搬送装置などでヘリカルギヤ(はすば歯車)の軸系を設計する際、噛み合い計算で発生するスラスト荷重(アキシアル荷重)が予想以上に大きく、当初予定していた深溝玉軸受では定格寿命を満たせないケースが少なくありません。
そこでアンギュラ玉軸受や円すいころ軸受への変更を検討するものの、「軸の熱膨張による焼き付き」や「組立現場でのシム調整工数の増大」を考えると、どの軸受構成を選定すべきか迷うところです。
本記事では、ヘリカルギヤの噛み合い3分力と「転倒モーメント」を含めた軸受荷重の実務計算プロセスから、熱膨張の逃がしと組立工数の削減を両立する軸受配置のセオリーまでを具体的に解説します。
結論:熱膨張逃がしと工数削減を両立する「固定側+自由側」の非対称支持が推奨される
ヘリカルギヤの軸系では、歯すじにねじれ角があるため、伝達トルクに比例した大きなスラスト荷重と、歯車ピッチ円半径を腕の長さとする「転倒モーメント」が同時に発生します。
深溝玉軸受で寿命が不足する領域において、軸の両端にアンギュラ玉軸受や円すいころ軸受を離して配置(長スパン対向配置)すると、運転時の軸の熱膨張による「熱突っ張り(予圧の異常過大化)」と、現場でのシム現物合わせ工数の増大を招きます。
そのため実務では、片側の軸受箱でスラスト荷重とモーメントをすべて受け止め、反対側で軸の熱伸びを逃がす「固定側+自由側の分離構成(引き算と逃がしの設計)」が推奨されます。
| 設計項目 | ❌ やりがちなNG設計 | ⭕ 設計で推奨される方法(実務のセオリー) |
|---|---|---|
| 軸受の全体配置 (熱膨張対策) |
長い軸の両端にアンギュラ玉軸受や円すいころ軸受を1個ずつ分け、両端カバーで軸方向を完全拘束する(熱膨張で焼き付く)。 | 固定側(1箇所)に背面組合せ(DB)または複列軸受を集約して両方向スラストを受け、自由側は深溝玉軸受(外輪すきまばめ)等で熱伸びを逃がす。 |
| 中負荷・中速域の 軸受選定(工数削減) |
数kWクラスの一般的な搬送機で円すいころ軸受を選び、現場任せのシム調整やナット締め加減で予圧を作らせる。 | メーカーで隙間・予圧調整済みの「万能組合せアンギュラ玉軸受(DB)」または「複列アンギュラ玉軸受」を採用し、シム調整を省く。 |
| 重荷重・衝撃域の 軸受選定 |
大きな衝撃荷重がかかる低〜中速軸を点接触の玉軸受だけで無理に支えようとする。 | 固定側に線接触で負荷容量の大きい「円すいころ軸受2個の背面組合せ(DB配置)」を近接配置し、自由側を円筒ころ軸受等で逃がす。 |
| 組立図の指示方法 (誤組付け防止) |
組立図に軸受の四角い外形線と型番だけを記載し、接触角の向きを描き込まない(現場で逆組みロック事故が起きる)。 | 軸受断面に接触角の作用線(DBなら「ハの字/<>」の斜線)を明記し、外輪刻印(Vマーク)向きの確認を注記する。 |
参考となる市販品としては、軸受メーカーのNTNや日本精工(NSK)の「アンギュラ玉軸受(72/73シリーズDB組合せ、または52/53シリーズ複列)」や「円すいころ軸受(302/303シリーズ)」が挙げられます。
また、歯車には小原歯車工業(KHK)や協育歯車工業(KG)のヘリカルギヤなどが代表的です(※あくまで参考であり、最終的な型式選定は各社カタログ仕様に基づきご自身で行ってください)。
歯車噛み合い荷重(3分力)から軸受寿命までの実務計算プロセス
実際の数値は歯車の形状や潤滑環境等の要素に影響されるため、あくまで理論上の目安として計算しますが、設計の根拠を固めるために具体的なモデルケースを置いてステップごとに検証します。
なお、チェーンやベルト駆動における軸受への負荷計算については、ベアリング・軸受けへの負荷計算(チェーン・ベルトによる駆動)の記事もあわせて参考にしてください。
- 駆動条件:
伝達動力 P = 3.7 [kW]、軸回転数 n = 600 [rpm] - ヘリカルギヤ仕様:
ピッチ円直径 d = 120 [mm]、歯直角圧力角 a_n = 20 [deg]、ねじれ角 b = 25 [deg] - 軸受スパン配置:
軸受スパン L = 200 [mm](ギヤはスパン中央 L1 = 100 [mm]、L2 = 100 [mm] に配置) - 軸受仕様(軸径 φ40 [mm]):
固定側(軸受A)に「アンギュラ玉軸受 7208B(接触角40度)DB背面組合せ」、自由側(軸受B)に「深溝玉軸受 6208」を選定する場合
