皿ばねの摩擦損失(ヒステリシス)を考慮した荷重計算|並列重ねの注意点と予圧抜け・かじり対策

アクチュエータの予圧機構やクランプ機構として皿ばねを並列(同方向)に複数枚重ねて使用した際、「実測荷重が理論計算値と大きく乖離する」「圧縮時と復帰時で荷重が異なる大きなヒステリシスが生じる」というトラブルは設計現場でよく直面する課題です。

皿ばねを積層すると、板同士の接触面や受座エッジ、ガイド軸との間でクーロン摩擦が発生します。

その結果、「圧縮時(負荷時)は理論荷重より高くなり、復帰時(除荷時)は理論荷重より低くなる」という現象が避けられません。

本記事では、JIS規格に基づく摩擦損失を織り込んだ実務計算プロセスから、ガイド軸のかじり(過拘束)や公差累積による予圧抜けを防ぐための具体的な設計対策までを詳しく解説します。

結論:皿ばね積層設計における「やりがちなNG設計」と「推奨される対策」の早見表

目標のストローク荷重(予圧・保持力)を確実に保証するためには、計算式への摩擦係数の織り込みだけでなく、構造面での「引き算の設計」と「逃がし設計」が重要になります。

まずは、現場で起こりがちなNG設計と、実務で推奨される設計アプローチの全体像を比較表で整理します。

設計項目 ❌ やりがちなNG設計 ⭕ 設計で推奨される方法(実務のセオリー)
積層枚数(並列重ね) 小径の皿ばねを4枚以上並列に重ねて大荷重を稼ごうとする(摩擦損失の増大・放熱不良を招く)。 並列重ねは原則2〜3枚以下に抑える。可能な限りワンサイズ上の「単板(n=1)」に変更し、板間摩擦をゼロにする。
推力と予圧の基準 カタログの理論荷重(無摩擦)だけでアクチュエータ推力と保持力を選定する。 駆動推力は「圧縮時の最大荷重(油膜切れ想定)」で選定し、保持予圧は「復帰時の最小荷重」で保証する。
ガイド構造とクリアランス 内径軸と外径筒の両方で案内(二重拘束)し、H7/g6等の狭いすきまばめで設計する。 案内は内径または外径の片方のみ(内径案内推奨)。変形を見込み径寸法の1〜2%程度の余裕あるクリアランスを設ける。
ガイド・受座の材質と硬度 S45C調質材やSUS304などの生材をそのままガイド軸や受座に使用する(エッジで削れて段付き摩耗する)。 皿ばね(HRC45〜52)に負けないよう、焼入れ研磨材(HRC58〜60程度、Ra0.8以下)を採用する。
使用たわみ領域とストッパ 推力制御だけに頼り、皿ばねが100%密着できる構造のまま使用する(エッジ当たりで早期破断)。 使用たわみは全たわみ量 h0 の15%〜75%以内に限定。75%位置で物理的に当たるメカストッパを設置する。
公差吸収と潤滑指示 シム調整機構を設けず、図面の注記も「一般グリス塗布」のみで済ませる。 受座背面に初期たわみ調整用シム(t0.1〜t1.0)を織り込み、二硫化モリブデン(MoS2)系ペーストや固体潤滑処理を指定する。

皿ばねの摩擦損失(ヒステリシス)を織り込んだ実務計算プロセス

皿ばねを積層した際の実際の荷重は、表面粗さや潤滑環境などの要素に左右されるため、単一の理論値で決め打ちすることは危険です。

実務においては、JIS B 2706(またはDIN 2092)に基づく摩擦係数を織り込んだ実用計算式を用い、「初期の良好な潤滑状態」から「経年による油膜切れ(ワーストケース)」までの変動幅を評価することが推奨されます。

1. 積層時の実効荷重を求める計算式

皿ばねを並列に重ねた場合、圧縮時と復帰時の実効荷重は以下の式で算出します。

【摩擦損失を考慮した積層皿ばねの荷重計算式】
・圧縮時(負荷時)の実効荷重 F_load:
F_load = (F1 * n) / ( 1 - w_M * (n - 1) - w_R )
・復帰時(除荷時)の実効荷重 F_unload:
F_unload = (F1 * n) / ( 1 + w_M * (n - 1) + w_R )

<各記号の定義>
・F1:単板1枚の理論荷重 [N](Almen-Laszloの式またはカタログ値より算出)
・n:並列重ね枚数 [枚] ・w_M:板間(円錐接触面)の摩擦係数
・w_R:受座エッジ(端面)の摩擦係数(※ガイド軸との摩擦影響もw_Rに含めて近似評価します)

分母の符号が、圧縮時には「マイナス(-)」となり、復帰時には「プラス(+)」になる点がポイントです。

並列枚数 n が増えるほど「w_M * (n - 1)」の項が大きくなり、圧縮時と復帰時の荷重差(ヒステリシス)が雪だるま式に拡大していくことが式から読み取れます。

