高温環境下で使用するフランジボルトの締結設計において、熱膨張差やガスケットのなじみによる「軸力抜け」は非常に厄介な問題です。
その対策としてボルト座面への皿ばね追加を検討するものの、限られたスペース内で「必要な変位量」と「高い締結力」を両立させる直列・並列の組み合わせ枚数に悩むケースは少なくありません。
さらに実務では、並列重ね時に発生する接触面摩擦(ヒステリシス)や高温環境でのへたりを、計算上でどう補正すべきかという壁に直面します。
本記事では、皿ばねの直列・並列の基本計算プロセスから、摩擦ロス・熱へたりを見込んだ実効軸力の算出手順、そして現場での割損や噛み込みを防ぐ座面設計の勘所までを体系的に解説します。
結論:フランジボルト座面における皿ばね選定と重ね方の全体像
高温フランジの軸力抜けを防ぐ場合、「形状比 h0 / t が 0.4〜0.8 程度の皿ばねを用い、並列枚数は2〜3枚以下、直列段数も最小限(1〜2段)に抑え、全たわみ量 h0 の 15%〜75% の範囲内で使用する」のが実務で推奨される設計方法です。
また、軸力抜けを補償する役割は「除荷過程(フランジが収縮・へたりを起こして皿ばねが戻る過程)」にあります。
そのため、並列重ね時の接触面摩擦によるヒステリシス(荷重ロス)は、「除荷時の減少側荷重」を基準として必要軸力を満たすように補正計算することが設計上のセオリーとなります。
まずは、現場でやりがちなNG設計と、実務で推奨される設計アプローチの比較を以下の早見表で確認しておきましょう。
| 設計項目 | ❌ やりがちなNG設計 | ⭕ 設計で推奨される方法(実務のセオリー) |
|---|---|---|
| 組み合わせ枚数と 荷重の計算基準 |
薄い皿ばねを4〜5枚以上並列に重ね、カタログの理論荷重値だけで必要軸力を判定する。 | 並列は2〜3枚以下、直列は1〜2段に抑える。除荷時の摩擦ロス(マイナス側)と高温へたり係数を掛け合わせた実効反力で判定する。 |
| たわみ量の管理と 締付け方法 |
皿ばねを裸で挟み、トルクレンチの数値管理だけで「75%たわみ位置」を狙って止めようとする(過締めで割損・密着しやすい)。 | 段付きカラーやザグリ深さによるメカニカルストッパを設け、物理的に75%たわみ位置で底突きさせて過負荷を防止する。 |
| ボルト軸との ガイド構造・座面 |
全ねじボルトのねじ山部で皿ばねを伸縮させ、軟らかいフランジ母材(SS400やSUS304)に直接当てる。 | 半ねじボルトの円筒胴部やガイドカラーで案内し、直径の1〜2%のクリアランスを確保。上下には高硬度平座金(HRC45〜50)を挟む。 |
| 高温材質の選定と 図面指示 |
100℃超の環境で標準ばね鋼(SUP材)を使い、図面に「2枚並列×2段」と文字だけで記載する。 | 温度域に応じてSUS631、SKD61、インコネル等を選定。図面には断面で「<< >>」の向きを明記し、高温用潤滑剤の塗布を指示する。 |
皿ばねの直列・並列の組み合わせと摩擦補正の実務計算プロセス
ここからは、具体的な数値を用いて直列・並列の枚数決定から摩擦・熱へたりの補正計算までのステップを解説します。
なお、実際の荷重特性は形状精度や潤滑状態、温度勾配などの環境要素に影響されるため、まずは設計初期の妥当性を判断するための理論上の目安として計算を進めます。
なお、温度変化に伴うフランジやボルト自体の伸縮量の見積もりについては、線熱膨張係数(線膨張係数)一覧|機械設計に活かす基礎知識と計算方法もあわせて参照してください。
・対象ボルト:M12 高強度ボルト
・目標維持軸力:17,500 N 以上(高温稼働・除荷過程においても維持したい軸力)
・必要変位追従量:0.25 mm 以上(熱膨張差やガスケットなじみに対する戻りストローク)
ステップ①:単体スペックの仮選定と形状比の確認
まずはJIS B 2706(皿ばね)の重荷重用規格等を参考に、M12ボルト軸に通せる皿ばね単体のスペックを以下のように仮設定します。
- 基本寸法の設定
内径 d = 12.2 mm、外径 D = 25.0 mm、板厚 t = 1.5 mm、自由高さ H0 = 2.05 mm - 全たわみ量(内部高さ h0)の算出
h0 = H0 - t = 2.05 - 1.5 = 0.55 mm - 形状比(h0 / t)の確認
h0 / t = 0.55 / 1.5 = 0.37
