MCナイロンの温度と吸水による寸法変化量が大きい理由と対策

2018年5月2日

今日は 「MCナイロンの温度と吸水による寸法変化量が大きい理由と対策」 についてのメモです。

 

私が実際に経験したエピソードを交えて、MCナイロンを扱う場合の理解するべき事と、MCナイロンの温度や吸水による寸法変化の把握の仕方を纏めてみます。

MCナイロンの寸法変化

MCナイロンで組立用の大型治具を作った時に解ったこと

先日、あるアルミ鋳物を組み立てる比較的大きな治具の設計でMCナイロンという樹脂の素材を利用しました。お客様での過去実績による材料指定でしたが、出来上がった製品を組み立てていると、あることに気づきました。

 

「はめあい部分が入らない!!」

 

全ての嵌め合い部が入らないのではなくて、径の大きい部分が入りませんでした。その時寸法を測定する機器を持っていなかったので、寸法を測定できませんでしたが明らかに入らない状態。その部品は、加工してくれた場所で修正してもらいました。

そこで、ツイッターを通じてその問題を周りの方に投げかけたらこんな回答を頂きました。

 

引用:v.p様

バラつくのではなく、変化量が大きいということではないでしょうか? 寸法は嵌めあい交差内に入れるのは問題無いですけど、測定する場所の室温とか湿度でかなり変化するものです。

 

引用:i.m様

ナイロンは吸湿・吸水での寸法変化が大きいとは聞いたことがある気がします。 専門家ではないので自信はありませんがヽ(´o`;

ベークやポリカ板にバランスの悪い加工をするとべらぼうに反ったりしますね(-。-;

 

「な・・・なるほど・・。」

 

 

MCナイロンの寸法変化の犯人は二つ。

MCナイロン寸法変化の犯人は二つです。

  • 一つは熱膨張
  • 一つは吸湿による膨張

上記2点は、MCナイロンに限らず、どんな材料でも起こりうる寸法変化の要素です。また、大きいものほど変化する量は大きくなります。

 

 

MCナイロンの特性

ここではMCナイロンの寸法変化に特化した情報を纏めてみます。MCナイロンは材質の区分であり、各材料メーカーのMCナイロンに該当する製品が存在しますのでそちらで記載しています。

 

線膨張係数

参考ですが、アルミのA5052の線膨張係数は「2.38(×10^-5/℃)」なので 膨張の大きいアルミと比べてもMCナイロンの熱膨張が大きいのがわかります。

 

 

MCナイロン熱膨張の計算例

上記の情報を基に熱膨張による寸法変化の計算をしてみます。単純に1000mmの部材が20℃から40℃に変化した場合の寸法変化量を求めてみます。

 

【基本計算式は以下の通り】

・寸法変化量=線膨張係数×長さ×温度差

よって計算結果はこのようになります。

  • 寸法変化量=0.00009×1000×20=1.8mm
  • 寸法変化量=9*10^-5×1000×20=1.8mm

 

 

吸水率

MCナイロンの各種吸水率は以下の通りです。スタンダードグレードである「MC901」のみ、吸水率に対する寸法増加量の情報がありましたので記載します。その他の情報は集めることが出来ませんでした。(今後情報を得ましたら追記いたします)

 

 

MCナイロンの吸水による寸法変化の計算例

吸水による寸法変化の計算方法は以下の通りです。

  1. 変化前の吸水率に対する寸法変化量を把握
  2. 変化後の吸水率に対する寸法変化量を把握
  3. 差を求める
  4. 寸法にその%をかけたものが寸法変化量となる

これには少し問題があって、今何%吸水しているかわからないのが難点です。(こちらも今後情報を得ましたら追記いたします)

 

 

最後に・・樹脂を利用して治具などを設計するときのコツ

上記の内容だけを見るとMCナイロンなどの樹脂を使うことは避けたくなりますが、傷つきやすいワークを扱う際に樹脂部品は必要ですよね。 なので、ここにMCナイロンを始めとする樹脂を利用して治具を作る時のコツを残しておきます。

 

設計のコツ1つ目

樹脂を利用した設計で、嵌め合いをセンター出しなどに利用する場合、寸法変化の影響を減らす一つ目のコツとして出来るだけ小径のはめあいにするという事があげられます。径が大きくなればなるほど寸法の変化量が大きく変わるので、小径にすることでその影響を少なくすることが出来ます。

このように、例えば丸物治具の場合、大きく嵌めたくなりますが、そうではなくて小径での位置決めを用いるという方法です。

 

 

設計のコツ2つ目

これはツイッターで情報を頂いた方のコメントになりますが、こういう考えも良い!と思ったのでシェアさせていただきます。

 

引用:y@m様

うちの会社は樹脂加工品を多く用いますけど、公差を入れる物の時はPEEKを使います。   作ってもらう業者さんの設備にもよりますけど、結構思い通り行きますよ

「PEEKかぁ!!!!なるほど!」

 

PEEKの特性(参考値)

線膨張係数:4~4.7(×10^-5/℃) ※150℃まで

吸水率(24h):0.1~1.4(%)※水中放置、室温放置の情報無し

 

 

また、ジュラコンも吸水率に対しての寸法変化量はMCナイロンより少ないみたいです。

ジュラコンの特性(参考値)

線膨張係数:9(×10^-5/℃) ※-30~+30℃

線膨張係数:13(×10^-5/℃) ※+20~+70℃

吸水率(24h):0.22(%)※水中放置、室温放置の情報無し

各製品ごとに特性に差がありますので、詳しい情報は各材料メーカーにてご確認ください。

 

 

計算エクセルのダウンロード

皆様、この度は大変勉強になりました。ありがとうございました。最後に、今回作成した資料もUPしておきますので、設計にどうぞご利用ください。