焼き入れの種類と一般的な基本事項まとめ

2019年9月5日




 

今日は「焼き入れの種類と一般的な基本事項」のメモです。本当に奥深い熱処理の焼入れ。その焼き入れ種類は、聞いただけで覚える気が失せてしまうくらい沢山あります。何か調べたい事があれば熱処理メーカーさんへ問い合わせるのが一番ですが、今日は私が金属熱処理でこんなキーワードを覚えていたら役に立つのかなぁ・・・と感じる内容を簡単・箇条書きでメモしておきます。

焼き入れ

材質によって焼き入れをすると硬くなるわけですが、焼き入れの工程は「加熱する ⇒ 保持(オーステナイト化温度<γ固溶体領域>) ⇒ 冷却する」という工程を行います。冷却するところがポイントで

  • 焼入れは冷やしたときに硬くなる(硬くしている)
  • 加熱後の保持時間は鋼の芯部までオーステナイト化させることが必要となる
  • よって、鋼の大きさに合わせて保持時間は変化する。
  • しかし、長すぎることで組織が大きくなりもろくなってしまう。

以上のような特徴を持っています。

 

焼入れの例

  1. 炭素鋼・・・水冷
  2. 合金鋼・・・油冷、ガス冷 ・・・・など。

焼き入れ後時の冷やし方(方法)

  1. 徐冷(炉冷):徐々に温度を下げる
  2. ならし  :(空冷、放冷)常温
  3. 急冷   :水、油、ガス

焼き戻しとは

焼き入れと焼き戻しはセットになります。「焼き入れ→再加熱(変帯点以下の温度帯)→冷却」で、一回の焼き入れはもろいだけ、焼き戻しを行うことで靭性と耐摩耗性を持たせるわけです。また、オーステナイト領域からの冷却で方法で硬度が決まり

  • 金属を加熱してオーステナイト化領域から「ゆっくり冷ますと」基の状態に戻る。
  • 焼き入れにて硬度を硬くする場合はオーステナイト領域から急冷する必要がある。

焼き戻し(靭性と耐摩耗性向上)

焼入れした鋼を適当な温度(A1変帯点以下の温度帯)に再加熱し、冷却する熱処理方法で、焼入れした鋼に対する靭性値回復、焼き戻し工程は冷却よりも設定温度が大切。

  • 150~200℃以下:低温戻し → 組織はベータ(焼戻し)マルテンサイトになる。高温戻しより硬い
  • 200~650℃:高温戻し → 組織はトルースタイト(約400℃)、ソルバイト(600℃)

熱的安定性や靭性重視の場合低温戻しより硬くならない。焼き戻しの際、変態点に近づけば近づく程硬さは低下していく。

 

材質違いの物を同じ硬度にするには

焼き戻し温度を変えることによって可能となる。

 

マルテンサイト化とは

オーステナイト領域から冷やすことでマルテンサイト(硬い組織)に変態させること

 

調質と焼き入れの違い・使い分け

調質は材料自体で指定するものでそれを加工をし、その後焼き入れは基本的にしない。焼き入れは形状を作って焼き入れる。

 

焼きなまし・焼きならしについて

焼鈍(しょうどん、別名:焼きなまし)

鋼を加熱し、オーステナイト状態からゆっくり冷却する方法。目的として、被削性、加工性を向上させる、残留応力の除去、無理やり軟らかくさせる。焼入れ後、なますことで加工忘れなど追加工できるようになるが、そのあと焼き入れできないこともないが組織的に悪く、歪が発生する。寸法変化もあるため2度焼きはしないほうがいい。中には再処理禁止が多い

 

拡散焼鈍

合金元素の均質化を図る、鋳鉄に行われる 1100℃で3時間

 

完全焼鈍

被削性、冷間か構成の向上につながる 850℃で3時間その後1時間でー30℃ずつ下げていく

 

球状化焼鈍

軸受け鋼、工具鋼、靭性・加工性をUPする 750℃で5時間のち650℃で1.5時間

 

応力除去焼鈍

残留応力を除去し、機械加工による変形を防ぐ600~700℃で3時間

 

等温焼鈍

850℃で3時間のち急冷600℃でパーライト変態させる(簡易説明)

 

磁気焼鈍(磁性焼鈍)

電磁軟鉄の使用前に行う焼鈍で、電磁軟鉄の場合 焼鈍をしなくても利用できるが、焼鈍をした方が性能が上がる。
→ 詳細記事

 

焼準(しょうじゅん、別名:焼きならし)

鋼を加熱し、オーステナイト状態から早く冷却する熱処理方法。結晶粒の調整、機械的性質の改善、組織の均一化、組織の標準化、鋼をもとの状態に戻す、鋼本来の状態にする、歪防止のための焼き入れの予備処理

 

深冷処理(経年変化対策、サブゼロ)

