ここでは 「ガルバノスキャナを使ったレーザー溶接」 について基礎知識をメモしています。
ガルバノスキャナを使ったレーザー溶接
ガルバノスキャナを使ったレーザー溶接は、ガルバノミラーと呼ばれる高速で動くミラーを2軸制御し、レーザー光を高速かつ高精度に走査させることで溶接を行う技術です。
レーザー溶接の仕組み
- レーザー光源:ファイバーレーザーやYAGレーザーなどのレーザー光が発振されます。
- ガルバノスキャナ: 2つのガルバノミラーが、それぞれX軸とY軸方向に高速で回転します。これらのミラーの角度を精密に制御することで、レーザー光の照射方向を瞬時に変えることができます。これにより、複雑な形状や複数の箇所への連続的な溶接が可能になります。
- 集光レンズ:ガルバノスキャナを通過したレーザー光は、集光レンズによってワーク表面に集光され、高いエネルギー密度を得ます。
- 溶接:集光された高エネルギーのレーザー光がワークを瞬時に加熱・溶融し、接合します。
どのような溶接ができるか
ガルバノスキャナを用いたレーザー溶接では、以下のような溶接が可能です。
- 高速・高精度溶接:ミラーの高速制御により、従来のレーザー溶接に比べて高速で、かつ精密な溶接が可能です。微細な部品や複雑な形状の溶接に適している。
- 非接触溶接:レーザー光を照射するため、ワークに直接接触することなく溶接できます。これにより、ワークへの機械的な負荷を低減し、変形を抑えることができる。
- 多様な溶接形状:ガルバノスキャナによるレーザー光の走査パターンをプログラムで制御することで、点溶接、線溶接、円溶接、複雑な形状の溶接など、様々な溶接形状に対応できます。
- 異種材接合:エネルギー密度が高いため、融点の異なる金属同士や、金属と樹脂などの異種材料の接合も可能。
- 薄板溶接:熱影響範囲が小さいため、薄板の歪みを抑えた溶接に適している。
- リモート溶接:ガルバノスキャナと集光光学系を組み合わせることで、ワークから離れた位置からレーザー溶接を行うことができる。これにより、ロボットとの組み合わせによる自動化が容易になる。
【補足】ワークへの機械的負荷の低減とは
ワークへの機械的な負荷とは、物体に対して外部から加えられる力のことを指します。具体的には、以下のような種類の力や作用が考えられます。
- 引張力(引っ張る力):物体を растягивать ように作用する力。
- 圧縮力(押し縮める力):物体を押し縮めるように作用する力。
- せん断力(ずらす力):物体の一部分を別の部分に対して平行にずらそうとする力。
- 曲げモーメント(曲げる力):物体を曲げようとする回転力。
- ねじりモーメント(ねじる力):物体をねじろうとする回転力。
- 衝撃力(瞬間的に加わる大きな力):短時間で急激に加わる力。
振動(周期的な力の繰り返し): 一定の周期で繰り返される力。
ガルバノスキャナを用いたレーザー溶接が「ワークへの機械的な負荷を低減する」というのは、溶接プロセスにおいて、ワーク(溶接される材料)に直接的な物理的な接触や力を加える必要がないため、溶接による変形や損傷のリスクを減らすという意味合い になります。
従来の接触式の溶接方法(例えば、抵抗溶接など)では、電極でワークを挟み込んだり、溶接棒を押し付けたりするため、ワークに機械的負荷が加わります。これによって、ワークが変形したり、溶接部にストレスが残ったりする可能性があります。
一方、レーザー溶接は光エネルギーを利用して溶接を行うため、ワークに直接触れる必要がなく、機械的負荷を大幅に低減できます。 これが精密な部品や薄い材料の溶接において特に重要な利点となり、利用されている理由になります。
非常に質の高い溶接を実現
溶接を評価する上での品質項目は以下の通りです。
- 強度が高い:必要な強度を十分に満たしており、外部からの力や負荷に対して破損しにくい。
- 信頼性が高い:長期間にわたって安定した品質を維持し、予期せぬ不具合が発生しにくい。
- 外観が優れている:仕上がりが美しく、スパッタ(溶接中に飛び散る金属粒)や歪みが少ない。
- 欠陥が少ない:気孔(ブローホール)、割れ(クラック)、未溶着などの溶接欠陥がほとんどない、または許容範囲内である。
- 寸法精度が高い:設計された寸法や形状に対して、誤差が少ない。
- 耐久性が高い:環境変化や腐食に対して強く、長持ちする。
主な用途例
- 自動車産業:車体部品、電子部品などの溶接
- 電子部品産業:小型コネクタ、センサーなどの微細溶接
- 医療機器産業:精密機器の溶接
- 航空宇宙産業:薄板部品、異種材接合
- 電池産業:電極、バスバーなどの溶接
以上です。