ここでは 「ベアリングの種類と正しい使い方|設計者が知るべき知識」というメモをしています。
私が機械設計者として歩み始めた頃、ベアリングの選定で(今もですが)幾度となく頭を悩ませた経験があります。 カタログに並ぶ無数の型番、専門用語、そして何より「本当にこの選択で正しいのか」という不安を感じながら選定していました。 おそらく、多くの設計者が同じような道を通ってきていると思います。
世の中にはベアリングの種類を解説するサイトが数多く存在しますが、その多くは転がり軸受の個別の特徴を紹介するに留まっています。 実際の設計に必要な情報はカタログから知識(寸法や耐荷重)を得ればよいのですが、ベアリングを正しく選定する上では、もう少し深い根拠をもって選定していく必要があります。
この記事では、私が一時陥っていた「何が何でも転がり軸受を入れる」という固定観念を見直すきっかけとなるように、「転がり軸受」と「すべり軸受」の二大系統の比較から始め、設計思想の根幹に関わる選択肢を提示していきます。
まずベアリングの基本構造と種類ごとの特徴を明確にし、次に荷重や回転速度に応じた論理的な選定プロセスを具体的に示します。 さらに、多くの設計者がつまずきやすい、機械性能を決定づける「はめあい」の正しい設計方法へと深く踏み込みます。 最終的には、ベアリングの寿命を最大化するための潤滑と密封に関する知識までを網羅し、皆様が自信を持って最適なベアリングを選定できるよう、結論まで導きます。
単なる部品の選び方ではなく、機械全体の性能を最大限に引き出すための設計思想を学ぶための実践的なガイドです。 是非参考にしてみてください。
ベアリングの基本!種類を比較し使い方を知る
ベアリングの選定を始めるにあたり、まずはその基本的な構造と分類を理解することが第一歩です。 ここでは、ベアリングの二大分類である「転がり軸受」と「すべり軸受」の違いから、荷重の種類、そして設計上欠かせない「剛性」という概念まで、基礎的な知識を解説します。
転がり軸受とすべり軸受の構造の違い
まず初めに、多くの設計者が「ベアリング=転がり軸受」というイメージを持っています が、これは全体の一部を捉えたものです。 本来、「ベアリング」とは回転する軸を支える「軸受」全般を指す言葉であり、その動作原理によって大きく二つの系統に分類されます。 この両方の特徴を正しく理解し、比較検討することが、最適な軸受選定への第一歩となります。
その二大分類とは、「転がり軸受」と「すべり軸受」です 。どちらを選択するかは、機械の特性を根本から決定づける重要な判断となります。
転がり軸受は、内輪と外輪の間にボール(玉)やローラー(ころ)といった転動体を配置し、これらが転がることで摩擦を低減させる構造です 。 国際規格(ISO/JIS)によって寸法が標準化されているため、メーカー間の互換性が高く、入手や交換が容易であるという大きなメリットがあります 。 起動時の摩擦が非常に小さい点も特徴です。一方で、転動体が点や線で荷重を支えるため、衝撃に比較的弱く、転がり運動に起因する微小な振動や騒音が発生しやすいという側面も持ち合わせています 。
対照的に、すべり軸受は、軸と軸受面が「面」で接触し、その間に潤滑油などの膜を介して「すべる」ことで運動を支えます 。 構造がシンプルで、特に径方向の寸法を小さくできるため、機械の小型化に貢献します 。 また、接触面積が広く、油膜がクッションの役割を果たすため、耐衝撃性に優れ、本質的に静粛性が高いのが長所です 。 ただし、理想的な潤滑状態を維持するための設計が重要となり、起動時には油膜が形成されていないため摩擦が大きくなる傾向があります 。
このように、両者には明確な特性の違いがあり、汎用性や保守性を重視する場合は転がり軸受、耐衝撃性や静粛性、コンパクトさが求められる場合はすべり軸受が有力な選択肢となります。
ラジアル荷重とアキシアル荷重の基礎
ベアリングが受ける荷重は、その方向によって大きく2つに分類 されます。 それが「ラジアル荷重」と「アキシアル荷重」です 。 この2つの荷重を正しく理解することは、ベアリングの形式を選定する上で最も基本的な要素となります。
