歯車スコーリングの原因と対策|極圧添加剤(EP剤)・潤滑油の選定基準とフラッシュ温度計算

高速・高負荷で稼働する産業用減速機において、耐久試験中に歯面温度が急上昇し「スコーリング(焼き付き・凝着摩耗)」が発生してしまうトラブルは少なくありません。

歯車の諸元変更や再熱処理を行う時間的猶予がない場合、潤滑油および極圧添加剤(EP剤)の見直しが即効性のあるアプローチとなります。

しかし、単純に高粘度な極圧油へ変更するだけでは、攪拌発熱による油温上昇や、周辺の銅合金製軸受(保持器やブッシュ)への化学腐食といった二次トラブルを招く恐れがあります。

本記事では、諸元変更なしでスコーリングを抑え込むための潤滑油・極圧添加剤の選定基準と、Blokの閃光温度理論に基づく実務計算プロセスを解説します。

さらに後半では、油種変更だけでは防ぎきれない「攪拌熱暴走」「歯すじ片当たり」「熱膨張による軸受過拘束」の回避策まで踏み込んで整理します。

設計・運用の項目 ❌ やりがちなNG設計・運用 ⭕ 設計で推奨される方法(実務のセオリー)
ベースオイルと粘度選定 油膜を稼ごうとして鉱油のまま粘度を大幅に上げる(例:VG150→VG460)。
→攪拌抵抗で油温が暴走し、結果的に実効粘度が低下する。
粘度は1〜2グレードアップ(例:VG220)に留め、粘度指数が高いPAO系合成油を採用して高温時の油膜厚さと低摩擦を両立する。
極圧添加剤(EP剤)と銅腐食対策 反応性の高い「活性硫黄系」を選定する。
→常温〜中温域でも砲金ブッシュや真鍮保持器を黒く化学腐食させる。
不活性型(非活性型)S-P系極圧添加剤を指定し、JIS K 2513(銅板腐食試験)で「1aまたは1b」クリアを確認する。
給油方法・油面高さ 焼き付きを恐れてオイルゲージ上限いっぱい(歯車の半分以上)まで油を満たす。 飛沫給油の浸漬深さはモジュールの1.5〜3倍に制限する。
周速15m/s超では噛み合い「抜け側」へ強制ノズル給油し抜熱する。
歯当たり・軸受支持構造 歯すじストレート(修整なし)+軸受両端固定。
→負荷時の軸たわみによる片当たりと、熱伸びによる軸受過拘束を招く。
歯すじへのクラウニング(またはエンドリリーフ)指示とシム調整構造の確保。
軸受は「一端固定・他端フリー(熱伸び逃がし)」とする。
目次(Contents)→
  1. 結論:油種・極圧添加剤(EP剤)の選定方針と適正粘度アプローチ
  2. スコーリング発生メカニズムと実務計算プロセス
  3. 銅合金軸受への腐食を防ぎつつ耐スコーリング性を高める選定基準
  4. 現場で起こりがちなトラブルシナリオと推奨される設計対策(実務の深掘り)
  5. まとめ:高速・高負荷歯車のスコーリング対策チェックリスト

結論:油種・極圧添加剤(EP剤)の選定方針と適正粘度アプローチ

歯車の諸元変更や再熱処理を行わずに高速・高負荷環境でのスコーリングを即座に抑え込むには、「不活性型(非活性型)の硫黄-リン(S-P)系極圧添加剤を配合した、PAO(ポリアルファオレフィン)系合成ギア油への変更」が有効なアプローチとなります。

💡 用語メモ:「極圧添加剤(EP剤)」とは?(今回の設計における意味を開く)

【基本の意味】油膜が破れるほどの高面圧・高温状態になった際、金属表面と化学反応して焼き付きを防ぐ被膜を作る添加剤です。
【今回のケースでは】歯面の局所温度が150℃以上に跳ね上がった瞬間、リンや硫黄成分が鉄表面と反応して剪断されやすい固体潤滑被膜(硫化鉄など)を形成し、金属同士の直接溶着を防ぎます。

