ゴムの切削加工ガイド|設計者が知るべき材質・精度・金型との比較

 

―――――――――――――――――――

当ブログでは、読者の皆様により分かりやすく情報をお伝えするため、AIツールを「文章の校正」に活用しています。

―――――――――――――――――――

 

ここでは 「ゴムの切削加工ガイドとして設計者が知るべき材質・精度・金型との比較」 についてのメモをしています。

 

機械設計者としてゴム部品の設計に携わる中で、「この形状は切削で作れるのだろうか」「試作品を作りたいが、金型はコストも時間もかかる」といった悩みに直面することがあります。    私は設備の設計をする中で、基本的に「一品物」を設計するんですが、毎回ゴムの切削加工には悩みが生まれます。  ある程度の量産製品を見込む場合は「試作の段階から金型で検証するべきか、切削で行うのか」については多くの設計者が悩むのではないかと思います。

 

実際、ゴムの切削加工に関する情報は多く存在しますが、材質や加工法が断片的に解説されていることが多く、設計フロー全体を体系的に学べる情報は少ないのが実情です。

 

この記事では、そうした情報に満足できなかった設計者のために、単なる知識の羅列ではなく、実際の設計プロセスに沿ったメモを提供します。  まず、プロジェクトの初期段階で重要となる金型成形との戦略的な使い分けから始め、各種材質の特性、加工法の選定を経て、最終的には設計者が図面化する際に不可欠な寸法公差や精度の考え方まで、一気通貫で解説を進めます。  この記事を最後まで読めば、ゴム切削の全体像を掴み、自信を持って設計を進めるための知識が身につくはずです。

基礎から学ぶゴムの切削加工と金型との違い

金型成形と比較するメリット・デメリット

ゴム部品の製造方法を考える際、切削加工と金型成形はそれぞれ異なる特性を持っており、プロジェクトの目的や生産数量に応じて使い分けることが肝心 です。

 

切削加工の最大のメリットは、金型が不要である点にあります。  これにより、金型製作にかかる高額な初期費用と、約1ヶ月といった製作期間を完全に削減できます。  そのため、1個からの試作品製作や、仕様変更の可能性がある開発段階、あるいは少量生産において、コストと時間を大幅に抑えることが可能です。

 

一方、デメリットとしては、1個あたりの加工に時間がかかるため、大量生産になると金型成形よりも単価が高くなる傾向があります。  また、刃物で加工する特性上、金型で成形したような滑らかな表面(ツルツルした面)を得ることは難しく、切削痕が残ります。  さらに、ジャバラのような非常に薄肉で複雑な形状は、加工が困難な場合があります。

 

対する金型成形は、一度金型を作ってしまえば、同じ形状の製品を短時間で安定して大量に生産できるため、量産時の単価を大幅に下げられるのが利点です。  しかし、前述の通り、金型製作には高い初期費用と時間が必要になるため、小ロット生産には向きません。

特性 切削加工 金型成形
初期費用 不要 高額(金型製作費)
単価 高め 安価(大量生産時)
納期 短い(金型不要のため) 長い(金型製作期間が必要)
最適ロット数 1個〜中ロット 大ロット
設計変更の柔軟性 高い 低い(金型修正に費用と時間)
対応可能な形状複雑度 中程度(ジャバラ等は困難) 高い
表面仕上げ 切削面(ツールマークあり) 滑らか(金型表面を転写)
寸法精度 やや劣る 優れる
材料ロス 多い(切り屑が発生) 少ない(ネットシェイプに近い)

このように、両者には明確な長所と短所が存在します。  したがって、「試作品や少量生産は切削加工で、量産が決まったら金型成形へ移行する」といった戦略的な使い分けが、開発を効率的に進める上で非常に有効なアプローチ となります。

 

 

切削か金型か?損益分岐点の考え方

設計者にとって最も悩ましい判断の一つが、「どのくらいの生産数から金型成形の方が有利になるのか」という問題です。  この切削加工と金型成形のトータルコストが逆転する数量のことを「損益分岐点」と呼びます。