(※0.4付近のため、ほぼ線形に近い安定したばね特性を持ち、ボルトの軸力維持用途に適しています) - 許容たわみ範囲(15%〜75%)と単体荷重の確認
最小管理たわみ s_min = 0.55 * 0.15 = 0.083 mm
最大許容たわみ s_max = 0.55 * 0.75 = 0.412 mm
1枚あたりの75%たわみ時(s = 0.412 mm)の理論荷重 F1 = 9,500 N とします。
ステップ②:並列枚数(n)と直列段数(m)の決定
皿ばねを重ねる際の基本法則は、以下の2パターンに集約されます。
- n枚並列(同じ向きに重ねる)
理論荷重は n 倍、たわみ量は 1 倍になります。 - m段直列(交互に向きを変えて重ねる)
理論荷重は 1 倍、たわみ量は m 倍になります。
この法則に基づき、目標軸力(17,500 N)と必要追従変位量(0.25 mm)を満たす組み合わせを決定します。
- 並列枚数 n の決定
単体荷重 9,500 N に対し、目標軸力 17,500 N を得るため、並列枚数 n = 2 枚とします(3枚以下に抑えることで摩擦の暴れと放熱不良を防ぎます)。
2枚並列の理論荷重 F_th = F1 * n = 9,500 * 2 = 19,000 N - 直列段数 m の決定
1段あたりの有効ストローク(75%たわみ 0.412 mm から、40%たわみ 0.220 mm までの戻り変位量)は 0.192 mm です。
要求される追従変位量 0.25 mm を余裕をもってカバーするため、直列段数 m = 2 段(2枚並列×2段直列=合計4枚)とします。 - 初期組高さ L0 とストロークの検算
初期組高さ L0 = (H0 + (n - 1) * t) * m = (2.05 + 1.5) * 2 = 7.1 mm
初期セットたわみ量(75%):S_set = 0.412 * 2 = 0.824 mm
0.25 mm 緩み(戻り)後の残存たわみ量:S_rem = 0.824 - 0.25 = 0.574 mm
(※1段あたり 0.287 mm = 全たわみ h0 の 52% 領域であり、有効範囲15〜75%内に収まります)
ステップ③:接触面摩擦(ヒステリシス)と高温へたりの補正計算
並列重ねでは、皿ばね同士の錐面摩擦および座面端部の半径方向滑り摩擦が発生します。
これにより、「締付け時(負荷時)は理論値より荷重が高くなり、緩み追従時(除荷時)は理論値より荷重が低くなる」というヒステリシスループが描かれます。
💡 用語メモ:「ヒステリシス(摩擦損失)」とは?(今回の設計における意味を開く)
【基本の意味】力を加える行き(負荷時)と力を抜く帰り(除荷時)で、同じ変位量でも発生する荷重に差が生じる現象のことです。
【今回のケースでは】並列に重ねた皿ばね同士が擦れ合うことで、フランジが熱収縮して皿ばねが戻る際、理論値よりも反力(維持軸力)が10〜16%ほど目減りするリスクとして現れます。
実用的な設計式として、並列枚数 n と摩擦係数から荷重補正を行う場合、以下の目安を用います(一般的な材料間の摩擦係数については、【材料別】摩擦係数の一覧|機械設計に役立つ基本と知識も参考にしてください)。
F_real = F_th * (1 +/- (wm * (n - 1) + we))
※「+」は負荷・締付け時、「-」は除荷・軸力維持時
・皿ばね間の摩擦係数 wm = 0.05〜0.08(二硫化モリブデンや高温用固体潤滑ペースト塗布時。ドライ時はさらに悪化)
・端面(座面)の摩擦係数 we = 0.03〜0.05
ここに wm = 0.06、we = 0.04、n = 2 を代入して実効荷重を計算します。
- 摩擦ロス率の算出
0.06 * (2 - 1) + 0.04 = 0.10(約10%のヒステリシス損失) - 締付け時(75%たわみ時)の必要加圧力
F_load = 19,000 * (1 + 0.10) = 20,900 N - 除荷開始時(75%たわみ保持時)の実効反力
F_unload_start = 19,000 * (1 - 0.10) = 17,100 N - 高温リラクセーション(熱へたり)の考慮
さらに高温環境下での経年リラクセーション(へたり係数 Kr = 0.85〜0.90 と仮定)を見込むと、実効軸力は以下のように低下します。
17,100 * 0.90 = 15,390 N
💡 用語メモ:「リラクセーション(応力緩和)」とは?(今回の設計における意味を開く)
