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ステッピングモーターのトルク計算について

ここでは 「ステッピングモーターのトルク計算」 についてのメモしています。

 

先に結論 を書きますが、残念ながらステッピングモーターのトルク計算は、DCモーターなどと比べて複雑で、いくつかの異なるトルクの概念を理解する必要があり、最終的にはカタログの回転速度におけるトルク特性を確認しながら機械を設計していく流れ となります。

 

この記事では、その重要な概念である2つのトルクをメモしています。

ステッピングモーターのトルク

1.保持トルク

これは、ステッピングモーターが 静止状態 で、励磁されたコイルによって発生するトルクのことです。  モーターがその位置を維持するために耐えられる最大の外部トルク を示します。

 

ステッピングモーターの代表的なトルクの指標としてよく用いられます。 単位は Nmや kgf・cmなどで表されます。 カタログや仕様書に記載されている 「最大静止トルク」や「励磁最大静止トルク」もほぼ同じ意味 です。

 

保持トルクの計算式について

保持トルクは、モーターの設計、コイルの巻数、磁石の強さ、電流値などによって決まるため、簡単な計算式で求めることはできません。

 

  • 保持トルクは、あくまで静止状態でのトルク。
  • 実際にモーターを回転させる際には、保持トルクよりも低いトルクしか得られない。

 

 

2.動トルク

これは、ステッピングモーターが回転している状態で発生するトルクのことです。動トルクは、回転速度(パルス速度)が速くなるにつれて一般的に低下します。ステッピングモーターを選定する際には、必要な回転速度域で十分な動トルクが得られるかを確認する必要があります。動トルクの特性は、「回転速度 - トルク特性」または「周波数 - トルク特性」としてグラフで示されることが一般的です。

 

 

動トルクの計算式

動トルクも、モーターの構造や駆動条件によって複雑に変化するため、一般的な簡単な計算式がありません

 

動トルクに影響を与える主な要因は以下の通り。

  • パルス速度 (Hzまたはpps): 高速になるほどトルクは低下する。
  • 駆動電流: 電流が大きいほどトルクは大きくなりますが、モーターの定格電流を超えないように注意が必要。
  • 駆動電圧: 高電圧駆動は、高速域でのトルク低下を抑制する効果がある。
  • インダクタンス: コイルのインダクタンスが高いと、電流の立ち上がりが遅くなり、高速域でのトルクが低下しやすくなる(補足有)。
  • 負荷慣性: 負荷の慣性が大きいと、加速・減速時のトルクが必要になる。

 

 

補足【コイルのインダクタンスが高い=高速域でのトルクの関係性】

コイルは電流の変化を妨げる性質(自己誘導)を持つ。この性質の強さを表すのがインダクタンス(L)。

 

  • インダクタンスが高いほど、電流を変化させようとする電圧に対して、より大きな逆起電力が発生します。
  • この逆起電力は電流の変化を妨げるため、電流の立ち上がりが遅くなります。
  • 逆に、インダクタンスが低いコイルは、電流が比較的速やかに立ち上がります。

 

電気モーターなどにおいて、高速域ではコイルに印加される電圧の周波数が高くなります。

 

  • インダクタンスが高いコイルは、交流回路において抵抗のような働きをするインダクティブリアクタンスが大きくなる。
  • 電流が十分に流れ込まないと、モーターが発生する磁力が弱まり、結果として高速域でのトルクが低下しやすくなる。

 

補足事項

  • トルク特性はインダクタンスだけでなく、モーターの設計(磁石の強さ、巻線の抵抗など)や制御方法にも大きく影響される。
  • インダクタンスが高いコイルは、電流のリップルを抑制する効果があるため、低速域や定常運転時には有利な場合もある。

このように、一般的にコイルのインダクタンスが高いと、電流の立ち上がりが遅くなり、高速域でのトルクが低下しやすいと言えます。

 

 

ステッピングモーター選定(重要)

上記のトルク特性から、ステッピングモーターの選定は以下を目安に考えます。

 

  • 必要な保持トルクを見積もる:静止状態で負荷を保持するために必要なトルクに、安全率を考慮した値を選ぶ
  • 必要な回転速度範囲を特定: 動作に必要な最低速度と最高速度を把握
  • 必要な動トルクを見積もる: 各回転速度で負荷を駆動するために必要なトルクを計算します。加速・減速トルクも考慮する必要がある
  • モーターの回転速度 - トルク特性を確認する:カタログなどで、選定したモーターが、必要な回転速度域で十分な動トルクを発揮できるかを確認する

 

 

【補足】加速トルクについて

モーターを加速・減速させるためには、負荷トルクに加えて加速トルクが必要です。加速トルク (Ta​) は、以下の式で近似できます。

 

Ta​=J⋅α

 

  • Ta​:加速トルク (Nm)
  • J:負荷とモーターローターの慣性モーメントの合計 (kg⋅m2)
  • α:角加速度 (rad/s2)

 

角加速度 α は、目標の回転速度と加速時間から 計算 できます。

 

 

まとめ

ステッピングモーターのトルク計算は、これまでの保持トルクと動トルクの概念を理解して動作条件に合わせて適切なモーターを選定することが重要です。 特に動トルクは回転速度によって大きく変化する ため、カタログの回転速度 - トルク特性を必ず確認するようにしてください。

 

以上です。