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モーターを使った駆動選択要素と実際

 

今日は「モーターを使った駆動選択要素と実際」についてのメモです。

 

機械で選択される駆動種類はお客様の要望も考慮に入れるんですが、前提としてその機械に要求される品質を満足できる駆動系を選択する必要があります。

 

押す、乗せて運ぶなど駆動対象をどう扱うかでもベストな駆動方法は変わってくると思うのですが、ここではそれらの選択がスムーズに行くよう、各駆動系の特徴と少し深めの情報をメモしています。

 

特に設計序盤ではここの選択がとても重要になるので参考にしてみてください。

モーターを利用する駆動方法

ボールねじ駆動

まず機械構造で思いつくのが モーター+ボールねじ駆動 です。 これはモーターの回転運動を直線運動に変換する機構で、多くの機械に採用されています。

 

この機構は 構造物自体の摩擦が少なく、高い制御精度(位置精度)を実現できる駆動方法です。 ボールねじには、転造ボールねじと精密ボールねじの2種類があって、その機械に求められる停止制度(繰り返しの位置精度)の要求度合いで選択していきます。

 

ボールねじは、ねじとナット(ボールがねじ山の代わりになっている)の仕組みを応用して回転運動を直線運動に変換していますので大きな推力を発揮できるメリットがあります。 また、内蔵されているボールの循環方式やグリス供給システムなどボールねじメーカー各社で特徴があります。

 

構造内でバックラッシ(ネジとナットの間の隙間)が多少ありますが、そのバックラッシを吸収している与圧仕様というものもあるので 高効率、高推力、長寿命用の駆動方法と言えます。

 

使用上のデメリットとしては他の駆動系と比べてどうしてもコストが高くなってしまいますが、これは要求される品質に対する妥当なコストであると考えると良いです。 とはいえこの駆動が完璧かというとそうではなく、高速運動や長距離には不向きです。

 

高速運動という表現が曖昧なのですが、どういうことかというと、ボールねじはモーターの回転を直線運動に変換するので、例えば高推力を求めようとするとリードの少ないボールねじ(目の細かいボールねじ)が必要ですが、そうなるとモーターの回転速度を上げる必要が出てきますので、一つはモーターの限界によって動作速度に限界が来るという事です。

 

次にボールねじ自体にも危険速度というものがあって限界が決まっています。 これは使用する製品固有の値です。

 

そして長距離に関してですが、これも曖昧なので具体的に言うと、長距離=ねじが長い という事ですので軸方向への荷重による座屈がおきたり、支点距離がとおくなるので組立精度も厳しきなり、固定方法などの設計ノウハウ長距離になるとより必要になってきます。

 

以上の事をまとめると、ボールねじ駆動は高効率、高推力、長寿命用の駆動方法だが高速運動や駆動距離で使用が出来ない場合が出てくるから完ぺきではないという事を意識しておけばよいと思います。

 

 

ラック &ピニオン駆動

この機構は歯車(ピニオン)がラック上を転がって直線運動する機構です。

 

この駆動の一番のメリットは 長距離の運動が可能で、分解しやすく解りやすい構造という点です。 ラック&ピニオンの能力を左右するのがモジュールです。 モジュールというのは、ピッチ直径円(歯車の基準円)と歯数の比として定義されます。そのモジュールが同じ歯車とラックであれば、直径違いの歯車でも正しく噛み合います。

 

この機構はラック固定で歯車の付いたモーターが動いても良いし、モーター固定でラックが動いても良いので駆動構造を選べるメリットもあります。 但し、モーターが動く場合はケーブルベアなどの配線保護にも気をつかいます。

 

使用上のデメリットはバックラッシ(歯と歯の間に隙間)が出来るので精密な制御には向かない事が上げられます。  一部設計では歯車でバックラッシを消す設計をしているところもありますが、一般的ではないと思うのと、先ほどのモジュールが合えば歯車サイズが違っても取り付きはしますが歯面強さという歯の表面にかかる圧力や摩擦による摩耗に耐える能力を把握する必要があり、歯面にかかる応力が許容値を超えると、表面が摩耗したり、剥離が生じたりする可能性がありますので歯面強さの設計・把握は重要です。