 

この損益分岐点は、部品の形状の複雑さやサイズ、材質によって大きく変動するため、「何個以上なら金型」という画一的な答えはありません 。  しかし、設計者自身が判断するための思考プロセスは存在します。

 

まず、プロジェクトの総生産予定数量を大まかに把握します。  これが数個から数十個であれば、迷わず切削加工を選択すべきです。  数百個から数千個の領域に入ってくると、損益分岐点を意識する必要が出てきます。

 

次に、設計の複雑度を考慮します。  単純な形状のワッシャーであれば、抜き型(トムソン型)という比較的安価な型で対応できるため、損益分岐点は数百個レベルになるかもしれません。  一方で、三次元的な複雑形状を持つ部品の場合、金型費用が高額になるため、切削加工の方が有利な期間は長くなります。  数千個レベルの生産でも、切削加工が選択されることもあります。

 

このように、設計者がある程度の生産見込みと設計仕様を固めた段階で、ゴム加工を専門とするメーカーに相談するのが最も確実な方法 です。  その際、「切削加工の場合」と「金型成形の場合」の両方の見積もりを依頼することで、具体的な損益分岐点が明確になり、最適な製造方法を客観的なデータに基づいて判断できるようになります。 ※ただし、何が何でも金型を見積もるのはメーカーに負担をかけてしまうので、試作から評価のセクションでは切削加工で仕様が確認できる設計にしておくのも重要だと私は考えています。

 

 

ゴム特有の弾性が加工を難しくする理由

ゴムの切削加工が金属や樹脂の加工と根本的に異なるのは、ゴムが持つ特有の「弾性」に起因します 。  この性質が、高精度な加工を実現する上での大きな課題となります。

 

最も大きな問題は、加工時の「逃げ」と「変形」です。  金属のような硬い材料は、刃物を当てると変形せずに削れます。  しかし、ゴムは柔らかいため、刃物が接触するとまず材料が潰れたり伸びたりして変形します。  輪ゴムをハサミで切ろうとすると、輪ゴムが伸びてからようやく切れる現象を想像すると分かりやすいかもしれません。  刃物が通過した後にゴムは元の形状に戻ろうとしますが、この一連の変形と復元によって、狙い通りの寸法を出すことが非常に難しくなるのです。

 

次に、摩擦熱の問題が挙げられます。  ゴムは熱伝導率が低く、熱を蓄えやすい性質を持っています。  切削加工中に工具と材料の間で発生する摩擦熱は、加工点に溜まりやすく、ゴムを軟化させたり膨張させたりします。  加工中に寸法が変化し、加工後に冷えて収縮することで、最終的な寸法に誤差が生じる原因 となります。

 

これらの課題を克服するため、ゴムの切削加工では、非常に鋭利な専用の刃物を使用したり、加工速度を調整したり、場合によっては後述する凍結切削のような特殊な技術を用いたりするなど、材料の弾性を制御するための様々な工夫が求められます。

 

 

試作品や小ロット生産で切削が選ばれる訳

ゴム部品の開発プロセスにおいて、試作品や小ロット生産の段階で切削加工が頻繁に採用されるのには、明確な理由があります。  それは、開発における時間的、経済的なリスクを最小限に抑えられるからです。

 

最大の理由は、金型が不要であることです。  一般的な金型成形では、まず製品形状を彫り込んだ金型を製作する必要がありますが、これには数十万円から数百万円の費用と、1ヶ月程度の期間がかかるのが通例です。  もし試作品の評価段階で設計変更が必要になれば、金型の修正や再製作に追加のコストと時間が発生してしまいます。

 

