熱対称構造を学ぶ!機械設計の精度向上ガイド

 

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当ブログでは、読者の皆様により分かりやすく情報をお伝えするため、AIツールを「文章の校正」に活用しています。

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ここでは、熱膨張対策の一つとなる 「熱対称構造」 についてのメモです。

 

機械の高精度化を追求する設計者にとって、熱による寸法変化や熱の影響で故障を誘発する原因を作ってしまうのは避けて通れない課題ですよね。  その解決策を探る中で出会ったのが「熱対称構造」という設計思想です。 しかし、いざ学ぼうとしても、その具体的な原理や設計への落とし込み方について、体系的にまとめられた情報がなかなか見つかりませんでした。

 

そこで今回は、私自身が熱膨張対策について調べ、学んだ内容を整理し、皆さんと共有したいと思います。 熱対称構造の基本的な原理から、主に加工機メーカーとなりますが、主要メーカーが採用する先進的な設計の事例、そしてシミュレーションを活用した実践的なプロセスまで、私と同じように悩んでいる方が「熱対称構造を設計できる」ようになることを目指してメモしています。

 

また、このメモは一番情報が多かった加工機を例にとって話を進めていきますが、一般的な機械でも使える設計思想があるので是非取り入れてみてください。

熱対称設計の原理と熱変位の基礎

熱膨張が引き起こす熱変位とは

高精度な機械を設計しようとすると、まず直面するのが温度変化によって材料が膨張したり収縮したりする「熱変位」という物理現象 です。  これが機械の加工精度に直接影響するため、この基本を理解することが必要です。

 

材料の長さがどれだけ変化するかは、線膨張の式(ΔL = α・L・ΔT)で表されます。  ここで、αは材料固有の線膨張係数、Lは元の長さ、ΔTは温度の変化量を示します。  この温度変化は、「熱伝導」「熱対流」「熱放射」という三つの形態で機械に伝わります。  例えばですが、モーターの熱が部品を介して伝わるのが熱伝導、工場の空調や潤滑油の流れで熱が運ばれるのが熱対流、そして高温の部品や直射日光から赤外線で伝わるのが熱放射です。

 

ここで特に注意したいのが、機械全体が均一に温まることよりも、部分的に温度が異なる「不均一な温度分布(温度勾配)」が生まれることでした。  均一な温度上昇であれば、全体が予測しやすく膨張するだけですが、温度勾配があると、構造体に反りやねじれといった、より複雑で予測が難しい変形を引き起こしてしまいます。  この予測困難な変形こそが、高精度な加工を目指す上での大きな壁になるのだと理解しました。

 

 

加工精度を損なう歪みの発生メカ

では、この熱変位がなぜそこまで問題になるのでしょうか。  調べてみると、単に寸法が伸び縮みするだけでなく、不均一な熱膨張によって引き起こされる、予測不能な「歪み」がより深刻な問題となるようです。  この歪みが、工具と工作物の正しい位置関係を狂わせ、加工精度を直接的に悪化させてしまいます。

 

例えば、機械の構造が左右非対称な場合を想像してみてください。  片側にだけ大きなモーターが設置されていると、その周りだけが局所的に熱くなります。  すると、熱くなった側だけが大きく膨張し、構造体全体が弓なりに反ってしまう可能性があります。  このような変形が起きると、工具の先端位置(TCP: Tool Center Point)が三次元的にずれてしまい、どの方向にどれだけずれるかを正確に予測するのは非常に難しくなります。

 

これに対して、機械全体が均一に温度上昇した場合は、全体が一様に膨張するだけなので、変形の動きは比較的シンプルで予測しやすくなります。  しかし、前述の通り、機械の中には様々な熱源があり、工場の環境からも熱の影響を受けるため、完全に均一な温度分布を保つのは現実的ではない ようです。

 

したがって、高精度を保つためには、熱変形そのものをなくすというよりは、不均一な熱によって生じる「複雑で予測不能な歪み」を、いかにして「単純で予測可能な変位」にコントロールするかが、設計の上で重要になってくるのだと分かりました。この考え方こそが、次に見ていく熱対称構造の有効性につながる鍵 となります。

 

 

機械内部に潜む様々な熱源

効果的な対策を考えるには、まず敵を知ることから、ということで、機械のどこから熱が発生するのかを整理 してみました。  調べてみると、機械の熱源は大きく三つのカテゴリーに分けられるようです。

