ここでは 機械を設計していく中で、多くの人が悩むであろう 「選ぶべきモーターの種類」 が分かるメモをしています。
機械設計において、モーターの選定は装置の性能を決定づける重要なプロセスです。 しかし、モーターには多種多様な種類があり、それぞれの特性を理解した上で最適なものを選ぶのは容易ではありません。 特に、サーボとステッピングの使い分けや、用途別の事例に基づいた選び方など、具体的な選定方法に関する情報は機械設計の現場で常に求められています。
この記事では、モーターの種類や選び方で悩む機械設計者の方々へ向けて、基本的な知識から具体的な選定プロセス、そして多様な用途別事例までを網羅的に解説します。 まとめ記事なので長い記事となりますが、この記事を読んで、自信を持ってモーター選定が出来ることを目標 としています。
モーター選定の基本となる種類の選び方
AC/DCとサーボ・ステッピングの根本的な違い
モーターを選定する際、多くの設計者が「ACモーターかDCモーターか」「ステッピングモーターかサーボモーターか」という分類に直面します。 ここで大切なのは、これらの分類が異なる評価軸に基づいている点を理解すること です。
まず、「ACモーター」と「DCモーター」という分類は、モーターを動かすための「動力源の種類」に基づいています。 ACモーターはコンセントなどから供給される交流電源で動作し、DCモーターはバッテリーなどの直流電源で動作します。 これは、モーターの物理的な構造や電気的な特性に直結する、最も基本的な分類です。
一方、「ステッピングモーター」と「サーボモーター」という分類は、主に「制御方法や用途」に基づいています。 ステッピングモーターはパルス信号によって決められた角度ずつ回転し、比較的シンプルなオープンループ制御で正確な位置決めを行います。対してサーボモーターは、エンコーダからのフィードバックを利用するクローズドループ制御によって、高速かつ高精度な位置・速度制御を実現するシステムの総称です。
これらの分類は互いに独立したものではなく、組み合わさって存在します。 例えば、現在主流のサーボモーターは「AC電源で駆動するサーボモーター(ACサーボモーター)」です。 このように、設計者はまず「装置に連続回転が求められるのか、精密な位置決めが必要なのか」という用途の視点からモーターの制御方式を考え、次に「利用可能な電源は何か」という動力源の視点を考慮することで、選択肢を効果的に絞り込めます。
交流電源で動くACモーターの仕組み
ACモーターは、家庭や工場のコンセントから供給される交流(AC)電源で動作するモーターの総称 です。 この「商用電源」は、電力会社から供給される電力 であり、設計する機械がどこで使用されるかによって、その仕様は大きく異なります。
商用電源の概要
日本国内の商用電源は、主に以下の種類に分けられます。
- 単相100V:一般家庭で最も広く使われている電源です。
- 単相200V:エアコンやIHクッキングヒーターなど、より大きな電力を必要とする家庭用機器で利用されます。
- 三相200V:工場の生産設備など、大きな動力を必要とする産業用機器の標準的な電源です。
したがって、設計する機械の電源がACモーターの駆動電源に該当するかを判断するには、まずその機械が設置される環境(一般家庭、オフィス、工場など)でどの種類の電源が利用可能かを確認することが最初のステップになります。 ACモーターのメリットは、この商用電源に直接、あるいは簡単な周辺機器を介して接続するだけで使える手軽さと、構造がシンプルで耐久性が高い点にあります。 ただし、海外向けの製品を設計する場合は、国や地域によって電圧や周波数が異なるため、さらに注意深い確認が必要 です。
ACモーターのトルク特性
ACモーター、特にインダクションモーターのトルクは、定格回転数付近で安定しているのが特徴 です。 起動時にはある程度のトルク(起動トルク)を発生し、回転数が上がるにつれてトルクは一度上昇し、最大トルクに達した後、定格回転数に向かって少し落ち着きます。 モーターの極数によって特性が異なり、一般的に2極のような極数が少ないモーターは高速・低トルク型、6極のような極数が多いモーターは低速・高トルク型となります。
ACモーターの耐環境性