一方で切削加工は、ゴムのブロックや丸棒といった材料と、3D CADデータがあれば、すぐに加工を開始できます。  金型製作の工程が一切ないため、開発リードタイムを劇的に短縮することが可能です。  例えば、設計変更が生じた場合でも、CADデータを修正するだけで迅速に対応でき、すぐに変更後の形状で試作品を作製できます。

 

このように、切削加工は「1個だけ形状を確認したい」「複数のパターンを試作して比較検討したい」といった、開発初期段階のニーズに極めて柔軟に対応できる工法 です。  金型という大きな初期投資をせずに、実際の製品に近いもので機能や形状の検証を行えるため、結果として開発全体のコストを抑制し、プロジェクトの成功率を高めることに繋がります。

 

 

設計段階で知っておくべき加工の基本

ゴム部品を切削加工で製作することを前提に設計を進める場合、金属や樹脂部品の設計とは異なる、ゴム特有の性質を考慮したアプローチが求められます。  この点を理解しておくことが、後工程でのトラブルを避け、コスト効率の良い製品を生み出すための鍵となります。

 

まず、ゴムの弾性は、加工精度に直接影響を与える一方で、設計上の利点にもなり得ます。  例えば、シール部品などでは、ゴム自身の弾性によってわずかな寸法のズレを吸収し、密閉性を確保することができます。  この特性を活かし、機能的に問題のない範囲で寸法公差を適切に設定することが大切です。  金属加工と同じ感覚で過度に厳しい公差を設定すると、製造コストが不必要に高騰する原因となります。

 

また、形状設計においても注意が必要です。  例えば、薄すぎる肉厚の壁やリブは、切削時の圧力で材料が「びびり」や「たわみ」を起こし、寸法精度が著しく低下します。  可能な限り、剛性を確保できる肉厚にすることが望ましい です。  同様に、ポケット加工などの内側の角は、使用する工具の半径分のRが必ず残ります。シャープコーナー(R)の指示は、追加工法が必要となりコスト増に繋がるため、機能上問題がなければRを許容する設計が推奨されます。

 

これらのように、ゴムの切削加工における製造上の制約を設計の初期段階から理解し、図面に反映させることが、スムーズな製造とコスト管理を実現する上で不可欠です。

 

 

ゴムの切削加工に適した材質と主要な加工法

切削性を左右するゴムの硬度とは

ゴムの切削加工の成否を左右する最も重要な物性値が 「硬度」 です。ゴムの硬度は、一般的に「デュロメータ タイプA」という測定器で測られ、「ショアA」という単位で表記されます。  この数値が大きいほど硬く、小さいほど柔らかいことを示します。

 

硬度と削りやすさ(被削性)には密接な関係があります。  硬度が高いゴム(例:ショアA 80~95)は、加工時の変形が少なく、樹脂に近い感覚で削ることができます。  刃物を当てた際の「逃げ」が抑制されるため、寸法精度が出しやすく、切削面も綺麗に仕上がりやすい傾向にあります。

 

逆に、硬度が低いゴム(例:ショアA 30~50)は非常に柔らかく、切削時の変形が大きくなるため、加工が著しく困難になります。  多くの加工業者では、硬度30Aから95A程度の範囲に対応していますが、特に低硬度の材料で高い精度を求める場合は、後述する凍結切削のような特殊な技術が必要になることがあります。

 

設計者が硬度の感覚を掴むための目安として、一般的な消しゴムが30A~40A、自動車のタイヤが60A~70A程度とされています 。  部品に求められる機能(シール性など)と、加工に必要な硬度とのバランスを考慮して材料を選定することが、設計において非常に大切です。

