ワークの搬送リターン機構や押付機構を設計する際、装置内の狭小スペースで所定の押付力を確保しようとして、ばね選定に頭を抱えるケースは非常に多く見られます。
通常の圧縮コイルばねでは、ストローク時の荷重変化が大きすぎて駆動側の推力不足を招いたり、密着たわみに達して機構がロックしたりする課題に直面しがちです。
本記事では、代表的な4種類のばね要素(圧縮コイルばね、皿ばね、定荷重ばね、ガススプリング)について、荷重特性と設置寸法のトレードオフを定量的に比較・検証します。
さらに、現場で起こりがちな「ガイドピンとの噛み込み」「公差累積による底付き」「破断やガス抜け」を防ぐための実践的な設計ノウハウを詳しく解説します。
※本記事内の計算数値は、形状や使用環境等の要素に影響されるため、あくまで理論上の目安として参考にしてください。
結論:ばね4種類の荷重特性と「NG設計 vs 推奨される設計」早見表
狭小スペースでのばね選定においては、要求される「作動ストローク長」「必要な押付力(初張力と最終荷重の差)」「作動サイクル数(タクトタイム)」の3軸で機械要素を切り分けるのが設計上のセオリーです。
まずは全体像として、4種類のばねの特性比較と、現場でやりがちなNG設計および推奨される対策を一覧表で確認しておきましょう。
| ばねの種類 | 荷重特性と空間効率 | ❌ やりがちなNG設計 | ⭕ 設計で推奨される方法 |
|---|---|---|---|
| 圧縮コイルばね | 線形特性(F = k * x) 汎用性・寿命(100万回以上)に優れるが、長ストローク化すると自由長が長くなり荷重変動も大きい。 |
・内外径の両方をガイドして過拘束にする ・密着付近(たわみ80%超)まで押し切る ・端面非研削品を使い横力を発生させる |
・全有効たわみの20〜80%以内で使用する ・ガイドは内径か外径の片方のみ(隙間確保) ・自動機では「両端面研削あり」を指定する |
| 皿ばね | 非線形特性(h0 / t 比で変化) 極小スペースで高荷重に対応。h0 / t ≒ 1.3〜1.5でフラット特性も可能だが、長ストロークには不向き。 |
・数十枚の直列重ねで長ストロークを狙う ・100%密着まで潰してエッジ破断を招く ・ガイド軸との隙間を詰めすぎて噛み込む |
・全たわみ h0 の75%以下でメカストッパーに当てる ・数ミリ以下の短ストローク高荷重用途に絞る ・圧縮時の内径縮小を見込んでガイド径を決める |
| 定荷重ばね (コンスタント) |
一定荷重特性 長ストロークでも省スペースかつ荷重がほぼ一定。ただし疲労寿命が短い(数千〜数万回レベル)。 |
・全長ギリギリまで引き出し巻き残しを無くす ・先端の丸穴をボルト1本で点締結する ・高タクト自動機で無交換前提で使う |
・最大引出時もドラムに1.5〜2巻以上残す ・先端は当て板で挟み「面圧」で保持する ・ドラム径は自然内径の1.15〜1.2倍に設定する |
| ガススプリング | 緩やかな線形特性(高初張力) ストローク0mmから高荷重を出せ、反力上昇比も約1.1〜1.3倍と穏やか。高頻度タクトには不適。 |
・ロッドを上向きに配置しシールを乾燥させる ・両端をリジッド固定し横荷重(こじり)をかける ・落下防止の物理ストッパーを省く |
・「ロッド下向き配置」で常時オイル潤滑させる ・両端に球面軸受等を採用し純軸力のみ伝える ・保守用のメカニカルロック(ステー)を併設する |
ばねの種類別・荷重特性と空間効率の基礎知識
機械要素としてのばねを比較する際、カタログの最大荷重だけでなく「ストローク全域で荷重がどう変化するか」という特性曲線の理解が不可欠です。
ここでは、実務でよく比較対象となる4種類のばねの基本特性を整理します。
1. 圧縮コイルばね(線形特性:F = k * x)
たわみ量 x に比例して、荷重 F が直線的に増加する最も汎用的なばねです。
100万回以上の高サイクル寿命も設計可能ですが、ストロークを稼ごうとすると自由長 H0 が長くなり、取付時の初期荷重(初張力)とストローク終端の最大荷重の差が大きくなります。
