ここでは 強度解析 を行えるソフトウェア「解析ソフト」についてのメモです。
製品設計の現場で「解析ソフト」の導入を検討しているものの、あまりにも多くの選択肢を前に、どれを選べば良いのか分からず悩む方も多いかと思います。 高価なソフトウェアも多いため、失敗や後悔は避けたいものです。
多くの比較サイトでは個別のソフト紹介に留まりがちですが、この記事では、まず解析ソフトの基本的な種類とそれぞれの役割を整理し、全体像を掴むことに重点を置いています。 その上で、主要ソフトの網羅的な比較、価格帯、そして最終的に導入後の失敗を避けるための具体的な注意点まで、あなたに最適なおすすめのソフトを選び抜くための情報をメモします。
解析ソフトの基本と種類を理解する
まずは知りたい解析ソフトの種類
解析ソフト、すなわちCAE(Computer Aided Engineering)ツールは、コンピュータ上で製品の性能や挙動をシミュレーションするためのソフトウェアです。 これを導入することで、物理的な試作品の数を大幅に削減し、開発期間の短縮とコストダウンを実現できます。
言ってしまえば、解析ソフトは大きく分けて2つの種類に分類することが可能です。 一つは「3DCADアドイン型シミュレーションツール」、もう一つは「シミュレーション専用ソフト」です。
3DCADアドイン型シミュレーションツール(設計者CAE)
これは、設計者が普段使用している3DCADソフトウェアに統合された形で機能する解析ツールです。 最大のメリットは、使い慣れたCADの操作画面内で、設計から解析までをシームレスに行える点にあります。 設計変更が即座に解析モデルへ反映されるため、開発の初期段階で様々な設計案をスピーディに検証したい場合に非常に有効です。 主に、比較的単純な線形構造解析などを手軽に行いたい設計者向け と言えます。
シミュレーション専用ソフト(専門家CAE)
こちらは、構造解析や熱流体解析、衝突解析といった特定の、あるいは複数の物理現象のシミュレーションを高精度で行うことに特化した専門的なソフトウェアです。 CADアドイン型に比べて機能が豊富で、より複雑で現実に近い条件設定ができます。 例えば、材料の変形が非常に大きい非線形問題や、熱と構造が相互に影響し合う連成問題などを扱うことが可能です。 そのため、製品の最終的な性能保証や、極めて高度な解析が求められる研究開発部門の専門家(アナリスト)向けと考えられます。
初心者向けのソフトと学習法
解析ソフトを初めて導入する、あるいはこれから学習を始める初心者の方にとって、最適なソフトウェアは目的によって異なります。
もしあなたが設計者で、まずは自身の設計を手軽に検証したいと考えているのであれば、CADアドイン型のツールから始めるのが良い でしょう。 例えば、SOLIDWORKS Simulation や Autodesk Inventor Nastran 、 Fusion 360 Simulation などが挙げられます。 これらはCADと一体化しているため直感的に操作しやすく、学習コストを低く抑えることが可能です。 特に、国産ソフトである Femtet は、日本語のチュートリアルが充実しており、低コストで多様な解析機能を利用できるため、初心者にとって魅力的な選択肢となります 。
COLMINA CAE や Jupiter-Designer for iCAD を利用すれば解析が可能になります。
一方で、将来的に解析専門家を目指す学生や、コストをかけずに本格的な解析手法を学びたい方には、オープンソースのソフトウェアがおすすめです。 中でも CalculiX は、ハイエンドな 商用ソフトAbaqus と入力形式が似ているため、ここで得た知識は将来的に専門的な業務へ移行する際に役立つそうです。
学習法としては、まず各ソフトウェアの提供元が公開している公式のチュートリアルやトレーニング教材を活用するのが基本です。 多くのベンダーが無料のセミナーやWebセミナーを開催しているため、これらに参加するのも良いでしょう。 また、オープンソースソフトの場合は活発なユーザーコミュニティが存在し、オンラインフォーラムで質問を投げかけることで、経験豊富なユーザーからアドバイスを得られることもあるとのこと 。