① 伝達トルク T と 歯車に作用する3分力の算出
まず、モーター出力と回転数から、軸に作用する伝達トルク T [N・m] を求めます。
動力からの基本的なトルク換算式については、モーターのkW(定格出力)からトルクの計算方法でも詳しく解説しています。
- 伝達トルク T の算出
T = (9550 * P) / n = (9550 * 3.7) / 600 = 58.89 [N・m]
次に、歯車のピッチ円上に作用する接線力(円周力) Ft [N]、半径方向力(ラジアル力) Fr_g [N]、軸方向力(スラスト力) Fa_g [N] を算出します。
ここでは三角関数の値を cos(25deg) = 0.9063、tan(25deg) = 0.4663、tan(20deg) = 0.3640 として計算します。
- 接線力(円周力) Ft
Ft = (2000 * T) / d = (2000 * 58.89) / 120 = 981.5 [N] - 正面圧力角 a_t の正接 tan(a_t)
tan(a_t) = tan(a_n) / cos(b) = 0.3640 / 0.9063 = 0.4016 - 半径方向力(ラジアル力) Fr_g
Fr_g = Ft * tan(a_t) = 981.5 * 0.4016 = 394.2 [N] - 軸方向力(スラスト力) Fa_g
Fa_g = Ft * tan(b) = 981.5 * 0.4663 = 457.7 [N]
② スラスト力による「転倒モーメント荷重」と軸受ラジアル反力の算出
ここが実務計算において見落としやすい重要なポイントです。
スラスト力 Fa_g(457.7 N)は、軸心から距離 d/2(60 mm)離れた歯面の噛み合い位置で発生するため、歯車を傾けようとする曲げモーメント(転倒モーメント) M_a が発生し、軸受のラジアル荷重を増大させます。
💡 用語メモ:「転倒モーメント」とは?(今回の設計における意味を開く)
【基本の意味】軸心から離れた位置に軸方向の力(スラスト力)が働くことで、部品や軸全体をこじって傾けようとする回転力のことです。
【今回のケースでは】ヘリカルギヤの歯面(半径60mmの位置)で発生する457.7Nのスラスト力が軸を傾ける偶力となり、両端の軸受に対して垂直方向の追加ラジアル荷重(±137.3N)として跳ね返ってきます。
- スラスト起因の転倒モーメント M_a
M_a = Fa_g * (d / 2) = 457.7 * 60 = 27,462 [N・mm] = 27.46 [N・m]
この転倒モーメントを含めて、軸受A(固定側)と軸受B(自由側)が受ける合成ラジアル荷重 Fr_A、Fr_B を求めます。
回転方向によって、片側の軸受では半径方向力 Fr_g の反力とモーメント反力 Fm が加算され、もう片方では減算されますが、逆転運転も考慮して安全側となる「加算側」で評価します。
- 水平方向(接線力 Ft 起因)の反力 Fh_A、Fh_B
Fh_A = Fh_B = Ft * (100 / 200) = 981.5 * 0.5 = 490.8 [N] - 転倒モーメントによる垂直方向の偶力反力 Fm
Fm = M_a / L = 27,462 / 200 = 137.3 [N] - 垂直方向(半径方向力 Fr_g + モーメント M_a 起因)の反力 Fv_A
Fv_A = (Fr_g * 0.5) + Fm = (394.2 * 0.5) + 137.3 = 197.1 + 137.3 = 334.4 [N] - 合成ラジアル荷重 Fr_A(理論値)
Fr_A = sqrt(Fh_A^2 + Fv_A^2) = sqrt(490.8^2 + 334.4^2) = 593.9 [N]
さらに実務では、歯車の噛み合い振動やコンベア始動時の衝撃を考慮し、歯車荷重係数 f_g = 1.5、衝撃係数 f_w = 1.3(合計係数 1.5 * 1.3 = 1.95倍)を見込みます。
なお、こうして求めた荷重に対して軸自体の曲げ・ねじり強度を検証する手順は、平歯車の軸径計算|伝達トルク・せん断応力から複合応力・たわみ剛性まで検証する実務手順を参照してください。
- 設計用ラジアル荷重 Fr:
593.9 * 1.95 = 1,158 [N] - 設計用スラスト荷重 Fa:
457.7 * 1.95 = 893 [N](※すべて固定側軸受Aで負担)