コイルばねの基本的なばね定数の求め方や荷重ばらつきの要因については、ばね定数とは?計算式(求め方)と荷重ばらつきが起きる理由|コイルばね設計・選定で失敗しないコツでも詳しく解説しています。
2. 皿ばね(非線形特性:形状比 h0 / t により変化)
円錐状のディスク形態をしており、極小の軸方向スペースで極めて大きな荷重を受けられるのが特徴です。
特に、無負荷時の内部高さ h0 と板厚 t の比(h0 / t)を約 1.3 〜 1.5(ルート2付近)に設定した薄板品を「直列重ね(逆向き交互重ね)」にすることで、ストロークしても荷重がほとんど変化しない「フラット特性(定荷重領域)」を作ることができます。
ただし、1枚あたりのたわみ量が微小なため、数十ミリ以上の長ストローク搬送リターンには向きません。
なお、同じく短ストローク・高荷重の治具用途で比較されるウレタンばねとの違いについては、ウレタンスプリングと金属ばねのメリット・デメリット比較|プレス治具設計の計算とへたり・かじり対策をご参照ください。
3. 定荷重ばね(コンスタント・スプリング:一定荷重特性)
渦巻状に成形されたステンレス帯鋼(SUS301等)を引き出す構造のばねです。
初期の助走区間を超えると「ストローク長に関わらずほぼ一定の荷重」を出力するため、長ストロークのリターン機構でも省スペースに収まります。
一方で、材料の弾性限度付近で曲げ変形を繰り返すメカニズム上、本質的に疲労寿命が短い(数千〜数万回レベル)という明確なトレードオフが存在します。
4. ガススプリング(緩やかな線形特性:高初張力)
シリンダ内に封入された高圧窒素ガスの反力を利用するため、取付時点(ストローク0mm)から高い初張力を発揮できます。
ストローク全域での荷重増加率(ガス反力比:約1.1〜1.3倍程度)を低く抑えられるのが大きなメリットです。
ただし、内部の動シールが摺動摩耗するため、毎分数回以上の高速・高頻度タクトで動く自動機の搬送リターンには適さず、主に手動開閉カバーや低頻度昇降のバランス用として選定します。
【実務計算プロセス】ストローク40mm・必要押付力50Nのリターン機構での定量比較
ここからは、具体的な設計条件を設定し、なぜ狭小スペースで通常の圧縮コイルばねが破綻しやすいのか、また他の要素をどう定量評価するかを計算プロセスに沿って検証します。
ガイド摺動部の摩擦抵抗や経年変化を見込んだ実務的な前提条件は以下の通りです。
・必要ワーク押付・リターン力(理論値):F_req = 50 N
・可動部質量:m = 2.0 kg(水平搬送リターンとし、ガイド摩擦係数 mu = 0.10 と仮定)
・ガイド摺動抵抗:F_f = m * g * mu = 2.0 * 9.81 * 0.10 = 約 2.0 N
・ばねのへたりや摩擦変動を見込んだ安全率:S_f = 1.3
・取付時に最低限必要な初期荷重(初張力):
F1 = (F_req + F_f) * S_f = (50 + 2.0) * 1.3 = 67.6 N(設計目標:F1 = 70 N)
・必要作動ストローク:S_work = 40 mm
・目標ストローク余裕代:部品バラツキや微調整を見込み、約 5 mm の余裕代を確保
※摺動部の材質別の摩擦係数や安全率の設定目安については、【材料別】摩擦係数の一覧|機械設計に役立つ基本と知識および機械設計で利用する安全率の目安一覧もあわせて参考にしてください。
① 圧縮コイルばねの評価(なぜ狭小スペースで破綻するのか)
圧縮コイルばねは、自由長から密着までの全有効たわみ量のうち「20%〜80%の範囲内(最大でも密着たわみの80%以下)」で使用するのが設計上のセオリーです。
80%を超えると素線同士が接触してばね定数が急上昇し、早期折損や底付き(密着ロック)を招きます。
- 必要ばね定数 k と初期たわみ x1 の算出
初期たわみ x1 で F1 = 70 N を発生させ、そこから S_work = 40 mm ストロークさせた位置(最大たわみ x2 = x1 + 40 mm)での荷重変動を2倍以内(最大荷重 F2 = 140 N 以下)に抑えたいとします。
k = (F2 - F1) / S_work = (140 - 70) / 40 = 1.75 N/mm
