今日は「出来ない事をクリアする喜びを共有することがものづくりにおける最高の喜び」についての話です。
先日、約1年掛けて仕上げた 機械の一部ユニットを納品 してきました。
その機械ユニットは、ある機械メーカーが作ったライン設備の一部改造のお仕事だったんですが、そのユーザーであるお客様の要望が機械メーカーに届かない部分の改造を私が現場スケッチから始め、設計、組立をして納品したんです。楽しくない仕事も過去多く経験してきた私ですが、今回のお仕事では ものづくりの面白さに改めて触れた気がした ので、その感じたことをメモしておこうと思います。
誰か特定の人に向けた記事ではない上、少し長い記事になりますが、製造業・ものづくりを通じて得られた良い体験を 製造業で働く方々と共有できれば幸いです。
ものづくりで得られる共感
どんな案件だったか
今回の案件は冒頭で少し書いたように、既存設備の改造案件でした。
その既存設備を扱うお客さんでは、その機械で改造したい部分があったんですが、既存メーカーでは対応が難しい内容 でした。 技術的に難しいというより、他品種化対応の部分ユニットを作るのですが、完成までの手間が掛かる内容だったのでメーカーでの対応が難しかったんだと思います。
実際着手してみると比較的高精度なユニットであり、従来の固定部を可動できるようにしたり、試作を仮運用して細かい修正・微調整を行ったので、メーカーの「対応しない」という判断は適切だったのかもしれません。
量産から多品種化へのシフトは起きているんですけど、あくまで新規の設備は多品種に対応させる みたいな感じで、既存の十数年使っている機械を多品種化するのは手間が掛り、技術的なハードルも高い のが問題だったんじゃないかと思います。
話を聞いたとき、私の中でも「結構手間の掛かる仕事だ」という理解はあったのですが、ここ数年 設計の話が浮上するが受注に至らない案件の殆どがこういったハードルの高い仕事だった ので、諦めるのは簡単ですが、どこかでチャレンジして成功実績を作らなければいけないというのは頭にあったんです。
もちろん「お客様が困っているから」という理由もありますが、お仕事を繋いでくれた私の直接のお客様に喜んでもらえれば・・・ という思いで受注しました。 直接のお客様は商社さんですが、現場の声を聞き、その問題を解決できる所に話を繋いだり商品を紹介する中で、こういった 無理かもしれないけどやりたい案件 というのを聞いている商社さんも多く、その問題をクリアできる商社さんはそんなに多くないんじゃないかって思っています。
この問題を私がクリアできれば今までと違った形の受注が生まれるかもしれないという希望もありました。
期間中に感じたことと、わかったこと
今回の設計は、
- 既存のスケッチ、他調査
- 既存ワークと他品種もできる用に設計
- 計画打ち合わせ
- 試作(1回目)
- 単体評価 → 修正設計
- 試作(2回目)
- 生産ラインで評価 → 修正設計
- 製品版製造納品
ざっくりこんな流れでしたが1年掛かりました。
私がメインとして設計している仕事は 試作無し一発合格を目指す専用機械で、主に組立・加工系が多い んですが、今回はプラン決め、試作から徐々に詰め、 ノウハウを溜めることで完成まで持っていった のでいつもの仕事とパターンが違いました。
専用機を頻繁に設計する設計者さんからみると 試作からじっくり機械を作れるなんてとても羨ましい体験だと思います。
私が普段しているお仕事では、 一般的に購入者の方が立場的に強い ので、価格の面も、要求する内容も購入者に言われるまま進んでいくことが多いです。
そして初めての機械一発合格を求められます。
こちら側の 営業を含めた提案の仕方によって購入側の立場が強くなる事が殆どかもしれない ですが、今回のユーザーは逆で、「問題・課題をなんとか解決してほしい」というスタンスだったので、こちらも正直に 改造ユニット製作においての懸念や、「正直出来るか解らない」とまで言える関係を始めに持てていた のが良かったと思います。
試作を繰り返す中でも、エンドユーザさんは丁寧な対応をしてくれました。
出来ない事をクリアする喜び