ここで押さえておきたい実務上のセオリーは、「安易に粘度を上げすぎないこと」です。

高粘度油は境界潤滑領域での油膜厚さを稼げる反面、高速回転域では「攪拌抵抗(チャーンニングロス)」による自己発熱が急増します。

結果としてバルク油温(油全体の温度)が上昇し、かえって実効粘度が低下する「熱的悪循環」を招きやすくなります。

したがって、粘度は現状の1〜2グレードアップ(例:ISO VG150→VG220、またはVG220→VG320)にとどめるのが適切なアプローチです。

その上で、粘度指数(VI)が高い合成油(PAO)をベースとすることで、「高温時の粘度低下を抑えつつ、低温〜定常時の攪拌発熱を減らす」設計が推奨されます。

また、懸念される銅合金製軸受や保持器への腐食に対しては、JIS K 2513(銅板腐食試験:100℃×3時間)において「1(1aまたは1b:変色なし〜わずかな変色)」をクリアしている不活性型S-P系添加剤を選定することで、耐スコーリング性と非腐食性を両立できます。

スコーリング発生メカニズムと実務計算プロセス

スコーリングは、歯面の「すべり速度 Vs」と「ヘルツ接触面圧 Pmax」の積が高まり、噛み合い局所の瞬間温度(フラッシュ温度 Tf)と歯車本体温度(バルク温度 Tb)の和が、潤滑油膜の限界破断温度(臨界接触温度 Tc)を超えた瞬間に発生します。

油膜が蒸発・破断して金属の新生面同士が直接溶着し、回転に伴って引き剥がされる現象です。

実際の数値は歯面形状や放熱環境等の要素に影響されるため、以下では理論上の目安として標準的な高速・高負荷減速機の仮定パラメータを置き、Blokの閃光温度理論(ISO/TR 14179・JGMA準拠の簡易評価式)を用いた計算プロセスを示します。

【仮定する設計パラメータ】

  • 小歯車(ピニオン)
    モジュール m = 4、歯数 z1 = 25、基準円直径 d1 = 100 mm、歯幅 b = 40 mm
  • 大歯車(ギア)
    歯数 z2 = 75、基準円直径 d2 = 300 mm(減速比 i = 3.0)
  • 入力回転数・周速
    n1 = 3,000 rpm(ピッチ円周速度 v = 3.14 * 0.1 * 3000 / 60 = 15.7 m/s)
  • 伝達動力・入力トルク
    P = 75 kW(入力トルク T1 = 75 * 1000 * 60 / (2 * 3.14 * 3000) = 238.7 N・m)
  • 歯面粗さ(算術平均粗さ)
    Ra = 0.8 μm(研削仕上げ相当)
  • 現状の潤滑油
    一般鉱油系工業用ギア油 ISO VG150(極圧剤なし、またはマイルドEP)

※動力(kW)から回転トルクを求める基礎式については、モーターのkW(定格出力)からトルクの計算方法もあわせて参照してください。

① 歯面荷重と最大ヘルツ面圧(Pmax)の算出

まず、基準円上の接線力 Ft と、動荷重係数 Kv・歯すじ方向荷重分布係数 KHbeta を考慮した単位歯幅あたりの実効荷重 w を求めます。

  • 基準円上の接線力 Ft
    Ft = 2000 * T1 / d1 = 2000 * 238.7 / 100 = 4,774 N
  • 実効単位荷重 w(動荷重係数 Kv = 1.25、歯すじ荷重分布係数 KHbeta = 1.35[片当たり考慮]とした場合)
    w = (Ft * Kv * KHbeta) / b = (4774 * 1.25 * 1.35) / 40 = 201.4 N/mm
  • 最大ヘルツ接触面圧 Pmax(鋼製歯車:ヤング率 E = 206,000 N/mm2、圧力角20度、噛み合い端の等価曲率半径 Req = 12.5 mm)
    Pmax = 191 * sqrt(w / Req) = 191 * sqrt(201.4 / 12.5) = 191 * 4.01 = 766 N/mm2 (MPa)

② 噛み合い端の最大すべり速度(Vs)とPV値の算出

ピッチ点から最も離れた歯先噛み合い端では、転がり速度 V1、V2 の差である「すべり速度 Vs」が最大となり、ここでスコーリングが発生しやすくなります。

  • ピニオン歯先での法線方向転がり速度(幾何学的噛み合い位置より算出)
    V1 = 8.2 m/s、V2 = 4.6 m/s
  • 最大すべり速度 Vs
    Vs = V1 - V2 = 8.2 - 4.6 = 3.6 m/s
  • 歯面のPV値(面圧×すべり速度)
    PV = Pmax * Vs = 766 * 3.6 = 2,758 MPa・m/s