ACモーターは、ブラシのような摩耗部品がなく、構造が堅牢であるため、一般的に耐環境性に優れています。 特にインダクションモーターは、工場などの粉塵が多い環境や、ある程度の温度変化がある場所でも安定して動作します。 さらに、防水・防塵性能を高めた保護等級(IP規格)の高いモデルも多く、例えばIP65仕様のモーターであれば、粉塵の侵入を防ぎ、あらゆる方向からの水の噴流にも耐えることができるため、水がかかる可能性のある屋外の装置や食品機械の洗浄工程などでも使用されます。
ACモーターの代表的なメーカーと製品
ACモーターを選定する際には、実績のあるメーカーの製品を検討することが一般的です。
- オリエンタルモーター株式会社:小型ACモーターの分野で高いシェアを誇ります。コンベアなどの連続運転に最適な「KⅡSシリーズ」は、多くのFA装置で採用されています。
- 住友重機械工業株式会社:産業用の大型ギヤモータで豊富な実績を持ちます。高効率・低騒音を特徴とする「ハイポニック減速機®」や、使いやすさを追求した「プレスト®NEOギヤモータ」などをラインアップしています。
直流電源で動くDCモーターの仕組み
DCモーターは、バッテリーなどの直流(DC)電源で動作するモーターです。 印加する電圧を変えることで回転速度を容易に制御できるため、速度調整が必要な機器やポータブル機器で広く採用 されています。
DC電源の確保
設計する機械の電源をDC電源にする必要があるかを判断する際、必ずしもバッテリー駆動が前提となるわけではありません。実際には、AC電源が利用できる環境でも、DCモーターが選れるケースは非常に多いです。その場合、以下のような方法でAC電源からDC電源を得るのが一般的です。
- ACアダプタの使用:家庭用のAC100Vコンセントから、電子機器で使われるDC12VやDC24Vといった低電圧の直流を得る最も手軽な方法です。
- スイッチング電源の内蔵:産業機器の制御盤内などで、AC200Vから安定した直流電源を生成するために広く用いられる装置です。
このように、AC電源環境下であっても、速度制御の容易さ、応答性の高さ、あるいはモーター自体の小型化といったメリットを求めて、AC/DCコンバータを介してDCモーターシステムを構築することは、機械設計における標準的なアプローチの一つとなっています。
DCモーターのトルク特性
DCモーターのトルク特性は、ブラシの有無で大きく異なります。 ブラシ付きDCモーターは、起動時や低速回転時に最も高いトルクを発生させ、回転数が上がるにつれてトルクが直線的に低下していく傾向 があります。 一方、ブラシレスDCモーターは、電子制御によって低速から高速まで、非常に広い回転数範囲で安定したフラットなトルクを発生させることができます。
DCモーターの耐環境性
ブラシ付きDCモーターは、ブラシと整流子が直接接触して摩耗するため、粉塵や湿気に弱いという弱点があります。 これらの異物が侵入すると、摩耗が加速したり、導通不良を起こしたりする可能性があるため、過酷な環境での使用には保護ケースなどの対策が不可欠です。 対してブラシレスDCモーターは、機械的な接触部分がないため、モーター内部を密閉構造にしやすく、高い防塵・防水性能(IP67など)を持たせることが可能です。 このため、屋外で使用されるドローンや、洗浄が必要な医療・食品分野の機器にも適しています。
この ACモーターとDCモーターの細かい違い も理解するとモーター種類の選定で間違いが減ると思います。
産業界の主力インダクションモーター
インダクションモーターは、ACモーターの中でも特に広く使われている種類 で、そのシンプルさと堅牢さから「産業界の主力」とも呼ばれています。 この「インダクション(Induction)」とは「誘導」を意味し、モーターが回転する原理そのものを示しています。
インダクションモーターの回転原理は、物理現象である「アラゴの円盤」で説明できます。 これは、磁石をアルミや銅の円盤の上で回転させると、円盤が磁石に引きずられるように後を追って回転するという現象です。
これをモーターに置き換えると、以下のようになります。
- 固定子(ステーター)のコイルに交流電流を流すと、回転する磁界が発生します(これが回転する磁石の役割を果たします)。