 

そして最後に騒音です。 ラック&ピニオンは適切な潤滑がないと騒音が発生します。

 

ラック&ピニオン構造を総合的に見ると、長距離に向いていて構造がとてもシンプル(結果的にコストも安い)なのでとても良い構造ではありますが、歯車取付部の精度や歯車の潤滑及び潤滑油(グリス)の垂れの影響・保護、そして駆動対象のケーブル保護を考えると慣れていない人には案外難しい構造となります。

 

その為、誤差が許容される構造に採用すると良いと思います。

 

そしてラック&ピニオンは万が一の暴走を考えると個別にストッパーを設ける必要も出てくるのでオーバーランセンサーなどの知識も必要になってきます。

 

※このオーバーランに関しては他の駆動でも言えるんですが、他の駆動は最悪ストッパーとなる構造物が前後に存在するため、ラック&ピニオンにおいては特にストッパーへの関心が必要だという意味です。

 

 

タイミングベルト駆動

タイミングベルト駆動はコンベアのイメージに近い機構になります

 

 

ベルトを使って動力を伝える機構なので低騒音、振動が少なくスムーズな駆動が出来ます。 メンテナンス性では潤滑が不要で、性能としてバックラッシがないです。(張力の調整による)

 

つまり、駆動物が軽量でベルトが伸び縮みしない状況を作れれば高精度な動作が長距離で可能となります。 また、傾向として構成部品が軽いため、モーターへの負荷が低いというのも特徴的です。

 

但し、デメリットというか注意点があり、ベルトの伸びる可能性やチェーンなどと違い耐久性が低いのは注意が必要です。 高負荷(高質量のものを急加速させるなど)搬送には向いていないと言えます。

 

ですので、タイミングベルト駆動の場合は比較的軽めのものを長距離搬送する動作に向いていると言えます。

 

 

 

チェーン駆動

次にチェーン駆動です。 これは説明が不要だとは思うんですが要点をまとめます。

 

チェーンは一部を除いて金属製となるの耐久性が高く大きな伝達能力を確保出来ます。 また耐天候などの一部屋外環境下でも動作が出来るのが特徴です。チェーンを駆動するモーターは基本的にインダクションモーターなどの一方通行に回転する用途に利用されますが、チェーン駆動はあくまで載せて一方へ搬送する用途に限られると思います。

 

また少し特殊ではありますが、大きな昇降装置などはチェーンを輪にせず吊り上げ用に使うなどの方法も取られます。

 

デメリットは、やはり時に大きな振動をともなったり騒音がすることです。 チェーン駆動の場合は基本的にチェーンガイドをこすりながら駆動するので擦れ音や擦れる部分へは焼き入れの対応や低摩擦樹脂のガイドを使うなど、チェーン周辺の設計に気を使います。

 

 

 

カム駆動

次にカムを使った駆動になります。 カムは現代の機械で使われることが少なくなってきていますが、カム駆動はその形状によって一定の運動(周期)を繰り返す事ができます。

 

高精度な動作制御が出来るのですが摩擦が起きるので耐久性が高くなるような設計で長寿命が確保出来れば故障が少なく運転が可能になります。

 

カムを扱うに当たっての注意点は多様な動作が可能な反面で設計が複雑になります。 そしてカムは製造コストが高いこと、そして一度セッティングされたカムは周辺の連動するユニットも関わるために設計変更が簡単ではありません。

 

とはいえ単独で使う事も出来るので便利な機構です。

 

 

リンク機構

リンク機構はメカが大好きな人にはたまらないと思います。 

 

リンクの便利な所はカム同様一定の運動(周期)を繰り返す事ができます。

 

リンク機構はまさにそのリンク部の設計が難しい面があります。 リンクとは主に回転方向へ動く物を組み合わせていくので横方向からの負荷には基本的に耐えることは出来ませんので、真横にしたリンク機構は回転方向(ラジアル負荷)とスラスト方向の負荷も考慮する必要があります。

 