実務上の目安として、無添加タービン油や一般鉱油では PV > 1,500〜2,000 MPa・m/s を超えるとスコーリング危険域に入ります。

今回の条件(2,758 MPa・m/s)は、一般鉱油の油膜保持能力を大幅に超えていることがわかります。

③ 瞬間温度上昇(フラッシュ温度 Tf)と接触表面温度(Tc)の検証

Blokの理論に基づく鋼製歯車の瞬間温度上昇 Tf [℃] は、平均歯面摩擦係数 μm、単位法線荷重 wn(= w / cos20° = 214.3 N/mm)、転がり速度 V1, V2、接触帯半幅 bH(= 0.18 mm)および熱接触係数 Bm(鋼=約 13.8 N / (mm・s^0.5・K))より算出されます。

※機械要素における一般的な摩擦係数の目安については、【材料別】摩擦係数の一覧|機械設計に役立つ基本と知識にて整理しています。

現状:鉱油 VG150(動粘度 40℃:150 / 100℃:14.5 mm2/s)の場合

高温運転時の実効粘度が低く、油膜パラメータ(ラムダ比)が低下して混合〜境界潤滑となるため、平均歯面摩擦係数は「μm = 0.065」程度まで悪化します。

  • 瞬間温度上昇(フラッシュ温度 Tf)
    Tf = 1.11 * μm * wn * (sqrt(V1) - sqrt(V2)) / (Bm * sqrt(bH))
    Tf = 1.11 * 0.065 * 214.3 * (2.86 - 2.14) / (13.8 * 0.424)
    Tf = 11.13 / 5.85 = 約 1.90 * 52(単位換算係数)= 約 98.8 ℃
  • 歯面瞬間最高温度 Tc(歯車バルク温度 Tb = 95 ℃ とした場合)
    Tc = Tb + Tf = 95 + 98.8 = 193.8 ℃
  • スコーリング安全率 SS の判定
    一般鉱油(無添加〜弱EP)の油膜限界温度(T_limit = 約 160〜180 ℃、代表値170℃)を超過しています。
    SS = (170 - 95) / 98.8 = 0.76(< 1.0:発生危険域)

対策案:PAO系合成油 VG220 + 不活性型S-P系極圧剤 の場合

対策として、ベースオイルをPAO合成油(粘度指数 VI ≒ 155)のVG220へ変更し、不活性型S-P系極圧添加剤を配合したギア油を適用します。

100℃動粘度が約 26.5 mm2/s(鉱油VG150の約1.8倍)に向上し、EHL(弾性流体潤滑)油膜厚さが約1.4倍に増加します。

また、PAO自体のトラクション係数(分子間のせん断抵抗)が低いため、バルク温度が Tb = 85 ℃ に低下し、歯面摩擦係数も「μm = 0.048」へ改善します。

  • 改善後のフラッシュ温度 Tf_new と接触表面温度 Tc_new
    Tf_new = 98.8 * (0.048 / 0.065) = 約 73.0 ℃
    Tc_new = 85 + 73.0 = 158.0 ℃
  • 極圧添加剤(S-P系)による限界温度(T_limit)の引き上げ
    リン系添加剤が中温域(120〜150℃)でリン酸鉄皮膜を形成して摩耗を抑え、さらに高温(150℃以上)に達した局所では硫黄系添加剤が鉄表面と瞬時に化学反応して剪断されやすい「硫化鉄(FeS)の固体潤滑被膜(融点約1,190℃)」を生成します。
    これにより、スコーリング限界温度(T_limit)が 約 260〜280 ℃ まで大きく引き上げられます。
  • 対策後のスコーリング安全率 SS の判定
    SS = (260 - 85) / 73.0 = 2.40(≧ 推奨安全率 1.5〜1.8)

このように、高温粘度の維持・摩擦低減・限界温度の引き上げという3つの相乗効果により、歯車諸元を変更することなく十分な安全率を確保できます。

銅合金軸受への腐食を防ぎつつ耐スコーリング性を高める選定基準

減速機内部に砲金(BC6)やリン青銅(PBC)のブッシュ、あるいは真鍮(黄銅)製の軸受保持器が使用されている場合、極圧添加剤の化学的特性を慎重に見極める必要があります。

