今日は「機械の安全を確保するための基礎知識」についてのメモです。
私たちは機械そのものの安全や、周辺環境が持つ危険性の排除に努めて設計をする必要があります。 この安全性については、製造対象物のカテゴリーや各メーカーごと定めている設計ルールがあるために設計者ごとの認識もバラバラであると考えています。
また、機械というのは基本設計・構造メカ設計・電気設計(実装)・ソフトのトータルで安全を考える必要があるので、全ての安全を簡単に確保できるというものでもないです。
私たちが安全性を求めて設計する理由は小さな災害をも防ぎ安全に生産するためですが、 ここでは、メカ設計がどこに意識していくべきなのかについて最低限理解しておくと良いキーワードと簡単な説明をメモしておきます。設計初心者の方は是非参考にしてみてください。
安全な設計指針
まず先に、安全性に関するキーワードを把握します。
①安全性手法(分類)
①-1:フェールセーフ
機械の一部に故障があった場合に安全側に動作させる手法。
①-2:バックアップ
主たる機能の後方で待機し、主たる機能の故障時にその機能を代行させる手法。
①-3:フェールソフト
機械の一部に故障があった場合に機能が低下しても機械全体(機能)を停止させない手法。
①-4:多重系化
同一(同種)の機能を持った機械(ユニット)を多重に設置して切り替えや選択し使用する方法。
①-5:故障診断回復
機械の一部に故障があった場合に速やかに機能を回復できるようにする手法。
①-6:フールプルーフ
人が介在する状況で動作を誤りにくくしたり、誤った操作をしても安全側になるようにする手法。
①-7:ディレイディング
定格値より低い値で使用するなどの安全余裕を持たせて設計する手法。
①-8:危険側故障の低減
危険側の出力に結びつくような故障発生確率を下げる手法。
②安全な設計をするためにメカ設計側が最低限意識する事
私たちは上記の内容を展開し、設計段階で機械の安全性を確保していくんですが、実際には機械を作りながら気づかなかった危険性を把握して修正を行う事もあります(特に人が介在する場所は読み切れない動作が発生することがあるため)
一般的な安全性に関する情報は抽象的なことしか書かれていないのですが、ここからはメカ設計側が意識をもつべき具体的な内容(最低限意識しておくこと)をメモしておきます。 但し、これはあくまで私個人の意見ですので参考までにしてください。
②-1 動作中の故障による危険を防ぐ
考え方としてはフェールセーフです。運転中に異常や故障を生じた場合に自動的に安全になるような機構や構造にしておくという事を意識して設計します。 具体例としては
- 異常を検知したら物理的に止まる(止める)
- 異常を検知したら物理的に戻る(戻す)
- 異常を検知したら視覚的・表示的に信号を出す
などです。 一般的に出ている情報では 故障した時に何かが代用する多重系化やバックアップ手法とごちゃまぜに考える人もいますが、フェールセーフはその機構(ユニット)自身でどうにかする という意識をもって注意深く設計出来れば良いと思います。
もちろん、自身で絶対やらないといけないわけではなく、自身で出来るならフェールセーフも取り入れ、自身で不可能ならバックアップや多重系化と併用すると良いでしょう。
②-2 作業者の操作ミスと操作部の危険を防ぐ
考え方としてフールプルーフです。 作業者が誤操作した時に動かない、または操作できない状態にしてあるか意識して設計する事です。
例えばプレス機が良い例で、両手押しなどの手法もそれにあたります。(片方の手でボタンを押して動作した時にもう片方をつぶしてしまう恐れがあるため)
この誤操作によって動く機械から人を守れるようにするには、誤操作が出来ないように操作位置を離したり、操作部にカバーを付けてワンクッション付けるというのも良い方法です。 このフールプルーフを用いる必要がある場所は主に1動作を止められない状況に用いられます。
とてつもない力で押すマシンは止められませんし、動作速度が速いマシンも急に止められません。
但し、これは作業員の操作をメカ的に邪魔してしまうので、物理的というよりはエリアセンサ・ライトカーテン・ドア開閉センサなどのセンシングで対応するなども主な手法として用いられています。(人がそのエリアにいたら機械も止まるしスイッチも反応しない仕組み)
②-3 安全装置を増やす
考え方として多重系化に当たると思いますが、安全装置などが2重・3重になっているかなどの手法です。 その1部が壊れることで重大な事故につながる場合は、計算上の安全率の他に、物理的なストッパーを設けるなどが必要です。
身近な所で例えると電動アクチュエータなどで別途取り付けるメカストッパーとオーバーランセンサのようなことで、センサー+物理ストッパーで多重に安全装置を設けるという手法です。
また、エアシリンダなどで持ち上げた状態を維持する時の故障を考えて、持ち上げたら維持している間別駆動のストッパーを入れる事や、モーター+ボールねじなどの駆動もモーターのブレーキが壊れた時を想定し別途ブレーキを取り付けるなどの方法です。(安全に厳しいユーザーはやっている)
これを書くと「そんなこと言ったらすべてに必要じゃん」と思うんですが、この安全性は人に被害を及ぼすか及ぼさないかが選択の目安になってきます。 遥か遠くで機械が一部壊れて落ちました。 で済むなら不要ですし、その一部が壊れた影響で他に重大な故障や修理コストを必要とするなら安全装置を増やすことは必要だと考えます。
②-4 適切な選定と信頼性の高い購入品を利用する
意外と盲点なのがこの適切な選定と信頼性の高い製品を利用するということです。
機械設計者が身近に扱う購入品でわかりやすいのが、モーターと駆動部を結ぶカップリングかと思います。 エアシリンダなど使い方が間違えていなければ故障というより動作しないという現象になりますが、このカップリングは種類が豊富な上、数値だけを見ていると様々な用途に使える為、間違った選定を起こし大事故につながる可能性があります。(カップリングが割れるなど)
また、機械の故障は使用している購入品や鋼材・材質によって発生頻度も変わるので、メカ設計者は最新の注意を払うべきだと考えます。
最後に
これまで機械の安全性を上げる方法について書いてきましたが、設計者として運用中の故障もそうだけど機械を組み立てるときの安全性も考慮して設計出来ると良いと思います。
解りやすい所で言えば重たいものを取り付ける場合は載せてから取り付けられるように設計するなどです。 自分もそうですが設計者の多くが自分で機械を組み立てないので取付時の危険性や調整の難しさに意識が行きにくいです。
機械はバラバラな部品をそれぞれで引っ張り合って押し合って固定されていくので歪や一定の場所に大きな負荷が掛かったり、組立の程度も寿命(故障頻度)に影響してきます。 つまり最適な組立が保証できるかというのもメカ設計者の設計次第であると言えます。
こう偉そうに言う私が完璧かというと全然そうでもないので引き続き頑張っていこうと思います。
以上です。