材質 (略号) 一般的硬度範囲 (ショアA) 主な特徴 代表的用途 被削性スコア (5段階評価)
ウレタンゴム (U) 70 - 95 非常に優れた耐摩耗性、機械的強度 ローラー、シール、緩衝材 5 (特に硬度90A)
ニトリルゴム (NBR) 50 - 90 優れた耐油性 オイルシール、パッキン、Oリング 4
EPDM 40 - 90 優れた耐候性、耐オゾン性、耐水性 屋外用シール、自動車部品 4
クロロプレンゴム (CR) 40 - 80 バランスの取れた汎用性 工業用部品全般、パッキン 4
フッ素ゴム (FKM) 60 - 90 優れた耐熱性、耐薬品性 高温・化学環境用シール 3
シリコンゴム (Si) 30 - 80 広い使用温度範囲、耐熱・耐寒性 食品・医療用部品、パッキン 2 (硬度が低いため)
天然ゴム (NR) 40 - 80 高い弾性、機械的強度 防振ゴム、タイヤ 3

 

 

切削しやすいウレタンゴムの特性

数あるゴム材質の中でも、特に切削加工との相性が非常に良いのがウレタンゴム(U)です。  とりわけ、硬度がショアA 90のものは、まるでプラスチック樹脂のような感覚で加工できるほど、優れた被削性を持っています。

 

ウレタンゴムが切削しやすい理由は、その高い硬度と機械的強度にあります。  これにより、加工中に刃物を当てても材料の変形や「逃げ」が少なく、安定した切削が可能となります。  結果として、他のゴム材質に比べて高い寸法精度を実現しやすく、滑らかな仕上げ面を得ることができます。

 

また、ウレタンゴムは非常に優れた耐摩耗性を誇るという機能的な特徴も併せ持っています。  この性質から、ローラーやシール材、緩衝材(バンパー)、パッドなど、繰り返し摩擦や衝撃が加わる部品に最適です。

 

このように、ウレタンゴムは「加工のしやすさ」と「優れた機能性」を両立しているため、切削加工で製作するゴム部品の材質として、まず最初に検討すべき有力な選択肢の一つと考えられます。  特に、精度が求められる試作品や小ロット製品において、その真価を発揮します 。

 

 

耐油性に優れるNBRの加工ポイント

ニトリルゴム(NBR)は、その優れた耐油性から、工業分野で非常に広く使用されている合成ゴムです。  オイルシールやパッキン、Oリングなど、鉱物油や潤滑油に触れる環境で使用される部品の材質として、定番の選択肢となっています。

 

切削加工の観点から見ると、NBRは比較的加工しやすい材料に分類されます。  特に、一般的に流通している硬度65A~80A程度のグレードは、適度な硬さを持っているため、安定した切削が可能です。  ウレタンゴムほどではありませんが、良好な寸法精度と仕上げ面が期待できます。

 

NBRを加工する際のポイントとしては、その用途を考慮することが挙げられます。  耐油性が求められるシール部品として使われることが多いため、シール面となる部分の表面粗さが重要になる場合があります。  ただし、前述の通り、切削加工では金型成形品のような滑らかな面は得にくいため、設計段階でどの程度の表面粗さが必要かを明確にし、図面に指示することが大切です。

 

一方で、NBRは耐候性に劣るという弱点も持っています。  直射日光(紫外線)やオゾンに長時間さらされると、ひび割れなどの劣化が生じやすいため、屋外での使用には適していません。  このように、優れた耐油性という長所と、耐候性の低さという短所の両方を理解した上で、適切な使用環境の部品に適用することが求められます。

 

 

難加工材シリコンゴムの注意点

シリコンゴム(Si)は、広い温度範囲(優れた耐熱・耐寒性)で使用できることや、高い安全性から、食品・医療分野から工業製品まで幅広く利用されている材質です。  しかし、切削加工の観点からは、取り扱いが難しい「難加工材」の一つとして知られています。

 

その主な理由は、シリコンゴムの多くがショアA 30~50といった低い硬度であるためです 。  非常に柔らかく弾性が高いため、刃物を当てると大きく変形してしまい、正確な寸法で削ることが極めて困難になります。  無理に加工しようとすると、切削面が荒れたり、バリが多発したりする原因となります。

 