x1 = F1 / k = 70 / 1.75 = 40 mm
最大使用たわみ x2 = x1 + S_work = 40 + 40 = 80 mm - 必要最大許容たわみと自由長 H0 の逆算
x2(80 mm)が密着たわみ x_s の 75%(余裕代5%込み)になるよう設定すると、
必要密着たわみ x_s = 80 / 0.75 = 106.7 mm となります。
一般的な丸線コイルばね(中心径 D = 20 mm、線径 d = 3.0 mm、有効巻数 Na = 12巻、両端研削あり総巻数 Nt = 14巻と仮定)の場合、
密着高さ Hs = Nt * d = 14 * 3.0 = 42.0 mm
必要な自由長 H0 = Hs + x_s = 42.0 + 106.7 = 約 150 mm
取付時のばね長さ H1 = H0 - x1 = 150 - 40 = 110 mm - 座屈(横倒れ)の検証
自由長比 H0 / D = 150 / 20 = 7.5 となり、座屈限界である「H0 / D > 4」を大きく超えるため、全長にわたる内径案内棒(ガイドシャフト)または外径案内筒が必須となります。
【判定】:わずか 40 mm のストロークを安定した荷重で得るために、取付状態で 110 mm 以上の空間が必要になります。
これを無理に自由長 70〜80 mm の短いばねで設計しようとすると、密着たわみ80%を超えて底付きするか、ばね定数 k が跳ね上がって終端荷重が 250 N〜300 N に達し、駆動アクチュエータの推力不足を引き起こします。
より詳細な圧縮ばねの設計手順については、【計算書付き】圧縮スプリングの基本設計及び選定の目安にて計算シート付きで解説しています。
② 皿ばね(直列積層)の評価
次に、極小スペースで高荷重を出せる皿ばねを直列に重ねて、40 mm のストロークを稼げるか検証します。
- 特性と1枚あたりの有効ストローク計算
外径 28 mm、内径 14.2 mm、板厚 t = 1.0 mm、内部高さ h0 = 1.3 mm(形状比 h0 / t = 1.3:フラット特性に近い領域)の皿ばねを想定します。
皿ばねの最大許容たわみは「全たわみ h0 の 75%以下」に制限する必要があります。
初期15%予圧〜最大75%まで使用する場合、1枚あたりの有効ストローク s_1 は以下の通りです。
s_1 = 1.3 * 0.60 = 0.78 mm / 枚 - 40 mm ストロークに必要な直列枚数 m の算出
m = 40 mm / 0.78 mm = 51.3 ➔ 52枚(直列重ね)
自由高さ H0 = 52 * (1.0 + 1.3) = 119.6 mm
【判定】:50枚を超える皿ばねの直列重ねは、ガイド軸との摩擦抵抗増大や座屈・噛み込みリスクが極めて高くなるため、40 mm クラスの中〜長ストローク用途には不向きです。
皿ばねは、ストローク数ミリ以下の高荷重クランプや微調整反力受けに限定して採用するのが有効なアプローチです。
③ 定荷重ばねの評価
続いて、定格荷重 F = 70 N(または 35 N × 2個並列配置)、板厚 t = 0.3 mm、自然内径 D_n = 26 mm のステンレス製定荷重ばねを選定した場合を計算します。
- 回転ドラム外径 D_d の設定
ドラム外径は、自然内径の 1.15〜1.2倍に設定するのが長寿命化のセオリーです。
D_d = 26 * 1.18 = 約 30.7 mm(今回は φ31 mm ドラムを採用) - 必要全長 L_total の算出
定荷重ばねは、初期の立ち上がり助走区間(約 1.2 * D_d = 約 37 mm)と、最大引き出し時にドラム周上に残す「巻き残し(最低 1.5〜2巻)」が必須です。
2巻分の巻き残し長さ L_dead = 2 * 3.14 * 31 = 約 195 mm
必要帯鋼全長 L_total = 助走 37 + 作動 40 + 余裕代 5 + 巻き残し 195 = 277 mm
【判定】:ドラム径 φ35 mm 程度のハウジング空間と、ストローク 40 mm + 助走 37 mm の引き出し空間だけで、最初から最後まで「70 N 一定」の荷重が得られます。