ソフトのコアとなる基本機能
解析ソフトが持つ機能は多岐にわたりますが、その中核をなすのは「プリプロセッサ」「ソルバー」「ポストプロセッサ」という3つの基本機能です。
プリプロセッサは、解析を行うための準備をする機能です。具体的には、CADで作成された形状データを読み込み、それを「メッシュ」と呼ばれる小さな要素の集合体に分割します。 そして、材料の物性値( ヤング率 や ポアソン比 など)を設定し、製品がどのような力を受け、どこが固定されるのかといった境界条件を定義する役割を担います。
次にソルバーは、プリプロセッサで作成されたモデルと条件設定に基づき、物理法則の方程式を解く計算エンジンです。 これが解析ソフトの心臓部であり、ソルバーの性能が解析の精度や計算速度を大きく左右します。
最後にポストプロセッサは、ソルバーが算出した膨大な計算結果を、人間が理解しやすいように可視化する機能です。 製品のどこに最も大きな応力が発生しているかを色分けで表示したり(コンター図)、変形の様子をアニメーションで確認したりすることができます。 これにより、設計者は製品の弱点を直感的に把握し、改善策を検討することが可能になります。
基本となる構造解析の概要
構造解析は、解析ソフトで最も広く利用される機能の一つであり、製品に力が加わった際に、それがどのように変形し、内部にどのような応力が発生するかを予測するものです。 これにより、製品が壊れることなく安全に使用できるか、あるいは過剰に頑丈すぎないか(軽量化の余地はないか)を評価できます。
構造解析の中でも最も基本的なものが「線形静解析」です。 これは、材料が変形しても元の形に戻る範囲(弾性域)で、かつゆっくりと力が加わる状況を想定した解析です。 多くのCADアドイン型ツールで手軽に実行でき、設計初期段階での強度確認に非常に有効です。
一方で、材料が元に戻らないほど大きく変形する場合(塑性変形)や、ゴムのように伸び縮みが大きい材料を扱う場合は、「非線形解析」が必要となります。 また、自動車の衝突やスマートフォンの落下のように、ごく短時間で大きな力が加わる現象をシミュレーションするには、「動解析」という手法が用いられます。 これらの高度な解析は、主にシミュレーション専用ソフトが得意とする領域です。
無料で使えるオープンソースソフト
高価な商用ソフトウェアが市場の主流である一方で、近年、無償で利用できるオープンソースの解析ソフトの存在感が高まっています。 これらはライセンス費用が一切かからないため、導入のハードルが極めて低いのが最大のメリットです。
ただし、注意点もあります。 オープンソースソフトは基本的に自己責任での利用が前提となり、商用ソフトのような手厚いベンダーサポートは期待できません。 問題が発生した場合は、自分でドキュメントを読んだり、ユーザーコミュニティで解決策を探したりする必要があります。 また、操作性に関しても、商用ソフトに比べて直感的でない場合があるため、ある程度の専門知識が求められる傾向にあります。
それでも、その機能は非常に強力です。代表的なオープンソースの構造解析ソフトには以下のようなものがあります。
- CalculiX: ドイツで開発されたソフトで、商用ソフトAbaqusと入力形式が似ているため、学習用途に最適です 。
- Code_Aster: フランスの電力会社EDFが開発したソフトで、特に土木やプラント工学の分野で豊富な実績を持ちます 。
- OpenFOAM: 主に流体解析で有名ですが、構造解析や流体と構造の連成解析も可能なツールボックスです 。
これらのソフトウェアは、コストをかけずに高度な解析技術に触れたい個人や、特定の研究用途でカスタマイズが必要な場合に、非常に価値のある選択肢となります。
主要な解析ソフトを徹底比較する
主要ソフトの価格帯を一覧で
解析ソフトの価格は、その機能やライセンス形態によって大きく異なります。 ここでは、主要なソフトウェアを2つのカテゴリに分け、その特徴と価格帯を網羅的に比較します。ただし、価格は構成や契約形態によって変動するため、あくまで目安として参考にしてください。正確な情報については、各メーカーや代理店に直接問い合わせることをお勧めします。
- 3DCADアドイン型シミュレーションツール(設計者CAE)