- この回転磁界が、回転子(ローター)である導体(かご型のアルミ導体)を貫きます。
- すると、電磁誘導の法則(フレミングの右手の法則)により、ローターに「誘導電流」が流れます。
- 電流が流れたローターは、磁界の中で力を受け(フレミングの左手の法則)、ステーターの回転磁界を追いかけるように回転を始めます。
このように、物理的な接触なしに、電磁気の「誘導」作用によって力を伝達して回転するのがインダクションモーターの最大の特徴です。この原理により、ブラシのような消耗部品が不要となり、高い信頼性とメンテナンス性を実現しています。
高効率なブラシレスDCモーターの利点
ブラシレスDCモーターは、近年のモーター技術の進化を象徴する存在であり、多くの機器で従来のブラシ付きDCモーターからの置き換えが進んでいます。 その利点は多岐にわたります。
最大の利点は、長寿命でメンテナンスフリー であることです。 物理的に摩耗するブラシがないため、定期的な部品交換の必要がなく、機器の信頼性を大幅に向上させます。また、ブラシの接触による火花や電気的ノイズが発生しないため、精密機器やクリーンな環境での使用にも適しています。
さらに、エネルギー効率が非常に高い点も大きなメリットです。 ブラシの摩擦によるエネルギー損失がないため、同じ出力でも消費電力が少なく、特にバッテリーで駆動するコードレス機器やドローンの航続時間延長、あるいは家電製品の省エネ性能向上に大きく貢献します。 このように、ブラシレスDCモーターは、性能、信頼性、効率の全ての面で優れた特性を持つ、現代の機械設計に不可欠な選択肢となっています。
代表的なメーカーと製品
ブラシレスDCモーターは、小型精密機器から大型産業機器まで、幅広い分野のメーカーが手掛けています。
- 日本電産株式会社(Nidec):HDD用スピンドルモーターで世界トップシェアを誇り、その技術を応用した小型・精密ブラシレスDCモーターを多岐にわたる製品群で展開しています。
- ミネベアミツミ株式会社:小型・薄型から高出力タイプまで、豊富なブラシレスDCモーターのラインアップを持ち、特にデジタルAV機器やPC周辺機器、車載電装品などで多くの採用実績があります。
機械設計におけるモーター選定と種類の考え方
基本性能のトルクと回転速度を理解する
モーターを選定する上で、最も基本となる性能指標が トルクと回転速度 です。 この2つのパラメータを正しく理解することが、適切なモーター選定の第一歩となります。
トルクとは、モーターが軸を回転させようとする力のことで、単位はニュートンメートル (Nm) で表されます。 設計においては、モーターが連続して出し続けられる「定格トルク」と、起動時や急加速時に瞬間的に出せる「最大トルク」を区別することが大切 です。 装置を動かすためには、摩擦や重力といった負荷に打ち勝つだけのトルクが必要になります。
一方、回転速度は1分間あたりの回転数を示し、単位は rpm (revolutions per minute) です。 多くのモーターでは、トルクと回転速度は反比例の関係にあり、高速で回転させようとすると大きなトルクは出しにくくなる傾向があります。 したがって、設計する機械が必要とする動作速度で、必要なトルクを供給できるモーターを選ぶことが鍵となります。
応答性に関わるイナーシャの概念
イナーシャ は、日本語で「慣性モーメント」とも呼ばれ、物体の回転しにくさ、あるいは回転の状態を維持しようとする性質の大きさを表す指標です。 特に、急な加速・減速や精密な位置決めが求められる動的なシステムにおいて、イナーシャの考慮は極めて重要 です。
モーターを選定する際には、モーター自身のローターが持つイナーシャと、モーターが駆動する負荷(機械全体)のイナーシャの両方を考慮しなくてはなりません。この2つのイナーシャの比率を 「イナーシャ比」 と呼びます。
このイナーシャ比が大きすぎると、モーターが負荷を意図通りに制御できなくなり、振動が発生したり、位置決めにかかる時間が長くなったりといった問題を引き起こします。 これは、重すぎるハンマーを振ろうとしても、ハンマーに振り回されてしまって狙った場所を正確に叩けないのと同じ原理です。特に高応答性が求められるサーボモーターの選定では、このイナーシャ比をメーカーの推奨値(一般的に10倍以下)に収めることが、安定した制御を実現するための絶対条件となります。