③ 軸受の評価(動等価荷重 P_r と 定格寿命 L_10h の算出・比較)
算出した設計用荷重(Fr = 1,158 N、Fa = 893 N)をもとに、なぜ単列の「深溝玉軸受(6208)」では厳しくなるのか、そして「アンギュラ玉軸受(7208B DB組合せ)」や「円すいころ軸受」に変えるとどう変化するのかを比較検証します。
1. 深溝玉軸受 6208 単体で受けた場合の評価
深溝玉軸受 6208 の基本動定格荷重は C_r = 29,100 [N]、基本静定格荷重は C_0r = 17,800 [N] です。
カタログの係数表に基づき、スラスト荷重の影響度を判定します。
- 判定係数 e の確認
Fa / C_0r = 893 / 17,800 = 0.050 → カタログ係数より判定係数 e = 約0.25 - 荷重比 Fa / Fr の判定
Fa / Fr = 893 / 1,158 = 0.771 > e(0.25)となるため、アキシアル荷重の影響が大きく作用し、重み係数 X = 0.56、Y = 約1.73 が適用されます。 - 動等価荷重 P_r の算出
P_r = (X * Fr) + (Y * Fa) = (0.56 * 1,158) + (1.73 * 893) = 648.5 + 1,544.9 = 2,193 [N]
このように深溝玉軸受では、スラスト荷重に対して約1.73倍もの重み係数(Y)が掛かるため、動等価荷重 P_r が大きく膨らみます。
もしギヤがさらに小径・大トルクでスラスト比率が高い場合や、両端を深溝玉軸受で固定して熱膨張による内部突っ張りスラスト力(数千N)が加算された場合、P_r は一気に跳ね上がり早期剥離に至ります。
2. アンギュラ玉軸受 7208B DB組合せ(接触角40度・固定側配置)の評価
次に、固定側にアンギュラ玉軸受 7208B の背面組合せ(DB)を採用した場合を計算します。
DB組合せ時の基本動定格荷重は C_r = 52,500 [N](単列32,500 N × 1.62倍)となり、接触角40度のため判定係数は e = 1.14 となります。
- 荷重比 Fa / Fr の判定
Fa / Fr = 893 / 1,158 = 0.771 ≦ e(1.14)となるため、組合せ係数 X = 1.0、Y = 0.55 で評価できます。 - 動等価荷重 P_r の算出
P_r = (X * Fr) + (Y * Fa) = (1.0 * 1,158) + (0.55 * 893) = 1,158 + 491.2 = 1,649 [N] - 計算寿命時間 L_10h の算出
L_10h = (10^6 / (60 * n)) * (C_r / P_r)^3 = (1,000,000 / 36,000) * (52,500 / 1,649)^3 = 27.78 * (31.84)^3 = 約 896,000 [時間]
スラスト係数 Y が 0.55 に抑えられるうえ、DB組合せによって基本動定格荷重 C_r も増大するため、24時間連続稼働の搬送装置でも十分な長寿命を確保できます。
3. 円すいころ軸受(30208 DB組合せ)との比較評価
円すいころ軸受は転動体が線接触するため C_r がさらに大きく、重荷重や強い衝撃が伴う用途には最も有利な選択肢です。
一方で、純粋なラジアル荷重 Fr しか作用していない瞬間でも、ころの接触角によって内部に「誘起アキシアル荷重(Fa_i = 0.5 * Fr / Y)」が常時発生します。
💡 用語メモ:「誘起アキシアル荷重」とは?(今回の設計における意味を開く)
【基本の意味】軌道面に角度がついた軸受(円すいころ軸受やアンギュラ玉軸受)にラジアル荷重をかけると、くさび効果によって軸受内部で自動的に発生する軸方向の分力のことです。
【今回のケースでは】外部からのスラスト荷重だけでなく、この内部発生分力も合成して軸受の寿命計算を行う必要があり、単列配置では軸が抜け出す力として作用するため必ず対向支持(DB配置など)が求められます。
また、円すいころ軸受は「ころ大端面」と「内輪つば面」のすべり摩擦があるため玉軸受より発熱しやすく、組付け時に軸を正逆回転させながらナットやシムで予圧(またはエンドプレイ)を調整する熟練作業が必要になります。