 

内部発生熱源

機械が自分で動くことによって発生する熱 で、多くの場合、これが熱変位の最も大きな原因となります。

  • 駆動系コンポーネント:主軸モーターやボールねじ、軸受などは、動くときの摩擦や電気的なロスで常に熱を出しています 。特に主軸は、機械の中で一番大きな熱源になることも多いそうです。
  • 補機類:油圧ユニットや制御盤、クーラントポンプなども、見過ごせない熱源です。

 

加工プロセスによる発生熱

加工そのものから直接生まれる熱 です。

  • 切削熱:材料を削るとき、ものすごいエネルギーが熱に変わります。刃先あたりでは600℃から1000℃にもなることがあるそうで 、この熱は工作物や工具、切り屑に伝わります。特に工作物が熱を持つと、加工している最中に寸法が変わってしまいます。
  • 切り屑の管理:熱い切り屑が機械の上に溜まると、それ自体が新たな熱源となって、じわじわと機械本体に熱を伝えていきます。これは意外と見落としがちなポイントかもしれません 。

 

外部(環境)熱源

機械は工場の中に置かれているので、周りの環境からも常に熱の影響 を受けています。

  • 環境温度の変化:工場内の1日の温度変化や季節の変動で、機械全体が伸び縮みします。特に朝一番に機械を動かすときなどに、大きな寸法変化が起きやすいようです 。 理想は、年間を通じて20℃から24℃くらいに保たれた恒温室だと言われています 。
  • 直接的な環境影響:窓からの直射日光や、空調の風が直接当たる場所に機械を置くと、機械に不均一な温度分布ができてしまい、均一な温度変化よりも悪い影響が出ることがあります。

これらの熱源を知ることで、効果的な対策を立てるためのヒントが見えてくるように思います。

 

 

熱対称構造が変位を打ち消す仕組み

ここまでの問題を解決する鍵となるのが、今回のテーマである「熱対称構造」です。  この考え方がなぜ有効なのか、その仕組みを見ていきます。

 

熱対称構造の基本的なアイデアは、熱変形によって起きる問題を「複雑で予測不能な歪み」から、「単純で予測可能な変位」に変えてしまおう、という点 にあるようです 。  熱変形をゼロにするのではなく、その影響をうまくコントロールしようという、非常に合理的なアプローチだと感じました。

この仕組みを、立形マシニングセンタの主軸を支えるコラムを例に考えてみます。  もしコラムの形が左右非対称だったら、熱を持つと不均一に膨張して、主軸が傾いてしまいます。  これでは、工具の先端がどこにずれるか予測できません。

 

補足:主軸を支えるコラムとは(AIによる概要)
マシニングセンタのコラムとは、工作機械の本体を構成する「柱」のことです。ベッドから垂直に伸びる背骨のような役割を果たし、主軸頭やその他の機構を支持して機械全体の本体を構成します。特に門形マシニングセンタにおいては、門の形をしたコラムが2本あり、その間に主軸が配置される構造になっています。

 

一方、熱対称構造では、機械の精度にとって一番大切な基準軸(この場合は主軸の中心線)に対して、構造体の形や重さが左右対称になるように設計されます 。 このように作られたコラムでは、熱が発生すると、対称な位置にある部分が同じように伸び縮みします。

 

これをベクトルのように考えると、とても分かりやすいです。  主軸の中心を基準に、左側の部材が熱で横方向(+X方向)に動く力を発生させたとします。  対称な位置にある右側の部材も同じように熱を持つので、こちらは逆方向(-X方向)に動く力を発生させます。 すると、主軸の中心線上では、これらの力が互いに打ち消し合って、結果的に横方向へのズレはほとんどなくなります。

 

変位の主な動きは、予測しやすい主軸方向(Z軸方向)へのまっすぐな伸びに集中します。  このまっすぐな変位であれば、後で触れるソフトウェア補正などでコントロールすることが比較的簡単になります。  このように、熱対称構造は熱変形の影響をうまく相殺して、加工精度への悪影響を最小限に抑えるための、非常に賢い設計思想 なのだと分かりました。

 

 