2. 潤滑条件による摩擦係数(w_M, w_R)の目安

現場では初期のグリス切れや微小振動による油膜切れが起こり得るため、以下のような潤滑状態に応じた摩擦係数の幅を想定して計算を行います。

  • 良好なグリス・二硫化モリブデン潤滑時
    板間摩擦係数 w_M = 0.03 〜 0.05 / 受座摩擦係数 w_R = 0.02 〜 0.03
  • 一般的な機械油・通常仕上げ時
    板間摩擦係数 w_M = 0.06 〜 0.08 / 受座摩擦係数 w_R = 0.03 〜 0.05
  • 潤滑不良・ドライ(油膜切れ)接近時
    板間摩擦係数 w_M = 0.12 〜 0.15 / 受座摩擦係数 w_R = 0.06 〜 0.08

一般的な機械材料同士の摩擦係数については、【材料別】摩擦係数の一覧|機械設計に役立つ基本と知識もあわせて参考にしてください。

3. 具体的な計算シミュレーション(3枚並列重ねの検証)

ここで、具体的な数値を当てはめて、通常潤滑時と油膜切れ時でどれだけ荷重が変動するかをシミュレーションしてみます。

【計算の前提条件】
・目標とする必要最低予圧(復帰・保持側で下回ってはいけない荷重):F_req = 2,500 N
・単板1枚の指定たわみ時(s / h0 = 0.6)における理論荷重:F1 = 1,000 N
・検討する構成:n = 3枚 並列重ね
・理論上の単純合計荷重:F_theory = 1,000 * 3 = 3,000 N

① 通常潤滑状態(w_M = 0.06, w_R = 0.04)での試算

まず、分母の摩擦損失項を計算します。

摩擦損失項 = w_M * (n - 1) + w_R = 0.06 * (3 - 1) + 0.04 = 0.16 となります。

  • 圧縮時(押し込み必要荷重 F_load)
    F_load = 3,000 / (1 - 0.16) = 3,000 / 0.84 = 3,571 N(理論値比 +19.0%)
  • 復帰時(実効予圧・押し返し荷重 F_unload)
    F_unload = 3,000 / (1 + 0.16) = 3,000 / 1.16 = 2,586 N(理論値比 -13.8%)

通常の潤滑状態であっても、往復で 約 985 N のヒステリシス差が生じます。

ただしこの時点では、復帰時の荷重は 2,586 N であり、目標の 2,500 N をかろうじて満たしています。

② 経年による油膜切れ・摩擦増大時(w_M = 0.12, w_R = 0.06)の試算

次に、稼働を続けてグリスが押し出され、油膜切れに近づいたワーストケースを試算します。

摩擦損失項 = 0.12 * (3 - 1) + 0.06 = 0.30 まで増大します。

  • 圧縮時(最大負荷 F_load_max)
    F_load_max = 3,000 / (1 - 0.30) = 3,000 / 0.70 = 4,286 N(理論値比 +42.9%)
  • 復帰時(最小予圧 F_unload_min)
    F_unload_min = 3,000 / (1 + 0.30) = 3,000 / 1.30 = 2,308 N(理論値比 -23.1%)

油膜が切れると、復帰時の保持荷重が 2,308 N まで落ち込み、目標の 2,500 N を割り込む(予圧不足に陥る)ことが分かります。

さらに、押し込みに必要なアクチュエータの駆動推力は 4,286 N まで跳ね上がるため、理論値の 3,000 N を基準にモーターやシリンダを選定していると、推力不足で途中停止するリスクが生じます。

4. 計算結果から導き出される設計判断

このように、3枚並列重ねでは摩擦係数のばらつきによる影響が非常に大きくなります。

そのため、実務設計では以下の2つのアプローチのいずれかを採ることが推奨されます。

  • アプローチA(引き算の設計による単板化)
    外径または板厚をワンサイズ上げた皿ばねを選定し、「単板(n = 1)」で 3,000 N を出す構成に変更します。n = 1 であれば板間摩擦項「w_M * (n - 1)」が完全にゼロ(消滅)となり、受座摩擦 w_R(3〜6%程度)のみの極めて小さなヒステリシスで安定した予圧管理が可能になります。
  • アプローチB(初期たわみ調整用シムの確保)
    スペース制約でどうしても3枚並列とする場合は、初期たわみ量を微調整できるよう、t0.2〜t0.5mm単位の調整シム(ライナー)をばね座背面に織り込み、実測の除荷曲線に合わせて初期セット長を追い込める構造とします。

現場で起こりがちな3大トラブルシナリオと推奨される設計対策(深掘り)