したがって、数kWクラスの一般的な搬送装置であれば、メーカーで隙間・予圧調整済みの「万能組合せアンギュラ玉軸受(DB)」または「複列アンギュラ玉軸受」を採用する方が、現場のシム調整を省く引き算の設計として合理的です。
現場で起こりがちな3大トラブルと推奨される設計対策・勘所
ヘリカルギヤとスラスト軸受の組み合わせでは、カタログの寿命計算式だけでは見えてこない「熱」「組付け」「図面指示」の3つの現場トラブルが多発します。
ここからは、実務で直面しやすい失敗シナリオと、それを未然に防ぐ具体的な設計対策を深掘りします。
トラブル1:軸の両端にアンギュラ(または円すいころ)を離して配置したことによる「熱焼き付き」
1つ目のトラブルは、軸の両端(スパン200〜400 mmなど)にアンギュラ玉軸受や円すいころ軸受を1個ずつ配置し、ハウジングの両端でガチガチに位置決め(長スパンでのDBまたはDF対向配置)してしまうケースです。
運転が始まると、ギヤの噛み合い熱や軸受の摩擦熱によって、熱容量の小さい「軸」の温度が「外側のハウジング」よりも先に上昇します。
スパン L = 300 [mm] の鋼軸(線膨張係数 11.7 * 10^-6 [/℃])が、ハウジングより ΔT = 20 [℃] 温度上昇した場合:
熱伸び量 ΔL = 300 * (11.7 * 10^-6) * 20 = 0.070 [mm](70 μm)
両端の軸受が軸方向に拘束されていると、この 70 μm の熱伸びが逃げ場を失い、そのまま軸受の内部予圧を猛烈に押し上げます。
結果として、運転開始から数十分〜数時間でグリースが炭化し、焼き付きロックに至ります(温度差による伸縮計算の基礎は、アルミニウム合金の熱膨張係数と伸縮量の計算方法|鉄・SUSとの線膨張差による反り・焼き付き対策も参考になります)。
推奨される設計対策:固定側・自由側の完全分離
この熱突っ張りを防ぐには、スラスト荷重を受ける「固定側」を片側の軸受箱1箇所に集約します。
そこにアンギュラ玉軸受2個を背中合わせ(DB)で密着配置(または複列アンギュラ1個を配置)し、内外輪をロックナットとベアリングカバーで完全に固定します。
このように2個の軸受の距離をゼロ(密着)にしておけば、軸が長手方向にどれだけ熱膨張しても、組合せ軸受内部の予圧はほとんど変化しません。
そして反対側の「自由側」には深溝玉軸受(または円筒ころ軸受)を配し、外輪をハウジングに対して「すきまばめ(H7など、軸方向にスライド可能な構造)」として熱伸びを完全に逃がします。
具体的なはめあい公差の選定基準については、よく使う「はめあい公差一覧表(JIS B 0401抜粋)」|H7・h6・g6等の数値早見表と軸・穴の選び方をご参照ください。
トラブル2:アンギュラ玉軸受の「表裏逆組み」による転動体脱落・ロック事故
2つ目のトラブルは、製造現場でのアンギュラ玉軸受の「向き間違い(逆組み)」です。
アンギュラ玉軸受は非対称な断面形状をしており、アキシアル荷重を受けられる「厚肉側(正面)」と、受けられない「カウンターボア側(切り欠き側/背面)」があります。
💡 用語メモ:「カウンターボア」とは?(今回の設計における意味を開く)
【基本の意味】アンギュラ玉軸受において、より多くの玉を組み込めるように外輪(または内輪)の片側の溝肩を浅く削り落とした段差部分のことです。
【今回のケースでは】この溝が浅い側にヘリカルギヤのスラスト荷重が作用するよう逆向きに組んでしまうと、玉が浅い縁を乗り越えて脱輪し、保持器ごと粉砕・ロックする重大事故に直結します。
組立図で単に軸受の四角い外形線と型番だけを描いて出図すると、組立作業者が1個または2個の向きを逆に圧入してしまうヒューマンエラーが起こり得ます。
また、ヘリカルギヤは「正転時」と「逆転時(またはブレーキ制動時)」でスラスト力の向きが完全に反転するため、片方向の考慮だけでは反対転時に軸が抜けてしまいます。
推奨される設計対策:組図での「ハの字/逆ハの字」接触角ライン明示と両方向拘束
ヘリカルギヤ軸では、原則として正逆両方向のスラスト力と転倒モーメントに耐える「DB(背面組合せ)」を採用します。
そして組立図の軸受断面には、必ず「接触角の向きを示す斜線(DBなら外輪側で開き内輪側で交わる『<>』または『ハの字』の作用線)」を明記してください。
あわせて図面注記にて「軸受外輪端面の刻印(Vマーク)の向きを確認し、背面組合せ(DB)で組み付けること」と指示するのが、現場を迷わせない機械設計における「組立図(全体図・ユニット図)」の書き方とルールの勘所です。