ただし、寿命サイクルが 10,000〜30,000回程度に制限されるため、高頻度自動機では定期交換前提のメンテナンス設計とするか、薄板の並列(ラミネート)構成で応力を下げる工夫が必要です。
④ ガススプリングの評価
最後に、初期反力 F1 = 70 N、ストローク 50 mm(作動 40 mm + 両端余裕代合計 10 mm)の小型ガススプリングを選定した場合を見積もります。
- 設置寸法と終端荷重 F2 の算出
ストローク 50 mm クラスの小型品でも、シリンダ本体長は約 130 mm、取付全長は約 180 mm となります。
ガス圧縮に伴う終端荷重 F2(反力上昇比 1.2 と仮定)は以下の通りです。
F2 = F1 * 1.2 = 70 * 1.2 = 84 N
【判定】:荷重変化は 70 N ➔ 84 N と非常にフラットで優秀ですが、本体長がストロークの3倍以上必要になる点と、連続高速摺動によるガス抜け寿命の観点から、高タクトの自動搬送リターンには推奨されません。
扉やカバー開閉用途での具体的な選定計算については、ガススプリングの選定・計算・扉での使用例で詳しく解説しています。
現場で起こりがちな4大トラブルシナリオと推奨される設計対策
ばね機構を装置に組み込む際、カタログの荷重計算だけでは防げない「現場特有のトラブル」が4つ存在します。
ここからは、実機立ち上げ時によく発生する不具合の物理メカニズムと、それを未然に防ぐための「引き算と逃がしの設計対策」を深掘りします。
シナリオ1:圧縮コイルばね・皿ばねの「ガイド噛み込み」と「過拘束によるかじり」
【現場で起きる現象】
長尺の圧縮コイルばねや直列重ねの皿ばねを、座屈防止のために「内径ガイドピン(案内棒)」に通して設計したところ、実機稼働の数時間後にばねがガイドピンに強く引っかかり、リターン途中で停止する(スティックスリップ・噛み込みロック)トラブルが多発します。
💡 用語メモ:「スティックスリップ」とは?(今回の設計における意味を開く)
【基本の意味】摺動面において「引っかかり(静止摩擦)」と「滑り(動摩擦)」が交互に繰り返され、カクカクと断続的に動く現象です。
【今回のケースでは】圧縮で変形したばね内径がガイドピンに強くこじり、リターン推力と摩擦力が拮抗して搬送途中のハンチングや途中停止(噛み込みロック)を引き起こします。
【原因と物理メカニズム】
1つ目の原因は、圧縮に伴う内外径寸法の変化です。
圧縮コイルばねは縮むと「外径が膨張」し、逆にねじり成分が拘束されると内径側が偏心します。
一方、皿ばねは圧縮されると「内径が縮小し、外径が拡大する」という幾何学的変形を起こします。
この変形量を見込まずに、ガイドピンやガイド穴を隙間なく(はめあい公差のH7/g6のような精密嵌合感覚で)設計すると、ストローク終端で物理的に噛み込みます。
2つ目の原因は、端面非研削による横力(偏心モーメント)の発生です。
コストダウンのために圧縮コイルばねの端末を「研削なし(クローズドエンドのみ)」にすると、座面の当たりが1点に偏り、圧縮するたびにばねが斜めに倒れようとする横荷重(サイドフォース)が発生します。
この横力がガイドピンを強くこじり、摩耗粉の発生とかじりを誘発します。
・ばねの公称内径とほぼ同寸のガイドピンを通し、さらに外側にもタイトなスリーブ(筒)を被せて内外両方をガイドしようとする(過拘束)。
・軟らかい生材(S45C生材やSUS304丸棒)のガイドピンに、高硬度なばね(HRC45〜52相当)を直接摺動させる。
⭕ 推奨される設計方法(引き算と逃がしの設計)
・ガイドは「内径」か「外径」のどちらか一方のみに限定する:
両方拘束すると加工公差と変形によって高確率で詰まります。内径案内とする場合は、ばね内径に対して「線径や直径の 1〜2% 以上(コイルばねなら片側 0.5〜1.5 mm 程度)」の十分な逃げクリアランスを確保します。
・自動機用途では「両端面研削あり」を標準指定する:
座面の3/4周以上が研削されたばねを選定し、荷重の作用線を中心軸に一致させて横力の発生源を断ちます。
・異種材料または同等以上の表面硬度を確保する:
ガイドピンには焼入れ研磨材(SUJ2焼入やSKD11焼入等)を用いるか、軽荷重であれば自己潤滑性のある樹脂(POM等)のガイドカラーを介在させて、金属同士の凝着(かじり)を防ぎます。
💡 用語メモ:「過拘束(過剰拘束)」とは?(今回の設計における意味を開く)
【基本の意味】1つの可動部品に対して複数のガイドや位置決めを重複して設け、部品の変形や公差の逃げ場を奪ってしまう設計状態です。
【今回のケースでは】ばねの「内径ピン」と「外径スリーブ」を同時にタイトに設けることで、圧縮時の径変化や傾きが逃げられず、激しい摩擦やかじりロックを招きます。
シナリオ2:公差累積による「密着ロック(底付き)」と「皿ばねのエッジ破断」
【現場で起きる現象】
CAD上では「密着高さまであと 3 mm 余裕がある」として出図したにもかかわらず、現場で組み立ててエアシリンダを前進させた瞬間、ばねが完全に密着(底付き)してメカが目標位置まで届かず、センサーがONしない(空打ち・タイムアウトエラー)、あるいは皿ばねが数千ショットで内径側からパキッと割れるトラブルです。
【原因と物理メカニズム】
1つ目は、有効巻数 Na と総巻数 Nt の混同ミスです。
圧縮コイルばねの密着高さ Hs を計算する際、誤って「有効巻数 Na × 線径 d」で計算してしまうケースが少なくありません。
実際には両端の座巻(約 1.5〜2巻分)が存在するため、実物の密着高さは計算より数ミリ高くなり、さらに素線径の公差や圧縮時の素線変形が累積します。
2つ目は、皿ばねの 75% たわみ超過による応力急増です。
皿ばねをフラット(100%密着)になるまで押し潰すと、上下の端面エッジが強く干渉して「てこの支点」が移動し、内径下面の引張応力(III点応力)が計算値の数倍に跳ね上がります。
・ばね自体をストロークエンドのストッパー代わりに使い、密着付近(たわみ率 85〜100%)まで押し切る設計にする。
・目標ストロークに対してジャストの寸法でブラケットを固定し、現場での初期荷重(予圧)の調整代を設けない。
⭕ 推奨される設計方法(メカストッパーと調整シロの確保)
・物理的な外部ハードストッパーを必ず設ける:
圧縮コイルばねは全有効たわみの 80% 以下、皿ばねは全たわみ h0 の 75% 以下に達した時点で、必ず別の金属ストッパーブロック(またはシリンダ外部ストッパー)が先に当接し、それ以上ばねが潰れないフェールセーフ構造を組み込みます。
・約 5 mm の押し付け調整余裕代(長穴・ねじ調整)を仕込む:
ばねの荷重公差(一般的に ±10% 程度)や周辺部品の加工バラツキを吸収できるよう、ばね受けブラケットの取付穴をストローク方向に「約 5 mm(±2.5 mm 等)の長穴」にするか、アジャストボルト+ロックナット構造にして、現場で初期たわみ量(初張力)を微調整できる逃げ道を作っておきます。
部品の公差累積を防ぐための基本的な考え方については、公差設計の基本と考え方もあわせて確認しておくと安心です。
シナリオ3:定荷重ばねの「巻き残し不足による根元破断」と「取付穴クラック」
【現場で起きる現象】
スペースを詰めようとしてギリギリの長さの定荷重ばねを選定したところ、最大ストロークまで引き出した瞬間にドラムからばねが外れて暴発するか、数週間の稼働で引き出し端のボルト取付穴から亀裂(クラック)が入って破断し、搬送ユニットが暴走・落下する重大トラブルです。
【原因と物理メカニズム】
1つ目は、デッドストローク(巻き残し)の欠如です。
定荷重ばねは、ドラム周上に巻き付いている部分の摩擦と曲率保持によって成り立っています。
最後まで引き出し切ってしまうと、ドラム固定端(根元)に強烈な引き剥がし応力が直撃します。
2つ目は、薄板の面外ねじれと点締結の応力集中です。
定荷重ばねは 0.2〜0.5 mm 程度の極薄の焼入れリボン鋼(SUS301等のバネ用ステンレス)で作られています。
引き出し方向がわずかでも斜めに傾いたり(横荷重)、先端の丸穴1箇所をボルトの頭だけで直接締め付けたりすると、穴エッジに応力が集中して容易に疲労破壊します。
・必要ストローク 100 mm に対して、全長 120 mm 程度の定荷重ばねを選定する(巻き残しが 1巻未満になる)。
