ここでは、一般に販売されている丸棒の 「センタレス丸棒」 についてのメモです。
私自身、シャフトなどの丸棒部品を設計するたびに、材料選定の壁(購入品を買うか、ミガキ材にするか、センタレス材にするか)に突き当たります。 特に、精密な公差が求められる部品の材質をどう選ぶべきか、どの規格の材料を図面に指示すれば後工程で問題が起きないのか、確信が持てずに悩んだ経験は一度や二度ではありません。
中でも「センタレス丸棒」は、高精度という漠然としたイメージはありましたが、その本質を深くは理解していませんでした。
多くのウェブサイトではセンタレス丸棒の基本的なメリットは解説されていますが、なぜその精度が生まれるのかという製造原理の深い部分や、引抜材との具体的な精度の数値比較、さらには設計者が直面する残留応力といった実用上のリスクまで踏み込んで解説している情報は多くありません。
この記事では、まずセンタレス丸棒の基本的な特徴と、その高精度を生み出す製造方法についてもまとめています。 その上で、具体的な材質選定や規格について解説し、最終的には採用時のコストメリットと、見落としがちな実用上の注意点までを網羅することで、設計判断を確かなものにするための一助となることを目指します。
センタレス丸棒とは?基本と精度を解説
センタレス研削という加工方法
センタレス丸棒の優れた精度は、「センタレス研削」という独特な加工方法 によって生み出されます。 これは、工作物の中心を固定せずに外径を研削する技術で、「心なし研削」とも呼ばれます。
この加工の原理は、工作物(ワーク)を「研削砥石」「調整砥石」「ブレード」という3点で支持することにあります。 高速で回転する研削砥石がワークを削り、低速で同方向に回転する調整砥石がワークの回転速度を制御しながら送りを与え、ブレードが下から支えるという仕組みです。 この3点支持により、ワークは安定して回転し、全長にわたって均一な研削が可能になります。
センタレス研削の最も重要な特徴は「造円作用」です。 加工開始時にワークに多少の歪みがあっても、回転する中で最も外径が大きい部分から優先的に削られていきます。この作用により、加工が進むにつれて歪みが自動的に修正され、最終的には極めて真円に近い形状に仕上がる のです。
また、この加工法はワークの両端にセンタ穴を開ける必要がないため、加工工程を簡略化できるほか、材料の全長を有効に使えるというメリットもあります。 特に、長尺材や細い径のワークでも、全長が支持されることで「たわみ」が生じにくく、安定した精度を維持できる点は、他の研削方法に対する大きな優位性と考えられます。
引抜材との決定的な違いとは
センタレス丸棒とよく比較される材料に「引抜材(みがき棒)」がありますが、両者の間には製造方法と精度において決定的な違いが存在 します。
引抜材は、ダイスと呼ばれる金型を通して材料を引き抜く冷間加工によって製造されるものです。 この加工により、 熱間圧延されたままの黒皮材 に比べて寸法精度が向上し、表面も滑らかになります。 一般的に、引抜材の寸法公差はJISの「h9」等級で管理されることが多い です。
一方、センタレス丸棒は、この引抜材などを素形材として、さらにセンタレス研削盤で外径を研削した材料を指します。 つまり、引抜加工に加えて研削という仕上げ工程が施されている点が最大の違いです。 この追加工程により、寸法精度、表面の滑らかさ(表面粗さ)、そして真円度といった幾何公差が、引抜材に比べて格段に向上します。
以下の表に、一般的な丸棒の仕上げ種類による違いをまとめます。
仕上げ種類 | 製造方法 | 代表的な寸法公差 | 表面品位 | 相対コスト |
黒皮材 | 熱間圧延 | 不定 | 粗い(酸化被膜) | 低 |
ピーリング材 | 熱間圧延 + 表面切削 | プラス公差 | やや良好 | 中 |
引抜材(みがき棒) | 冷間引抜加工 | h9 | 良好 | 中~高 |
センタレス材 | 冷間引抜 + センタレス研削 | h7 | 極めて良好 | 高 |
このように、単に「丸棒」といっても、その仕上げによって精度は大きく異なります。 設計者は、部品に要求される精度レベルに応じて、どの仕上げの材料が最適かを見極める必要があります。
h7で管理される高い寸法公差
センタレス丸棒の技術的な価値を最も明確に示しているのが、その寸法公差です。 市場に流通しているセンタレス丸棒は、その多くがJIS B 0401で定められた 軸の寸法公差等級「h7」で管理されています。 より高い精度が求められる場合には「h6」といった等級で対応されることもあります。