ラジアル荷重とは、軸に対して垂直(直角)方向にかかる力のことです。 例えば、ベルトで駆動されるプーリーの軸や、歯車が噛み合うことで発生する力などがこれに該当します。 多くの機械では、このラジアル荷重が主たる荷重となります。
一方、アキシアル荷重は、軸と同じ方向(軸線方向)にかかる力です。 スラスト荷重とも呼ばれます。 例えば、はすば歯車(ヘリカルギア)を使用した場合に発生する軸方向の力や、回転体を垂直に支える場合などが挙げられます。
実際の機械では、これらの荷重が単独でかかることは少なく、ラジアル荷重とアキシアル荷重が同時に作用する「複合荷重」となる場合がほとんど です。 どの方向にどれくらいの大きさの荷重がかかるのかを正確に把握し、それに対応できるベアリングを選定することが重要です。
設計で重要なベアリングの剛性とは
ベアリングにおける「剛性」とは、荷重を受けた際の変形のしにくさを示す指標 です 。 剛性が高いベアリングは、荷重がかかっても弾性変形が小さく、軸の位置を正確に保持することができます。この特性は、機械全体の性能に直接的な影響を与えます。
例えば、工作機械の主軸のように、ミクロン単位の加工精度が求められる用途では、ベアリングの剛性が極めて重要になります。 剛性が低いと、切削抵抗によって主軸がわずかに傾き、加工精度が悪化してしまうからです。 そのため、このような用途では、円筒ころ軸受やアンギュラ玉軸受といった高剛性なベアリングが選ばれます 。
一方で、剛性を高めるためには、ベアリング内部のすきまを小さくしたり、予圧(あらかじめ荷重をかけること)を与えたりします。 しかし、これらの対策は摩擦の増大や発熱につながる可能性があり、許容回転速度の低下を招くこともあります。 また、高剛性なベアリングは、軸やハウジングのわずかな取り付け誤差も許容しにくくなるため、周辺部品にも高い加工精度が要求されます。
したがって、ベアリングの剛性は、単に高ければ良いというものではありません。 機械に要求される回転精度や負荷条件を考慮し、他の性能とのバランスを取りながら、最適な剛性を持つベアリングを選定する視点が大切です。
汎用性が高い深溝玉軸受の特徴
深溝玉軸受は、数ある転がり軸受の中で最も代表的で、世界で最も広く使用されている形式 です 。 その最大の理由は、構造がシンプルでありながら、非常にバランスの取れた性能を持っている点にあります。
構造的には、内輪と外輪に深い円弧状の溝があり、その間をボールが転がります。 この深い溝のおかげで、主となるラジアル荷重だけでなく、両方向のアキシアル荷重もある程度負荷することが可能です 。 この汎用性の高さが、様々な機械で採用される理由の一つです。
また、ボールが点で接触するため摩擦トルクが小さく、高速回転に適しているという長所も持ち合わせています 。 この特性から、モーターや発電機、ファン、コンベアといった高速回転が求められる多くの機器で活躍しています 。 さらに、低騒音・低振動であるため、家電製品やOA機器など、静粛性が求められる用途にも最適です。
ただし、大きなアキシアル荷重や衝撃荷重に対しては、他の専用設計されたベアリングに劣る場合があります。 とはいえ、その優れた汎用性、入手しやすさ、そしてコストパフォーマンスから、機械設計においてベアリングを選定する際には、 まず深溝玉軸受を検討の出発点とすることが一般的 です。
転がりベアリングの種類を選定する際の使い方
深溝玉軸受で要求仕様を満たせない場合、より専門的な性能を持つ他の転がりベアリングを検討する必要があります。 ここでは、高精度な「アンギュラ玉軸受」、高荷重に耐える「円筒ころ軸受」や「円すいころ軸受」、そして取り付け誤差を吸収する「自動調心ころ軸受」について、それぞれの特徴と効果的な使い方を解説します。
高速・高精度なアンギュラ玉軸受
アンギュラ玉軸受は、高速回転と高い精度が要求される用途、特に工作機械の主軸(スピンドル)などで不可欠な存在 です 。 その特徴は、「接触角」と呼ばれる構造にあります。内輪と外輪の軌道が軸方向に対して少しずれており、ボールが斜めに接触するよう設計されています 。