設計者が使い慣れたCAD環境で手軽に解析を行うためのツールです。直感的な操作性と迅速な設計検証が魅力です。
- シミュレーション専用ソフト(専門家CAE)
特定の物理現象や複雑な問題を高い精度で解析するために特化した、専門家向けの高性能なソフトウェアです。
ソフト名 | メーカー名 | 国名 | 特徴 | 価格帯 |
3DCADアドイン型【設計者CAE】 | ||||
solidworks simulation | solidworks | フランス | 3D CADのSOLIDWORKSに完全統合。設計者向けのCAEツールとして、線形静解析から非線形・動解析まで対応 。 | CADライセンスにアドオン (中価格帯) |
Autodesk Inventor Nastran | Autodesk | アメリカ | 3D CADのInventorに統合されたNastranソルバー。Product Design & Manufacturing Collectionの一部として提供 。 | 年間約53万円〜 (コレクションとして) |
Femtet | ムラタソフトウェア | 日本 | 村田製作所発。応力・熱・電磁場・流体など8つのソルバーを統合。設計者向けに低コストと簡単操作を両立 。 | 年間23.8万円〜 |
creo | ptc | アメリカ | 3D CAD「Creo」に統合された構造・熱解析ツール。設計の初期段階での性能検証を支援。 | 年間 553,000円~ |
autodesk fusion simulation extension | Autodesk | アメリカ | クラウドベースの統合CAD/CAM/CAEプラットフォーム。静的応力、熱、座屈、非線形静的応力など多様な解析に対応。 | 年間 212,300円~ (Extension) |
専用ソフト【専門家CAE】 | ||||
Abaqus | ダッソーシステムズ | フランス | 高度な非線形解析、特にゴムや生体組織などの材料に強み。陰解法(Standard)と陽解法(Explicit)ソルバーを統合 。 | 要問い合わせ |
Ansys Mechanical | Ansys, Inc. | アメリカ | Workbenchプラットフォームによる優れた操作性とマルチフィジックス連成解析。業界標準の汎用ツール 。 | 要問い合わせ |
ansys | Ansys, Inc. | アメリカ | 衝突・落下・爆発などの陽解法動解析におけるデファクトスタンダード。自動車の衝突安全解析で絶大なシェア 。 | 要問い合わせ |
hexagon | Hexagon | スウェーデン/アメリカ | NASA由来の元祖Nastran。航空宇宙・自動車業界における線形静解析、振動解析(NVH)で高い信頼性 。 | 要問い合わせ |
シムセンター | siemens | ドイツ | CAD(NX)から解析、ポスト処理までを統合した環境。Simcenter Nastranソルバーを内包し、マルチフィジックスに対応 。 | 要問い合わせ |
Jupiter-Pre | 株式会社テクノスター | 日本 | 大規模モデルの高速なメッシングと処理に強みを持つ国産CAE。高いカスタマイズ性で自動車業界に多くの実績 。 | 要問い合わせ |
advc | 株式会社アライドエンジニアリング | 日本 | 数千万~1億自由度を超える大規模モデルの構造解析を高速で実現する国産ソフトウェア 。 | 要問い合わせ |
midas NFX | midasmts | 韓国 | 構造、流体、熱伝導解析を統合した汎用ソフト。実務者向けの使いやすさと高度な解析機能を両立 。 | 要問い合わせ |
Marc | Hexagon | スウェーデン/アメリカ | 接触問題や材料非線形、大変形など、高度な非線形解析に特化した汎用構造解析ソフトウェア 。 | 要問い合わせ |
simufact | Hexagon | スウェーデン/アメリカ | 鍛造、圧延、溶接などの金属加工プロセスに特化したシミュレーションソフトウェア 。 | 要問い合わせ |
comsol | comsol | スウェーデン | 複数の物理現象が連成する問題(マルチフィジックス)の解析に強みを持つ汎用シミュレーションソフトウェア 。 | 要問い合わせ |