トラブル3:軸肩・ハウジング肩の「隅R過大」と「シム調整地獄」による傾き・早期剥離
3つ目のトラブルは、軸の段差根元の加工形状と、組付け時の予圧調整に起因する早期破損です。
アンギュラ玉軸受や円すいころ軸受は、大きなスラスト力を軸の「肩(段差面)」で受け止めます。
このとき、軸の段差根元の加工隅R(フィレット半径)を、軸受カタログの「許容隅肉半径 r_a(例:7208なら r_a = 1.0 mm以下)」より大きく(たとえば R1.5 や R2.0 で)設計・加工してしまうと、軸受内輪の角が軸の隅Rに乗り上げてしまいます。
その結果、内輪端面が軸の肩面に密着せず、軸受がわずかに傾いたままロックナットで締め付けられ、異常摩耗や破損を招きます。
また、円すいころ軸受を採用してカバー裏にシム調整を設けた際、組立手順として「軸を回さずに」ナットやカバーを締め込むと、ころの大端面が内輪の案内つばに正しく整列(シート)しないまま拘束されます。
このまま運転を開始すると、稼働直後にころが動いて一気にガタ(すきま)が生じ、歯車の噛み合い異音や早期剥離(フレーキング)を引き起こします。
推奨される設計対策:ぬすみ加工・定位置予圧セット品の活用・ならし回転指示
これらの組付けトラブルを防ぐため、部品図および組立図では以下の3点を徹底することが推奨されます(部品図作成の基本ルールは機械加工「部品図(バラ図)」の書き方と寸法記入の鉄則も参考にしてください)。
- 1. 肩の高さと隅Rの厳密な管理:
軸およびハウジングの隅Rは、必ずカタログの「r_a 以下(例:R0.8以下、または研削逃げ溝[ぬすみ加工])」で図面指示し、肩の高さもスラスト力を確実に面で受けられるカタログ推奨寸法を確保します。 - 2. 万能組合せ軸受によるシム調整の引き算:
自作の間座(スペーサー)の平行度不良によるこじりや現場のシム調整工数を排除するため、アンギュラ玉軸受を用いる場合はメーカー側で端面研削調整された「万能組合せ軸受(記号SUやDBセット品、軽予圧Lまたは中予圧M)」を手配し、精密ロックナットで規定トルクにて突き当て締結する構造が有効です。 - 3. 円すいころ軸受を使う場合の「ならし回転」指示:
重荷重対応でどうしても円すいころ軸受とシム調整を用いる場合は、組立図に「予圧・すきま測定時は、必ず軸を正逆方向に数回ならし回転(ランイン)させてころをつば面に馴染ませた上で測定・シム選定を行うこと」と明記します。
まとめ:ヘリカルギヤ軸受設計で押さえておきたい実務チェックリスト
最後に、ヘリカルギヤの軸受荷重計算と構造設計における重要ポイントを整理します。
- 転倒モーメントの算入:
スラスト力 Fa_g だけでなく、ピッチ円半径 d/2 を腕とする転倒モーメント M_a を偶力反力として軸受のラジアル荷重に加算しているか。 - 固定側と自由側の分離:
片側の軸受箱(固定側)に背面組合せ(DB)等を集約し、反対側(自由側)の外輪をすきまばめにして軸の熱膨張を逃がしているか。 - 調整工数の引き算:
中負荷領域ではメーカー予圧調整済みの万能組合せアンギュラ玉軸受(DB)や複列軸受を活用し、現場のシム調整を不要にしているか。 - 図面指示の徹底:
軸肩の隅Rがカタログの許容値 r_a 以下になっているか。また組立図にアンギュラ玉軸受の接触角の向き(ハの字等)を明示しているか。
なお、軸受の適正な予圧量やすきま選定は、運転時の回転数・グリース種別・周囲温度によって最適解が変化します。
詳細設計時には軸受メーカーの技術計算ツールや最新カタログをご自身で確認し、必ず実機(プロトタイプ)での昇温・振動検証を行ってください。
【実務ケーススタディ・トラブル対策集】条件別の設計計算と現場の勘所
【実務ケーススタディ】はすば歯車のスラスト荷重計算とベアリング選定・配列の勘所
【結論・設計の要点】
平歯車からはすば歯車へ変更する際、既存の深溝玉軸受(60・62・63番台)でスラスト荷重や寿命を満たせない場合は、主要寸法が同一で互換性のある「アンギュラ玉軸受(70・72・73番台)」への置き換えが有効なアプローチとなります。
軸受の配置は、転倒モーメントに強い「片側・背面組合せ(DB配列)+反対側・自由側」を基本とし、C形止め輪に頼らない確実な面受け固定と熱膨張(約0.09 mm)の逃げ構造を設けることが、焼き付きや軸抜けを防ぐ実務上のセオリーです。