計算上の摩擦損失をクリアしても、周辺の案内構造や公差設計に盲点があると、実機で思わぬ「かじり」や「早期破断」を引き起こします。

ここでは、現場で特に発生しやすい3つのトラブルシナリオと、それを防ぐための実践的な設計ノウハウを深掘りします。

シナリオ1:変形時の内外径変化を無視した「ガイド軸への噛み込み(過拘束・かじり)」

皿ばねは圧縮されてたわむ際、円錐角が潰れることで「内径が縮小し、外径が拡大する」という幾何学的な変形挙動を示します。

通常の丸棒カラーと同じ感覚で、内径ガイドピン(案内軸)をH7/g6などの狭いすきまばめで設計したり、内径ガイドと外径スリーブの両方でガチガチに案内したりするとどうなるでしょうか。

圧縮ストロークの途中で縮小した皿ばねの内径エッジがガイド軸に食い込み、板間摩擦以上の巨大な摺動抵抗(スティックスリップ)を生んで、極端なヒステリシスや戻り不良を引き起こします。

💡 用語メモ:「過拘束(二重拘束)」とは?(今回の設計における意味を開く)

【基本の意味】部品の自由度を必要以上に複数の基準面で縛ってしまい、加工誤差や変形が逃げ場を失って無理な力が発生する状態のことです。
【今回のケースでは】皿ばねの内径と外径の両方を狭いすきまでガイドすると、圧縮時の「内径縮小・外径拡大」という変形が逃げられず、ガイド壁面に強く食い込んで動作不良(かじり)を起こします。

💡 用語メモ:「スティックスリップ」とは?(今回の設計における意味を開く)

【基本の意味】摺動面において「引っかかり(固着:スティック)」と「滑り(スリップ)」が交互に繰り返され、カクカクと断続的に動く現象です。
【今回のケースでは】高面圧の皿ばねエッジが柔らかいガイド軸に食い込むことで発生し、滑らかな推力伝達を妨げて荷重波形を大きく乱す原因となります。

【推奨される設計対策:過拘束の逃がしと硬度管理】
1. 片側案内の徹底:案内は「内径案内(ガイド軸)」または「外径案内(ガイド筒)」のどちらか一方のみに限定し、反対側は十分に逃がします(一般的には内径ガイド軸方式が推奨されます)。
2. 余裕あるクリアランス設定:ガイドすきまは、皿ばねの変形量を見込んで内径(または外径)寸法の1〜2%程度(例:内径φ20mmなら片側0.15〜0.2mm程度、直径差で0.3〜0.4mm)のクリアランスを確保します。
3. ガイド軸・受座の焼入れ研磨:皿ばね本体は高い硬度(HRC45〜52程度)を持つため、S45C調質材やSUS304などの生材ではエッジで削られて段付き摩耗を起こします。ガイド軸および受座面には浸炭焼入れ・高周波焼入れ、またはSKD11焼入研磨材(HRC58〜60程度)を採用し、表面粗さを Ra0.8 以下に仕上げて摩耗を最小化します。

一般的な軸と穴のはめあい公差との違いについては、よく使う「はめあい公差一覧表(JIS B 0401抜粋)」|H7・h6・g6等の数値早見表と軸・穴の選び方と比較すると、皿ばね特有のクリアランス設定の重要性がよく分かります。

シナリオ2:全たわみの75%超過(密着・底突き)による「荷重スパイクと早期疲労破断」

アクチュエータのストローク端調整の狂いや部品の加工公差累積により、皿ばねが「全たわみ量 h0 の75%を超える領域(フラット密着付近)」まで押し込まれるケースです。

皿ばねは75〜80%を超えて圧縮されると、接触点が受座からずれて端面の「エッジ当たり」に移行し、ばね定数が無限大に向かって急激に立ち上がります。

この領域に入ると、わずかなストローク誤差で荷重が計算値の2倍以上に跳ね上がるだけでなく、内径下面の引張応力集中部(III点応力)から数千サイクルで疲労クラックが入り、皿ばねが割れて予圧が完全に抜けるトラブルに至ります。

【推奨される設計対策:75%制限メカストッパの設置】
1. ハードウェアストッパの組み込み:推力制御やソフトリミットだけに頼らず、皿ばねのたわみが「全たわみ h0 の75%」に達した時点で物理的に底突きしてそれ以上の圧縮を阻止するメカストッパ(段付きカラーやハウジング端面当て)を必ず組み込みます。
2. 形状比(h0 / t)の適正化:たわみと荷重の非線形誤差が少なく扱いやすい h0 / t = 0.4〜0.8程度 の皿ばねを基本として選定します(また、初期のガタつき領域を避けるため下限側も15%以上たわませた状態で使用します)。
3. 精密皿ばねの選定:繰り返し動荷重がかかる用途では、「ショットピーニング処理済品」および「エッジ部のバリ・微小キズの完全除去(面取り・R加工)」が施された規格品を選定します。