CalculiX | - | ドイツ | Abaqusと類似の入力形式を持つ無料のオープンソースソルバー。線形・非線形、静的・動的解析に対応。学習や研究に最適 。 | 無料 |
code-aster | edf | フランス | フランス電力(EDF)が開発。土木・建築、プラント向けの非線形・熱・疲労解析に強力な性能を持つオープンソース 。 | 無料 |
OpenFOAM | - | イギリス | 主にCFD(数値流体力学)で有名だが、構造解析や流体-構造連成(FSI)解析も可能なオープンソースのツールボックス 。 | 無料 |
業界別シェアとトレンド
解析ソフトの業界シェアに関する統一的かつ正確な公的データを見つけることは困難ですが、業界の動向や各ソフトウェアの立ち位置から、その勢力図を推測することは可能です。
グローバル市場全体で見ると、Ansys、Dassault Systèmes (Abaqus)、Siemens (Simcenter) の3社が、いわゆる「ビッグ3」として市場を牽引しています。 これらの企業が提供する包括的なプラットフォームは、自動車、航空宇宙、電機といった主要な製造業で広く採用されています。 特に、Ansysは2025年9月時点で約329億ドルの市場価値を持つと評価されており、その影響力の大きさがうかがえます 。
自動車業界では、衝突安全解析の分野でLS-DYNAが長年にわたりデファクトスタンダードとしての地位を確立しています 。 また、航空宇宙業界では、NASAでの開発という歴史的背景を持つNastran(特にMSC Nastran)が、振動解析などで依然として高い信頼を得ています 。
日本国内に目を向けると、グローバルなソフトウェアが高いシェアを占める一方で、国産ソフトも特定の分野で強みを発揮しています。例えば、テクノスター社のJupiterは、大規模モデルの高速処理能力が評価され、日本の自動車業界で確固たる地位を築いています 。また、ムラタソフトウェア社のFemtetは、そのコストパフォーマンスと操作性から、特に電子部品業界の設計者に広く普及しています。
近年のトレンドとしては、「シミュレーションの民主化」が挙げられます。 これは、解析専門家だけでなく、設計者自身が解析ツールを使いこなす動きを指します。 この流れを背景に、SOLIDWORKS SimulationのようなCADアドイン型ツールの市場が拡大しています 。 また、クラウドベースのシミュレーションサービスの台頭も注目すべきトレンドであり、初期投資を抑えつつ高性能な計算リソースを利用できるため、中小企業を中心に導入が進んでいます。
ユーザーによるリアルな評判
ソフトウェア選定において、カタログスペックだけでなく、実際に使用しているユーザーの評判を参考にすることは非常に大切です。
3DCADアドイン型シミュレーションツール
このカテゴリーのソフトウェアは、総じて「操作の容易さ」と「CADとの連携性」が高く評価されています。 特にSOLIDWORKS SimulationやInventor Nastranは、普段使っているCADの延長線上で解析ができるため、「学習コストが低い」「設計変更の反映がスムーズ」といった声が多く聞かれます。 国産のFemtetについては、「低コストで多機能」「日本語のサポートが手厚い」といった点が評価されており、特に中小企業の設計者から支持を集めています 。
ただし、デメリットとして、専門家向けのソフトに比べて高度な解析機能が制限されている点が挙げられます。 複雑な非線形問題や特殊な材料を扱う際には、機能不足を感じる場面があるかもしれません。
シミュレーション専用ソフト
AbaqusやAnsysといった専門家向けのソフトウェアは、その「解析能力の高さ」と「機能の豊富さ」で絶大な信頼を得ています。 特にAbaqusは、ゴムのような複雑な材料挙動を扱う非線形解析において、「他のソフトでは解けなかった問題が解けた」という評価が数多くあります 。 Ansysは、構造、熱、流体、電磁場といった複数の物理現象を連携させるマルチフィジックス解析の分野で高く評価されています。