▶ 詳細な計算プロセスと推奨される設計対策を見る
1. 基本計算プロセス:はすば歯車の3分力・転倒モーメントと軸受選定
減速機の静音化を目的として平歯車からはすば歯車(ヘリカルギヤ)へ変更する設計は、重なりかみ合い率の向上によって振動・騒音を低減できる有効なアプローチです。
しかし、歯すじにねじれ角を持たせた代償として、軸方向への大きなスラスト荷重(アキシアル荷重)と、それが軸を曲げようとする転倒モーメントが不可避に発生します。
限られたハウジング寸法内でこの荷重を受け止めるには、以下の2パターンから装置の加工精度とコスト見合いで軸受配列を選定するのが設計で推奨される方法です。
- 構成A(高剛性・コンパクト重視):
片側の軸端にアンギュラ玉軸受を2個並べる「背面組合せ(DB配列)」で固定側を構成し、反対側の軸端は熱膨張を逃がす「自由側(深溝玉軸受や円筒ころ軸受のすきまばめ)」とする方式です。作用点間距離が長くなるため、はすば歯車特有の転倒モーメントに対して高い剛性を発揮します。 - 構成B(両端クロス配置・省スペース重視):
軸端に2個並べるスペースがない場合、軸の両端にアンギュラ玉軸受(または円すいころ軸受)を1個ずつ向かい合わせに配置する方式です。ハウジングの同軸度不良によるこじりを緩和しつつ、熱膨張による予圧過大を防ぐための「シム調整および適正すきま管理」が重要になります。
💡 用語メモ:「背面組合せ(DB配列)」とは?(今回の設計における意味を開く)
【基本の意味】アンギュラ玉軸受の外輪の幅広面(背面)同士を突き合わせて並べ、接触角の作用線が外輪側で開く(軸中心側で交わる)ように配置する組合せ方式です。
【今回のケースでは】作用点間距離が長くなるため、はすば歯車のスラスト荷重がピッチ円上で引き起こす「軸の転倒モーメント(傾き)」を強力に抑え込み、歯面の片当たりや異音を防ぐために最も推奨される配列となります。
ここでは具体例として、以下の仮定仕様に基づき、はすば歯車に作用する3分力と転倒モーメント、および軸受寿命の計算プロセスを示します(※実際の数値は歯面仕上げや潤滑環境、ハウジングの熱放散性等の要素に影響されるため、以下は理論上の目安となります)。
・モータ動力 P = 3.7 kW、入力回転数 n = 1,500 rpm
・歯直角モジュール mn = 3.0、歯直角圧力角 αn = 20°、ねじれ角 β = 20°
・歯数 z = 24、軸受スパン(支点間距離) L = 120 mm(0.12 m、中央に歯車配置)
・伝達効率 η = 0.98、運転時の過負荷・衝撃を考慮した使用係数 Ka = 1.25
① 幾何学諸元と設計入力トルクの算出
まず、正面圧力角 αt と基準ピッチ円直径 d、および使用係数 Ka を考慮した設計入力トルク T を算出します。
- 正面圧力角 αt の算出:
tan(αt) = tan(αn) / cos(β) = tan(20°) / cos(20°) = 0.3640 / 0.9397 = 0.3874
よって αt ≒ 21.18° - 基準ピッチ円直径 d の算出:
d = (mn * z) / cos(β) = (3.0 * 24) / 0.9397 ≒ 76.62 mm - 設計入力トルク T の算出:
定格トルク T0 = (9550 * P * η) / n = (9550 * 3.7 * 0.98) / 1500 ≒ 23.09 N・m
設計トルク T = T0 * Ka = 23.09 * 1.25 ≒ 28.86 N・m
② 歯面に作用する3分力(Ft, Fr, Fa)と転倒モーメント(Ms)の算出
はすば歯車の選定では、3分力だけでなく、スラスト力 Fa がピッチ円半径(d / 2)の位置で軸を曲げようとする「偶力(転倒モーメント Ms)」までを含めて軸受反力を算出する必要があります。
- 円周力(接線力) Ft:
Ft = (2000 * T) / d = (2000 * 28.86) / 76.62 ≒ 753.3 N - 半径方向力(ラジアル分力) Fr:
Fr = Ft * tan(αt) = 753.3 * 0.3874 ≒ 291.8 N - 軸方向力(スラスト分力) Fa:
Fa = Ft * tan(β) = 753.3 * tan(20°) = 753.3 * 0.3640 ≒ 274.2 N - スラスト力による軸の曲げモーメント Ms と付加ラジアル荷重 ΔFr:
Ms = Fa * (d / 2) / 1000 = 274.2 * (76.62 / 2) / 1000 ≒ 10.51 N・m
ΔFr = Ms / L = 10.51 / 0.12 ≒ 87.6 N
この付加ラジアル荷重 ΔFr(87.6 N)が元のラジアル分力に合成されるため、軸受のラジアル負荷および軸のたわみ計算では、必ずこのモーメント分を加算して評価します。
③ 深溝玉軸受(6207)とアンギュラ玉軸受(7207B)の比較評価
上記の荷重条件(合成ラジアル荷重 Fr_total ≒ 500 N、スラスト荷重 Fa = 274.2 N、回転数 n = 1,500 rpm と仮定)において、軸径 φ35 mm クラスの軸受を比較します。
| 評価項目 | 深溝玉軸受(呼び番号:6207) | アンギュラ玉軸受(呼び番号:7207B / 接触角40°) |
|---|---|---|
| 主要寸法・定格荷重 | 内径35×外径72×幅17 mm Cr = 25,700 N / C0r = 15,300 N |
内径35×外径72×幅17 mm(6207と同寸互換) Cr = 31,000 N(単列代表値) |
| 荷重・寿命計算の評価 | Fa / C0r = 274.2 / 15,300 ≒ 0.018。 1段目の軽スラストなら受容可能だが、減速後の2〜3段目(Fa = 1,500〜3,000 N以上)や衝撃負荷時では Fa / Fr が判定係数 e(0.22〜0.44)を超え、アキシアル係数 Y(約1.4〜2.0)が跳ね上がり寿命が激減する。 |
接触角40°の判定係数 e = 1.14。 Fa / Fr = 274.2 / 500 = 0.548 ≦ e となり、組合せ時の係数 X = 1.0, Y = 0.55 を適用。 動等価荷重 P = 1.0 * 500 + 0.55 * 274.2 ≒ 650.8 N 定格寿命 L10h = (10^6 / (60 * 1500)) * (31,000 / 650.8)^3 ≒ 1,200,000 時間以上(目標2〜3万時間に対し十分)。 |
| 実務上の懸念点と最適解 | スラスト荷重で内部すきまが片側に詰められ、玉の公転すべりや異常発熱を招きやすい。また正逆転時にアキシアル内部すきま分のガタ打ち音が発生しやすい。 | モーメント剛性の高い「背面組合せ(DB配列)」とし、発熱を抑えつつ位置決め剛性を確保できる「軽予圧(L)または微予圧」を選定するのが実務上の最適解。(※重荷重・衝撃が支配的な低〜中速段は円すいころ軸受 302・303番台等を検討)。 |
2. 現場で起こりがちなトラブルと推奨される設計方法
机上の強度・寿命計算が成立していても、実際の構造設計や図面指示の段階で以下のような「現場の落とし穴」にはまり、試運転時に異音や破損を起こすケースが多発します。
■ シナリオ1:正逆転・急停止時の「C形止め輪吹き飛び」による軸抜けトラブル
「正転時はスラスト力が軸の段差側(奥側)に向くから大丈夫だろう」と考え、反対側の抜け止めを安価なC形止め輪(スナップリング)1枚で済ませてしまうケースです。
実際には、機械の逆転運転時だけでなく、「正転からの急減速・非常停止時」には負荷側の慣性(イナーシャ)によって歯面の当たりが逆転し、正転時と同等以上の逆向きスラスト衝撃荷重が発生します。
浅い溝にかかっているだけの止め輪はスラスト荷重を受けるようには設計されておらず、溝の角がむしり取られて止め輪が外れ、軸ごと歯車が飛び出して噛み合いが破損します。
アンギュラ玉軸受や深溝玉軸受のアキシアル固定を、軸・ハウジングともに「C形止め輪」で行っている。
⭕ 推奨される設計対策(確実な面受け構造):
1. 軸側の固定:シャフトのしっかりとした「段差(肩高さは軸受の面取り寸法 ra より十分に高く、かつ隅Rは ra 以下にする)」と、反対側は「ベアリングナット(ファインUナットまたは菊座金付ロックナット)」、あるいは軸端の「厚板エンドプレート+複数本のボルト締結」で内輪端面を全周均一に挟み込みます。
2. ハウジング側の固定:ハウジング内径の段差と、外側からボルト留めする「ベアリング押さえ蓋(インロー付きカバー)」で外輪端面を確実に押さえます。
■ シナリオ2:軸の熱膨張と「両端アンギュラ固定(過拘束)」による異常発熱・焼き付き