メーカー事例で見る熱対称設計

主軸ユニットの対称レイアウト事例

主軸は機械の中でも特に大きな熱を出す部分なので、その周りの設計が熱対策ではとても重要になるようです。  いろいろな工作機械メーカーのカタログや技術資料を見ていると、主軸ユニットの設計に熱対称の考え方を取り入れた興味深い事例がたくさん見つかりました。

 

代表的な例として、ヤマザキマザック社の立形マシニングセンタに採用されている「左右対称形主軸ユニット」があります。  これは、主軸ヘッドの内部構造を左右対称にすることで、モーターや軸受から発生した熱が均一に伝わり、ユニット全体が予測しやすい形で膨張するように作られています。  もし構造が非対称だと、熱で主軸ヘッドが傾いてしまい、工具の角度に誤差が出てしまいますが、対称構造にすることでこの傾きを防ぎ、高精度な加工を可能にしているそうです(詳細はヤマザキマザック FJV seriesの製品ページ:https://www.mazak.com/jp-ja/products/fjv-bt40/ をご参照ください)。

 

また、DMG森精機社の立形マシニングセンタでは、主軸にエアや冷却油を送る配管を、主軸の中心に対して点対称に配置するという工夫 がされていることが分かりました 。  熱い、あるいは冷たい液体が通る配管が片側に寄っていると、それだけで熱のバランスが崩れてしまいます。  配管の通り道まで考えて対称性を追求することで、熱を均等に分散させ、主軸の熱変位を減らしているのですね(詳細はDMG森精機 NVX 5000 2nd Generationのニュースリリース:https://www.dmgmori.co.jp/corporate/news/pdf/2010_0910_nvx5000.pdf をご参照ください)。  これらの事例から、熱対称設計は単に外側の形を対称にするだけでなく、内部の構造や部品の配置まで含めた、総合的な設計思想なのだということがよく分かります。

 

 

コラム形状の工夫と熱平衡の実現

コラムは主軸ヘッドを支える、機械全体の骨格とも言える重要な部分です。 そのため、コラムが熱で変形すると、機械全体の姿勢が変わってしまい、大きな加工誤差につながる可能性があります。各メーカーは、このコラムの形状にも熱対称設計の考え方を取り入れているようです。

 

例えば、門形のマシニングセンタでは、左右のコラムの形や重さ、そして内部のリブ構造まで同じに設計するのが理想とされています。  こうすることで、工場の温度変化や内部の熱源からの影響を左右で同じように受け、機械全体が傾くのを防ぐことができます。  ヤマザキマザック社のVORTEXシリーズでは、「熱対称構造の主軸・コラム」が採用されていて、長時間運転しても安定した機械姿勢を保てるのが特長 だそうです(詳細はヤマザキマザック VORTEX HORIZONTAL PROFILERの製品ページ:https://www.mazak.com/jp-ja/products/vortex-horizontal-profiler/ をご参照ください)。

 

さらに一歩進んだ考え方として、オークマ社が提唱する「熱平衡構造」というものがありました 。  これは、単に形を対称にするだけでなく、熱の伝わり方自体を均一にしようという設計思想です。  具体的には、熱を出す制御盤をコラムの後ろに置き、一方で前のカバーの形や材質を工夫して空気の流れを良くして、コラムの前後で温度差ができないように設計されています。  このように、構造部品だけでなく、カバーのような部品の配置まで含めて機械全体の熱のバランスを管理することで、より高いレベルの熱安定性を目指しているのですね(詳細はオークマ サーモフレンドリーコンセプトの紹介ページ:https://www.okuma.co.jp/onlyone/thermo/ をご参照ください)。

 

 

ボールねじ冷却と配置の重要性

ボールねじは、モーターの回転を直線運動に変えて、テーブルや主軸を正確に動かすための、とても大切な部品です。  軸が高速で動くと、ナットの部分で大きな摩擦熱が発生し、この熱でねじ軸自体が伸びてしまいます。ボールねじが伸び縮みすると、それがそのまま位置決めのズレにつながるため、熱対策が欠かせません。

 

この問題に対して、とても効果的な方法の一つが「ボールねじの軸芯冷却」だそうです 。  これは、ボールねじの軸の中に空洞を作り、そこに温度管理された冷却油を流す技術です。  熱の発生源である軸の中心から直接熱を取り除くことで、ねじ軸全体の温度上昇を抑え、熱による伸びを最小限に食い止めます。 DMG森精機社の複合加工機NTシリーズなど、多くの高精度な機械でこの技術が採用されていることが分かりました(詳細はDMG森精機 NTシリーズのニュースリリース:https://www.dmgmori.co.jp/corporate/news/pdf/2005_0715_NTSeries_j.pdf をご参照ください)。