このため、シリコンゴムの切削加工には、特殊な技術や工夫が必要となる場合があります。  例えば、非常に鋭利な専用工具を用いる、加工条件を精密に制御する、といったアプローチが取られます。  さらに、高精度が求められる場合や、特に柔らかいグレードの材料を加工する際には、後述する「凍結切削」という、液体窒素などで材料を一時的に硬化させてから削る特殊な工法が用いられることもあります 。

 

設計者としては、シリコンゴムを切削で製作する場合、他のゴム材質よりも寸法公差を広めに設定する必要があることを認識しておくべき です。また、金型が不要という切削加工のメリットを活かし、試作品や小ロット品の製作に適用するのが現実的な選択肢となります。

 

 

旋盤加工とフライス加工の使い分け

ゴムの切削加工において、最も代表的な方法が「旋盤加工」と「フライス加工」です。  この二つの加工法は、工作物(材料)と刃物のどちらが回転するかという点で根本的に異なり、それぞれ得意とする形状があります。

 

旋盤加工

旋盤加工は、加工したいゴムの丸棒などを高速で回転させ、そこに固定したバイト(刃物)を当てることで削り出す方法です。  材料が回転するため、Oリングやローラー、シャフト、スリーブといった、円筒形状や同心円を持つ回転体部品の製作に用いられます。  外径や内径を削ったり、端面を平らにしたりすることが可能です。

 

フライス加工

フライス加工は、旋盤とは逆に、エンドミルなどの切削工具(刃物)を高速で回転させ、固定したゴムの材料に当てて削っていく方法です 。  工具をX軸、Y軸、Z軸方向に動かすことで、平面を削ったり、溝やポケット(凹み)を掘ったり、穴をあけたりすることができます。  角物や板材から立体的な形状を作り出すのに適しています。

 

このように、設計する部品の形状が円筒状であれば旋盤加工、角物や複雑な立体形状であればフライス加工、というように使い分けるのが基本です。  部品によっては、これら両方の加工を組み合わせて製作されることもあります。  切削加工の基本も同時に把握しながら部品設計が出来ると良いと思います。

 

 

熱影響がないウォータージェット加工

今回の記事を作成するにあたり、私自身が改めてその革新性を感じたのが「ウォータージェット加工」です。  これは、水の力を利用して材料を切断する非常にユニークな加工方法で、超高圧ポンプで水を大気圧の数千倍にまで圧縮し、微細なノズルから音速の約3倍もの速度で噴射します 。  この強力な水のエネルギーによって、材料を削り取るように切断するのです。

 

この加工法の最大の利点は、加工中に熱が一切発生しない「非熱加工」である点にあります。  ゴムのように熱に弱い材料でも、熱による変形や変質といった心配が全くありません。また、刃物を使わない非接触加工のため、材料に圧力がかからず、柔らかいゴムでも変形させることなく、設計通りの形状に切り抜くことが可能です。

 

特に、ゴムシートから複雑な輪郭を持つガスケットやパッキンを製作する場合に、その威力を発揮します。  CADデータに基づいて自在な形状に切断できるため、金型(抜き型)を製作する必要がなく、試作品や補修部品を1枚からでも迅速かつ低コストで製作できます。

 

実際の加工事例については、株式会社ヤマカタのような専門メーカーのウェブサイトで、様々なゴム材質の加工例が公開されており、非常に参考になります。

 

 

軟質ゴムに有効な凍結切削とは

前述の通り、シリコンゴムのような非常に柔らかいゴムは、通常の切削が極めて困難 です。  こうした課題を解決する、いわば「切り札」とも言える特殊な技術が「凍結切削(クライオジェニック加工)」です。  この記事の調査を進める中で、この技術が難加工材へのアプローチを大きく広げるものであることを再認識しました。

 

これは、加工対象のゴム材料を液体窒素(約-196℃)などで冷却し、一時的に凍結させて硬化させる技術です。  ガラスのように硬くなった状態のゴムを、旋盤やフライス盤といった通常の工作機械で切削加工します。