【基本の意味】部品を一定のたわみ(変形量)で拘束し続けた際、時間経過や熱の影響によって内部の反力が徐々に低下していく現象です。
【今回のケースでは】高温のフランジ座面で圧縮され続けた皿ばねが熱によって微視的な塑性変形を起こし、初期にセットしたボルト軸力が経年で10〜15%抜け落ちる現象を指します。
ステップ④:判定と設計変更(フィードバック)
上記の計算結果から、単純な理論値(19,000 N)では目標(17,500 N)を超えていても、「除荷時の摩擦ヒステリシス(-10%)」と「高温へたり(-10%)」を掛け合わせると、実効軸力が 15,390 N となり目標を割り込むことが分かります。
したがって実務では、この段階で以下のいずれかの対策を講じて再設計を行います。
- 対策案1:並列枚数を n = 3 枚に増やす
理論荷重 F_th = 9,500 * 3 = 28,500 N とします。
除荷摩擦ロス(wm * 2 + we = 0.06 * 2 + 0.04 = 16%)と高温へたり(10%)を差し引いても、実効軸力 F_eff = 28,500 * (1 - 0.16) * 0.90 = 21,546 N(>17,500 N)を確保できます。 - 対策案2:ワンサイズ上の重荷重規格へ変更する
板厚 t の厚い規格へ変更し、並列枚数 n = 2 枚のまま単体剛性を引き上げます(スペースが許す場合は摩擦バラツキが少なくなるためこちらも有効なアプローチです)。
現場で起こりがちな3つのトラブルシナリオと推奨される設計対策
計算上で最適な枚数が決まっても、ボルト座面周辺の構造設計や図面指示に配慮が欠けていると、組立現場や稼働後に思わぬトラブルを引き起こします。
ここでは、現場で頻発する3つの失敗シナリオと、それを防ぐための具体的な設計対策を深掘りします。
シナリオ①:トルクレンチでの過締め(密着・75%超過)による皿ばねの割損
現場の作業者が通常のボルト締結と同じ感覚で締付けを行うと、皿ばねが完全に潰れる(フラット密着状態:たわみ100%)まで締め込んでしまうことがあります。
全たわみ h0 の 75% を超えると、皿ばね内径下面(引張応力集中部)および端面のエッジ当たりで応力が急増し、熱サイクルが加わった瞬間に内径側からクラックが入って割損します。
また、密着した瞬間に反力トルクが急上昇するため、そこを「規定トルク到達」と勘違いして締付けを終えると、皿ばねとしてのストローク余力がゼロ(ただのワッシャー状態)になるか、初期破損した状態で稼働することになります。
1. 段付きカラー(またはザグリ深さ)によるストッパの形成
通常のトルク管理だけで「75%たわみ位置」を狙って止めるのは、摩擦係数のバラツキにより困難です。
そのため、皿ばねが全たわみ h0 の 75%(密着まで残り25%の余力)に達した位置で物理的にそれ以上潰れないよう、「初期組高さ L0 から 75%たわみ分を引いた高さの段付きスペーサーリング(または座面ザグリ段差)」を設けます。
現場ではそのストッパに底突きするまで締め付けて密着管理することで、誰が組んでも過負荷破損を確実に防ぐことができます。
2. 二度締め(セッチング締め)の指示
初期の座面なじみや潤滑剤の偏りを逃がすため、組立手順として「一度規定たわみまで締付けた後、一旦緩めて再度本締めを行う(安定化締付け)」を標準作業に織り込むのが有効です。
シナリオ②:ボルトねじ山との「噛み込み(過拘束)」による軸力伝達不良
皿ばねは圧縮されてたわむ際、幾何学的に「外径が拡大し、内径が縮小する」という変形挙動を示します。
内径ガイドとしてボルト軸をそのまま利用する際、クリアランスが不足していたり、皿ばねの積層位置がボルトの「ねじ山部(不完全ねじ部含む)」にかかっていたりすると、縮小した皿ばねの内径エッジがボルトのねじ山に食い込みます。
結果として、熱膨張でフランジが収縮しても皿ばねがねじ山に引っかかって戻らず、軸力補償機能が完全に失われてしまいます。
💡 用語メモ:「過拘束(噛み込み)」とは?(今回の設計における意味を開く)
【基本の意味】部品の変形や移動の自由度を過剰に縛ってしまうことで、本来動くべき方向にスムーズに動けなくなる状態のことです。
【今回のケースでは】圧縮時に縮もうとする皿ばねの内径がボルトのねじ山やガイド軸に干渉してロックし、フランジ収縮時にばねが戻れず軸力が抜けてしまうトラブルを指します。