 

また、構造設計の面からは、ボールねじの配置も重要になります。  例えば、一つの軸を2本のボールねじで動かす「ツインドライブ方式」の場合、機械の重心に対して2本のボールねじを対称に置くのが基本です。  こうすることで、それぞれのボールねじから出る熱が構造体に与える影響が均等になり、熱による構造体の歪みを防ぐことができます。  このように、部品単体の冷却技術と、構造全体での対称な配置を組み合わせることが、送り軸の精度を高めるためには不可欠なのだと理解しました。

 

 

オークマ社のボックスビルド構造

オークマ社が提唱している「サーモフレンドリーコンセプト」を調べていると、「ボックスビルド構造」という興味深い設計思想に出会いました 。  これは、「熱による変形が避けられないなら、その変形をできるだけ単純で予測しやすいものにしよう」という考え方に基づいている そうです。

 

具体的には、コラムのような主要な構造物を、複雑な形ではなく、単純な四角いブロックを積み上げたような形で作ります。  この設計の一番のメリットは、熱を受けたときに、ねじれたり傾いたりといった複雑な変形が起きにくい点にあります。  熱で膨張するときも、まるで望遠鏡がまっすぐ伸び縮みするように、変形の主な動きが単純な一方向の直線的なものになります。

 

このような「素直な熱変形」は、数学的なモデルで表現するのがとても簡単です。  そのため、機械に取り付けられた温度センサーの情報から、現在の変位量を正確に予測し、CNC(コンピュータ数値制御)装置でその動きを打ち消すような補正をかけることができるようになります 。

 

熱対称構造が変位の「方向」をコントロールして影響を打ち消すのに対して、ボックスビルド構造は変形の「動き方」を単純にして補正しやすくするアプローチ、と言えるかもしれません。  この賢い設計思想によって、オークマ社の機械は様々な工場の環境でも高い寸法安定性を実現しているのですね(詳細はオークマ サーモフレンドリーコンセプトの紹介ページ:https://www.okuma.co.jp/onlyone/thermo/ をご参照ください)。

 

 

ニイガタ社のBox-in-Box構造

究極の剛性と熱安定性を目指した設計思想 として、ニイガタマシンテクノ社が採用している「BOX in BOX®(二重ボックス構造)」というものがありました 。  この構造は、名前の通り、主軸やコラムといった機械の精度に直接関わる大事な可動部分が、それを取り囲む外側の固定された箱型の構造体の中に入っているのが特徴です。

 

このユニークな構造は、熱に対していくつかの強力なメリットをもたらすようです。

 

一つ目は、「熱的な遮断」です。  外側の箱型構造が、まるで断熱壁のように働き、工場内の温度変化や直射日光といった外からの熱の影響から、中の重要な部品を守ってくれます。

 

二つ目は、「熱容量の増大」です。  この大きな二重構造は、機械全体の熱容量(熱を蓄える力)を非常に大きくします。これにより、モーターからの急な発熱や加工中の短期的な熱の影響が和らげられ、機械全体の温度変化がとても緩やかになります。

 

そして三つ目は、「構造的な安定性」です。  この構造がもたらす圧倒的な剛性は、加工時の力による変形だけでなく、熱による変形も最小限に抑えます。  これらの効果が合わさって、長期間にわたって高い精度を保ち続ける「永続的空間精度」を実現しているそうです (詳細はニイガタマシンテクノ ULTYシリーズの製品ページ:https://n-mtec.com/smarts/index/105/ をご参照ください)。

 

もちろん、この構造はコストや機械の設置スペースが大きくなるという側面もあるようですが、最高の精度と安定性が求められる分野では、非常に有効な設計アプローチなのだと感じました。

 

 

熱対称設計を実践するプロセス

構造設計を補完する冷却技術

優れた熱対称構造は、熱に強い機械を作るための頑丈な土台になりますが、それだけでは現代の高性能な機械に求められる精度を達成するのは難しいようです。  構造設計の効果を最大限に引き出すためには、熱を積極的にコントロールする「冷却技術」と組み合わせることが不可欠だと分かりました。