そして、カム同様に一度セッティングされたリンクは周辺の連動するユニットも関わるために設計変更が簡単ではありません。 どこに調整機構を設けるか というのが難しいです。

 

 

最後に。

最後に最近の生産設備事情について思うことをメモします。

 

ここ数年で従来のメカ機構というよりも、その特徴を内蔵したアクチュエータを購入することが増えました。

 

利用者の多いところで言えばIAIさんのロボシリンダなどです。 ロボシリンダなどは構造が上記の「モーター+ボールねじ」の構造を基本としてラインナップがありますが構造限界でベルト仕様のロングタイプなどもあります。

 

IAIさんはモーター付が基本ですが、SMC、CKD、THKさんなどは各メーカーのモーターが取り付けられるようにアタッチメント選択できます。 こういったアクチュエータは便利なんですが、古くからある駆動方法の特徴を理解しているからこそ使いこなせるんだと思います。

 

例えばこういったアクチュエータでものを運ぼうとすると、基本的には真上に重心が来るように設計しないと寿命が短くなります。  かといってLMガイドの間にモーター+ボールねじを持ってくるレイアウトをしても過剰だったりします。

 

実際の設計では 何をどうしたいか が先に来て その為にはどうすれば良いか が次に来ます。

 

  • 何をどうしたいか:鉄の塊100㎏を2m先まで3秒くらいで運びたい
  • その為にはどうすれば良いか:載せて搬送したい(載せた方が良いのではないか)

 

この時点で負荷(必要な駆動力)というものが大まかに計算できますので、次にそれを満足できそうな駆動方法を選択します。

 

その100㎏のものを3秒で2m運ぶ駆動は実際何でもよい(実際ボールねじはここでリタイヤする事が多い)のですが、ここでサイズ感や機械設置環境が許すレイアウトが要素として加わってきます。

 

  • ワーク形状:鋼板である
  • 設置環境:屋外環境に近い

 

例えばこのような条件だったとすれば、長距離に延ばしやすく屋外環境に強そうなチェーンかラック&ピニオン構造が良いのでは? となりますね。

 

全て逆だったとしたらどうなるでしょうか

 

  • 何をどうしたいか:樹脂の塊1㎏を1m先まで3秒くらいで運びたい
  • その為にはどうすれば良いか:載せて搬送したい(載せた方が良いのではないか)
  • ワーク形状:正方形
  • 設置環境:屋内

 

例えばこの状況ならボールねじという駆動方法も良いし、軽量物の搬送に有利で安価なベルトタイプのアクチュエータを購入しても良いと思います。

 

これよりさらに駆動距離が短い場合はリンクやカム機構なども候補に挙がります。

 

結局の所、駆動方法の選択は 答えは一つだろうけれどニアピンの回答でもその案件では正解の場合がある という事が言えます。

 

私が軽いものから重たいもの、小さいものから大きなもの、屋内や屋外、色々な環境で設計をしてきましたが、結局のところ、選定条件になる情報をどれだけ集められるかというのが駆動方法を見極めるポイントになり、その先の能力が足りる足りないという部分は設計者の計算能力に影響されるんだと思います。

 

その計算までは誰でも出来るというか、知らない計算でも勉強すれば出来るので難しくはないと思うんです。 ただ、あらゆる駆動方法を経験している設計者には経験値というものがありますから、一般的に選択される駆動方法でも経験を活かして「この場合はAよりBを選択すべき」とか「故障が少なくなるような構造設計をしたり、調整機構を付ける」などがノウハウになってくるんですよね。

 

大切だと思うのは、市販されているアクチュエータありきで考えることはやめて、状況を見極めて最適な駆動方法を選択する、そしてそれを正しく利用して設計するという事です。

 

 

そしてそれらが必要とされる設計者スキルじゃないかな?とも思うんです。

 

 

私は大量生産の時代ではなく多品種少量世代なのでカム構造は実は経験がかなり薄いです。 そういう事を考えると、実務で学ぶことが今後ない機構も出てくるんだろうなぁというある意味で危機感があります。

 

実際にどんな駆動があるのか、気になる方は過去に紹介した書籍を参考にしてもらえればと思います。

 

以上です。