1. 円筒胴部(丸軸部)または専用ガイドスリーブでの案内
全ねじボルトの使用は避け、皿ばねが配置される領域はねじ山のない「半ねじボルトの円筒胴部」または「焼入れ研磨したガイドカラー外周」で受ける構造とします。
ガイドすきま(クリアランス)は、たわみ時の内径縮小・外径拡大を計算に入れた上で、直径の 1〜2% 程度(M12であれば内径側に 0.2〜0.4 mm 程度の余裕)を確保し、かじりを逃がします。
2. 高硬度平座金(ハードワッシャー)による座面保護
皿ばねの端面エッジは非常に高い面圧を持つため、フランジ母材(SS400やSUS304等)が軟らかいと座面が陥没し、その分だけ軸力が抜けます(座面の面圧検討については平面に掛かる面圧計算も参照)。
上下の接触座面には、皿ばねと同等以上の硬度(HRC45〜50程度)を持つ焼入れ平座金を挟むか、座面側を硬化処理するのがセオリーです。
シナリオ③:4枚以上の多段並列や標準ばね鋼(SUP材)の採用による「熱へたり」
スペースを稼ごうとして薄い皿ばねを4枚、5枚と並列に重ねると、板間の摩擦熱が逃げず、潤滑剤が炭化して固着し、計算通りのばね定数が全く出なくなります。
また、使用温度が100℃〜150℃を超える環境で標準的なばね鋼(SUP10等)をそのまま使うと、数日の稼働で金属組織のクリープ(高温リラクセーション)が進行し、ばねが潰れたまま戻らなくなります。
1. 使用温度に応じた耐熱材質とホットセッチングの指定
100℃を超える環境では標準ばね鋼(SUP材)を避け、250℃程度までなら析出硬化系ステンレス(SUS631-CSP等)や熱間金型用鋼(SKD61系)、さらに高温(350℃〜500℃超)であればインコネル(Inconel 718 / X-750)を選定します(ステンレス系の特性比較はSUSステンレスの種類一覧|特徴・用途・比較で選ぶ完全ガイドも参照)。
また、あらかじめ使用温度以上で荷重をかけて初期へたりを除去する「ホットセッチング処理品」を指定すると、軸力維持の信頼性が大幅に向上します。
2. 図面への「積層向き図示」と「エッジ処理・潤滑指示」の明記
現場での重ね間違い(直列と並列の逆組み)は最も多いヒューマンエラーです。
組立図には必ず断面形状で 「<< >>」のように重ねる向きを視覚的に明記し、直列の合わせ面は「外径側同士を合わせる(内径側合わせよりもガイド軸との姿勢安定性が高い)」といったルールを統一します(図面指示の基本は機械設計における「組立図(全体図・ユニット図)」の書き方とルールを参照)。
あわせて、疲労破壊の起点となる内径エッジのバリなきこと(R面取り・ショットピーニング処理指定)、および組付時の焼付き防止剤(高温用二硫化モリブデンペーストやニッケル系焼付き防止剤)の塗布を図面注記として明示してください。
※なお、組付時にボルトのねじ部にも高温用潤滑剤が付着する場合は、トルク係数 K が低下して同じトルクでも過大軸力になるため、締付けトルク値も潤滑状態に合わせて低めに再設定することが重要です。
ボルトのトルク係数と軸力の関係式については、ねじの締め付けトルクと軸力の計算で詳しく解説しています。
まとめ:高温フランジにおける皿ばね設計の要点
最後に、本記事で解説した皿ばねの重ね方と計算・設計のポイントを整理します。
- 基本スペックと枚数の制限
形状比 h0 / t = 0.4〜0.8 程度を選び、並列枚数は2〜3枚以下、直列段数は1〜2段に抑え、全たわみ量 h0 の 15%〜75% の範囲内で使用する。 - 除荷時の摩擦ロスと熱へたりの補正
軸力維持は「除荷過程」で機能するため、並列重ね時の摩擦ヒステリシス(マイナス側)と高温リラクセーション係数を掛け合わせた実効反力で必要軸力を満たすよう設計する。 - 座面の逃がし設計とメカニカルストッパ
75%たわみ位置で止まる段付きカラー等で過締め割損を防ぎ、半ねじボルトの円筒部(クリアランス1〜2%)と高硬度平座金(HRC45〜50)で噛み込みと座面陥没を防止する。 - 耐熱材質の選定と視覚的な図面指示
100℃超ではSUS631やSKD61、インコネル等を選定し、組立図には「<< >>」の積層向きと高温用潤滑剤の塗布を明記する。
皿ばねのヒステリシスや熱膨張の追従挙動は、座面の表面粗さや実機の温度勾配に大きく影響されます。
重要なフランジ締結部においては、超音波軸力計やボルト伸び測定等を用い、必ず実機(プロトタイプ)での昇温・降温サイクル検証を行って信頼性を確認してください。