 

凍結させることで、加工中の材料の「逃げ」や変形を劇的に抑制できるため、通常のままでは加工不可能な柔らかい材料でも、高い寸法精度で削ることが可能になります。  加工が完了し、材料が常温に戻れば、ゴム本来の柔らかさと弾性が復元されます。

 

この方法は、他の加工法では対応できないような低硬度のゴム部品や、粘着性が高くて刃物が絡みついてしまうような材料の試作品を製作する際に採用されます。  ただし、液体窒素を使用するなど特殊な設備が必要となるため、コストは比較的高くなる傾向があります。  専門業者が、この技術を用いて難加工材の課題解決に取り組んでいます。

 

 

設計者必見!ゴムの切削加工における精度

現実的な寸法公差の考え方

ゴム部品の図面を作成する上で、寸法公差の設定は非常に重要なポイントです。  特に、金属加工の経験が豊富な設計者が陥りやすいのが、金属と同じ感覚で厳しい公差を設定してしまうことです。

 

まず、大前提として、JIS B 0405のような金属の除去加工を想定した一般公差を、ゴムの切削加工品にそのまま適用することは避けるべきです。  ゴムは温度による寸法変化(線膨張係数)が金属の10倍以上と大きく、また弾性変形があるため、金属と同等の精度で管理することは現実的ではありません。

 

ゴムの切削加工で達成可能な寸法公差は、主に材料の「硬度」に依存します。  硬度が高いほど変形が少ないため、より厳しい公差を狙うことができます。  設計者は、使用するゴムの硬度に応じて、製造可能な現実的な公差を設定する必要があります。  以下に、硬度別の公差の目安を示します。

硬度 (デュロメータA) 代表的な材料 達成可能な一般公差の目安
90以上 ウレタンゴム ±0.2 mm
70 - 85 NBR, EPDM, CR ±0.3 mm
50 - 65 シリコンゴム, 軟質CR ±0.5 mm
30 - 45 低硬度シリコン ±0.8 mm以上

注:上記はあくまで一般的な目安であり、部品の形状やサイズによって変動します。

 

機能上、どうしても厳しい精度が求められる箇所にのみ厳しい公差を指示し、それ以外の部分は可能な限り公差を緩く設定することが、コストを抑え、製造しやすい部品を設計するための鍵となります。

 

 

図面指示で注意すべき表面粗さ

表面粗さ は、部品の表面がどれくらい滑らかか、あるいはザラザラしているかを示す指標です。  図面では、算術平均粗さ「Ra」を用いて指示するのが一般的です。

 

切削加工で製作したゴム部品の表面仕上げについて、設計者が認識しておくべき最も重要な点は、金型成形品のような滑らかな表面は得られないということです。  金型成形では、磨き上げられた金型の表面がそのまま製品に転写されるため、非常に平滑な面になります。  一方、切削加工では、刃物が通過した跡(ツールマーク)が必ず残るため、ある程度の粗さが生じます。

 

シール面のように摺動する部分や、流体の流れに影響する部分など、機能的に滑らかさが必要な箇所にのみ、表面粗さを指示することが推奨されます 。  多くの用途では、ゴムの弾性が接触面のわずかな凹凸を吸収するため、過度に厳しい表面粗さを要求する必要はありません。

 

あくまでも推測ですが、一般的な切削加工で達成可能な表面粗さの目安を硬度別に示すと、以下のようになると考えられます。

硬度 (ショアA) 代表的な材料 表面粗さ(Ra)の目安
90 ウレタンゴム Ra 3.2~6.3μm (▽▽程度)
70~85 NBR, EPDM, CR Ra 6.3~12.5μm (▽▽~▽)
50~65 シリコンゴム Ra 12.5~25μm (▽程度)

注:上記は一般的な切削仕上げを想定した参考値であり、保証値ではありません。研磨などの仕上げ加工により、さらに滑らかな表面を得ることも可能です。

 