 

ジェイテクト社の資料によると、熱対策のアプローチは「抑制する・遮断する・補正する」の三本柱で整理できる そうです(詳細はジェイテクト エンジニアリングジャーナル:https://www.jtekt.co.jp/engineering-journal/assets/1009/1009_14.pdf をご参照ください)。この中で冷却技術は、熱が機械全体に広がる前に発生源で取り除く「抑制」にあたり、最も効果的な戦略と言えます。

 

 

コンポーネント直接冷却

最近の工作機械は、主な熱源に対してきめ細かな冷却システムを備えています。

  • 主軸冷却:高速で回転する主軸は、温度管理された冷却油をハウジングの周りに流すジャケット冷却や、さらに高性能なものでは軸の中心に直接冷却油を流す軸芯冷却によって、熱による伸びが厳密に管理されています 。
  • ボールねじ冷却:前述の通り、高速で軸が動くことによる摩擦熱を抑えるため、ボールねじの軸芯を冷却する方法が有効です。

 

作動流体の温度管理

クーラントや潤滑油など、機械の中を循環する液体の温度を精密にコントロールすることも、非常に大切 です。  「オイルマチック」に代表されるような高精度なチラー(冷却装置)を使って、これらの液体の温度を目標値に対して±0.1℃といった高い精度で保ちます。  例えば、ダイキン工業の「オイルコン」は、空調で培った技術を応用して高精度な油温制御を実現しているそうです(詳細はダイキン オイルコンの紹介ページ:https://www.hyd.daikin.co.jp/special/oilcon をご参照ください)。  これにより、液体自体が熱源になったり、逆に機械から熱を奪いすぎたりするのを防ぎ、機械全体の熱のバランスを安定させるのですね。

 

これらの冷却技術は、設計の最初の段階から構造設計と一緒に計画すべき要素であり、後から付け足すのは難しいものだと感じました。

 

 

ソフトウェア補正による誤差の相殺

最高の構造設計と冷却システムを使っても、やはりわずかな熱変位は避けられないようです。  この残ってしまった誤差を取り除くための最後の砦が、センサーとソフトウェアを使って誤差をリアルタイムで予測し、積極的に打ち消す「デジタル補正技術」です 。

 

この技術は、基本的に次のような流れで動いていることが分かりました。

  1. 計測:機械の重要なポイントに置かれた複数の温度センサーが、刻一刻と変わる機械の熱の状態を測ります。
  2. 予測:測った温度の情報と、工具の先端で実際に起きる熱変位との関係を数式モデルにしておき、それを使って現在の熱変位量を予測します。
  3. 補正:CNC制御装置が、予測した変位量とちょうど逆方向の補正値をリアルタイムで計算し、各軸の動く指令に加えます。これにより、物理的なズレが指令の修正によって打ち消され、工具の先端は空間的に正しい位置に保たれる、という仕組みです。

 

世界の主要な工作機械メーカーは、この技術に対してそれぞれ独自の考え方で取り組んでいるようです。

メーカー/コンセプト 中核思想 主要な実現技術 ユーザーにとっての主な利点
オークマ
サーモフレンドリーコンセプト
変形を「受け入れ」、予測可能な挙動を「制御」する 熱対称・ボックスビルド構造
自社製OSP制御装置との緊密な統合
多様な工場環境下での圧倒的な寸法安定性
暖機運転時間の大幅な短縮
ヤマザキマザック
サーマルシールド
徹底的に「冷却」し、機械が自ら「適応・学習」する 広範な冷却回路網
加工後のワーク計測結果のフィードバック
AIによる学習機能
機械使用に伴う自己最適化による精度向上
環境変化への高い適応能力
ファナック
AI熱変位補正
AIとデータで「予測」し、センサーへの依存を低減する 主軸・各軸の稼働履歴からの変位推定(センサーレス)
機械学習による補正モデルの自動生成
少ないセンサーでの高精度補正
モデルの他号機への展開可能性

オークマ社は、前述の熱対称構造やボックスビルド構造で変形を「素直」にし、それを自社開発の制御装置で正確にコントロールしています(詳細はオークマ サーモフレンドリーコンセプトの特設ページ:https://www.okuma.co.jp/thermo-aniv/ をご参照ください)。

 