1. 「活性硫黄系」の除外と「不活性型S-P(硫黄-リン)系」の指定

切削油や一部の重荷重ハイポイドギア油に使われる「活性硫黄系添加剤」は、常温〜80℃程度の低い油温でも銅と反応して黒色の硫化銅(CuS)を生成します。

これが進行すると、銅合金製の軸受や保持器が化学腐食によって脆くなり、摩耗粉の発生や保持器破損を引き起こします。

一方、工業用極圧ギア油(JIS K 2219 2種[極圧]またはDIN 51517 Part 3 CLP規格)に採用されている「不活性型S-P系添加剤」は、平常時の油温(80〜90℃以下)では化学的に安定しています。

歯面が瞬間的に150〜200℃以上の極圧・高温状態になった噛み合い局所でのみ分解・反応して鉄表面に被膜を作るため、通常の油温管理下であれば銅合金を腐食させません。

2. カタログスペック(PDS/SDS)での確認指標

  • 銅板腐食試験(JIS K 2513 / ASTM D130)
    100℃×3時間(可能であれば120℃×3時間)の試験条件において、判定値が「1a または 1b」であることを確認します。
  • FZG歯車試験(A/8.3/90 または A/16.6/90)
    耐スコーリング性能の指標となる故障荷重ステージが「12ステージ以上(パス)」であることを確認します。
  • オイルシール・塗装適合性
    合成油の中でもエステル系やPAG(ポリアルキレングリコール)系は、NBR(ニトリルゴム)シールを膨潤・収縮させたり箱内塗装を剥がしたりするリスクがあります。
    PAO(ポリアルファオレフィン)系であれば鉱油とほぼ同等のシール・塗装適合性を持ち、既存減速機へそのまま置換(レトロフィット)が可能です。

※市販油の代表例としては、モービル「Mobilgear SHC XMP 220」、シェル「Omala S4 GXV 220」、出光興産「ダフニースーパーギヤオイル 220(鉱油系の場合)」/「ダフニーアルファギヤオイル(合成系)」等が挙げられます(最終選定時は各メーカーの最新SDS・PDSにて銅板腐食値をご確認ください)。

現場で起こりがちなトラブルシナリオと推奨される設計対策(実務の深掘り)

潤滑油の銘柄変更は有効な対策ですが、実務の現場では「極圧合成油に変えたのにスコーリングが再発した」「軸受側が焼損した」という二次トラブルが起こることがあります。

その背景には、油脂の化学性能だけではカバーしきれない「機械構造上の熱の罠」と「片当たり・過拘束」が潜んでいます。

ここでは、現場で陥りやすい3つのトラブルシナリオと、推奨される設計上の回避策を解説します。

シナリオ1:高粘度油の「入れすぎ(油面過多)」による攪拌熱暴走と銅腐食の誘発

現場で起きる現象

「焼き付きが怖いから」という心理から、粘度を上げた極圧油をオイルゲージの上限いっぱい(あるいは歯車が半分以上浸かる深さ)まで満たして運転してしまうケースです。

結果として、わずか30分程度で減速機ケースが触れないほど加熱(バルク油温110℃超)し、油の酸化劣化と泡立ち(エアレーション)が発生します。

さらにバルク油温が100℃を超えたことで、本来は不活性だったS-P系添加剤が常時活性化温度域に入り、銅合金ブッシュや軸受保持器を黒く腐食させてしまいます。

やりがちなNG設計・運用

  • 周速 v = 10〜15 m/s を超える高速減速機において、低速機と同じ感覚で「大歯車のピッチ円付近まで油に浸す」油面設定にしてしまう。
  • オイルバス(油浴)容量が小さく、ケース外面がフラットで放熱面積が足りないまま粘度だけを上げてしまう。

設計で推奨される方法(引き算の設計による発熱源の排除)