一方で、これらのソフトウェアは機能が豊富な分、操作の習得が難しく、「専門的な知識が必要」「使いこなすにはトレーニングが不可欠」という声も聞かれます。 また、ライセンス費用が非常に高額である点も、導入の際の大きなハードルとなります。
注目すべき国産ソフト一覧
グローバルなソフトウェアが市場を席巻する中で、日本の製造業の現場ニーズに応える形で進化してきた国産の解析ソフトも、独自の強みを持っています。 ここでは、特に注目すべき2つの国産ソフトウェアを紹介します。
Jupiter(株式会社テクノスター)
Jupiter は、特に大規模で複雑なモデルの解析を得意とするソフトウェアです 。 自動車のエンジン全体や車体丸ごとといった、数千万自由度を超えるような巨大なモデルであっても、高速なメッシュ生成と快適な操作性を実現します。 日本の自動車メーカーや部品メーカーで広く採用されており、「メッシュ作成工数を70%削減できた」「設計検討回数が3倍に増えた」といった劇的な生産性向上の事例が報告されています 。 日本のものづくりの現場を知り尽くした開発元ならではの、きめ細やかなサポート体制も高く評価されています 。
Femtet(ムラタソフトウェア株式会社)
Femtet は、電子部品メーカーである村田製作所が、自社の製品開発のために長年改良を重ねてきたシミュレーションツールを商用化した、ユニークな出自を持つソフトウェアです 。 その最大の特長は、「多機能」「簡単操作」「低コスト」を高いレベルで両立している点です 。 応力、熱、流体、電磁場、音波など8種類もの解析機能を標準で搭載しており、年間約24万円からという価格設定は、専門家向けソフトと比較して非常に導入しやすくなっています 。 解析専門家だけでなく、設計者自身が日常的に使えるツールとして、多くの企業で活用されています。
参考になる導入事例の紹介
ソフトウェアが実際にどのように活用され、どのような成果を上げているのかを知ることは、導入を検討する上で非常に有益ですが、以下に調べた情報をメモしておきます。
自動車業界では、多くの企業が解析ソフトを駆使して開発競争を勝ち抜いています。 例えば、トヨタ自動車や本田技研工業、デンソーといった企業は Ansys を導入し、設計の初期段階からシミュレーションを活用することで開発効率を向上させています 。 また、自動車の衝突安全性を確保するために、 LS-DYNA を用いた衝突シミュレーションは不可欠なプロセスとなっており、エアバッグの展開挙動の解析などにも活用されています 。
航空宇宙業界では、Abaqus が複合材料の強度評価や、エンジン部品の耐久性評価などに用いられているそうです。 飛行体の軽量化と安全性の両立という極めて高い要求に応えるため、高度な非線形解析が可能なAbaqusが選ばれています。
家電・精密機器業界でも、解析ソフトの活用は広がっています。 富士フイルムビジネスイノベーションでは、Abaqus を用いてプリンターの用紙搬送メカニズムをシミュレーションし、紙詰まりなどの不具合を未然に防いでおり、多くの家電メーカーが、製品の落下衝撃耐性や、動作時の騒音・振動を評価するためにシミュレーションを活用し、製品品質の向上につなげています。
これらの事例から分かるように、解析ソフトは単に製品の強度を確認するだけでなく、性能の最適化、開発期間の短縮、コスト削減、そして新たな価値の創造にまで貢献する、現代のものづくりに不可欠なツールとなっています。
最適な解析ソフトの選び方
高度な非線形・連成解析
製品開発において、より現実に近い挙動を予測するためには、高度な解析機能が必要となる場合があります。その代表例が「非線形解析」と「連成解析」です。
非線形解析は、主に3つのケースで必要となります。 一つ目は、材料が塑性変形(力を取り除いても元に戻らない変形)を起こす場合です。 金属のプレス加工などがこれにあたります。 二つ目は、ゴムや樹脂のように、わずかな力で大きく変形する材料を扱う場合です。 三つ目は、部材同士が接触したり離れたりする挙動を正確にシミュレーションする場合です。 これらの解析には、AbaqusやMarcといったソフトウェアが長年の実績と高い信頼性を持っています。