ここで、「h」というアルファベットは、公差域が基準寸法に対してマイナス側にあることを意味します。 具体的には、許容される最大寸法が基準寸法(呼び径)と同じで、最小寸法がそれより小さくなる設定です。 これは、穴と組み合わせた際にすきまが確保しやすいため、シャフトなどの軸部品に広く用いられます。
続く数字の「7」や「6」は、公差の幅を示すIT等級を表し、数字が小さいほど公差の幅が狭く、高精度であることを示します。参考までに、前述の引抜材では「h9」が一般的であり、「h7」や「h6」がいかに厳しい公差であるかが分かります。
具体的な寸法許容差を以下の表に示します。
基準寸法の区分 (mm) | h9 (引抜材の例) | h7 (センタレス材の例) | h6 (高精度センタレス材) |
3を超え6以下 | 0 -0.030 |
0 -0.012 |
0 -0.008 |
6を超え10以下 | 0 -0.036 |
0 -0.015 |
0 -0.009 |
10を超え18以下 | 0 -0.043 |
0 -0.018 |
0 -0.011 |
18を超え30以下 | 0 -0.052 |
0 -0.021 |
0 -0.013 |
30を超え50以下 | 0 -0.062 |
0 -0.025 |
0 -0.016 |
50を超え80以下 | 0 -0.074 |
0 -0.030 |
0 -0.019 |
例えば、直径20mmのシャフトを設計する場合、h9の引抜材では直径が19.948mmから20.000mmの範囲になりますが、h7のセンタレス材では19.979mmから20.000mmという、より狭い範囲に収まります。 このミクロン単位の精度が、ベアリングとの精密な「はめあい」などを実現する上で鍵となるのです。
摺動部で活きる優れた表面粗さ
センタレス丸棒が持つもう一つの重要な特性は、その優れた表面品位、すなわち表面粗さの小ささです。 研削加工は、旋削や引抜といった他の加工方法と比較して、格段に滑らかで均一な表面を作り出します。
センタレス研削によって得られる表面は、目視では光沢があり、顕微鏡で見ると均一な研削痕が並んだ状態です。 この滑らかな表面は、機能面で大きなメリットをもたらします。 例えば、オイルシールやOリングが接触する摺動面では、表面が粗いとシールの摩耗を早め、オイル漏れの原因となります。 センタレス丸棒の滑らかな表面は、シールの寿命を延ばし、高いシール性を長期間維持することに貢献します。
また、精密なガイドシャフトやブッシュのように、部品同士が滑りながら動く部分においても、表面粗さは摩擦係数に直接影響します。 表面が滑らかであるほど摩擦抵抗が減少し、よりスムーズでエネルギー損失の少ない動きが実現できます。 具体的な表面粗さの数値としては、Ra(算術平均粗さ)で0.4μmといったレベルが達成可能であり、これは一般的な切削加工では得難いレベルです。 このように、部品の性能や寿命に摺動性が関わる場合、センタレス丸棒の優れた表面粗さは極めて有効な選択肢となります。
高速回転を支える真円度の高さ
寸法公差や表面粗さに加え、センタレス丸棒の品質を決定づける重要な要素が「真円度」です。 真円度とは、ある断面形状が、どれだけ幾何学的に正確な円に近いかを示す指標であり、センタレス丸棒はこの真円度が極めて高いという特徴を持っています。
この高い真円度は、前述の通り、センタレス研削の「造円作用」という加工原理そのものに由来します。 3点で支持されながら回転するワークは、加工が進むにつれて自然と歪みが取り除かれ、真円に近づいていきます。 このため、素材の段階で既に高い真円度が保証されている のです。
高い真円度が特に重要となるのは、モーター軸やタービンシャフトのように、高速で回転する部品です。 もしシャフトの真円度が低い、つまり断面がわずかでも楕円や多角形に近い形状をしていると、回転時に重心がブレて振動や騒音が発生します。 この振動は、ベアリングなどの周辺部品にダメージを与え、装置全体の寿命を縮める原因にもなりかねません。
センタレス丸棒を使用することで、こうした高速回転時の振動を最小限に抑え、静かで安定した動作を実現できます。 精密な直線運動を行うリニアガイドのシャフトなどにおいても、真円度の高さはスムーズでガタつきのない動きを保証するために不可欠です。 したがって、部品の運動精度や静粛性が性能を左右するような設計では、センタレス丸棒の採用が極めて有効な解決策 となります。
設計で選べるセンタレス丸棒の材質と規格
汎用鋼S45Cと高硬度なSUJ2
センタレス丸棒として流通している炭素鋼系の材質では、主に「S45C」と「SUJ2」の2種類が挙げられます。 これらは特性が大きく異なるため、用途に応じて適切に使い分けることが大切です。
S45C(機械構造用炭素鋼)