この接触角があることにより、アンギュラ玉軸受はラジアル荷重と一方向の大きなアキシアル荷重を同時に受けることができます。 ただし、一方向のアキシアル荷重しか受けられないため、通常は2個を対向させて組み合わせ(背面組合せや正面組合せ)、両方向のアキシアル荷重に対応させます 。
さらに、この組み合わせの際に「予圧」をかけることで、ベアリングの剛性を大幅に高めることが可能です。 予圧とは、あらかじめ内部に荷重をかけておくことで、すきまをなくし、軸のブレを極限まで抑える技術です。 これにより、工作機械のような精密な位置決めが求められる機械で、要求される高い剛性と回転精度を実現しています。
一方で、取り付けには高い精度が求められ、予圧の管理もシビアになるため、取り扱いには専門的な知識が必要となります。
高ラジアル荷重に対応する円筒ころ軸受
円筒ころ軸受は、その名の通り、転動体に円筒状の「ころ」を使用したベアリングです。 ボールが「点」で接触するのに対し、ころは「線」で軌道輪と接触するため、接触面積が大きくなります。
この構造的な違いにより、円筒ころ軸受は玉軸受に比べて非常に大きなラジアル荷重を支える能力(負荷能力)を持っています。 また、荷重に対する変形が少ないため、剛性も非常に高いのが特徴です。 この高負荷能力と高剛性から、大型の電動機や発電機、工作機械の歯車装置、鉄道車両の車軸など、大きな力がかかる過酷な環境で広く採用されています。
さらに、円筒ころ軸受は高速回転性能にも優れています。 内輪と外輪に設けられた「つば」の形状によって、ある程度のアキシアル荷重を負荷できるタイプや、軸の熱膨張による伸びを軸受内部で吸収できるタイプなど、様々なバリエーションが存在します。 これにより、設計者は機械の仕様に応じて最適な形式を選択することが可能です。
ただし、調心性(取り付け誤差を吸収する能力)はほとんどないため、軸とハウジングの芯を高い精度で一致させる必要がある点には注意が必要 です。
複合荷重に強い円すいころ軸受
円すいころ軸受は、転動体である「ころ」と、内外輪の軌道面が円すい形をしている特徴的な構造を持つベアリングです 。 この円すい形状により、大きなラジアル荷重と、一方向の大きなアキシアル荷重が同時にかかる「複合荷重」に対して、優れた負荷能力を発揮します。
アンギュラ玉軸受と同様に、一方向のアキシアル荷重しか受けられない ため、通常は2個を対向させて使用します。 これにより、両方向からのアキシアル荷重に対応するとともに、高い剛性を確保することができます 。
その高い負荷能力と剛性から、自動車のホイールハブやデファレンシャルギア、トランスミッションといった、常に大きな複合荷重がかかる箇所で多用されています 。 また、建設機械や農業機械、各種産業機械の減速機など、過酷な条件下での信頼性が求められる場面でも欠かせない存在です。
注意点としては、構造上、回転時に転動体を軌道面に押し付ける力が発生するため、玉軸受に比べて摩擦が大きくなる傾向があります。 そのため、超高速回転にはあまり向きませんが、中速域までの重荷重用途においては非常に頼りになるベアリングと言える でしょう。
軸のたわみを吸収する自動調心ころ軸受
自動調心ころ軸受は、その名の通り、優れた「自動調心能力」を持つことが最大の特徴です。 構造的には、樽(たる)形をした2列のころと、球面に加工された外輪軌道面で構成されています 。
この球面の外輪軌道により、内輪と転動体全体が、外輪に対してある程度の角度まで自由に傾くことができます。 この働きによって、運転中に軸がたわんだり、あるいは軸とハウジングの間に取り付け誤差があったりしても、それを自動的に吸収し、ベアリング内部に無理な力がかかるのを防ぎます。
また、「ころ」を転動体としているため、玉軸受タイプの自動調心軸受に比べて負荷能力が格段に高く、非常に大きなラジアル荷重と両方向のアキシアル荷重を同時に受けることが可能 です 。
この優れた調心性と高い負荷能力から、製鉄機械、製紙機械、鉱山の破砕機、大型の送風機といった、重荷重で、かつ軸のたわみや取り付け誤差が生じやすい大型産業機械において、主力ベアリングとして広く採用されています 。 ただし、内部で傾きを許容する構造のため、剛性は他の高剛性ベアリングに比べて低くなる傾向 があります。
すべりベアリングの種類と潤滑を学ぶ使い方