連成解析は、熱と構造、流体と構造、電磁場と熱など、複数の物理現象が相互に影響し合う問題を解くための手法です。 例えば、モーターが発する熱によって部品が変形し、その変形がさらにモーターの性能に影響を与える、といった複雑な問題をシミュレーションできます。 このようなマルチフィジックスの問題に対しては、AnsysやSimcenter 3D、COMSOL Multiphysicsといった統合解析プラットフォームが強力なソリューションを提供します。これらの高度な解析を使いこなすことで、単一の物理現象だけでは見えてこなかった課題を発見し、製品の信頼性を飛躍的に高めることが可能になります。
目的別の比較と選び方ガイド
数ある解析ソフトの中から最適な一つを選ぶためには、「誰が」「何を」「どのレベルで」解析したいのかを明確にすることが鍵となります。 ここでは、目的別の選び方の指針を示します。
ケース1:設計者が、設計初期段階で基本的な強度を確認したい
この場合は、現在使用している3DCADに統合されたアドイン型のツールが最も効率的です。 SOLIDWORKSユーザーであればSOLIDWORKS Simulation、InventorユーザーであればInventor Nastranが第一候補となるでしょう。 CADとのデータ連携がスムーズで、設計変更を繰り返しながら迅速に強度を評価できます。
ケース2:解析専門家が、製品の最終的な性能保証を行いたい
この目的のためには、高い解析精度と豊富な機能を持つ専門家向けのソフトウェアが不可欠です。 ゴムや複合材などの複雑な材料の非線形解析が中心であればAbaqus、熱・流体・構造など複数の物理現象が絡む連成解析が主業務であればAnsysが強みを発揮します。 また、自動車や航空宇宙分野で高精度な振動・騒音解析が求められる場合は、MSC Nastranが伝統的に選ばれてきました。
ケース3:コストを抑えつつ、様々な種類の解析に挑戦したい
特定のCADに縛られず、構造、熱、電磁場など幅広い解析を手軽に試したい設計者には、国産の Femtet が非常に魅力的な選択肢です。 圧倒的なコストパフォーマンスで、多機能な解析環境を導入できます。
ケース4:学生や研究者が、解析技術の学習や研究のために使いたい
コストが最大の制約となるこの層には、無料で利用できるオープンソースソフトが最適です。 FEAの基礎を学ぶにはCalculiX、土木やプラント関連の高度な研究にはCode_Asterが強力なツールとなります。 また、ほとんどの商用ベンダーは無償または安価なアカデミックライセンスを提供しているため、これらを活用することも有効な手段です。
最適な解析ソフトで設計を効率化
この記事では、多種多様な解析ソフトの種類、機能、価格、そして選び方について網羅的に解説してきました。 最適なソフトウェアを選択し、設計プロセスに組み込むことで、開発の効率は飛躍的に向上します。
最後に、本記事の要点を以下にまとめます。
- 解析ソフトは設計者向けのCADアドイン型と専門家向けの専用ソフトに大別される
- CADアドイン型は操作が容易で設計初期の迅速な検証に適している
- 専用ソフトは高機能で複雑な非線形解析や連成解析が可能
- ソフトウェアの中核はプリプロセッサ、ソルバー、ポストプロセッサの3機能
- 初心者は使い慣れたCADのアドイン型や国産のFemtetから始めるのがおすすめ
- 学習や研究用途にはCalculiXなどの無料オープンソースソフトが有効
- 専門家向けソフトの価格は個別見積もりが多く高額な傾向にある
- Ansys、Abaqus、Simcenterがグローバル市場の3強
- 衝突解析ではLS-DYNA、振動解析ではNastranに強みがある
- 国内ではJupiterやFemtetといった国産ソフトが独自の地位を築いている
- ユーザーの評判は操作性と解析能力のトレードオフを反映していることが多い
- 導入事例を参考にすることで自社での活用イメージが明確になる
- 高度な解析には非線形や連成に対応した専門ソフトが必要
- ソフト選定は「誰が、何を、どのレベルで」解析するかで決まる
- 単一の万能ツールではなく複数のソフトを組み合わせる視点も大切
以上です。
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