減速機が連続稼働すると、歯車の噛み合い損失やオイルの撹拌熱によって、内部のシャフト温度は外気に触れているハウジングよりも15〜30℃ほど高くなります。
仮に軸長 L = 300 mm の鋼製シャフト(線膨張係数 α = 11.7 * 10^-6 /℃)がハウジングより ΔT = 25℃ 高温になった場合、軸はハウジングに対して以下の通り伸びます。
- シャフトとハウジングの熱膨張差 ΔL:
ΔL = L * α * ΔT = 300 * 11.7 * 10^-6 * 25 ≒ 0.088 mm(約88 μm)
もし両端の軸受を軸方向が外側に逃げられない「正面組合せ(DF)のクロス配置」などで隙間なく拘束していると、この約0.09 mmの熱伸びがそのままアンギュラ玉軸受を押し潰す方向(過大予圧)に作用します。結果として内部荷重が数千〜数万Nに跳ね上がり、運転開始から数十分で異常発熱・焼き付きに至ります。
1本の軸の両端ともに軸方向を完全拘束し、熱伸びの逃げ道(クリアランス)が存在しない過拘束構造になっている。またはシム調整なしでクロス配置を組んでいる。
⭕ 推奨される設計対策(過拘束の逃がしとシム調整代の設計):
1. 「固定側+自由側」の明確な役割分離:スペースが許す限り、片側の軸端に「アンギュラ玉軸受のDB組合せ(初めから適正予圧が付与された組合せ記号 DB+L 等のペア品)」を配置して両方向のスラストを1箇所で受け切り、反対側の軸端は「深溝玉軸受(外輪とハウジングを H7/g6 や H7/h6 等のすきまばめとし、軸方向に数ミリの逃げ空間を確保)」として熱膨張を逃がします。
2. 両端クロス配置にする場合の「シム調整代」と「あえての逃げ」:軸の両端に1個ずつアンギュラ玉軸受や円すいころ軸受を向かい合わせ(DF相当)で配置する場合は、熱膨張を見込んで初期組付時に「0.05〜0.10 mm程度の微小なアキシアルすきま」を設定します。部品の公差累積による「公差の空打ち(隙間ゼロや過大ガタ)」を防ぐため、ベアリング押さえ蓋のフランジ部には最初から「基準寸法より0.5〜1.0 mm引き算した隙間」を設け、そこに「調整シム(t0.05, 0.1, 0.2, 0.5 mmの組み合わせ)」を挟み込む構造を織り込みます。
■ シナリオ3:組立現場での「アンギュラ玉軸受の表裏逆組み」による破損ロック
アンギュラ玉軸受は構造上、外輪(または内輪)の片側が厚肉(スラストを受ける側)、反対側が薄肉のカウンターボア(スラストを受けられない側)という非対称形状をしています。
見た目が一見似ているため、組立図に明確な指示がないと作業者が表裏を逆に圧入してしまうヒューマンエラーが起こり、スラスト荷重がかかった瞬間に玉が薄い肩を乗り越えて脱落し、歯車がロックして破損します。
組立図の断面図で、アンギュラ玉軸受を単なる四角にバツ印(深溝玉軸受と同じ簡易図示)だけで描いており、接触角の向きや歯車のねじれ方向が分からない。
⭕ 推奨される設計対策(現場を迷わせない図面指示の勘所):
1. 接触角の作用線(ハの字/逆ハの字)の明記:組立図のベアリング断面には、接触角の向きを表す斜線(DB配列なら外輪側で開き、軸中心側で交わる線)を正確に描画し、注記として「※アンギュラベアリングの組付向き(刻印面・背面合わせ)に注意のこと」と引き出し線で明示します。
2. 間座(スペーサー)の一体化・研削指示:DB組合せのペア品(ユニバーサルマッチドベアリング)をそのまま密着させて使い、内輪・外輪間座の部品点数と研削コストを削減する「引き算の設計」を優先します。スパンを広げるために間座を入れる場合は、内外輪の間座を「同一ロットで同時平面研削(幅差±0.003 mm以内、平行度0.003 mm以内)」と図面に指示し、片当たりによる予圧ムラを防ぎます。
3. 歯車の「ねじれ方向」と「スラスト矢印」の明記:平行軸外噛み合いのはすば歯車対は、駆動側が「右ねじれ」なら従動側は必ず「左ねじれ」になります。単品図での指定ミスを防ぐとともに、組立図上に「正転時の回転方向」と「発生するスラスト荷重の向き(矢印)」を記入しておくことで、検図時および現場組立時の直感的なチェックが可能になります。
なお、歯車の騒音や軸受の温度上昇は、ハウジングの固有振動数や潤滑油の粘性・油面高さなど複合的な要因に左右されます。設計完了後は、実機(プロトタイプ)にて無負荷および定格負荷での連続運転試験を行い、軸受外輪部の温度飽和値と歯当たり(光明丹等による接触パターン)の検証を行うことが推奨されます。