正確な負荷計算と選定プロセス
モーターの選定は、勘や経験だけに頼るのではなく、体系的なプロセスに沿って進めることが失敗を防ぐ鍵 です。 そのプロセスは、大きく分けて「要求仕様の明確化」「負荷の計算」「モーターの仮選定」「最終検証」の4つのステップで構成されます。
まず、装置がどのような動きをするのか(移動距離、速度、時間など)、何をどれだけ動かすのか(質量)、どのような環境で使われるのかといった要求仕様を具体的に定義します。
次に、その要求仕様を実現するために必要な力を計算します。これには、常に発生する摩擦力や重力に抗うための「負荷トルク」と、物体を加速させるために必要な「加速トルク」の計算が含まれます。特に加速トルクは、前述のイナーシャ(慣性モーメント)の大きさに比例するため、動的な装置ではこの計算が不可欠です。
これらの計算結果(必要な最大トルクと最高回転速度)を基に、メーカーのカタログを参照して候補となるモーターをいくつかリストアップします。最後に、イナーシャ比の確認や、連続運転時の発熱は問題ないかといった最終検証を行い、最適な1台を決定します。
モータードライバが果たす重要な役割
モーターは、単に電源に接続しただけでは意図した通りには動きません。 モーターの能力を最大限に引き出し、精密な制御を実現するためには、「モータードライバ」と呼ばれる電子回路が不可欠です。 モータードライバは、モーターの種類によって求められる機能が大きく異なるため、モーターとセットで選定することが極めて大切 です。
ブラシ付きDCモーター用ドライバ
ブラシ付きDCモーターを駆動するドライバは、比較的シンプルです。主な役割は、モーターに印加する電圧を調整して速度を制御することです。 これは一般的にPWM(パルス幅変調)制御によって行われます。 また、Hブリッジ回路を用いて電流の向きを切り替えることで、正転・逆転を実現します。
ブラシレスDCモーター用ドライバ
ブラシレスDCモーターにとって、ドライバは単なる制御装置ではなく、回転するために必須の構成要素です。 ブラシと整流子の役割を電子回路で代替しており、ホールセンサーなどから得られるローターの位置情報に基づいて、3相のコイルに流す電流を適切なタイミングで切り替える「電子整流」という機能が中心となります。 この機能がなければ、ブラシレスDCモーターは回転することすらできません。
ステッピングモーター用ドライバ
ステッピングモーター用のドライバは、上位コントローラからのパルス信号を解釈し、モーターのコイルを決められた順序でON/OFF(励磁)するためのシーケンスを生成します。 さらに、コイルに流す電流を段階的に変化させる「マイクロステップ駆動」機能を持つものが主流で、これによりモーターの基本的なステップ角よりも細かく回転させ、振動を抑え、より滑らかな動作を実現します。
ACサーボモーター用ドライバ(サーボアンプ)
サーボモーターシステムにおけるドライバは「サーボアンプ」と呼ばれ、最も高機能で複雑です。 その中核機能は、エンコーダから送られてくる毎秒数万~数百万パルスもの高速なフィードバック信号をリアルタイムで処理し、指令値との微細な誤差を計算し、その誤差をゼロにするためにモーターへの出力を瞬時に補正し続けることです。 この高度な演算(PID制御など)に加え、機械の特性に合わせて制御の応答性を最適化するゲイン調整(チューニング)機能も備えています。
高精度なモーター選定、サーボとステッピングの種類の使い分け
パルスで動くステッピングモーター
ステッピングモーターは、入力された電気信号(パルス)の数に比例して、一定の角度(ステップ)ずつカクカクと回転するモーターです。 このデジタル的な動作原理から「パルスモーター」とも呼ばれます。
最大のメリットは、フィードバックセンサーなしで正確な位置決めができる点です。 コントローラが送ったパルスの数を数えるだけで、モーターがどれだけ回転したかを把握できるため、システム構成を非常にシンプルかつ低コストにできます。 また、停止時にも電流を流しておくことで、その位置を保持するための強い力(保持トルク)を発生させられるのも特徴です。
