高温時にしまりばめが緩んでベアリングが共回りしたり、すきまばめが固着して焼き付きを起こすトラブルが現場では頻発します。作動温度範囲を考慮した熱計算を行って公差を決定してください。
3. コストと加工限界のバランス
公差等級を1ランク厳しくするだけで、加工工程が切削から研削へ、さらにはラップ仕上げへと変化し、加工費や検査工数が跳ね上がります。要求される機能(同軸精度、伝達トルク、摺動性)を満たす範囲で、できる限り緩い公差等級を選定することが設計品質の要となります。