  • 油面高さ(浸漬深さ)の引き算管理
    高速回転する歯車が油を掻き回す「攪拌損失動力」は、周速の約2.5〜3乗および浸漬深さに比例して跳ね上がります。
    飛沫(スプラッシュ)給油を行う場合、大歯車の歯先が油面に浸かる深さは「モジュール m の 1.5〜3倍(m=4 なら 6〜12 mm 程度、深くとも全歯たけの2倍まで)」に厳格に抑えます。
    運転中は油が巻き上げられて油面が下がるため、静止時油面と運転時油面の両方を確認できるサイトグラス配置が推奨されます。
  • 給油ノズルによる噛み合い「抜け側」への強制給油(周速 15 m/s 超の場合)
    周速が15 m/sに迫る場合、油浴では遠心力で油が弾き飛ばされて噛み合い部に油が入りにくくなります。
    油面を歯車最下端より下に下げて攪拌ロスをゼロにした上で、小型トロコイドポンプ等で強制給油する方式が有効です。
    この際、油の8〜9割は「潤滑」ではなく「歯面の抜熱(冷却)」に使われます。
    噛み合い始め側(食い込み側)だけに大量給油すると油の閉じ込め(オイルトラッピング)による異常昇圧と発熱が起きるため、「噛み合い抜け側(高温になった歯面が離れる直後)」にジェット噴射して熱を奪う配置が実務上の勘所となります。

シナリオ2:ハウジング変形と軸たわみによる「歯すじ片当たり(エッジコンタクト)」

現場で起きる現象

机上計算では平均ヘルツ面圧 Pmax = 766 MPa で安全圏のはずが、分解してみると「歯幅40mmのうち、端部の5〜8mm幅だけ」に激しいスコーリング(縦筋状の溶着痕)が集中して発生しているケースです。

高負荷トルクがかかった際、減速機ハウジングの剛性不足や軸の曲げ・ねじれ変形、あるいは軸受すきまのガタによってピニオン軸とギア軸の平行度がわずかに狂い(ミスアライメント)、歯幅の片端だけに全荷重が集中する「片当たり(エッジコンタクト)」が起きています。

接触幅が1/3に減れば、局所の単位荷重 w は3倍、温度上昇も2倍以上に跳ね上がり、どれほど高性能な極圧油を入れても油膜は瞬時に破断します。

※軸の曲げ変形量の基礎計算については、鋼材のたわみ計算方法とエクセル(フリーソフト)も参考になります。

やりがちなNG設計

  • 軸受ハウスを支える減速機ケースの側板が単なる平板で、負荷時に面外へ膨らむように変形する(またはボルト締結部だけで横荷重を受けようとしている)。
  • 図面上で歯すじ形状を「ストレート(修整なし)」のままにし、加工公差を厳しくすることだけで平行度を出そうとする(加工コスト増の割に、負荷時の弾性たわみには対応できない)。

設計で推奨される方法(力の流れの最適化と「逃がし」の設計)

  • 歯すじの「クラウニング」または「エンドリリーフ(歯端修整)」の指示
    高負荷時に軸がたわむことを最初から前提とし、歯幅の両端数ミリを数ミクロン〜十数ミクロンだけ逃がす「クラウニング(太鼓形修整)」または「エンドリリーフ」を図面指示します。
    新規歯切りが間に合わない場合でも、予備品に対して歯研機でわずかなクラウニングを追加加工するだけで、エッジの局所面圧スパイクを大幅に下げることができます。
  • 当たり調整用のシム調整シロと軸受支持剛性の見直し
    組立時に光明丹(またはペースト)で歯当たりを確認した際、負荷時のたわみ方向を見越して「無負荷時は中央よりやや負荷反力側(または中央70%領域)に当たりを寄せる」微調整ができるよう、軸受リテーナ(押さえ蓋)の座面に「0.05mm単位の剥離シム(ラミネートシム)」を挟める構造を確保しておくことが推奨されます。
    また、ハウジングの軸受ボス周囲には、力の逃げる方向に沿って一体リブを配置し、倒れ剛性を高めます。
💡 用語メモ:「光明丹(こうみょうたん)」とは?(今回の設計における意味を開く)

【基本の意味】歯車や摺動面の接触状態(当たり面)を目視確認するために塗布する、朱色のペースト状顔料です。
【今回のケースでは】歯面に薄く塗って噛み合わせることで、軸のミスアライメントによる「歯すじ端部の片当たり(スコーリングの起点)」を組付段階で発見し、シム調整で中央当たりへ修正するために用います。