シナリオ3:公差累積による「初期予圧のバラつき」とフレッティング摩耗

皿ばねは「数ミリ以下の極小ストロークで数千Nの大荷重を発生させる」高剛性要素であるため、ばね定数(N/mm)が非常に高いという特徴があります。

たとえばばね定数が 3,000 N/mm の構成では、ハウジング深さやシャフト長、皿ばね自体の板厚・自由高さ公差が累積して わずか 0.2mm ズレただけで、荷重が 600 N も変動してしまいます。

さらに、並列重ねの合わせ面に一般的な低粘度グリスを塗っただけでは、高面圧と微小ストロークの繰り返しによってグリスが外へ押し出され、早期にフレッティング摩耗を起こしてヒステリシスが急増します。

💡 用語メモ:「フレッティング摩耗」とは?(今回の設計における意味を開く)

【基本の意味】強く接触している2つの金属面が、微小な往復滑りを繰り返すことで油膜が切れ、赤さび状の摩耗粉を出しながら損傷する現象です。
【今回のケースでは】並列重ねした皿ばねの合わせ面は超高面圧かつ微小摺動となるため、一般グリスでは簡単に油膜が破断し、摩擦係数が0.15近くまで跳ね上がる直接原因になります。

ばね定数と荷重ばらつきの基本的な関係については、ばね定数とは?計算式(求め方)と荷重ばらつきが起きる理由|コイルばね設計・選定で失敗しないコツの記事でも詳しく解説しています。

【推奨される設計対策:単板+直列化・シム調整・固体潤滑】
1. 「並列重ね」から「単板+直列重ね」への転換:並列重ねは摩擦を増やしながらばね定数をさらに跳ね上げる(公差に過敏にする)行為です。高荷重が必要ならまず単板サイズを大きくして並列枚数を減らし、公差吸収ストロークが欲しい場合は逆向きに重ねる「直列重ね」や、h0 / t ≒ 1.3〜1.4付近の「フラット特性領域(たわみが変化しても荷重がほぼ一定になる領域)」を活用して加工公差による荷重変動を吸収します。
2. 初期たわみ調整用シムの標準装備:ばね受け座の背面に、初期セット長を0.1mm単位で微調整できるSUS304製シムプレート(調整ライナー:t0.1, t0.2, t0.5, t1.0)を挿入できる構造とし、組立時にロードセル等で復帰側の保持荷重を確認しながらシム厚で狙い値に合わせ込む手順を確立します。
3. 極圧・固体潤滑処理の図面指定:並列重ねを行う場合は、高面圧下でも油膜破断を起こさない「二硫化モリブデン(MoS2)系ペーストの塗布」または皿ばね表面への「固体潤滑コーティング(MoS2焼付コーティングやリン酸マンガン処理+潤滑油含浸など)」を図面・手配仕様で明確に指示します。

また、シム調整を減らすための部品公差の考え方については、公差設計の基本と考え方や平面に掛かる面圧計算もあわせて確認しておくと、受座の陥没防止やセット長管理の精度を高めることができます。

まとめ:皿ばねの予圧設計で失敗しないための実務ポイント

最後に、アクチュエータ等の予圧機構として皿ばねを設計・選定する際の重要ポイントを振り返ります。

  • 並列重ねは最小限(原則2〜3枚以下)に抑える
    可能な限りサイズアップした「単板(n=1)」で必要荷重をまかない、板間摩擦(w_M)の発生源そのものをなくす引き算の設計を優先します。
  • 「圧縮最大」と「復帰最小」の二刀流で計算する
    経年による油膜切れ(w_M = 0.12〜0.15程度)を想定し、アクチュエータの駆動推力は圧縮時の最大荷重で余裕を持たせ、ワークの保持予圧は復帰時の最小荷重で保証します。
  • 変形を逃がす片側ガイドと高硬度受座を採用する
    圧縮時の内径縮小による噛み込み(過拘束)を防ぐため、内径ガイド軸の片側案内とし、径の1〜2%のクリアランスとHRC58〜60程度の焼入れ研磨面(Ra0.8以下)を確保します。
  • 75%メカストッパとシム調整・MoS2潤滑をセットで織り込む
    全たわみの75%を超える密着(エッジ当たり)を物理的に防ぐストッパを設け、高いばね定数による公差ばらつきは背面の調整シムと二硫化モリブデン系潤滑で確実に管理します。

皿ばねの積層構造は、受け座の剛性や組付け時の初期馴染み(セッチング状態)によっても特性が変化します。

設計段階でのワーストケース計算に加え、試作機(プロトタイプ)にて圧縮・除荷の往復荷重波形を実測し、十分な安全余裕があることを検証するプロセスが推奨されます。