一方で、デメリットも存在します。モーターの能力を超える大きな負荷がかかると、パルス通りに回転できずに位置がずれてしまう「脱調」という現象が起こる可能性があります。 3Dプリンターや分析機器など、負荷が比較的一定で、極端な高速性が求められない位置決め用途で広く活躍しています。
ステッピングモーターのトルク特性
ステッピングモーターの最も顕著な特性は、低速回転域で非常に高いトルクを発揮することです。特に停止時には、通電しているだけで位置を保持する「励磁最大静止トルク(ホールディングトルク)」を発生させます。しかし、回転速度が上がるにつれてトルクは急激に低下していくため、高速での運転には向いていません。この特性から、短い距離を素早く動いて止まる、といった断続的な位置決め動作を得意とします。
ステッピングモーターの耐環境性
ステッピングモーターはブラシレス構造であるため、ブラシの摩耗による粉塵の発生がなく、比較的クリーンな環境での使用に適しています。 モーター本体は堅牢な構造ですが、高精度な位置決めを行うためには、モーターの発熱管理が大切です。 長時間大きな電流を流し続けると温度が上昇し、性能に影響を与える可能性があります。 そのため、放熱板を取り付けたり、停止時に電流を自動的に下げるカレントダウン機能を利用したりします。 防水・防塵性が求められる場合は、保護等級の高い専用モデルを選定するか、モーターを保護カバーで覆うなどの対策が必要です。
代表的なメーカーと製品
ステッピングモーターは、FA分野を中心に多くのメーカーが製品を供給しています。
- シナノケンシ株式会社:コントローラ内蔵型やドライバ一体型など、使いやすさを追求したステッピングモーターを「Plexmotion」ブランドで展開しています。「CSA-UPシリーズ」は、コントローラとドライバ、モーターがセットになっており、手軽に位置決めシステムを構築できます。
- 山洋電気株式会社:高トルク・低騒音・低振動を特徴とする「SANMOTION」シリーズが主力製品です。特に2相ステッピングシステム「SANMOTION F2」は、半導体製造装置や医療機器など、高い信頼性が求められる分野で豊富な採用実績があります。
高応答性を誇るサーボモーター
サーボモーターは、単体のモーターを指す言葉ではなく、高応答性のモーター本体、その動きを監視するフィードバックセンサー(エンコーダ)、そして両者を制御する頭脳であるドライバー(サーボアンプ)の3つが一体となった「システム」です。
その最大の特徴は、エンコーダからのフィードバックを利用した「クローズドループ制御」にあります。 ドライバーは常に「指令された位置」と「エンコーダが示す現在位置」を比較し、もしズレ(誤差)があれば、その誤差をゼロにするようにモーターへの電力を瞬時に調整し続けます。
この仕組みにより、サーボモーターは極めて高速かつ高精度な位置決めを実現します。 また、予期せぬ負荷がかかっても、自動的にトルクを上げて指令通りの位置を維持しようとするため、負荷変動に非常に強いというメリットがあります。 産業用ロボットの関節や工作機械など、高速でダイナミックな動きが求められる高性能な装置に不可欠な存在です。
サーボモーターのトルク特性
サーボモーターのトルク特性は、ステッピングモーターとは対照的です。 低速域から定格回転速度、さらにはそれ以上の高速域に至るまで、非常に広い速度範囲にわたって安定した高いトルクを発生させることができます。 このフラットなトルク特性により、高速で長い距離を移動するような用途や、高速回転しながら大きな力を必要とする加工など、ダイナミックな動作が可能になります。
サーボモーターの耐環境性
サーボモーター本体は、ブラシレス構造が主流であり、高IP等級の製品も多く存在するため、モーター自体の耐環境性は高いと言えます。 しかし、サーボシステムとして見た場合、最も繊細な部品は位置を検出するエンコーダです。 エンコーダは光学部品や精密な電子回路で構成されているため、強い振動や衝撃、結露、油分の付着などに弱く、故障の原因となり得ます。 そのため、過酷な環境下で使用する場合は、耐環境性に優れたレゾルバ(磁気式センサー)を搭載したモデルを選定したり、モーター全体を適切に保護したりする配慮が求められます。
代表的なメーカーと製品
高性能なACサーボモーターは、FA分野のリーディングカンパニーが開発を競っています。