・引き出し先端をM4やM5のキャップボルト1本と小径ワッシャーだけで直接リジッドに締め付ける。
⭕ 推奨される設計方法(巻き残し管理と面圧クランプ)
・最大引き出し時でも「最低 1.5〜2巻以上」の巻き残しを確保する:
全ストローク + 余裕代を引き出した最長状態において、スプール(ドラム)の上に必ず 1.5〜2巻以上の帯鋼が残る全長を逆算して選定します。
・引き出し端は「当て板(プレッシャープレート)挟み込み」+「ガイド拘束」とする:
先端の取付部はボルトの点接触を避け、幅広の当て板(糸面取り加工済みのプレート)でばね端面をサンドイッチして「面圧」で保持します。また、可動側はリニアガイド等で直進性を担保し、ばねに横振れやねじりモーメントがかからない配置を徹底します。
シナリオ4:ガススプリングの「ロッド横荷重による早期ガス抜け」と「落下事故」
【現場で起きる現象】
カバーの開閉アシストや昇降リターンにガススプリングを採用したところ、わずか数ヶ月で内部のガスが抜けて反力を失い、重量のあるユニットやカバーが急激に自由落下して作業者が手を挟まれそうになるトラブルです。
【原因と物理メカニズム】
1つ目は、両端リジッド固定によるサイドロード(こじり)です。
ガススプリングの取付ブラケットを両端とも隙間なく固定したり、リンク運動に伴う角度変化に対して直角度が出ていなかったりすると、ピストンロッドに曲げモーメント(横荷重)が作用します。
これにより内部のロッドシールが片減り(偏摩耗)し、封入された高圧窒素ガスと潤滑オイルが短期間で漏洩します。
2つ目は、ロッド上向き配置によるシールドライアウトです。
全閉(格納)状態でロッドが上、シリンダチューブが下を向く配置にすると、内部の封入オイルが重力で底に溜まり、上部のロッドシールが乾燥(ドライアウト)してガス漏れが加速します。
・ロッドを上向きに配置し、両端を剛体ブラケットにボルトでリジッド締結する。
・「ガススプリングが支えているから大丈夫」と過信し、メンテナンス時にカバーを開けた状態で保持する物理的なロック機構を省く。
⭕ 推奨される設計方法(純軸力伝達とメカニカル・フェールセーフ)
・「ロッド下向き配置」+「両端ボールジョイント(球面軸受)支持」とする:
格納時に必ずロッドが下を向く姿勢でレイアウトし、常にオイルでシールを潤滑させます。また、両端の連結部には球面軸受(ピロボール)やガタを持たせたクレビスピンを採用し、組立誤差やリンクの傾きを逃がして「純粋な軸力のみ」が伝わる構造にします。
・ガス抜けを前提とした「物理的ロック(ステー)」を併設する:
ガススプリングは「いつか必ずガスが抜ける消耗品」として扱います。作業者が手や頭を入れる開口部や昇降部では、ガス圧保持だけに頼らず、全開位置で機械的に引っかかる「メカニカルロックピン」や「落下防止ステー」をハードウェアとして必ず組み込み、安全側の設計(フェールセーフ)を担保します。
まとめ:実務設計に向けたワンポイントアドバイス
ばね要素の選定では、机上の計算値通りに荷重が出ないこと(ばね定数の製造公差 ±10% や、並列重ね時の板間摩擦ヒステリシスなど)が日常茶飯事です。
特に搬送リターン機構では、ばねが戻り切る直前のストローク終端で推力が弱まり、原点検知センサーのドグが入りきらない(チャタリングを起こす)トラブルがよく発生します。
💡 用語メモ:「チャタリング」とは?(今回の設計における意味を開く)
【基本の意味】機械的な微振動や接点のバタつきにより、センサーやスイッチが極めて短い周期でON/OFFを繰り返す現象です。
【今回のケースでは】リターン終端でばねの押付力が不足してメカがストッパーに押し切れず、ドグがセンサーの検出境界ギリギリで揺れて制御エラー(原点復帰不良)を引き起こします。
これを防ぐためには、センサーの検出位置をメカストッパーの「1〜2 mm 手前」で確実にONするよう配置しつつ、リターン完了のシーケンスタイマーには 0.1〜0.2秒程度のセンシング余裕時間を見込んでおくと、現場での立ち上げが非常にスムーズになります。
最後に、ばねの摺動摩擦やサージング(共振)、疲労寿命は使用環境や速度に大きく左右されるため、重要な機構では必ず実機(プロトタイプ)での検証を行ってください。