S45Cは、炭素を約0.45%含む、機械構造用炭素鋼の中で最もポピュラーな材質です。 強度と靭性のバランスに優れており、熱処理(焼入れ・焼戻し)を行うことで、硬度や引張強さを向上させることができます。 この汎用性の高さから、一般的な産業機械のシャフト、歯車、ボルトなど、幅広い用途で使用されています。 センタレス丸棒としても非常に広く流通しており、入手性が良いのが大きなメリットです。 強度が必要な部品で、コストと入手性を重視する場合に第一の選択肢となります。
SUJ2(高炭素クロム軸受鋼)
SUJ2は、その名の通りボールベアリングなどの軸受(ベアリング)用に開発された特殊な鋼材です。 高炭素(約1.0%)でクロムを含有しており、熱処理後の硬さがHRC60以上に達するのが最大の特徴です。 この極めて高い硬度と優れた耐摩耗性から、ベアリングの玉や軌道輪のほか、リニアシャフトや精密ガイドロッドといった、高い摺動性と寸法安定性が求められる部品に広く使用されます。 精密な位置決めやスムーズな直線運動が不可欠な装置では、SUJ2製のセンタレス丸棒がその性能を最大限に発揮します。
代表的なステンレス鋼SUS304
ステンレス鋼 の中で、センタレス丸棒として最も一般的に流通しているのが「SUS304」です。 これは「18-8ステンレス」とも呼ばれるオーステナイト系のステンレス鋼で、多くの優れた特性を持っています。
最大の特長は、その優れた耐食性です。 クロムとニッケルを主成分とすることで、表面に強固な不動態皮膜を形成し、錆の発生を防ぎます。 このため、水や薬品に触れる環境、例えば食品機械や化学プラント、医療機器などの部品に広く採用されています。
また、SUS304は溶接性や加工性にも優れており、複雑な構造物への組み込みも比較的容易です。 通常の状態では非磁性であるため、磁気の影響を嫌う精密機器や電子機器の部品としても使用されます。
機械的性質としては、適度な強度と靭性を兼ね備えており、一般的なシャフトやピンとしての使用にも十分耐えられます。 S45Cのような炭素鋼と比較した場合、熱処理による大幅な硬度向上は期待できませんが、耐食性が求められる環境下では、SUS304が最適な選択肢となります。 設計において、錆の発生が懸念される箇所や、クリーンな環境が求められる装置の部品には、まずSUS304のセンタレス丸棒を検討するのが定石 と言えます。
被削性に優れる快削鋼SUS303
SUS304と並んで、ステンレス鋼のセンタレス丸棒として広く利用されているのが「SUS303」です。 この材質は、SUS304をベースに、被削性(切削加工のしやすさ)を大幅に向上させた快削ステンレス鋼に分類されます。
その秘密は、成分に硫黄(S)やリン(P)などを意図的に添加している点にあります。これらの元素が、切削時に切り屑を細かく分断する働きをするため、工具への負担が減り、加工速度の向上や工具寿命の延長に繋がります。 この特性から、SUS303はNC旋盤などの自動盤を用いた大量生産部品に特に適しています。
例えば、複雑な形状のシャフト、精密なネジ部品、小型のコネクタなど、切削加工の工程が多い部品の材料としてSUS303を選ぶことで、製造コストの削減と生産性の向上が期待できます。
ただし、メリットばかりではありません。 被削性を向上させるために添加された硫黄などの影響で、耐食性や溶接性はSUS304に比べて若干劣るというデメリットがあります。 そのため、極めて高い耐食性が求められる過酷な環境や、溶接による接合が必要な部品にはSUS304が適しています。 設計者は、部品に求められる加工の複雑さと、使用環境の厳しさのバランスを考慮し、SUS304とSUS303を適切に使い分ける必要があります。
入手しやすい定尺サイズ一覧
センタレス丸棒を設計に採用する際、コストと納期を最適化するために非常に重要なのが、標準的に流通している「定尺サイズ」を意識することです。 材料メーカーや販売店は、特定の直径と長さの組み合わせを「定尺」として在庫しており、これを選ぶことで最も早く、安価に材料を入手できます。
逆に、標準在庫にない中途半端な直径や長さを指定すると、特注での研削や切断が必要となり、コストが大幅に増加し、納期も長くなる可能性があります。 設計の初期段階で、入手しやすいサイズを把握しておくと良いです。
以下に、代表的な材質で一般的に流通している直径と定尺の例をまとめました。
材質 | 直径 (φ) [mm] | 定尺 (L) [mm] | 備考 |