- 三菱電機株式会社:汎用ACサーボ「MELSERVO」シリーズは、業界標準として広く認知されています。最新の「MELSERVO-J5シリーズ」は、業界最高レベルの応答性と高分解能エンコーダを搭載し、装置の生産性向上に貢献します。
- 株式会社安川電機:世界に先駆けてオールデジタルサーボを製品化したメーカーであり、「Σ(シグマ)シリーズ」は高い信頼性で知られています。最新の「Σ-Xシリーズ」は、モーション性能の向上に加え、センシングデータを活用した予知保全機能などを搭載しています。
高精度な位置決めを実現する方法
高精度な位置決めを行いたい場合、ステッピングモーターとサーボモーターが主な選択肢となりますが、どちらを選ぶべきかは、装置に求められる仕様によって決まります。
まず考慮すべきは、コストとシステムの複雑性です。ステッピングモーターは、フィードバック機構が不要なオープンループ制御が基本であるため、サーボモーターに比べてシステム全体を安価かつシンプルに構築できます。 負荷の大きさが予測可能で、脱調のリスクが低い用途であれば、ステッピングモーターは非常にコストパフォーマンスの高い選択肢となります。
一方、サーボモーターを選ぶべきなのは、より高いレベルの性能が求められる場合です。例えば、高速・高頻度で加減速を繰り返す動作、動作中に負荷が大きく変動する可能性がある用途、あるいは脱調が絶対に許されないクリティカルな位置決めでは、クローズドループ制御による信頼性と応答性を持つサーボモーターが必須となります。
項目 | ステッピングモーターシステム | サーボモーターシステム |
制御方式 | オープンループ(基本) | クローズドループ |
フィードバック | 不要(基本) | 必須(エンコーダ) |
高速時トルク | 急激に低下 | 安定して高い |
負荷変動への応答 | 弱く、脱調の可能性あり | 強く、自動でトルクを調整 |
システムコスト | 低 | 高 |
理想的な用途 | 負荷が一定の位置決め、低速・高トルク動作 | 高速・高加減速、負荷が変動する動的な制御 |
オープンループとクローズドループ制御
モーターの制御方式は、大きく「オープンループ制御」と「クローズドループ制御」の2つに分類 されます。 この違いを理解することは、モーターの特性を把握する上で非常に大切です。
オープンループ制御は、日本語で「開ループ制御」とも呼ばれ、コントローラがモーターに対して一方的に指令を送るだけのシンプルな方式です。指令通りにモーターが動いたかどうかをフィードバックで確認しないため、システムは安価で単純になります。 ステッピングモーターがこの制御方式の代表例で、「100パルス送ったから、きっとその分だけ回転したはずだ」という前提で動作します。このため、予期せぬ負荷で脱調が起きても、コントローラはそれに気づくことができません。
対してクローズドループ制御は「閉ループ制御」とも呼ばれ、エンコーダなどのセンサーからのフィードバックを利用します。 コントローラは指令値とセンサーからの実測値を常に比較し、誤差があればそれを補正するように動作し続けます。サーボモーターがこの方式の典型で、常に「目標位置と現在位置のズレはどれくらいか」を監視しながら動作するため、高い精度と信頼性を実現できます。
位置情報を検出するエンコーダの役割
エンコーダは、サーボモーターシステムにおいて「目」の役割を果たす、極めて重要なセンサーです。 モーターの軸に取り付けられ、その回転角度や回転速度を検出し、電気信号としてドライバーにフィードバックします。この情報があるからこそ、クローズドループ制御が可能になります。
エンコーダには、主に 「インクリメンタル方式」と「アブソリュート方式」の2種類 があります。
インクリメンタルエンコーダは、モーターが回転した量をパルス信号として出力します。基準点からどれだけ動いたか、という相対的な位置情報を検出する方式です。構造がシンプルでコストが低い反面、一度電源を切ると現在の位置情報が失われてしまうため、起動時に必ず原点復帰動作が必要になります。
一方、アブソリュートエンコーダは、モーターの回転角度ごとに固有の信号を出力し、いつでも絶対的な位置を把握できます。電源を投入した瞬間に現在位置がわかるため、原点復帰が不要になるという大きなメリットがあります。ただし、構造が複雑になるため、インクリメンタル方式に比べて高価になる傾向があります。