転がり軸受とは異なる原理で機能する「すべりベアリング」は、特定の環境下で比類なき性能を発揮 します。 ここでは、給油不要で静粛性に優れる「焼結含油軸受」、特殊な環境に強い「樹脂系軸受」、そして、すべり軸受の性能限界を判断するための重要な指標である「PV値」について、その使い方を解説します。
無給油で使える焼結含油軸受
焼結含油軸受は、外部からの給油を必要としない「自己潤滑性」を持つすべり軸受の一種 です 。 オイルレスベアリングとも呼ばれます。 その製造方法は非常にユニークで、金属の粉末(主に鉄系や銅系)を金型に入れて圧縮し、高温で焼き固める「粉末冶金法」が用いられます 。
この製法により、軸受の内部には目に見えないほどの微細な空間(気孔)が無数に形成されます。 そして、この気孔の中に潤滑油をたっぷりと含ませることで、自己潤滑機能が生まれます 。
軸が回転を始めると、摩擦による熱で内部の油が膨張したり、遠心力が働いたりすることで、油がじわじわと摺動面に染み出して潤滑膜を形成します。そして回転が止まると、毛細管現象によって油は再び内部の気孔に吸収されます 。 このサイクルにより、給油メンテナンスなしで長期間の使用が可能となります。
転動体がないため非常に静かで、OA機器のファンモーターやオーディオ機器など、静粛性が求められる小型モーターに広く採用されています 。 ただし、含んでいる油の量には限りがあるため、基本的には軽負荷・中速の用途に適しています。
耐薬品性に優れた樹脂系軸受
樹脂系軸受は、その名の通り、プラスチックを主材料としたすべり軸受 です。 ポリアセタール(POM)や四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)といった、機械的強度や耐熱性に優れたエンジニアリングプラスチックが用いられます 。
金属製のベアリングにはない多くの利点を持っており、その一つが優れた耐薬品性と耐食性です 。 金属では錆びてしまうような水中や海水中、あるいは薬品に触れるような環境でも問題なく使用できます。この特性を活かし、食品加工機械や化学プラントなどで広く活躍しています 。
また、潤滑油やグリースを必要としない自己潤滑性を持つため、油による汚染を嫌うクリーンな環境にも最適です。 さらに、軽量であることや、電気を通さない絶縁性を持つことも大きな特徴 です 。
一方で、デメリットとしては、金属に比べて熱に弱く、熱膨張しやすい点が挙げられます。 また、許容できる荷重や速度にも限界があるため、使用条件を十分に確認して選定することが大切です。 オイレス工業などがこの分野の代表的なメーカーとして知られています 。
性能限界を示すPV値の重要性
すべり軸受、特に無給油で使用するタイプの選定において、その性能限界を判断するために不可欠な指標が「PV値」です。 PV値は、軸受にかかる圧力である「面圧(P)」と、軸が回転する速さである「すべり速度(V)」の積で表されます。
面圧(P)は、ベアリングにかかる荷重を、軸受の投影面積(内径×長さ)で割ることで求められます 。単位は通常、MPa(メガパスカル)です。すべり速度(V)は、軸の表面が1秒間に進む距離のことで、軸径と回転数から計算できます 。単位はm/sです。
この2つを掛け合わせたPV値(単位:MPa・m/s)は、軸受の摺動面で発生する摩擦熱量のおおよその目安となります。PV値が高くなりすぎると、摩擦熱によって摺動面が摩耗したり、最悪の場合は溶けて焼き付いたりする危険性が高まります。
そのため、各メーカーは、軸受の材質ごとに「許容PV値」という限界値をカタログなどで定めています。 設計者は、使用条件から算出したPV値が、選定しようとしているベアリングの 許容PV値を下回っていることを必ず確認 しなければなりません。 この確認を怠ると、ベアリングの早期破損につながる可能性があるため、非常に重要なプロセスです。
ベアリングの寿命を延ばす種類別の使い方
ベアリングを長く安定して使用するためには、潤滑と密封に関する知識が不可欠です。 ここでは、代表的な潤滑方法である「グリース潤滑」と「油潤滑」の違い、信頼性を担保するための「寿命計算」、そしてベアリングを外部の汚染物質から守る「シール」と「シールド」の役割と性能差について解説します。