非常に柔らかいゴムの場合、測定器の触針が表面に食い込んでしまい、接触式の粗さ計では正確な測定が困難な場合があることも、頭の片隅に置いておくと良いでしょう。

 

 

まとめ:ゴムの切削加工要点

この記事では、機械設計者がゴム部品を切削加工で設計するために必要な知識を網羅的に解説しました。  最後に、最適な選択を行うための要点をメモします。

  • 切削加工は金型不要で初期費用と納期を大幅に削減できる
  • 試作品や小ロット、多品種少量生産に最適な工法である
  • 大量生産では金型成形にコスト面で劣る
  • ゴムの弾性による「逃げ」や変形が加工を難しくする
  • 加工時の摩擦熱も寸法精度に影響を与える
  • 切削性の鍵は「硬度」で、硬いほど加工しやすい
  • ウレタンゴム(特に硬度90A)は被削性が極めて高い
  • NBRは耐油性に優れ、切削性も良好な汎用材
  • シリコンゴムは柔らかく、加工が難しい難加工材である
  • 円筒形状は「旋盤加工」、立体形状は「フライス加工」が基本
  • ウォータージェット加工は熱影響がなく軟質材の切り抜きに最適
  • 凍結切削は超軟質材を加工するための特殊技術
  • 寸法公差は金属の基準ではなく、ゴムの硬度に応じて設定する
  • 表面粗さは機能的に必要な箇所にのみ指示し、過剰品質を避ける
  • 開発初期は切削で、量産移行時に金型を検討するのが賢明なフロー

 

まとめ:ゴムの切削加工関連リンク

以下5サイトは「ゴムの切削加工」に対して有力な情報を提供してくれています。

  • 富士ゴム化成株式会社
    • URL: https://www.fujigom.co.jp/manufacturing/molding-method/54/
    • 説明: ゴム加工全般にわたる深い知見を持つ専門メーカーです。特にこのページでは、切削加工と金型成形のメリット・デメリットが詳細に比較されており、試作品製作から量産までの使い分けについて、設計者が判断を下す上で非常に有益な情報がまとめられています。凍結切削のような特殊加工についても解説しています。
  • 小野ゴム工業株式会社
    • URL: https://www.onogomu.co.jp/knowledge/
    • 説明: ゴムに関する基礎知識から専門的な加工技術までを幅広く網羅しているページです。ゴムの種類ごとの特性や、金型成形と切削加工のコスト構造の違いについて分かりやすく解説されており、材質選定やコスト計算の際の参考情報として権威性があります。
  • 太陽ゴム工材株式会社
    • URL: https://jushi-gomu-sessaku.com/qanda/1131/
    • 説明: 樹脂およびゴムの切削加工に特化した技術情報サイトです。このページでは、ゴムの硬度別に達成可能な寸法公差の目安が具体的な数値で示されており、機械設計者が図面を作成する際に直接役立つ、非常に専門的で実践的な情報を提供しています。
  • 株式会社ヤマカタ
    • URL: https://www.yamakata.co.jp/waterjet/works_rubber.html
    • 説明: ウォータージェット加工の専門企業です。このページでは、天然ゴムやシリコンゴムなど、様々なゴム素材をウォータージェットで加工した事例が写真付きで多数紹介されています。非熱・非接触加工の実際の仕上がりを確認できるため、特にウォータージェット加工を検討する際に信頼できる情報源となります。
  • 株式会社クレタス
    • URL: https://cretas.co.jp/rubber_processing_detail?actual_object_id=554
    • 説明: 工業用ゴム・樹脂製品を扱う専門商社です。このページでは、ゴム加工の種類が体系的に整理されており、特に「成型加工」と「切削加工」の基本的な違いが明確に解説されています。初めてゴムの加工方法を学ぶ設計者にとっても理解しやすい構成となっており、基礎知識を得る上で信頼性が高いです。

以上です。