ヤマザキマザック社は、強力な冷却システムに加えて、加工後のワーク寸法をAIが学習して補正モデル自体を賢くしていく「Aiサーマルシールド」を開発 しています(詳細はヤマザキマザック Aiサーマルシールドの紹介ページ:https://www.mazak.com/jp-ja/technology/accuracy/ をご参照ください)。  ファナック社は、温度センサーに頼らず、主軸や各軸の稼働履歴から熱変位を推定する「センサーレス」方式や、機械学習で補正モデルを自動で作る技術を提供していることが分かりました(詳細はファナック AI熱変位補正の紹介ページ:https://www.fanuc.co.jp/ja/product/new_product/2022/202206_aithermaldisplacementcompensation.html をご参照ください)。

 

これらの技術は、構造設計とデジタル技術がうまく融合した、現代の機械設計の姿を象徴しているように感じます。

 

 

FEMを用いたシミュレーション検証

設計案がある程度固まったら、実際に金属を加工して試作機を作る前に、その設計が熱に対してどう振る舞うのかをコンピュータ上で徹底的に検証することが不可欠なようです。  このプロセスで必須となるツールが、FEM(Finite Element Method:有限要素法)を使ったシミュレーション、特に熱と構造の相互作用を考慮した「熱-構造連成解析」です。

 

このシミュレーションは、一般的に次のような流れで進められることが分かりました 。

  1. 熱解析: まず、設計した機械の3Dモデルに、特定した各熱源からの熱負荷を与えます。 そして、一定時間(例えば、4時間の暖機運転と加工サイクルなど)で、機械全体の温度分布がどのように変化するかを計算します。これにより、機械のどこが熱くなり、どこが冷たいままか、といった「温度マップ」が作られます。
  2. 構造解析: 次に、熱解析で得られた温度マップを、構造モデルへの「荷重」として適用します。FEMソルバーは、この温度によって各部分がどれだけ熱で膨張し、その結果として構造全体がどのように変形(変位、反り、ねじれ)するかを計算します。
  3. 分析と改良: 最後に、計算された工具先端での変位量を評価します。もし、この変位量が許容範囲を超えていれば、設計上の問題点(例えば、対称性が足りない、冷却が不足している場所など)を特定し、設計を改良します。そして、改良した設計案で再びシミュレーションを行い、性能が許容範囲に収まるまでこのサイクルを繰り返すのです。

 

また、このシミュレーションは、前述のソフトウェア補正で使う温度センサーの最適な配置場所を決める上でも、非常に役立つツールだそうです 。  どの点の温度が工具先端の変位と最も関係が深いかを特定できるため、より少ないセンサーで、より正確な補正モデルを作ることが可能になります。

 

このように、シミュレーションを中心とした設計プロセスは、実際に物を作る前に熱の問題を解決できるため、開発時間とコストを大幅に削減できるのだと理解しました。

 

 

最適な熱対称設計の実現に向けて

この記事では、高精度な機械設計を目指す上で重要となる熱対称構造について、私自身が学んだことを基に、基本原理から応用技術、実践的な設計プロセスまでを整理してみました。最後に、最適な熱対称設計を実現するために、特に重要だと感じたポイントをまとめてみたいと思います。

  • 熱変位は温度変化による材料の物理的な膨張・収縮現象
  • 加工精度への影響はμm単位であり無視できない
  • 不均一な温度分布が予測困難な「歪み」を生む
  • 熱源は内部・加工プロセス・外部環境の3つに大別される
  • 熱対称構造は変位ベクトルを相殺し影響を最小化する設計思想
  • 目的は「歪み」を「予測可能な変位」に転換すること
  • 主要メーカーは主軸やコラムの設計に熱対称思想を導入している
  • オークマ社のボックスビルド構造は変形モードを単純化する
  • ニイガタ社のBox-in-Box構造は熱的遮断と熱容量増大で安定性を追求
  • 熱対称構造はあくまで土台であり単体では不十分
  • 主軸やボールねじの直接冷却など能動的な冷却技術との統合が不可欠
  • クーラントなど作動流体の精密な温度管理も重要
  • 残存する誤差はソフトウェア補正でリアルタイムに相殺する
  • FEMによる熱-構造連成解析は設計段階での仮想検証に必須
  • 真の熱安定性は構造・冷却・補正のシステム統合によって達成される

 

以上です。(しんどかった・・・。)