このように、高精度な位置決めを行いたい場合でも サーボモーターとステッピングに違い を把握して選択する必要があります。
モーター用途別事例から学ぶ選定と種類のポイント
FAの主役、産業用ロボットのモーター
ファクトリーオートメーション(FA)の現場で活躍する産業用ロボットは、モーター技術の結晶とも言える機械です。 人間の腕のように複数の関節を持ち、それぞれが正確かつ高速に協調して動くことで、溶接や組み立てといった複雑な作業を実現しています。
このようなロボットの関節駆動には、ほぼ例外なく高性能なACサーボモーターが採用 されています。 その理由は、ロボットアームの姿勢によって各関節にかかる負荷が常に変動する中で、指令された軌道を寸分違わず、かつ素早くトレースする必要があるためです。 クローズドループ制御を持つサーボモーターは、負荷変動に強く、高い応答性で指令に追従する能力に長けており、この厳しい要求に応えることができます。ロボットの性能は、関節に使われるサーボモーターの性能によって決まると言っても過言ではありません。
精密加工を支える工作機械のモーター
マシニングセンタなどのCNC工作機械は、金属の塊から精密な部品を削り出す「マザーマシン(機械を作る機械)」です。 その心臓部では、役割の異なる2種類のモーターが活躍 しています。
一つは、加工対象物や工具をX・Y・Z軸方向に精密に移動させるための「軸駆動用モーター」です。 ここでは、サブミクロン単位での極めて高い位置決め精度が求められるため、ACサーボモーターが標準的に使用されます。加工中に発生する切削抵抗という大きな負荷変動に対しても、正確な位置を維持し続ける能力が不可欠です。
もう一つは、切削工具そのものを高速で回転させる「主軸(スピンドル)用モーター」です。こちらには、広い回転速度域で安定して高いトルクと出力を発生させることができる、専用設計のビルトインスピンドルモーター(ACモーターの一種)が用いられます。
物流を担う搬送装置のモーター
物流センターや工場の生産ラインで活躍する搬送装置では、その役割に応じて異なる種類のモーターが使い分けられています。
最も一般的なベルトコンベアのように、荷物を一定の速度で連続的に運び続ける装置には、構造がシンプルで堅牢、かつ低コストなACインダクションモーターが最適です。 複雑な制御は不要で、とにかく安定して動き続ける信頼性が重視されます。
一方で、製品の包装機やラベルを貼り付けるラベラーのように、フィルムを定寸で送ったり、ラベルを正確な位置に貼り付けたりといった、断続的で精密な位置決め動作が求められる装置もあります。 このような用途では、オープンループ制御で手軽に高精度な位置決めができるステッピングモーターが広く採用されています。
半導体製造装置で求められるモーター
半導体の製造プロセスは、極めて清浄なクリーンルーム内で行われ、装置には特殊な性能が要求されます。 特に、半導体の基板であるシリコンウェハを搬送するロボットや、回路パターンを焼き付ける露光装置のステージでは、特殊なモーターが活躍 します。
これらの装置では、モーター自身から発生するわずかな塵(パーティクル)や振動も許されません。 そのため、従来の減速機付きモーターで問題となるギヤの摩耗による発塵やバックラッシュ(機械的な遊び)をなくすため、モーターが直接アームやステージを駆動する「ダイレクトドライブ(DD)モーター」や「リニアモーター」が採用されます。
リニアモーターは、回転運動を直線運動に変換する機構を介さず、電磁力で直接的に直線運動を生み出すモーター です。 これにより、機械的な誤差要因を排除し、ナノメートルオーダーという究極の精度と高速性を両立させています。
EVやドローンなど次世代モビリティ
電気自動車(EV)やドローンといった次世代モビリティの性能は、搭載されるモーターの性能に大きく左右されます。
EVの駆動用モーターには、バッテリーの電力をいかに効率よく走行エネルギーに変換できるかが求められます。そのため、小型・軽量でありながら高効率・高出力を実現できる「永久磁石同期モーター(PMSM)」が多くの車種で採用されています。