S45C | 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18, 19, 20, 22, 24, 25, 26, 28, 30, 32, 35, 36, 38, 40, 42, 45, 50, 55, 60, 65, 70, 75, 80 | 2000, 2500, 3000 | 非常に一般的な材質 |
SUS304 | 1, 1.5, 2, 2.5, 3, 3.2, 3.5, 4, 4.5, 5, 5.5, 6, 6.5, 7, 7.5, 8, 8.5, 9, 9.5, 10, 11, 12, 12.7, 13, 14, 15, 16, 17, 18, 19, 20, 21, 22, 23, 24, 25, 26, 28, 30, 32, 34, 35, 38, 40, 45, 50 | 2000 | 最も一般的なステンレス |
SUS303 | 1, 1.5, 2, 2.5, 3, 3.2, 3.5, 4, 4.5, 5, 5.5, 6, 6.5, 7, 7.5, 8, 8.5, 9, 9.5, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18, 19, 20, 21, 22, 23, 24, 25, 26, 27, 28, 30, 32, 35, 36, 38, 40, 45, 50 | 2100, 2500 | 快削性のため切削部品で多用 |
SUJ2 | 3, 4, 5, 6, 8, 10, 12, 13, 14, 15, 16, 18, 20, 25, 30, 35, 40, 45, 50 | 1000, 2000 | 熱処理・研削済みのシャフトとして流通 |
SUS316 | 3, 4, 5, 6, 8, 10, 12, 16, 20, 25, 30 | 2000 | 高耐食用途、流通量は少なめ |
SCM435 | (h9引抜材が主流) | 3000, 4000 | センタレス品は特注研削の場合が多い |
アルミニウム | (A2017, A5056等) 3, 4, 5, 6, 8, 10, 12, 15, 16, 20, 25, 30 | 1000, 2000 | 軽量化用途 |
POM | 3, 4, 5, 6, 8, 10, 12, 15, 16, 20, 25, 30, 40, 50 | 1000, 2000 | 樹脂部品用途 |
注:太字は特に供給量が多いと考えられるサイズです。 在庫状況は販売店によって異なるため、実際の設計時には必ず確認してください。
この表から分かるように、例えば直径18.5mmのシャフトを設計するよりも、標準品である18mmや20mmを基準に設計を見直すことで、調達が格段に容易になります。このような視点を持つことが、スムーズな製品開発に繋がります。
センタレス丸棒のコストと実用上の注意点
シャフトのはめあいで重要な公差
センタレス丸棒が持つh7という高い寸法公差は、特にベアリングやブッシュといった相手部品との「はめあい」においてその真価を発揮します。 はめあいとは、軸と穴の寸法の関係性を指し、その組み合わせによって部品の機能が決まります。
はめあい には、大きく分けて3つの種類があります。
はめあいの種類
- すきまばめ: 常に軸と穴の間にすきまができる組み合わせ。軸がスムーズに回転したり、摺動したりする用途に用いられます。
- しまりばめ: 常に軸が穴より大きく、圧入によって固定される組み合わせ。歯車やプーリーを軸に強力に固定する場合などに使用します。
- 中間ばめ: 寸法のばらつきによって、わずかなすきま、またはしまりが生じる組み合わせ。分解・組立を伴う位置決めに使われます。
センタレス丸棒の「h」公差(マイナス公差)は、一般的に「H」公差(プラス公差)で管理されるベアリングの内輪や市販のブッシュと組み合わせることで、理想的な「すきまばめ」を実現するように設計されています。 この適切なすきまが、潤滑油の膜を保持し、焼き付きを防ぎながら滑らかな運動を保証するのです。
もし、公差の緩い材料を使用してすきまが大きすぎると、軸がガタついて振動の原因になります。 逆にすきまが小さすぎると、熱膨張などによって軸が動かなくなり、重大な故障に繋がる可能性も考えられます。したがって、精密な運動が求められる部品の設計において、h7公差を持つセンタレス丸棒を選択することは、信頼性を確保する上で非常に合理的な判断 と言えます。(但し、摩耗を考慮する場合は硬質クロムメッキや焼き入れなども考慮してください。センタレス材を必ず選ぶ必要があるという意味ではありません)
【補足】表面の傷と残留応力に注意
センタレス丸棒は多くのメリットを持つ一方で、その精密さゆえに、設計や製造の現場で注意すべき点がいくつかあります。 これらを見過ごすと、せっかくの利点を活かせないばかりか、思わぬ不具合を引き起こす可能性があります。