残留オーステナイトを人為的にマルテンサイト化させる。寸法精度の厳しい製品に処理を行う。しかし、急冷すると割れを生じるため、冷却方法がノウハウとなる。

 

サブゼロ処理

焼き入れ後ただちに「0℃以下」の温度に冷やす。経年変化の防止、硬度の増加
焼き入れ → サブゼロ(超サブゼロ、クライオ処理) → 焼き戻し

 

鉄炭素系平衡(へいこう)状態図

焼きいれを知る上で目にする「鉄炭素系平衡(へいこう)状態図」というのは、炭素含有量と温度に注目した表になります。

焼き入れの種類と一般的な基本事項まとめ

画像:お借りしました

材質

リムド鋼(純鉄)

  • 基本的に熱処理は行わない、もっとも安価、不純物が多く熱処理には不向き、気泡が多い
  • 炭素含有量 :0~0.02%(軟)

セミキルド鋼(鋼)

  • 安い材料で厚みのある材料を使用する場合、中に気泡ができやすい
  • 炭素含有量 :0.02-2.14%

キルド鋼(鋳鉄)

  • 均質で不純物や気泡が少ないので品質は安定している。一般的にキルド鋼は特殊鋼と呼ばれる。
  • 炭素含有量 :2.14-6.67%(硬)
ポイント:炭素含有量が多ければ基から硬い

 

炭素鋼と合金鋼の違い

  • 炭素鋼:添加剤なし 鉄+炭素
  • 合金鋼:添加剤有  鉄+炭素+合金

 

焼き入れ性

焼入れ深さを左右する性質を焼入性という。

 

焼入れに影響を及ぼす化合物の順番

硬度高い→炭素→クロム→モリブデン→マンガン→ボロン→タングステン→ケイ素→ニッケル→硬度低い

 

質量硬化

同成分の鋼でも、厚さなどの違いにより硬さが入りにくくなる。硬さと深さは鋼の質量によって変化する

 

質量効果が大きい鋼と質量効果が小さい鋼

  • 質量効果が大きい:大物になるほど焼きが入りにくい鋼、質量に対する効果が大きい(構造用炭素鋼など、ムラのある金属)
  • 質量効果が小さい:小物から大物まで焼きが入る鋼、質量に対する効果が小さい(合金工具鋼など、ムラの少ない金属)

 

経年変化

常温でお放置していたらマルテンサイトに変態。 膨張してしまったことによる寸法変化が起きる焼入れ後、約1か月で伸びはピークとなる。変わり続けていく。残留オーステナイトが活性化している場合や不安定組織の場合、発生しやすくなる。

 

結晶粒度

結晶粒度が粗いほど焼入れ性が大きく深く硬化する。

 

焼き入れの種類

ズブ焼入れ

表面、内部ともに均一に硬度を得る。(真空・ソルト・他)全体焼入ともいう

 

大気焼き入れ

燃焼に通常の大気(空気)を用いる安価、もっとも基本的な構造、特殊鋼においては酸化・脱炭するため不向き

 

雰囲気焼き入れ

目的に合わせて雰囲気ガスを調整して行う雰囲気ガスは不活性ガスを使用することが多い。(酸化・脱炭防止)

 

塩浴焼き入れ

処理品を塩浴中に浸漬して加熱した後、低温ンの塩浴に入れて焼き入れする。熱処理方法としてはマルテンパーになる、酸化・脱炭は起きにくい

 

真空焼き入れ

真空中で焼入れ、光沢性に富む脱気を行い炉内の大気を破棄し、真空炉で熱処理を行うため、酸化・脱炭が起きない冷却は窒素ガスを使用する、素材よりも金型や部品などの完成に近い状態の物に使用される

 

表面焼き入れ

表面から数ミクロン~数ミリの範囲で硬度を得る。(浸炭・窒化・高周波・他)

 

浸炭焼き入れ

焼き入れ業界の割合40%のシェアで、値段は安い。一般的には鋼表面から炭素を拡散固溶させそのまま全体に焼き入れをお行うことで表面のみ硬化させる。浸炭深さ0.8mm~1.0mm、内部はソフトで表面が硬い。 非常に衝撃に強い

有効硬化層:規定硬度が確保されている深さ(Hv550)
全体硬化層:炭素がしみこんでいる全体深さ

炭素含有量の少ない鋼も浸炭焼入れできる。(SCM420など) 炭素含有量の高い鋼に使うと、過剰炭素になってしまいもろくなってしまう。炉内雰囲気の炭素量が多いと浸炭になる。金属の炭素量が多いと脱炭となる。(含有量がならされてしまう)

 

固形浸炭焼き入れ

木炭を主な材料と浸炭材を添加し、密閉後900℃~1000℃で加熱。染み込んだ製品を均一化させる焼準熱処理を行ったあとに焼入れ→焼き戻しを行う

 