一方、ドローンのプロペラを駆動するモーターには、軽量であることが絶対条件であり、かつ瞬時の姿勢制御に応答できる高い応答性が要求されます。このため、小型・軽量で高出力なブラシレスDCモーターがほぼ全ての機体で採用されています。高効率であることは、飛行時間の延長にも直結します。
命を支える医療機器のモーター
医療現場で使われる機器、特に人の命に直接関わる装置では、モーターに絶対的な信頼性と安全性が求められます。
例えば、医師が遠隔操作して手術を行う手術支援ロボットのアーム関節には、医師の繊細な操作を忠実に再現するため、極めて 制御性の高いDCサーボモーター(主にブラシレス)が使用 されます。低速でも滑らかに動き、意図しない振動を起こさない特性が、精密な手術を可能にしています。
また、人工心肺装置などで血液を循環させる血液ポンプには、長時間の連続運転が可能な高い耐久性を持つブラシレスDCモーターが採用されています。ブラシがないため摩耗による故障リスクが低く、安定した回転制御で患者の命を支えます。
モーター選定に必須の周辺機器と知識の補足
トルクを増幅させる減速機の活用
モーターを選定する際、単体では要求仕様を満たせない場合があります。 特に、高いトルクが必要な一方で、回転速度はそれほど必要ないというケースは少なくありません。このような場合に活躍するのが「減速機(ギヤヘッド)」です。
減速機は、歯車の組み合わせによってモーターの回転速度を落とし、その代わりにトルクを増幅させる装置です。 例えば、減速比が10:1の減速機を使えば、回転速度は1/10になりますが、トルクは約10倍になります。これにより、比較的小型で高速回転型のモーターを、低速・高トルクが求められる用途に適合させることが可能になります。
さらに、減速機にはもう一つ重要な役割があります。それは、モーター軸から見た負荷のイナーシャを、減速比の2乗分の1に低減させる効果です。 これは、サーボモーター選定で問題となるイナーシャ比を劇的に改善するための非常に強力な手段であり、安定した制御システムを構築する上で不可欠なコンポーネントと言えます。
DCとACを変換する役目の「インバータ」
インバータとは 、一言でいえば「電気の流れを自在に操る変換装置」のことです。具体的には、直流電力(DC)を交流電力(AC)に変換する役割を担います。 インバータを知ればモーター選定の幅も広がります。
トルクとモーター容量(kW)の把握
モーターを選定していく上で トルクとモーター容量の変換 をして計算を進めていく場合もあります。 これは複数のモーターメーカーから最適なモーターを選んでいく中で 類似を探したりする際に役立つ知識となります。
回転方向の把握
モーターには CW・CCWといった回転方向 が存在します。 この回転方向は設計途中で利用される用語であり、その認識を明確に持つことでコミュニケーションがスムーズに行えます。
最適なモーター選定と種類のまとめ
この記事では、機械設計におけるモーター選定と種類の考え方について、網羅的に解説してきました。最適なモーターを選定するためには、まずその全体像を理解することが大切です。
- モーターは動力源(AC/DC)と制御方法(サーボ/ステッピング)の軸で分類される
- ACモーターは商用電源で駆動し堅牢で、インダクションモーターが代表的
- DCモーターは速度制御が容易で、ブラシレスDCモーターが現代の主流
- 選定の基本はトルク、回転速度、イナーシャの3つの指標
- 正確な負荷計算に基づいた体系的な選定プロセスが失敗を防ぐ
- 高精度な位置決めにはステッピングモーターかサーボモーターを選ぶ
- ステッピングモーターはオープンループ制御でシンプルかつ低コスト
- サーボモーターはクローズドループ制御で高精度・高応答性を実現
- 両者の使い分けは要求性能とコストのバランスで決まる
- モーターの性能はモータードライバによって大きく左右される
- エンコーダはサーボシステムの精度を支える「目」の役割
- 減速機はトルクの増幅とイナーシャ比の改善に不可欠な部品
- FA、半導体、家電、自動車、医療など用途によって最適なモーターは異なる
- 各分野の事例から、なぜそのモーターが選ばれるのかを学ぶことが重要
- モーター選定は、機械全体の性能とコストを決定づける設計の核心である
以上です。