表面の傷のリスク
最大の注意点は、その美しく仕上げられた表面の管理です。 センタレス丸棒は、材料の供給段階で既に最終製品レベルの表面品位を持っています。 これは、後工程での研削が不要になるというメリットの裏返しで、受け入れ後のすべての工程で傷をつけないよう、細心の注意を払う必要があることを意味します。
例えば、旋盤で加工する際のチャック(掴み具)の爪で付けた傷や、保管・運搬時に他の部品と接触してできた打痕は、そのまま製品の欠陥となってしまいます。 特に摺動部やシール接触面に傷が付くと、機能不全に直結します。 対策として、加工時には保護材を巻いたり、柔らかい材質の爪(ソフトジョー)を使用したりするなど、製造プロセス全体で「仕上げ面を保護する」という意識が不可欠です。
残留応力による変形
もう一つの注意点が、材料内部に存在する「残留応力」です。 丸棒は圧延や引抜といった加工を経て作られるため、内部に応力が蓄積されています。 この状態でキー溝加工や平削り、穴あけ加工など、材料の一部を非対称に除去すると、応力のバランスが崩れて解放され、もともと真っ直ぐだったはずの棒が変形(曲がり)することがあります。
特に長尺のシャフトで、片側だけに大きな切削加工を行うような設計は注意が必要です。 このような場合は、あらかじめ応力除去焼なましが施された材料を選定するか、加工による変形を見越した設計・工程を検討することが求められます。 ※焼きなましがセンタレス材の標準ではなく、焼きなまし後に研磨をしてセンタレス丸棒として販売している丸棒もあったり、戦略的に採用する場合もあるそうです。 もしこの残留応力が製品に影響する場合は販売店に確認してください。
後工程を考慮したトータルコスト
センタレス丸棒の価格は、同じ材質の引抜材やピーリング材と比較すると、研削加工が追加されている分、材料単価としては高価になります。 この点だけを見ると、コストアップ要因として敬遠されてしまうかもしれません。 しかし、設計者は材料単価だけでなく、製品が完成するまでの「トータルコスト」で判断する必要があります。
センタレス丸棒を採用する最大のコストメリットは、別途「外径研削工程」を省略できる点にあります。 もし 引抜材を材料として選んだ場合、部品を旋盤で荒加工した後、寸法公差や表面粗さを満たすために、円筒研削盤で仕上げ加工を行うのが一般的 です。 この研削工程には、専門の機械設備、熟練した作業者、そして加工時間が必要となり、これらすべてがコストとして積み上がります。
センタレス丸棒を使えば、この研削工程そのものが不要になるため、関連する設備投資や人件費、加工時間を大幅に削減できる可能性があります。 特に、毎月数千、数万個を生産するような量産品においては、この工程削減によるコストメリットが材料単価の上昇分を上回り、トータルコストの削減に大きく貢献することが期待できます。
一方で、試作品や一品ものの製作では、研削工程の削減効果よりも材料単価の高さが響き、結果的に割高になるケースも考えられます。 このように、センタレス丸棒がコスト的に有利かどうかは、生産量や生産品によって変わります。 目先の材料費だけでなく、製造プロセス全体を見渡した総合的なコスト評価が、賢明な材料選定の鍵となります。
最適なセンタレス丸棒の選び方
これまで解説してきた様々な特性を踏まえ、設計において最適なセンタレス丸棒を選ぶためのポイントを以下にまとめます。
- センタレス丸棒は外径が高精度に仕上げられた半製品であると理解する
- 引抜材に比べ寸法精度・表面粗さ・真円度に優れることを認識する
- その高精度は3点支持によるセンタレス研削という加工原理から生まれる
- 加工中に歪みが自動修正される造円作用が品質の鍵を握る
- ベアリングなどとの精密なはめあいにはJISのh7公差が不可欠
- オイルシール摺動部など滑らかな表面が求められる箇所に最適
- 代表的な材質は汎用性の高いS45C、耐食性に優れるSUS304、快削鋼のSUS303
- 高い耐摩耗性や硬度が必要な場合は軸受鋼のSUJ2を選択肢に入れる
- コストと納期を考慮し、標準的な定尺サイズから直径を選定する
- 材料供給時点で仕上げ面であるため後工程での傷つきに細心の注意を払う
- キー溝加工など非対称な加工は残留応力による曲がりのリスクを考慮する
- 材料単価は高いが後工程の削減によりトータルコストで有利になる場合がある
- 図面には材質だけでなく「センタレス丸棒」「外径公差h7」と明確に指示する
- 要求される機能、生産量、コストのバランスを総合的に判断する
- これらの特性を理解し、設計に最適なセンタレス丸棒を選定する
以上です。