潤滑の基本:グリースと油潤滑の違い
ベアリングの性能を維持し、長寿命化を図る上で潤滑は極めて重要です。 その方法は、大きく「グリース潤滑」と「油潤滑」の2つに分けられます 。
グリース潤滑は、半固体状のグリースをベアリング内部に封入する方法 です。 グリースは流動性が低いため漏れにくく、比較的簡易な密封装置で対応できるのが最大のメリットです 。そのため、多くの転がり軸受でこの方法が採用されています。 取り扱いが容易で、メンテナンスの手間も少ないですが、冷却効果はほとんど期待できません。 したがって、中低速で、運転温度がそれほど高くならない一般的な用途に適しています。
一方、油潤滑は、液体の潤滑油を使用する方法 です。 油は流動性が高いため、ベアリングの隅々まで行き渡り、優れた潤滑性能を発揮します。 また、油を循環させることで、摩擦によって発生した熱を外部へ逃がす高い冷却効果が得られます 。
この特性から、工作機械の主軸のような高速回転や、高温になる条件下での使用に不可欠 です。 ただし、油漏れを防ぐために複雑で信頼性の高い密封装置が必要となり、システム全体が大規模になる傾向があります。
項目 | グリース潤滑 | 油潤滑 |
許容回転速度 | 中速まで | 高速・超高速 |
冷却効果 | ほとんどない | 高い(循環給油の場合) |
密封装置 | 簡易 | 複雑 |
メンテナンス | 補給・交換がやや困難 | 交換・管理が容易 |
このように、どちらの潤滑方法を選ぶかは、機械の回転速度、発熱量、コスト、メンテナンス性などを総合的に考慮して決定する必要があります。
信頼性を確保する寿命計算の方法
転がり軸受の寿命は、無限ではありません。 運転を続けると、軌道面や転動体の表面に繰り返し応力がかかり、材料が疲労して「フレーキング」と呼ばれるうろこ状のはく離が発生します。 このフレーキングが発生するまでの総回転数が、ベアリングの「疲れ寿命」と定義 されます。
設計者は、この疲れ寿命が機械の要求寿命を満たしているかを確認するために、寿命計算を行います。 最も基本的な計算が「基本定格寿命(L10)」です 。これは、一群の同じベアリングを同じ条件で運転したときに、そのうちの90%がフレーキングを起こさずに到達できる総回転数を示します。
計算式は以下の通りです。
ここで、Cは「基本動定格荷重」(カタログ記載値)、Pは「動等価荷重」(実際にベアリングにかかる荷重)、pは指数(玉軸受で3、ころ軸受で10/3)です 。 この式から、かかる荷重が小さいほど、また基本動定格荷重が大きいベアリングほど、寿命が長くなることがわかります。
近年では、潤滑油の清浄度や粘度といった、より現実に即した条件を考慮して寿命を補正する「修正定格寿命」の考え方も導入されています 。 これにより、さらに精度の高い寿命予測が可能になっています。 これらの計算は複雑ですが、各ベアリングメーカーが提供する技術計算ツールを利用することで、容易に算出できます 。
異物侵入を防ぐ密封の役割
ベアリングがその性能を長期間にわたって維持するためには、内部を常に清浄な状態に保つことが不可欠 です。 しかし、多くの機械は、粉塵や切削粉、水分、腐食性ガスといった、ベアリングにとって有害な物質が存在する環境下で稼働しています。
これらの異物がベアリング内部に侵入すると、潤滑剤であるグリースや潤滑油を劣化させ、その性能を著しく低下させます。 また、硬い異物は軌道面や転動体に圧痕や傷をつけ、それが騒音や振動の発生源となります。 さらに、この傷が起点となって、前述のフレーキング(疲れはく離)が早期に発生し、ベアリングの寿命を大幅に縮めてしまう原因にもなります。
この異物侵入を防ぐと同時に、内部に封入された潤滑剤が外部へ漏れ出すのを防ぐ役割を担っているのが「密封装置」です。 密封装置には様々な種類がありますが、ベアリング自体に組み込まれたものとして、代表的なものに「シールド」と「シール」があります。 使用環境の過酷さに応じて適切な密封装置を選定することは、ベアリングの信頼性を確保し、計画通りの寿命を達成するために極めて重要な設計項目です。
シールとシールドの構造と性能差