液体浸炭焼き入れ

ソルトバスで浸炭した後、油焼き入れをする。浸炭と同時に窒化も受けるため、浸炭窒化処理の一方法。 (衰退気味)  防炭剤が塩浴に溶け出してしまうため、防炭は行えない。歪が少ない、納期早い、現状コスト意識が高い企業様が利用している

 

ガス浸炭焼き入れ

炉内で浸炭性ガス雰囲気ガス化でワークを加温し、炭素を拡散させる。 (現在の主流) 大量生産に適している、自動化可能、品質管理がしやすい、比較的安価、浸炭深さを自由に調整できる

 

真空浸炭焼き入れ

高温短時間処理が可能、表面に不完全焼入層が生じしにくい、複雑形状の浸炭が可能、SUSにも浸炭が (注目されている) 行える。ガス浸炭と比べ、浸炭のばらつきがない。自由度が高い分コストが高い

 

プラズマ浸炭焼き入れ

短時間処理が可能(ガス浸炭の約半分)、チタン・SUSにも浸炭が行える、浸炭層の制御が容易(注目されている) 放電で発生したプラズマの中で電気化学的作用によりイオンが表面に作用し浸炭。低温処理、低歪み、耐食性を損なわない時効硬化。宇宙分野で利用されている。

 

高周波焼き入れ

高周波電源に接続された加熱コイルに、電流を流しジュール熱によって鋼を加熱する。加熱された部分に水や冷却材(割れ防止剤等)で急冷し、焼き入れする。高い自由度、部分的、表面だけ硬くできる、深さを制御できる。 急速加熱、急速冷却ができるため、熱を加える時間が短い。よって変寸があまりない。コイルは手作りで行っている。(熟練者を要する)

 

メリット
  • 表面硬さが高く、優れた耐摩耗性
  • 表面圧縮残留応力が大きく、優れた疲れ強さ
  • 微細な組織で優れた延性、靭性
  • 変寸が少ない
デメリット
  • 処理時間が短いため、わずかな変更が大きく品質に影響する
  • コイルは職人が作るが職人が減少している
  • 凹部に昇温不足、凸部は過温になる
  • 6mm以下の部位は溶融の可能性があり処理が困難
高周波焼き入れの中でも数種類ある
  • 低周波:深くじっくり熱を入れる、深く硬化層を入れる
  • 中波層:中間
  • 高周波:浅く早く加熱する、表面だけが硬い
  • 有効硬化深さ1mm、全硬化層深さ2mm

 

窒化

窒化については 別記事 を参照してください。

 

クライオ処理をする目的

原子から緻密に並べるのが目的。音響関係の部品に多くに使われる。クライオは時間がたっていてもかけられる。すぐやる必要はない。

 

蒸着法

鋼の最表面層に化合物を密着形成させて耐摩耗性、耐食性などの特性を付与する方法。コーティング、めっき技術の一種

 

CVD:C(Chemical)V(Vapor)D(Deposition)

化学蒸着法。目的とする薄膜の構成元素を含むガスを加熱した素材に供給し化学反応によりきわめて薄い膜を堆積させる

 

熱CVD

熱エネルギーによって原料ガスに生じる分解生物や化学反応を利用し、薄膜を堆積させる方法。500~1200℃の成膜温度で処理を行う

 

プラズマCVD

高周波、マイクロ派等により原料ガスをプラズマ化させ、素材の表面に薄膜を析出堆積させる。300~600℃と低温で成膜処理を行う。

 

光CVD

紫外線やレーザなど、光のエネルギーによって原料ガスの分解・反応を促進し、薄膜を堆積させる

ポイント:CVDで生成可能な被膜=炭化チタン(TiC)及び炭窒化チタン膜(TiCN)

 

PVD:P(Physical)V(Vapor)D(Deposition)

物理蒸着法。目的とする薄膜の材料を、様々な方法で蒸発させ、その蒸発物質を物理的手法で素表面に堆積させ、きわめて薄い膜を生成させる

PVD:真空蒸着は真空中で成膜う材料を加熱し、蒸発または昇華させて、対象物表面に蒸発物質を堆積させ、薄膜を形成する方法。金属以外の有機物に多く用いられる、高純度の皮膜を得られる。密着力がやや弱い

 

PVDで生成可能な皮膜
  • TiN  :窒化チタン Ti(チタン)+N(窒素)
  • TiCN :炭窒化チタン Ti(チタン)+C(炭素)+N(窒素)皮膜の重ね方により色が異なる。
  • TiALN:窒化チタンアルミ膜 Ti(チタン)+AL(アルミ)+N(窒素)
  • CrN  :窒化クロム膜 Cr(クロム)+N(窒素)
  • DLC  :ダイヤモンドライクカーボン Diamond Like Carbon(ダイヤモンド状カーボン)

 

イオンプレーティング

蒸発物質をプラズマに通過させることで+の電荷をもたせた対象物に衝突させて薄膜を堆積させる。

 

以上です。

 

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