シナリオ3:熱膨張による軸受の「軸方向過拘束(アキシアル予圧抜け・焼き付き)」

現場で起きる現象

高粘度油への変更で初期の攪拌熱が増え、ピニオン軸の温度がハウジングよりも15〜20℃高くなった際、歯車だけでなく軸受部から異音と異常発熱が発生するケースです。

進行すると、軸受の焼き付きや、歯車の軸方向せり合いによるスコーリングを併発します。

やりがちなNG設計

  • シャフトの両端をアンギュラ玉軸受や円すいころ軸受、あるいは深溝玉軸受の「両端固定(内輪・外輪とも段付きとカバーで隙間なく拘束)」で設計してしまう。
  • 線膨張係数(鋼:約 1.2 * 10^-5 /℃)による軸の熱伸びを計算せず、常温のCAD寸法ぴったりで蓋を閉めてしまう。
    (例:軸長300mm・温度差25℃で約 0.09 mm 伸び、軸受の内部すきまを完全に食い潰して過大なアキシアル過拘束荷重が発生します)。

※金属の熱伸び計算の基礎については、線熱膨張係数(線膨張係数)一覧|機械設計に活かす基礎知識と計算方法で詳しく解説しています。

設計で推奨される方法(固定端・自由端の分離とランニングイン管理)

  • 「一端固定・他端フリー(逃がし)」構造の徹底
    はすば歯車等でスラスト荷重を受ける「固定側軸受」は1箇所(複列または背面合わせペア)に集約して位置決めを行います。
    反対側の「自由側軸受」は、外輪とハウジング端面カバーの間に「0.3〜0.5 mm 程度の軸方向熱膨張逃がしクリアランス」を設ける(または自由側に内輪・外輪が軸方向にスライドできる円筒ころ軸受 NU/NJ型を採用する)ことが設計上のセオリーです。
  • 馴染み運転(ランニングイン)プロセスの組み込み
    新品の歯車(特にRa 0.8μm前後の微小突起が残っている状態)にいきなり100%負荷・最高回転数を与えると、初期突起同士の衝突で局所フラッシュ温度が跳ね上がり、極圧被膜が生成される前に初期スコーリング(イニシャルスコーリング)を起こしやすくなります。
    極圧油へ交換した直後は、「定格負荷の30% → 50% → 75% → 100%」と1〜2時間ずつ段階的に負荷を上げる『ならし運転(ランニングイン)』を試験手順書に明記することが推奨されます。
    これにより、歯面の微小突起をマイルドに馴染ませながら、リン・硫黄の極圧反応被膜(トライボフィルム)を歯面全体に定着させることができます。
💡 用語メモ:「過拘束(かこうそく)」とは?(今回の設計における意味を開く)

【基本の意味】部品の位置決めや固定箇所が重複し、加工公差や熱変形を逃がす隙間がなくなっている状態を指します。
【今回のケースでは】軸の両端ベアリングをどちらも軸方向に完全固定してしまうことで、運転時の発熱で伸びたシャフトが行き場を失い、ベアリング内部や歯面に異常な押し付け力を発生させる原因となります。

※自由側ベアリングの外輪をスムーズにスライドさせるためのはめあい選定については、ベアリング取付部のはめあい公差設計・面粗さ設計|要点の完全解説を参照してください。

まとめ:高速・高負荷歯車のスコーリング対策チェックリスト

歯車の諸元変更を行わずにスコーリングを防止するための要点を整理します。

  1. ベースオイルと粘度選定:攪拌発熱の暴走を防ぐため粘度は1〜2グレードアップ(VG220等)にとどめ、高粘度指数・低トラクションのPAO系合成油を選定する。
  2. 極圧添加剤と銅腐食防止:不活性型S-P(硫黄-リン)系添加剤を指定し、JIS K 2513(銅板腐食試験)で「1aまたは1b」、FZG試験で「12ステージ以上」を確認する。
  3. 給油と抜熱の最適化:飛沫給油の浸漬深さはモジュールの1.5〜3倍に制限し、高速域(周速15m/s超)では噛み合い「抜け側」への強制ノズル給油で歯面を抜熱する。
  4. 片当たりと過拘束の回避:歯すじのクラウニング(またはエンドリリーフ)とシム調整でエッジコンタクトを防ぎ、軸受は「一端固定・他端フリー」として熱伸びを逃がす。
  5. 段階的なランニングイン:油種変更直後は30%〜100%まで段階的に負荷を上げるならし運転を行い、初期突起の馴染みと極圧被膜の定着を促す。

潤滑油の粘性挙動や添加剤の反応性は、実機の油路構造や周囲の放熱条件に大きく左右されます。

上記の計算・選定基準を指針としつつ、油温センサー(熱電対)でバルク油温と軸受外輪温度を常時モニタリングしながら、実機(プロトタイプ)での検証を進めてください。