僕はなぜこの仕事を選んでるんだろうか。
元々文系だった僕は ニュートンすら解らない所から技術者をスタートしているから、振り返れば なんでここまで続けてきているのかすら解らないと気付きました。
初めてCADをさわった時からしばらくは、CADというツールを学ぶ事が楽しくて、小さい事から設計するようになった頃には、周りが言っていることの意味が解ってきたのも成長を感じて嬉しかった記憶がある。
4年ほど経つと会社を変えて新しい技術を学ぶ。
自分が 役に立っている実感を持てたのが「おかげで助かった」とか「教えてくれてありがとう」とかいう仲間からの言葉 だった。
ある程度技術がついてきた頃には 我が出てきて会社にもわがまま言ってしまったり、職場を変えたり、色々な失敗を繰り返した。
そんな経験を積みながら自分も成長してきたのか、「ものづくりに関わる人全員が幸せであるべきだ」というベースが僕の中に出来て、人を大切にするお客様と長くお付き合いするようになってきていた。
ものづくりをする全員、直接働く人の家族も含めてです。 今回の仕事は
- エンドユーザさんにとっての成功
- 直接のお客様(商社さん)にとっての成功
- 私にとっての成功
今まで 出来なかった事の成功が重なって、大きな喜び になりました。
その喜びを共有する事
出来ないと半分諦めていることって製造業ではよくあるというか、特に自動化においては諦めてしまいそうになる案件は沢山あります。
エンドユーザさんも出来ない事が出来るようになって次のステップに進んで、私たちも実績が出来た。 僕らものづくりに関わる日本人は特に騒がない ので、成功してもスマートな表現になりがち。 年も近いエンドユーザさんに「やったね!めっちゃ嬉しい!」なんて言えません。 静かながらも、成功した喜びを共有できたのが本当に嬉しかったです。
ここで思ったのは、 ものづくりってお客さんの姿勢も作品の出来映えに影響してくるんだな って、ことです。
僕が理想とするものづくり
ここ最近というか、ものづくりって お客様が一番偉いみたいな構図 があってエンドユーザーさんがこちら側に対して 仕事出してやるから設計してよ っていう雰囲気があるんですよね。
もちろん今回みたいに私たち側を大切にしてくれるお客様もいますから一概には言えません。
オリジナルの機械の購入経験が増えてくると仕様書でのしばりが多くなってきて、エンドユーザさんが一緒に取り組む姿勢が薄れてきます。 仕様書に書かれていることを満足させるのは当然目指す目標ではありますが、価格以上の要求を求められることもあるので難しい。
「だったら受注しなければいい」
そう言われたら私もそう思うんですが、それでも受注しないといけない環境が多いのも事実。
中には仕様書と一緒に過去の実績から弾き出した購入金額を提示してくるエンドユーザさんもいますが、適切な価格に見えないものが多い。 それでは機械を作っても皆が幸せになれないと私は思ってしまいます。(これは私の目標に対する現実の話です。不快に思う方がいらっしゃいましたらごめんなさい)
これから先、我々提供側の人口が増える希望が薄い中、今後この構図が変わってくる と思いますが、ものづくりに関わる全員が幸せであるべきなのはいつまでも変わらないです。
今ではガチガチにカバーで囲まれる機械も 昔は剥き出しで許された、 今では仕様書でがんじがらめにされている機械も昔は雑でとにかくゴツく、それで良かった。 昔のものづくりと今のものづくりは違うし、これからも変わっていくとおもいます。
今回 失敗しても良い前提でものづくりが出来たこと、そして今まで出来なかった事の成功・共有、そしてそれに対してしっかりと報酬を頂けたことがとても良かった です。
最後に
今回お仕事させていただいたエンドユーザさんからは、引き続き別の案件も頂いています。 ただ、これは本当に出来るか解らない案件なのでどんなものをエンドユーザさんに提供できるか楽しみです。
今回は私の環境でのお話でしたが、ものづくりに関わる皆さんにとって、組立・加工・営業総務・人事、色々な形の面白さがあると思う ので、いつか色々な人の話しを聞いてみたいものですね。
以上です。
・関連記事:機械設計の話