ベアリングに組み込まれる代表的な密封装置が「シールド」と「シール」です。 両者は名称が似ていますが、構造と性能が大きく異なります。 それぞれの特徴を理解し、使用環境に最適なものを選ぶことが大切です。
シールドは、鋼板をプレス加工して作られた円盤状の板で、外輪に固定されています。 内輪との間には、接触しないように微小なすきま(ラビリンスすきま)が設けられています 。
一方、シールは、合成ゴムなどの弾性体で作られており、同じく外輪に固定されています。 シールには、先端部分(リップ)が内輪に接触する「接触形」と、接触しない「非接触形」があります 。
両者の性能差を以下の表にまとめます。
項目 | シールド形 | シール形(接触形) |
構造・材質 | 鋼板 | 合成ゴム |
密封原理 | 非接触(ラビリンスすきま) | 接触(リップ部) |
防塵性 | 比較的大きな固形異物に有効 | 優れる(微細な粉塵にも有効) |
防水性 | ほとんどない | 優れる |
摩擦トルク | 小さい | 大きい |
許容回転速度 | 高い(開放形と同等) | 低い |
主な用途 | クリーンな環境での高速回転部 | 粉塵や水分の多い過酷な環境 |
どちらを選ぶかは、防塵・防水性の要求レベルと、許容回転速度のバランスを考慮して決定します。 例えば、クリーンルーム内で使用する高速モーターにはシールド形が、屋外で使用される農業機械には接触シール形が適していると考えられます。
はめあいを理解しベアリングの取付を極める
ベアリングの性能を最大限に引き出すためには、「はめあい」の設計が最も重要と言っても過言ではありません。 はめあいの基本から、しまりばめとすきまばめの使い分け、そしてはめあい不良が引き起こす「クリープ」という現象まで理解する必要があります。
「はめあい」とは、軸とベアリングの内輪、そしてハウジング(軸受箱)とベアリングの外輪が、それぞれどのような寸法関係で組み合わされるかを示すものです 。 具体的には、軸の直径と内輪の内径、ハウジング穴の内径と外輪の外径の差によって決まります。 このはめあいが不適切だと、ベアリングは本来の性能を発揮できないばかりか、異音や振動、早期破損といった深刻なトラブルに直結します。
しまりばめとすきまばめをどのように使い分けるかは、はめあい設計における核心部分です。 その選定には、クリープを防ぐための絶対的な基本原則 があり、ベアリングの性能を最大限に引き出すためには、前述のはめあい公差(寸法公差)だけでなく、 幾何公差の管理も同様に重要です 。
これらをまとめて ベアリングの取付部の公差設計 というページで詳しくまとめていますので、併せてご確認ください。
最適なベアリングの種類と使い方まとめ
この記事では、機械設計におけるベアリングの選定と使い方について、網羅的に解説してきました。 最適な設計を行うためには、個々の知識を断片的に知るだけでなく、それらを統合的に理解し、機械全体の要求仕様と照らし合わせることが不可欠です。 最後に、本記事の要点をまとめます。
- ベアリングは「転がり軸受」と「すべり軸受」に大別される
- 転がり軸受は規格化され汎用性が高く、すべり軸受は耐衝撃性や静粛性に優れる
- 荷重方向には「ラジアル荷重」と「アキシアル荷重」がある
- 剛性はベアリングの変形のしにくさを示し、機械の精度に影響する
- 深溝玉軸受は最も汎用性が高く、選定の第一候補となる
- アンギュラ玉軸受は高速・高精度な用途、特に工作機械主軸に適する
- 円筒ころ軸受や円すいころ軸受は、大きな荷重がかかる用途で活躍する
- 自動調心ころ軸受は、軸のたわみや取り付け誤差を吸収できる
- すべり軸受には、焼結含油軸受や樹脂系軸受など無給油で使える種類がある
- すべり軸受の選定には、性能限界を示すPV値の確認が必須である
- 潤滑にはグリース潤滑と油潤滑があり、回転速度や冷却性で使い分ける
- 転がり軸受の寿命は、基本定格寿命(L10)計算式で予測できる
- 密封装置にはシールドとシールがあり、使用環境に応じて選定する
- はめあい設計の目的は、摩耗の原因となるクリープ現象を防止すること
- 「回転荷重を受ける軌道輪をしまりばめにする」がはめあい設計の基本原則である
以上です。